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第2章
12 私、魔物のエサですか!?
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リアムがいれば大丈夫?
それ、誰が言ったの!?
私は命の危険にさらされていた。
傭兵ギルドへ向かっていたはずだったのに、なぜか王都の外にいる。
「リアム。私たちの予定では、傭兵ギルドへ行くはずでしたよね?」
「そうだ」
上空から、ギャアギャアと不気味な鳴き声が聞こえてくる。
カラスにしては、野太く力強く、そして太陽の光を遮るくらい大きい――魔物だ。
「どうして、魔物に囲まれているんですか!?」
「そっ、そうだよっ! おれたちをエサにして、魔物をおびき寄せるなんてひどいよ!」
エサにされた私とフランは抗議した。
「俺だけじゃ寄ってこない」
「リアム様は魔物から、避けられているんです」
ラーシュがリアムの代わりに、申し訳なさそうな顔をして言った。
騎士たちとともに、剣の修行をしていたラーシュは、魔物を見るのは、これが初めてではないらしく、落ち着いている。
――魔物から避けられるって、どういうこと?
額から汗がひとすじ流れ落ちた。
本当に危険なのは、リアムのような気がしてならない。
味方すらも魔物をおびき寄せるエサ扱いである。
「鳥の討伐依頼を受けていたのを思い出した」
「ぼくは王都の外に出られて嬉しいです!」
ラーシュはピクニックに来たみたいに、楽しそうで、ヴィフレア王家の戦闘的な血を感じた。
騎士たちとともに、剣の修行をしていたというラーシュの装備は本格的で、魔石付きの剣や防具を身につけている。
剣は子供用だったけど、とても立派な剣を持っている。
護符は最高級品で、たとえ攻撃を受けても、無効化できるくらいの品だ。
なお、私とフランは一撃でも魔物から攻撃されたら死ぬ……死ぬ(大事なことなので二回言いました)。
――くっ! これが貧富の差ですか!
私たちを囲んでいるのは、ロックバードと呼ばれる大きな鳥だ。
しかも、三体もいる、
一般的にはパステルカラーの羽根が特徴で、大きなくちばしと爪で獲物を殺す。
ロックバードの上位種になると、羽根の色が薄くなり、ロックバードの王に至っては、純白の羽根を持っているという。
とはいえ、普通の人間にとっては、パステルカラーのロックバードでもさえ、恐ろしい魔物である。
「鳥の討伐って……。ずいぶん、可愛くない鳥ですが、それでも鳥ですか?」
「可愛い小鳥だ」
「へ、へぇ~。リアムの小鳥って、爪で人をつかめるサイズを言うんですね……」
王都へ向かう商隊がちょうど通りかかり、ロックバードに気づいて、悲鳴を上げ、門の中へ逃げていく。
あれが正しい反応だ。
それなのにラーシュは、とっても可愛い笑顔で、ロックバードに話しかけた。
「空にいないで、降りてきてくれませんか?」
「警戒しているのかもな」
「警戒って誰にだよっ!?」
フランは狼の姿に変化し、ロックバードに吠えて威嚇する。
「仲間を狩りすぎた俺に」
凶悪な顔をしたリアムが、手を空に向け、魔術を使う。
「来い。【森の守護者】」
【森の守護者】――『それは共生。森に縛られし者。森とともに生き、森とともに滅びる』
緑の蔦とともに現れたのは、美しい女性だった。
長い緑の髪、泉を思い出させる深い青の瞳――緑の蔦が絡んだ指を伸ばせば、そこから天に向かって凄まじいスピードで成長し、あっという間にロックバードまで届く。
蔦は生き物のように動き、ロックバードの足をつかむと地面に引きずり落とし、叩きつけた。
どんなに暴れても、蔦は普通の蔦よりも強度があり、千切れることはなく、ロックバードの巨体に巻き付いて動きを封じて逃がさない。
「ラーシュ」
「はいっ!」
剣を構えたラーシュが助走をつけ、地面を蹴り、ロックバードに切りかかる。
太い首を切り落とす瞬間、剣につけられた魔石が、一斉に輝きを放つ。
子供の力では、絶対に切り落とせないはずのロックバードの首が、ひと振りでざっくり切られて地面に転がった。
「ぎゃっー!」
「うわああああ!」
私とフランが悲鳴を上げても、リアムとラーシュは平気な顔で、ロックバードを片付けていく。
リアムは手加減しているのがわかるくらい余裕で、ラーシュにほとんど任せている。
三体いたロックバードは、地上に落とされ、一面、血みどろになった。
そんな血みどろな光景を背にして、ラーシュが天使のような微笑を浮かべ、私の元へ走ってくる。
ラーシュは手になにか持っていて、それを私の前に差し出した。
「師匠。ぼくからのプレゼントです。受け取ってください」
「プレゼント? あ、あの、ロックバードの心臓とかはちょっと……」
震え声で私が言うと、ラーシュは笑った。
「違います。もっと素敵なものです」
渡されたのは石で、その石は【研磨】する前から、やわらかい光を放ち、ただの石ではないと見ただけでわかる。
魔道具師の【鑑定】スキルで、石を【鑑定】すると、【研磨】すれば、光の魔石になるという珍しい石だった。
それも、かなり大きく、拳ひとつ分くらいある。
「これは受け取れません! すごく高価な石じゃないですか!」
「【研磨】する前の石ですから、そこまで高くありません」
これが光の魔石になる石だとわかるなんて、ラーシュの【鑑定】スキルは十歳ながらにして、かなり高いようだ。
「いい物に囲まれて育つとこうなるんだな」
フランが狼の姿で、私に寄り添いながら言った。
たしかに、サーラの【鑑定】スキルも高く、今まで【鑑定】で苦労した覚えがない。
「気に入った女性には、素敵なプレゼントを贈るといいよって、お父さまから、教えていただきました」
――ルーカス様は自分の子供に、いったいなにを教えているんでしょうか?
