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第一話 狐の嫁入り~お祝いまんじゅう~
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座布団を救うためにそいつは現れたと言っていい。
「むぶっ!」
和菓子を購入しにきた客―――ではなく、幼馴染その二、兼岡兎々子の顔面に座布団がぶつかった。
「兎々子ちゃん。タイミングいいなー」
座布団を蹴り上げた張本人、有浄は顔面で座布団を受け止めた兎々子に大笑いしていた。
なにが起きたかわかっていない兎々子はキョトンとした顔できょろきょろと周囲を見回す。
「ど、どうして、座布団が飛んできたの?」
兎々子は鼻をさすりながらも、あいた手で座布団が落ちないようにぎりぎりで受け止めてくれていた。
矢絣柄の銘仙着物に袴、ブーツ、髪に大きなリボンをつけ、服装からわかるように兎々子は女学生だ。
有浄よりもマトモそうに見えるが、兎々子も俺にとっては迷惑度の高い存在である。
無自覚な分、有浄よりタチが悪い。
「ありがとう。兎々子。俺の相棒(座布団)を助けてくれて」
兎々子の手から座布団を受け取った。
「そして、さようなら」
ぐいぐいと外に押し出そうとすると、兎々子が暴れた。
「なんでー! 私、お客様なのにー!」
有浄のコウモリ傘の隣に和傘が置いてある。
まだ雨は続いている。
雨の中、女性を放り出すのか。
そう思われるかもしれない。
だが!
「悪いが俺は俺の平和を守り抜く! 断固としてな。和菓子屋だけに団子として」
俺の渾身のネタだったが、有浄と兎々子には不評だった。
二人に冷たい目で見られ、気まずくなった俺はふいっと目を逸らした。
「そういうの考えなくていいから、安海ちゃんは和菓子を頑張ればいいと思うの」
「完全に同意」
うるせーよ。
まっとうじゃない二人にまっとうなことを言われる俺。
「あーあ。せっかく和菓子を食べようと思ってきたのに陳列棚が空っぽじゃなー」
有浄はがっくりと肩を落とした。
「今日は作る気分じゃなかった」
「お前はどこぞの気難しい芸術家か。俺の甘いもの気分をどうしてくれるんだ」
「え? 有浄さんは甘いものを食べたいの? ちょっと待ってね」
兎々子が着物の袂からごそごそと黄色い箱を取り出した。
「ああ、ミルクキャラメルか」
箱入りのミルクキャラメルは大人から子供まで人気のお菓子だった。
箱を見ただけでわかる有浄もミルクキャラメルの虜なのだろう。
「和菓子がないなら他のお菓子を食べればいいじゃない」
そんなセリフを言いながら、兎々子は得意顔でミルクキャラメルが入った紙の箱をバーンっと見せつけた。
「なんだ、こいつ。やっぱり帰れ」
「えー! どうしてー!」
「だいたい洋食屋の娘が和菓子屋に何の用だ。冷やかしにでもきたか」
「冷やかしじゃないよー! 私の家は洋食屋だけど、朝ごはんは味噌汁必須で納豆を食べるし、たくあんだって食べる完全に和食派よ」
「うっわ。洋食じゃないんだ。それもどうなんだろうなー」
有浄は洋装を好んでるだけあって洋食好きの西洋かぶれ。
兎々子の父親がやっている洋食屋『カネオカ』にもよく足を運んでいる。
「まあまあ。おひとつ、あげましょう」
兎々子は俺と有浄の手のひらにミルクキャラメルを一粒のせた。
ちょうど小腹が空いていたので紙をぺりぺりとはがして、口に放り込む。
甘くて香ばしい味がした。
「うまいな」
「偽物が出回るくらいに人気らしいね」
兎々子も同じように口にいれて頷いた。
「そーなの。でも、これは正真正銘の本物なんだから! 百貨店で買ったものだから間違いないわよ」
「やだなー。兎々子ちゃん。百貨店で買ったからと言って本物とは限らないよ」
「有浄さんはいつもそうやって、素直じゃないっていうか、疑り深いっていうか」
「疑ってかかった方がいいに決まってる。人の形をしたものが人であるとは限らない」
有浄がそう言った瞬間、店の入り口の戸がガタガタと鳴った。
俺の気のせいでなければ、雨が激しくなったような気がする。
さっきまでうっすら射していた日の光が陰り、店の中が薄暗くなる。
「お前のせいだぞ。有浄。変なことを言うから客が来た」
「お客様は大歓迎ってね」
「普通の客ならな」
有浄はにこにこしていた。
そんな笑顔で歓迎するような客じゃない。
店の前に女が一人。
切れ長の目に涼し気な目元、妖艶な雰囲気。
たぶん、あれは人間じゃない。
だから嫌なんだ。
この二人を店に入れるのは―――うんざりとした気持ちで二人と入口に立っている客を眺めたのだった。
「むぶっ!」
和菓子を購入しにきた客―――ではなく、幼馴染その二、兼岡兎々子の顔面に座布団がぶつかった。
「兎々子ちゃん。タイミングいいなー」
座布団を蹴り上げた張本人、有浄は顔面で座布団を受け止めた兎々子に大笑いしていた。
なにが起きたかわかっていない兎々子はキョトンとした顔できょろきょろと周囲を見回す。
「ど、どうして、座布団が飛んできたの?」
兎々子は鼻をさすりながらも、あいた手で座布団が落ちないようにぎりぎりで受け止めてくれていた。
矢絣柄の銘仙着物に袴、ブーツ、髪に大きなリボンをつけ、服装からわかるように兎々子は女学生だ。
有浄よりもマトモそうに見えるが、兎々子も俺にとっては迷惑度の高い存在である。
無自覚な分、有浄よりタチが悪い。
「ありがとう。兎々子。俺の相棒(座布団)を助けてくれて」
兎々子の手から座布団を受け取った。
「そして、さようなら」
ぐいぐいと外に押し出そうとすると、兎々子が暴れた。
「なんでー! 私、お客様なのにー!」
有浄のコウモリ傘の隣に和傘が置いてある。
まだ雨は続いている。
雨の中、女性を放り出すのか。
そう思われるかもしれない。
だが!
