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第3章
14 復活をかけた戦略会議
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ルーカス様が言ったとおり、あの後、リアムが現れた。
リアムは帰りの馬車の中で、私にお説教の山をした。
相談もせずに王宮へ行ったとか、イノシシ並みの走りっぷりだなとか、さんざん言われた。
もちろん、私だって反省している。
帰った時は、すっかり日も暮れていて、フランとラーシュが心配そうな顔で、外で待ってる姿を見た時は泣きそうになった。
しっかりしているとはいえ、二人はまだ幼いし、不安だったと思う。
「サーラが侍従にケンカをふっかけるんじゃないかって、心配だったんだからな!」
「師匠が王宮の柱をハンマーで【粉砕】して、脅すんじゃないかって、ドキドキしてました」
――あれ? 心配って、私が帰ってこないかもしれないとかじゃないんですね。
なんとも言えない気持ちになって、フランとラーシュの顔を静かに眺めた。
二人の中で、私という人間(保護者)がいったいどういう立ち位置なのか、一度聞いてみる必要がありそうだ。
「市場の許可証をもらったのはよかったんだけどさ。市場のみんなを集めたら、フォルシアン公爵家の兵士が邪魔しにやってこないかな?」
「大丈夫ですよ。心強い護衛を呼んであります」
店を休みにして、フランとラーシュを連れ、市場があった場所へやってきた。
今後の市場について話し合うため、関係者全員を呼んだ。
そして、フォルシアン公爵家の兵士から嫌がらせを受けないように、リアムに護衛をお願いした。
すでにリアムは到着し、私たちを待っていた。
「すみません。宮廷魔術師長の仕事で忙しいのに呼んでしまって」
「いい。俺も話したいことがあったから、会うつもりでいた」
――話したいこと?
なんなのかわからず、首をかしげると、フランとラーシュがそわそわしていた。
「プロポーズではない」
リアムの言葉に二人はつまらなさそうな顔をした。
興味なさそうな態度のわりに、リアムもしっかり噂は聞いているようだ。
「うわ、リアム様だぞ」
「立っているだけなのに、威圧感が凄いな……」
少し離れたところから、そんな声が聞こえてきた。
フォルシアン公爵家の兵士たちは、貴族のおぼっちゃんばかり。
――護衛としてリアムを呼びましたが、ちょっと護衛と呼ぶには、圧がありすぎたみたいですね。
邪魔が入ってほしくなかったから、リアムという存在に感謝したことはいうまでもない。
「今日はなにを話し合うんだ? 市場の許可証は手に入ったんだろう?」
「許可証だけでは弱いです。また同じように文句をつけられて、市場を潰されてしまいます」
「そんなものか?」
「私は平和的に市場を存続させたいんです。リアムは手加減を知りませんからね……」
なまじ強大な力を持つあまり、解決策が大雑把なのだ。
地獄の門から凶悪な生き物が召喚され、邪魔な人間を喰らい尽くして解決したと、リアムなら言い出しかねない。
――ノルデン公爵家の暗殺者を喰らった生き物は、まさに地獄の生き物でしたよ!