父親として、他に教えることはなかったのだろうか……(困惑)。
「師匠、受け取っていただけますよね」
さりげなく、私の手に石を握らせ、ラーシュはキラキラした笑顔を浮かべた。
これが、王家に伝わる人心掌握術!
笑顔ひとつで、私のハートをがっちりつかんでくる。
断るつもりが、自然な流れで受け取ってしまった。
「魔物の体内でしか生成されない貴重な石だ。光の魔石には浄化の作用もある。よく考えて使うんだな」
リアムはもしかして、私にこの石を見せるために、ここへ連れてきたのだろうか。
初めて見た石と魔物の素材によって、私の【鑑定】スキルが一気に上がった。
「自分で光の魔石を扱うのは初めてなので、【研磨】するのが楽しみです。ありがとう、ラーシュ。大事に使いますね」
「はいっ!」
魔物の体内で生成される石は、魔物がヴィフレア王国内の土地で、エサを食べた際にできる石だ。
エサに付着した魔力を含む微量の石や砂が、体内に少しずつ蓄積され、それがひとつの塊になる。
「ラーシュの剣って、どんな仕組みなんだ? それ、いいなぁ」
フランが羨ましそうに、ラーシュの剣を眺めた。
「これは魔道具です。魔物が倒せる剣が欲しいってお願いしたら、ファルクさんが作ってくれました」
「ファルクさんがですか?」
「はい。お母さまがアクセサリーを購入した時、ファルクさんがぼくに、なにか欲しいものはないかと、尋ねられたので、剣をお願いしました」
ラーシュの剣をさりげなく【鑑定】すると、すべて上位クラスの魔石を使用し、その配分は完璧。
風の魔石で切れ味を上昇させ、土の魔石で強度アップ、火の魔石で攻撃力を補う。
子供用ということで、剣全体の軽さにもこだわった立派な魔剣である。
「ファルクさんの腕はたしかですね。配分を少しでも間違えたら、剣が壊れてしまうのに、剣の性能をそのままに、魔石で全体を強化してあります」
これが、王都でも指折りの魔道具店を持つ魔道具師の技。
商品として並んでいる時は、わからなかったけど、ラーシュが実際に使っている姿を見て、とても勉強になった。
「派手な服装で誤解されがちだが、ファルクは先代の魔道具師に鍛えられ、知識と技を身につけた勤勉な男だ。ファルクの店は昔から続く有名店だからな。多く集まる弟子を養わなくてはならない」
「物に対して、値段が高すぎると思った商品があったのは、店を維持するためだったんですね」
「そういうことだ。王都に魔道具店を持つ魔道具師として、多くの弟子を育て、力のある者は独立させる。次代の育成を担う役割を誇りとしている」
武器としての魔道具は、魔力がなくても魔物に遭遇しても戦えるし、ラーシュのような小さな男の子であっても扱えて、身を守ることができるのはすごいと思う。
――ファルクさんたちは研究に研究を重ねて、ここまでの武器を作ったんですね。
少しだけ、王都の魔道具師たちのことを知れたような気がした。
「そろそろ傭兵ギルドへ行くぞ」
「えっ? リアム、ロックバードの死骸をこのままにしておいていいんですか?」
「傭兵ギルドから人を呼んで、解体してから、王都の中へ入れる。魔物の死骸を処理せず、王都に運ぶことは禁じられている」
「魔物は穢れだから、そこから病魔が広がるって、言い伝えがあるんです」
リアムとラーシュが教えてくれた。
だから、今まで魔物の死骸を目にすることがなく、生活していたのだと知った。
「ロックバードの肉って、うまいんだよなぁ。一度だけ、王宮の料理長から、こっそりもらって食べたことあるんだけど、肉汁がたっぷり出てきて、柔らかいのに身がしっかりしてるんだ」
肉食のフランがうっとりしながら、ロックバードの死骸を眺めていた。
話を聞くだけでも美味しそうで、私もすごく興味がある。
ロックバードの肉で、からあげを作ったら、とんでもないことになるのでは?