「悪いが俺は俺の平和を守り抜く! 断固としてな。和菓子屋だけに団子として」
俺の渾身のネタだったが、有浄と兎々子には不評だった。
二人に冷たい目で見られ、気まずくなった俺はふいっと目を逸らした。
「そういうの考えなくていいから、安海ちゃんは和菓子を頑張ればいいと思うの」
「完全に同意」
うるせーよ。
まっとうじゃない二人にまっとうなことを言われる俺。
「あーあ。せっかく和菓子を食べようと思ってきたのに陳列棚が空っぽじゃなー」
有浄はがっくりと肩を落とした。
「今日は作る気分じゃなかった」
「お前はどこぞの気難しい芸術家か。俺の甘いもの気分をどうしてくれるんだ」
「え? 有浄さんは甘いものを食べたいの? ちょっと待ってね」
兎々子が着物の袂からごそごそと黄色い箱を取り出した。
「ああ、ミルクキャラメルか」
箱入りのミルクキャラメルは大人から子供まで人気のお菓子だった。
箱を見ただけでわかる有浄もミルクキャラメルの虜なのだろう。
「和菓子がないなら他のお菓子を食べればいいじゃない」
そんなセリフを言いながら、兎々子は得意顔でミルクキャラメルが入った紙の箱をバーンっと見せつけた。
「なんだ、こいつ。やっぱり帰れ」
「えー! どうしてー!」
「だいたい洋食屋の娘が和菓子屋に何の用だ。冷やかしにでもきたか」
「冷やかしじゃないよー! 私の家は洋食屋だけど、朝ごはんは味噌汁必須で納豆を食べるし、たくあんだって食べる完全に和食派よ」
「うっわ。洋食じゃないんだ。それもどうなんだろうなー」
有浄は洋装を好んでるだけあって洋食好きの西洋かぶれ。
兎々子の父親がやっている洋食屋『カネオカ』にもよく足を運んでいる。
「まあまあ。おひとつ、あげましょう」
兎々子は俺と有浄の手のひらにミルクキャラメルを一粒のせた。
ちょうど小腹が空いていたので紙をぺりぺりとはがして、口に放り込む。
甘くて香ばしい味がした。
「うまいな」
「偽物が出回るくらいに人気らしいね」
兎々子も同じように口にいれて頷いた。
「そーなの。でも、これは正真正銘の本物なんだから! 百貨店で買ったものだから間違いないわよ」
「やだなー。兎々子ちゃん。百貨店で買ったからと言って本物とは限らないよ」
「有浄さんはいつもそうやって、素直じゃないっていうか、疑り深いっていうか」
「疑ってかかった方がいいに決まってる。人の形をしたものが人であるとは限らない」
有浄がそう言った瞬間、店の入り口の戸がガタガタと鳴った。
俺の気のせいでなければ、雨が激しくなったような気がする。
さっきまでうっすら射していた日の光が陰り、店の中が薄暗くなる。
「お前のせいだぞ。有浄。変なことを言うから客が来た」
「お客様は大歓迎ってね」
「普通の客ならな」
有浄はにこにこしていた。
そんな笑顔で歓迎するような客じゃない。
店の前に女が一人。
切れ長の目に涼し気な目元、妖艶な雰囲気。
たぶん、あれは人間じゃない。
だから嫌なんだ。
この二人を店に入れるのは―――うんざりとした気持ちで二人と入口に立っている客を眺めたのだった。
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