闇色の犬が放たれ、敵を喰らい尽くしていく姿は、禍々しいという言葉がぴったりだった。
そんなリアムと婚約したいというへレーナ。
――ある意味、貴重かもしれません。
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』の横断幕があった場所には『市場復活の戦略会議』という文字が書かれ、風になびいている。
誰が用意しているのか知らないけど、仕事が早い。
集まった市場の関係者の面々を前に、私は立つ。
「市場のみなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます」
すでに市場再開の許可を王妃様からもらったという噂は広まっているらしく、拍手が起きた。
「サーラちゃん。これから市場復活のために、なにをすればいいの?」
「私たちでできることがあれば、なんでもやるわ!」
「早く再開させようぜ!」
集まった市場の人々の熱い声を聞いて、私はうなずいた。
「表通りに市場ができたのをご存じかと思います。たしかに美しい市場です」
整然と並べられた商品、美しく傷がなく、品質もいい。
「ふ、ふん! あいつらの商品は高いだけだぜ」
「お客もお上品だしねぇ。真似できないわよ」
表通りの市場がどんな市場なのか気になって、見に行った人もいるようだ。
「裏通りの市場とは違いますが、表通りの店から学べることがあるはずです。まず、清潔感から!」
文字を学んでいない人もいるので、ラーシュが描いた絵をみんなの前に見せた。
ラーシュは絵も学んでいたので、とても上手だった。
フランとラーシュが絵を広げていく。
「表通りの店は汚れがありません。古い店でも掃除を徹底し、古さを味わいに変え、お客様に特別感を出してます」
全員、真剣な顔をしている。
「衣服は一着ずつきちんと見えるように飾られています。これだけで清潔感がありますよね」
撤去理由は汚いと言われてしまったことにある。
一番の課題である清潔感。
ここをまず、改善しなくてはいけない。
「なるほどねぇ」
「ふむ。たしかに屋台に食材クズがくっついてちゃ汚いか」
「でも、古くて味わいがあるのは、しっかりした建物だからよねぇ」
「掃除はできても、元が壊れていて汚いんじゃ意味がないわ」
ラーシュが手を挙げ、魔道具師の【修復】について話す。
「壊れているもの、汚れた看板や古くなった道具の【修復】は、ぼくが請け負います。ぼくにやらせてください」
スキルがどんどん上がっているラーシュは、自分の【修復】スキルを試したいようだ。
工房に持ち込まれるのは小さなものばかりで、私のように家や建物などの大きなものを【修復】したことがないラーシュ。
ラーシュにとって、大物を【修復】できるチャンスである。
もちろん、一人では大変なので――
「私でも構いません。複雑な【修復】の場合は工房へ持ち帰らせていただき、後日お届けします」
市場が破壊された後、私とラーシュで【修復】したから、すでにその力をみんなは知っている。
【修復】後の道具や屋台を実際に見ていたため、異論はなかった。
「それは助かる!」
「壊れたものだけかと思っていたけど、古くなったものも【修復】してもらえるなんて便利ね」
むしろ、大歓迎のようだ。
「サーラちゃん。うちみたいに、木のカゴを売るような地味な店はどうしたらいいかねぇ?」
食料や洗濯物、資材などを入れて愛用しているカゴのお店のおばあさんとお嫁さんが、茶色い蔓のカゴを眺めて困っていた。
並び方を変えても単色であるため、あまり変化はない。
「カゴはすごく丈夫で重い物を入れても歪まないし、みんな愛用しています。ひとつ工夫し、かごに飾りなどをつけてみたらどうでしょう?」
「飾り……」
「リボンなんてどうですか? 布の端切れが、仕立屋で安く売っていましたよね。布のお花なんかも可愛いですし、ちょっとしたおまけにもなります」
「いいかもしれないわ!」
それを聞いていた古着屋さんが手を挙げる。
「俺の店では表通りの店のように、一着ずつ飾るほど店の広さはないんだ。どうしたらいい?」
「おすすめの服を数着飾ります。たしか、古着屋さんのお隣には、小物屋さんがいましたよね。小物を組み合わせてみたらどうでしょう。歩いている人にも目を引きますよ」
「それはいいな!」
歓声があがり、それぞれの店が協力し、どうするか話し合い始めた。
「工夫ひとつでかなり変わるわね」
「私の店もなにかやってみましょう」
「ジャムの瓶をおしゃれにするのはどう?」
「瓶にリボンや可愛いラベルをはってもいいわね。表通りの店にあった化粧品の容器が可愛くて素敵だったわぁ~」
すでにやる気じゅうぶんのようだ。