「私がリアムに助けてもらうのは駄目ですけど、フランがリアムに助けてもらうのは、ルール的にありですよね?」
「なんだ? なにか欲しいものがあるのか? 羽根か?」
ロックバードの羽根は極上の布になり、ドレスにすると、とても軽くて美しい光沢を生む。
でも、私が欲しいのは羽根ではなかった。
「肉です」
「は?」
「肉が欲しいんです! からあげの魔術師として、そんな美味しい肉を見逃せるわけがないでしょう?」
「サーラ、わかるよっ! そうだよね! リアム様、おれに肉をください!」
私とフランの熱意で、リアムの心を動かす。
「構わないが、これだけの肉をどうやって保存するつもりだ?」
「氷魔法です。リアムは氷魔法を使えますよね?」
「使えるが……」
「冷凍することによって、食材を保存できるんですよ」
それも魔法の氷は、魔法か魔術でしか溶けないので、置き場所に困らない。
冷凍庫不要の冷凍肉の完成である。
「お願いします! ロックバードのからあげを作ったら、リアムにもごちそうしますから!」
「その恐ろしいまでの食への情熱はなんなんだ……」
軽くリアムが引いていたけど、風魔法で肉の塊を小さくしてから、氷魔法で肉を冷凍してくれた。
これは後で、私の家まで傭兵ギルドの人が届けてくれるらしい。
「ラーシュにもからあげをごちそうしますね!」
「はいっ! 楽しみです」
こうして私は、数年分はありそうなロックバードの肉と貴重な石を手に入れたのだった。
それ、誰が言ったの!?
私は命の危険にさらされていた。
傭兵ギルドへ向かっていたはずだったのに、なぜか王都の外にいる。
「リアム。私たちの予定では、傭兵ギルドへ行くはずでしたよね?」
「そうだ」
上空から、ギャアギャアと不気味な鳴き声が聞こえてくる。
カラスにしては、野太く力強く、そして太陽の光を遮るくらい大きい――魔物だ。
「どうして、魔物に囲まれているんですか!?」
「そっ、そうだよっ! おれたちをエサにして、魔物をおびき寄せるなんてひどいよ!」
エサにされた私とフランは抗議した。
「俺だけじゃ寄ってこない」
「リアム様は魔物から、避けられているんです」
ラーシュがリアムの代わりに、申し訳なさそうな顔をして言った。
騎士たちとともに、剣の修行をしていたラーシュは、魔物を見るのは、これが初めてではないらしく、落ち着いている。
――魔物から避けられるって、どういうこと?
額から汗がひとすじ流れ落ちた。
本当に危険なのは、リアムのような気がしてならない。
味方すらも魔物をおびき寄せるエサ扱いである。
「鳥の討伐依頼を受けていたのを思い出した」
「ぼくは王都の外に出られて嬉しいです!」
ラーシュはピクニックに来たみたいに、楽しそうで、ヴィフレア王家の戦闘的な血を感じた。
騎士たちとともに、剣の修行をしていたというラーシュの装備は本格的で、魔石付きの剣や防具を身につけている。
剣は子供用だったけど、とても立派な剣を持っている。
護符は最高級品で、たとえ攻撃を受けても、無効化できるくらいの品だ。
なお、私とフランは一撃でも魔物から攻撃されたら死ぬ……死ぬ(大事なことなので二回言いました)。
――くっ! これが貧富の差ですか!
