離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!

椿蛍

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第3章

12 恋の応援ですか!?

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 その抜け道とは――

「裏通りの市場のイメージを変えます」
「イメージを? でも、売る物は変わらないでしょう?」

 王妃様は首をかしげた。
 汚いからという理由で、撤去された市場。
 その市場が新しくなり、美しく生まれ変わったら、ルーカス様の承諾書は無効だ。
 承諾書の理由を無意味なものにしてしまえば、反対できなくなる。

「売る物は変わらなくても、少しの工夫で変われます」」
「どうかしら……。表通りの商品は高価ですが、見た目は美しく手がかけられてますよ」
「そうですね。庶民が手に入る果物や野菜といえば、表通りでは売られない形の悪いものや傷のあるものばかりです。でも、味は悪くありません」

 古い屋台や道具、物が多く乱雑に置かれた商品。
 それが汚いというイメージを作り出している。
 
「私は市場を王都の名所にしようと考えています」
「名所ですか?」
「そうです。いわゆる観光名所となるような場所です」
 
 王都にやってくるのは、商人ばかりではない。
 辺境の村、田舎の町、異国の人々などが旅先のひとつとして訪れ、人の出入りが多く見られる。
 彼らのお目当てのものといえば――

「ヴィフレア王国といえば、魔術師や魔道具師です。そして、欲しいものといえば、魔道具。けれど、普通に暮らす人々にとって魔道具はやはり高価です」
「サーラ様の魔道具は、とても好評だと聞いてますよ」
「そこです」

 私は王妃様の言葉にうなずき、説明を続ける。

「私の魔道具がなぜ好評でなのかという点ですが、手軽に手に入れられる魔道具であることが理由のひとつ」
「あら。でも、高価なものもありますわよね?」
「はい。プラネタリウムの装置は高価で、やはり一部にしか売れません。ですが、鍋はどうでしょう。鍋は誰もが手軽に楽しめる魔道具です」

 普通の鍋より高いけど、火の魔石や薪などの燃料を節約でき、購入した方が結果的にお得になる。
 それで売れているのだ。

「新しい市場も同じように、誰もが楽しめる場所にしたいと考えてます」
「誰もが楽しめる場所……」

 王妃様はイメージがわかなかったらしく、首をかしげて言った。

「サーラ様がおっしゃるように、誰もが楽しめたら、とても素晴らしいと思います。けれど、裏通りの市場が王都の名所と呼ばれ、他国の人々が訪れるような場所になるでしょうか?」
「私はできると思ってます。他国の人だけでなく、貴族の方々にも訪れていただけるような場所に!」

 王妃様は私の言葉に驚いていた。

「そう……。サーラ様の『誰もが』には、貴族の方も入っているのですね」
「はい。同じヴィフレア王国の民ですから。それに異国の人は裏通りの市場に来る人が多いんですよ」

 すでに異国からの人はきている。
 からあげが食べられなくなり、がっかりしていた金の瞳をした異国の男性。
 からあげ店を任せているエヴェルに聞くと、毎回、大量に購入していくという。
 とはいえ、うまくいけばという話で、なにも形になっておらず、成功する保証はどこにもなかった。
 だから、王妃様から許可をいただける可能性は低い。
 私への信用だけが担保。

 ――断られるかもしれない。

「わかりました。わたくしの名で許可証を発行しましょう」

 あっさり承諾した王妃様の顔を見た。
 優しい微笑みを浮かべていた。

「わたくしはサーラ様を信じます」
「王妃様……。ありがとうございます!」

 羽ペンを手にし、新しい市場を王妃の権限で認めるという内容の許可証をいただく。

 ――これがあれば、市場が再開できる!

 両手でその許可証を握りしめ、みんなの喜ぶ顔を思い浮かべた。

「サーラ様は十年前に比べ、別人のように変わりましたね」
「えっ! は、はい……」

 私が異世界人であると知っているのは、この世界でリアムだけ。
 だから、王妃様にバレないはずだれど、ドキドキして挙動不審になってしまった。

「責めているわけではないのです。昔のサーラ様も今のサーラ様も、わたくしは大好きですよ」

 王妃様の言葉に泣きそうになった。
 今も昔も好きだと言ってくれる王妃様の言葉が、とても貴重なものだったからだ。

「ありがとうございます」

 涙声になった私に、王妃様は微笑んだ。

「きっとルーカスも同じです。今も昔もサーラ様が好きですよ」

 ――ルーカス様が今も昔も?