そして、さすが商売人たち。
表通りの市場もしっかり見に行っていたあたり、商売人として抜け目のなさを感じた。
へレーナが表通りの店を外からでも眺められるようにしてくれたおかげで、どんな商品があるか、お金がない人でも見ることができるようになったのだ。
裏通りの店主たちの意識が大きく変わった気がする。
「ささやかな工夫だけでなんとかなるもんか?」
「もっとバーンとすごいことしないと客がこねぇんじゃないかなぁ」
店主たちは胸の前に腕を組み、まだなにか足りないのではと思っているようだった。
「そうですね。最終的には身分関係なく、誰もが訪れたい場所にするのが目標です」
私の言葉に大きなざわめきが起きた。
「身分関係なくって、貴族もか?」
「そりゃ無理だろう」
「絶対来ないわよ」
「サーラちゃん。そんなことできるわけないわ。裏通りに来るのも嫌がって、買い物に来るのは使用人なんだから」
戸惑う気持ちはわかる。
今まで散々、自分たちを蔑んできた貴族たちが、市場へ来る姿なんて、誰も想像できない。
「お祭りをします。市場で多くの人が楽しめるお祭りをやるんです」
私の言葉を聞いて、みんなが思い浮かべたのは、村の収穫祭だった。
「馬の品評会か?」
「仮装大会かダンス?」
「もしや、伝説のトウモロコシ投げ? 一番遠くに投げられた奴が優勝するんだよな」
「景品はトウモロコシだったぞ」
収穫祭は冬が来る前に、多くの村で開催される。
王都近くの村へ出かけていく人も多いようだ。
つまり、特別な日をもうければ、人も集まりやすくなるということ。
「トウモロコシ投げも気になりますけど、お祭りは大がかりな準備が必要なので、それぞれのお店と話し合って決めようと思ってます」
どうやら、私が目指しているものが、収穫祭ではないとわかってもらえたらしく、静かになった。
「わかった。サーラちゃんを信じよう」
「そうね。あのボロボロな店から、いまや商会の女主人だもの」
「うむ。我々はまず自分たちがやれることからだ!」
再開できる――それがわかった市場の人たちは、前向きな気持ちを取り戻していた。
店をたたもうと言っていた人までもが、どんな店にしようかと相談を始めている。
「それでは、市場の再開は一週間後。生まれ変わった市場で再出発です!」
「頑張るぞ!」
「次は簡単に潰されないわよっー!」
気合いをいれ、私たちは市場再開に向けて動き出した。
そして、もうひとつ、私の知らないところで動いているものがあった。
「祭りか」
「そうです。リアムもぜひ、参加してください!」
「それまでに戻ってこれたら。顔を出す」
宮廷魔術師長として、リアムが王都を離れるのは初めてのことではない。
けれど、今回は違う。
今回は――
「フォルシアン公爵家から、竜が騒がしいという報告を受けた」
フォルシアン公爵家は竜の巣を監視しているし、報告を受けたら宮廷魔術師たちは向かわねばならない。
――絶対、フォルシアン公爵の罠です。
「俺への仕返しだろうな」
リアムは宮廷魔術師長として任務を避けられず、行くしかなかった。
それが罠だとわかっていても――
リアムは帰りの馬車の中で、私にお説教の山をした。
相談もせずに王宮へ行ったとか、イノシシ並みの走りっぷりだなとか、さんざん言われた。
もちろん、私だって反省している。
帰った時は、すっかり日も暮れていて、フランとラーシュが心配そうな顔で、外で待ってる姿を見た時は泣きそうになった。
しっかりしているとはいえ、二人はまだ幼いし、不安だったと思う。
「サーラが侍従にケンカをふっかけるんじゃないかって、心配だったんだからな!」
「師匠が王宮の柱をハンマーで【粉砕】して、脅すんじゃないかって、ドキドキしてました」
――あれ? 心配って、私が帰ってこないかもしれないとかじゃないんですね。
なんとも言えない気持ちになって、フランとラーシュの顔を静かに眺めた。
二人の中で、私という人間(保護者)がいったいどういう立ち位置なのか、一度聞いてみる必要がありそうだ。
「市場の許可証をもらったのはよかったんだけどさ。市場のみんなを集めたら、フォルシアン公爵家の兵士が邪魔しにやってこないかな?」
「大丈夫ですよ。心強い護衛を呼んであります」
店を休みにして、フランとラーシュを連れ、市場があった場所へやってきた。
今後の市場について話し合うため、関係者全員を呼んだ。
そして、フォルシアン公爵家の兵士から嫌がらせを受けないように、リアムに護衛をお願いした。
すでにリアムは到着し、私たちを待っていた。
「すみません。宮廷魔術師長の仕事で忙しいのに呼んでしまって」
「いい。俺も話したいことがあったから、会うつもりでいた」
――話したいこと?