私たちを囲んでいるのは、ロックバードと呼ばれる大きな鳥だ。
しかも、三体もいる、
一般的にはパステルカラーの羽根が特徴で、大きなくちばしと爪で獲物を殺す。
ロックバードの上位種になると、羽根の色が薄くなり、ロックバードの王に至っては、純白の羽根を持っているという。
とはいえ、普通の人間にとっては、パステルカラーのロックバードでもさえ、恐ろしい魔物である。
「鳥の討伐って……。ずいぶん、可愛くない鳥ですが、それでも鳥ですか?」
「可愛い小鳥だ」
「へ、へぇ~。リアムの小鳥って、爪で人をつかめるサイズを言うんですね……」
王都へ向かう商隊がちょうど通りかかり、ロックバードに気づいて、悲鳴を上げ、門の中へ逃げていく。
あれが正しい反応だ。
それなのにラーシュは、とっても可愛い笑顔で、ロックバードに話しかけた。
「空にいないで、降りてきてくれませんか?」
「警戒しているのかもな」
「警戒って誰にだよっ!?」
フランは狼の姿に変化し、ロックバードに吠えて威嚇する。
「仲間を狩りすぎた俺に」
凶悪な顔をしたリアムが、手を空に向け、魔術を使う。
「来い。【森の守護者】」
【森の守護者】――『それは共生。森に縛られし者。森とともに生き、森とともに滅びる』
緑の蔦とともに現れたのは、美しい女性だった。
長い緑の髪、泉を思い出させる深い青の瞳――緑の蔦が絡んだ指を伸ばせば、そこから天に向かって凄まじいスピードで成長し、あっという間にロックバードまで届く。
蔦は生き物のように動き、ロックバードの足をつかむと地面に引きずり落とし、叩きつけた。
どんなに暴れても、蔦は普通の蔦よりも強度があり、千切れることはなく、ロックバードの巨体に巻き付いて動きを封じて逃がさない。
「ラーシュ」
「はいっ!」
剣を構えたラーシュが助走をつけ、地面を蹴り、ロックバードに切りかかる。
太い首を切り落とす瞬間、剣につけられた魔石が、一斉に輝きを放つ。
子供の力では、絶対に切り落とせないはずのロックバードの首が、ひと振りでざっくり切られて地面に転がった。
「ぎゃっー!」
「うわああああ!」
私とフランが悲鳴を上げても、リアムとラーシュは平気な顔で、ロックバードを片付けていく。
リアムは手加減しているのがわかるくらい余裕で、ラーシュにほとんど任せている。
三体いたロックバードは、地上に落とされ、一面、血みどろになった。
そんな血みどろな光景を背にして、ラーシュが天使のような微笑を浮かべ、私の元へ走ってくる。
ラーシュは手になにか持っていて、それを私の前に差し出した。
「師匠。ぼくからのプレゼントです。受け取ってください」
「プレゼント? あ、あの、ロックバードの心臓とかはちょっと……」
震え声で私が言うと、ラーシュは笑った。
「違います。もっと素敵なものです」
渡されたのは石で、その石は【研磨】する前から、やわらかい光を放ち、ただの石ではないと見ただけでわかる。
魔道具師の【鑑定】スキルで、石を【鑑定】すると、【研磨】すれば、光の魔石になるという珍しい石だった。
それも、かなり大きく、拳ひとつ分くらいある。
「これは受け取れません! すごく高価な石じゃないですか!」
「【研磨】する前の石ですから、そこまで高くありません」
これが光の魔石になる石だとわかるなんて、ラーシュの【鑑定】スキルは十歳ながらにして、かなり高いようだ。
「いい物に囲まれて育つとこうなるんだな」
フランが狼の姿で、私に寄り添いながら言った。
たしかに、サーラの【鑑定】スキルも高く、今まで【鑑定】で苦労した覚えがない。
「気に入った女性には、素敵なプレゼントを贈るといいよって、お父さまから、教えていただきました」
――ルーカス様は自分の子供に、いったいなにを教えているんでしょうか?
父親として、他に教えることはなかったのだろうか……(困惑)。
「師匠、受け取っていただけますよね」
さりげなく、私の手に石を握らせ、ラーシュはキラキラした笑顔を浮かべた。
これが、王家に伝わる人心掌握術!