 十年前の記憶を辿ってみたけど、胸キュンなイベントはなかった。
 ルーカス様がモテモテだったことくらい。
 そして、ラストは結婚式当日の浮気で着地。
 王妃様には申し訳ないけれど、複雑な気持ちになった。

「えっと、その……」
「そんな困った顔をなさらないで。少しだけ息子の応援をしてあげたくなったのです」
「ルーカス様が私を好きってことはないと思いますけど」
「それはどうかしら?」

 恋の話が大好きなのは、王妃様も同じらしい。
 
「わたくしの立場上、あの子が王になりたいとわかっていても応援できません。だから、せめて恋だけでも応援できたらと思ったのですよ」

 権力争いによる暗殺を避けるため、王妃様は政治に関わらない立場を貫いていた。
 市場の件で無理を言ってしまったような気がした。

「ルーカス様が私に持っている感情は、恋ではないと思うんですが……」
「嫌いな相手を自分が暮らす王宮へ戻そうなんて、思わないでしょう? 十年前、サーラ様を妃に選んだのも、理由があるはずですよ」

 結婚式当日に浮気相手とイチャイチャしていたルーカス様。
 サーラの性格なら、文句は言えないとわかった上でやっていたことだ。

 ――それが選んだ理由だったら、なおさら許せないんですが。

 復縁なんてお断りですと、王妃様に改めて言うつもりが、浮かない顔をしていることに気づき、口に出せなかった。

「わたくしは不安なのです」
「王妃様?」
「だから、サーラ様に王宮へ戻ってきてほしいのかもしれません」

 泣きそうな顔をしている王妃様を初めて見た。
  
「もし、ルーカスのことで、なにか気づいたことがあれば、わたくしに相談してください。嫌な予感がするのです」
「嫌な予感ですか?」
「なぜ、ルーカスが勘違いしたのかわからないのですけれど……。あの子は陛下から愛されていないと思っているようなのです」
「第二王子であるリアム……リアム様を国王に指名したからではないでしょうか?」

 王妃様は悲しげな表情を浮かべた。

「一番お悩みになられたのは陛下です。リアム様の実力を考えたら、ルーカスにここまで配慮してくださったことに感謝しておりますわ」

 息子であるルーカス様が、王に指名されなかったのに、王妃様は少しも残念そうではなかった。
 それどころか、リアムが王になってくれたほうが安心だというような口ぶり。
 
 ――今までも王妃様はリアムに遠慮がちな態度だったけど、なにか理由があるの?

「陛下はご自分の命が尽きようとする時まで悩まれ、決断されたのです。それが、愛情の証と言わずになんと言うのでしょう」

 母親である王妃様が、そう言うからには、なにか根拠があるに違いない。
 王妃様に詳しく聞こうとしたけれど、部屋の扉をノックする音に気づき、会話をやめた。

「王妃様。失礼します。国王陛下が目を覚まされました」

 部屋に案内してくれた侍女が、扉の前から問いかける。

「ええ。今、支度をしてうかがいます。サーラ様、慌ただしくてごめんなさいね」
「いいえ」

 椅子から立ち上がった王妃様は、ちらりとテーブルを見下ろした。
 テーブルの上には、すっかり冷めてしまい、一口も飲めなかったお茶がある。
 心をやすめ、ゆっくりお茶を飲む余裕が、今の王妃様にはないのだ。

「王妃様。国王陛下の体調が良くなることを祈ってます」

 私と会ってくれたのは、ルーカス様のことがあったから。
 ルーカス様が私に嫌がらせをしたのだと思い、無理にでも時間を作ってくれたのだ。
 国王陛下だけでなく、王妃様はルーカス様のことも心配している。

「ええ。サーラ様。ありがとう……。また王宮へきてくださいね」
「はい。市場が再開されたら、お礼に王妃様が元気になるような物を持ってうかがいます」

 そう私が言うと、王妃様は嬉しそうに微笑んだ。

「楽しみにしているわ」

 私は深々とお辞儀をし、部屋を出る。
 入れ替わりで、侍女が部屋の中へ入り、王妃様の支度を手伝う。

 ――国王陛下の回復は魔術でも不可能なんですね。

 国王陛下は病気というより、寿命なのだとリアムは言っていた。

 ――寿命はどうしようもないけれど、少しでも長生きしていただきたい。

 王妃様が心配していたように、私もリアムがこのまま、すんなり王位を継承できるとは思えなかった。
 きっとルーカス様は国王になるのを諦めていない。 

 ――でも、そうやって王位を手に入れようとしているの?

 そんなことを考えながら、王宮の廊下を歩いていると――
 
「サーラはどこ?」

 ヘレーナの声が聞こえてきた。
 王宮の玄関に向かう先の廊下にいる。
 どうやら、私を待ち伏せしていたらしく、探す声が聞こえてきた。

「王妃様のお部屋でおしゃべりをしているそうですよ」
「ルーカス様の命令を無効にできるのは、国王陛下と王妃様だけですからね」
「侍女が邪魔して、王妃様との面会を阻めませんでした」

 へレーナと話しているのは、若い侍従たちのようだ。
 取り入って、王宮で出世しようという魂胆だろう。

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「それもひとつの手ね」

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 ――どこの不良ですか? そんなの冗談じゃありません!

 このままでは、へレーナに見つかってしまう。
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 ――でも、どこに隠れたら?

 慌てる私の目に飛び込んできたのは、胸元に輝く宮廷魔道具師のブローチだった。

「王宮図書館の【鍵】が必要な場所なら、へレーナも侍従も入れません!」

 こちらへやってくるヘレーナと侍従に背を向け、王宮図書館を目指し、走り出した。 ん
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