なんなのかわからず、首をかしげると、フランとラーシュがそわそわしていた。
「プロポーズではない」
リアムの言葉に二人はつまらなさそうな顔をした。
興味なさそうな態度のわりに、リアムもしっかり噂は聞いているようだ。
「うわ、リアム様だぞ」
「立っているだけなのに、威圧感が凄いな……」
少し離れたところから、そんな声が聞こえてきた。
フォルシアン公爵家の兵士たちは、貴族のおぼっちゃんばかり。
――護衛としてリアムを呼びましたが、ちょっと護衛と呼ぶには、圧がありすぎたみたいですね。
邪魔が入ってほしくなかったから、リアムという存在に感謝したことはいうまでもない。
「今日はなにを話し合うんだ? 市場の許可証は手に入ったんだろう?」
「許可証だけでは弱いです。また同じように文句をつけられて、市場を潰されてしまいます」
「そんなものか?」
「私は平和的に市場を存続させたいんです。リアムは手加減を知りませんからね……」
なまじ強大な力を持つあまり、解決策が大雑把なのだ。
地獄の門から凶悪な生き物が召喚され、邪魔な人間を喰らい尽くして解決したと、リアムなら言い出しかねない。
――ノルデン公爵家の暗殺者を喰らった生き物は、まさに地獄の生き物でしたよ!
闇色の犬が放たれ、敵を喰らい尽くしていく姿は、禍々しいという言葉がぴったりだった。
そんなリアムと婚約したいというへレーナ。
――ある意味、貴重かもしれません。
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』の横断幕があった場所には『市場復活の戦略会議』という文字が書かれ、風になびいている。
誰が用意しているのか知らないけど、仕事が早い。
集まった市場の関係者の面々を前に、私は立つ。
「市場のみなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます」
すでに市場再開の許可を王妃様からもらったという噂は広まっているらしく、拍手が起きた。
「サーラちゃん。これから市場復活のために、なにをすればいいの?」
「私たちでできることがあれば、なんでもやるわ!」
「早く再開させようぜ!」
集まった市場の人々の熱い声を聞いて、私はうなずいた。
「表通りに市場ができたのをご存じかと思います。たしかに美しい市場です」
整然と並べられた商品、美しく傷がなく、品質もいい。
「ふ、ふん! あいつらの商品は高いだけだぜ」
「お客もお上品だしねぇ。真似できないわよ」
表通りの市場がどんな市場なのか気になって、見に行った人もいるようだ。
「裏通りの市場とは違いますが、表通りの店から学べることがあるはずです。まず、清潔感から!」
文字を学んでいない人もいるので、ラーシュが描いた絵をみんなの前に見せた。
ラーシュは絵も学んでいたので、とても上手だった。
フランとラーシュが絵を広げていく。
「表通りの店は汚れがありません。古い店でも掃除を徹底し、古さを味わいに変え、お客様に特別感を出してます」
全員、真剣な顔をしている。
「衣服は一着ずつきちんと見えるように飾られています。これだけで清潔感がありますよね」
撤去理由は汚いと言われてしまったことにある。
一番の課題である清潔感。
ここをまず、改善しなくてはいけない。
「なるほどねぇ」
「ふむ。たしかに屋台に食材クズがくっついてちゃ汚いか」
「でも、古くて味わいがあるのは、しっかりした建物だからよねぇ」
「掃除はできても、元が壊れていて汚いんじゃ意味がないわ」
ラーシュが手を挙げ、魔道具師の【修復】について話す。
「壊れているもの、汚れた看板や古くなった道具の【修復】は、ぼくが請け負います。ぼくにやらせてください」
スキルがどんどん上がっているラーシュは、自分の【修復】スキルを試したいようだ。
工房に持ち込まれるのは小さなものばかりで、私のように家や建物などの大きなものを【修復】したことがないラーシュ。
ラーシュにとって、大物を【修復】できるチャンスである。
もちろん、一人では大変なので――
「私でも構いません。複雑な【修復】の場合は工房へ持ち帰らせていただき、後日お届けします」
市場が破壊された後、私とラーシュで【修復】したから、すでにその力をみんなは知っている。
【修復】後の道具や屋台を実際に見ていたため、異論はなかった。
「それは助かる!」
「壊れたものだけかと思っていたけど、古くなったものも【修復】してもらえるなんて便利ね」
むしろ、大歓迎のようだ。
「サーラちゃん。うちみたいに、木のカゴを売るような地味な店はどうしたらいいかねぇ?」