笑顔ひとつで、私のハートをがっちりつかんでくる。
断るつもりが、自然な流れで受け取ってしまった。
「魔物の体内でしか生成されない貴重な石だ。光の魔石には浄化の作用もある。よく考えて使うんだな」
リアムはもしかして、私にこの石を見せるために、ここへ連れてきたのだろうか。
初めて見た石と魔物の素材によって、私の【鑑定】スキルが一気に上がった。
「自分で光の魔石を扱うのは初めてなので、【研磨】するのが楽しみです。ありがとう、ラーシュ。大事に使いますね」
「はいっ!」
魔物の体内で生成される石は、魔物がヴィフレア王国内の土地で、エサを食べた際にできる石だ。
エサに付着した魔力を含む微量の石や砂が、体内に少しずつ蓄積され、それがひとつの塊になる。
「ラーシュの剣って、どんな仕組みなんだ? それ、いいなぁ」
フランが羨ましそうに、ラーシュの剣を眺めた。
「これは魔道具です。魔物が倒せる剣が欲しいってお願いしたら、ファルクさんが作ってくれました」
「ファルクさんがですか?」
「はい。お母さまがアクセサリーを購入した時、ファルクさんがぼくに、なにか欲しいものはないかと、尋ねられたので、剣をお願いしました」
ラーシュの剣をさりげなく【鑑定】すると、すべて上位クラスの魔石を使用し、その配分は完璧。
風の魔石で切れ味を上昇させ、土の魔石で強度アップ、火の魔石で攻撃力を補う。
子供用ということで、剣全体の軽さにもこだわった立派な魔剣である。
「ファルクさんの腕はたしかですね。配分を少しでも間違えたら、剣が壊れてしまうのに、剣の性能をそのままに、魔石で全体を強化してあります」
これが、王都でも指折りの魔道具店を持つ魔道具師の技。
商品として並んでいる時は、わからなかったけど、ラーシュが実際に使っている姿を見て、とても勉強になった。
「派手な服装で誤解されがちだが、ファルクは先代の魔道具師に鍛えられ、知識と技を身につけた勤勉な男だ。ファルクの店は昔から続く有名店だからな。多く集まる弟子を養わなくてはならない」
「物に対して、値段が高すぎると思った商品があったのは、店を維持するためだったんですね」
「そういうことだ。王都に魔道具店を持つ魔道具師として、多くの弟子を育て、力のある者は独立させる。次代の育成を担う役割を誇りとしている」
武器としての魔道具は、魔力がなくても魔物に遭遇しても戦えるし、ラーシュのような小さな男の子であっても扱えて、身を守ることができるのはすごいと思う。
――ファルクさんたちは研究に研究を重ねて、ここまでの武器を作ったんですね。
少しだけ、王都の魔道具師たちのことを知れたような気がした。
「そろそろ傭兵ギルドへ行くぞ」
「えっ? リアム、ロックバードの死骸をこのままにしておいていいんですか?」
「傭兵ギルドから人を呼んで、解体してから、王都の中へ入れる。魔物の死骸を処理せず、王都に運ぶことは禁じられている」
「魔物は穢れだから、そこから病魔が広がるって、言い伝えがあるんです」
リアムとラーシュが教えてくれた。
だから、今まで魔物の死骸を目にすることがなく、生活していたのだと知った。
「ロックバードの肉って、うまいんだよなぁ。一度だけ、王宮の料理長から、こっそりもらって食べたことあるんだけど、肉汁がたっぷり出てきて、柔らかいのに身がしっかりしてるんだ」
肉食のフランがうっとりしながら、ロックバードの死骸を眺めていた。
話を聞くだけでも美味しそうで、私もすごく興味がある。
ロックバードの肉で、からあげを作ったら、とんでもないことになるのでは?
「私がリアムに助けてもらうのは駄目ですけど、フランがリアムに助けてもらうのは、ルール的にありですよね?」
「なんだ? なにか欲しいものがあるのか? 羽根か?」
ロックバードの羽根は極上の布になり、ドレスにすると、とても軽くて美しい光沢を生む。
でも、私が欲しいのは羽根ではなかった。
「肉です」
「は?」
「肉が欲しいんです! からあげの魔術師として、そんな美味しい肉を見逃せるわけがないでしょう?」
「サーラ、わかるよっ! そうだよね! リアム様、おれに肉をください!」
私とフランの熱意で、リアムの心を動かす。
「構わないが、これだけの肉をどうやって保存するつもりだ?」
「氷魔法です。リアムは氷魔法を使えますよね?」
「使えるが……」
「冷凍することによって、食材を保存できるんですよ」
それも魔法の氷は、魔法か魔術でしか溶けないので、置き場所に困らない。
冷凍庫不要の冷凍肉の完成である。
「お願いします! ロックバードのからあげを作ったら、リアムにもごちそうしますから!」
「その恐ろしいまでの食への情熱はなんなんだ……」
軽くリアムが引いていたけど、風魔法で肉の塊を小さくしてから、氷魔法で肉を冷凍してくれた。
これは後で、私の家まで傭兵ギルドの人が届けてくれるらしい。
「ラーシュにもからあげをごちそうしますね!」
「はいっ! 楽しみです」
こうして私は、数年分はありそうなロックバードの肉と貴重な石を手に入れたのだった。
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