食料や洗濯物、資材などを入れて愛用しているカゴのお店のおばあさんとお嫁さんが、茶色い蔓のカゴを眺めて困っていた。
並び方を変えても単色であるため、あまり変化はない。
「カゴはすごく丈夫で重い物を入れても歪まないし、みんな愛用しています。ひとつ工夫し、かごに飾りなどをつけてみたらどうでしょう?」
「飾り……」
「リボンなんてどうですか? 布の端切れが、仕立屋で安く売っていましたよね。布のお花なんかも可愛いですし、ちょっとしたおまけにもなります」
「いいかもしれないわ!」
それを聞いていた古着屋さんが手を挙げる。
「俺の店では表通りの店のように、一着ずつ飾るほど店の広さはないんだ。どうしたらいい?」
「おすすめの服を数着飾ります。たしか、古着屋さんのお隣には、小物屋さんがいましたよね。小物を組み合わせてみたらどうでしょう。歩いている人にも目を引きますよ」
「それはいいな!」
歓声があがり、それぞれの店が協力し、どうするか話し合い始めた。
「工夫ひとつでかなり変わるわね」
「私の店もなにかやってみましょう」
「ジャムの瓶をおしゃれにするのはどう?」
「瓶にリボンや可愛いラベルをはってもいいわね。表通りの店にあった化粧品の容器が可愛くて素敵だったわぁ~」
すでにやる気じゅうぶんのようだ。
そして、さすが商売人たち。
表通りの市場もしっかり見に行っていたあたり、商売人として抜け目のなさを感じた。
へレーナが表通りの店を外からでも眺められるようにしてくれたおかげで、どんな商品があるか、お金がない人でも見ることができるようになったのだ。
裏通りの店主たちの意識が大きく変わった気がする。
「ささやかな工夫だけでなんとかなるもんか?」
「もっとバーンとすごいことしないと客がこねぇんじゃないかなぁ」
店主たちは胸の前に腕を組み、まだなにか足りないのではと思っているようだった。
「そうですね。最終的には身分関係なく、誰もが訪れたい場所にするのが目標です」
私の言葉に大きなざわめきが起きた。
「身分関係なくって、貴族もか?」
「そりゃ無理だろう」
「絶対来ないわよ」
「サーラちゃん。そんなことできるわけないわ。裏通りに来るのも嫌がって、買い物に来るのは使用人なんだから」
戸惑う気持ちはわかる。
今まで散々、自分たちを蔑んできた貴族たちが、市場へ来る姿なんて、誰も想像できない。
「お祭りをします。市場で多くの人が楽しめるお祭りをやるんです」
私の言葉を聞いて、みんなが思い浮かべたのは、村の収穫祭だった。
「馬の品評会か?」
「仮装大会かダンス?」
「もしや、伝説のトウモロコシ投げ? 一番遠くに投げられた奴が優勝するんだよな」
「景品はトウモロコシだったぞ」
収穫祭は冬が来る前に、多くの村で開催される。
王都近くの村へ出かけていく人も多いようだ。
つまり、特別な日をもうければ、人も集まりやすくなるということ。
「トウモロコシ投げも気になりますけど、お祭りは大がかりな準備が必要なので、それぞれのお店と話し合って決めようと思ってます」
どうやら、私が目指しているものが、収穫祭ではないとわかってもらえたらしく、静かになった。
「わかった。サーラちゃんを信じよう」
「そうね。あのボロボロな店から、いまや商会の女主人だもの」
「うむ。我々はまず自分たちがやれることからだ!」
再開できる――それがわかった市場の人たちは、前向きな気持ちを取り戻していた。
店をたたもうと言っていた人までもが、どんな店にしようかと相談を始めている。
「それでは、市場の再開は一週間後。生まれ変わった市場で再出発です!」
「頑張るぞ!」
「次は簡単に潰されないわよっー!」
気合いをいれ、私たちは市場再開に向けて動き出した。
そして、もうひとつ、私の知らないところで動いているものがあった。
「祭りか」
「そうです。リアムもぜひ、参加してください!」
「それまでに戻ってこれたら。顔を出す」
宮廷魔術師長として、リアムが王都を離れるのは初めてのことではない。
けれど、今回は違う。
今回は――
「フォルシアン公爵家から、竜が騒がしいという報告を受けた」
フォルシアン公爵家は竜の巣を監視しているし、報告を受けたら宮廷魔術師たちは向かわねばならない。
――絶対、フォルシアン公爵の罠です。
「俺への仕返しだろうな」
リアムは宮廷魔術師長として任務を避けられず、行くしかなかった。
それが罠だとわかっていても――
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