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第2章
4 元妻がやらかしたようだ(1)※ルーカス視点
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魔法と魔術によって栄えるヴィフレア王国の第一王子として生まれ、なに不自由なく育った。
もちろん、今も満ち足りた生活を送っている――はずだった。
――おかしい。いつもと変わらない生活を送っているはずが、退屈で仕方がない。
けれど、自分が退屈だと思っている理由がわからなかった。
若い音楽家たちを招いた午後、広間には不協和音が奏でられていた。
音楽好きな父上が、魔道具師を呼び、音が反響しやすい広間を造らせ、こうして若い音楽家を王宮に招き、演奏させることで、生活の支援をしている。
彼らの演奏は以前より上達し、成長を喜ぶべきなのだが、今日はそんな気分になれない。
――いや、退屈なのは、今日だけじゃない。最近ずっとそうだ。
原因はわかっている。
それは、別れた元妻のサーラのことが気になっているからだ。
――彼女は変わった。それも別人のように。
以前の彼女を思い出してみよう。
『はい、ルーカス様』
『ルーカス様が良いと思われるほうで構いません』
『すべて、ルーカス様のお好みに合わせます』
これが、以前のサーラである。
従順で、おとなしく平凡な令嬢だったというのに、今のサーラは真逆だ。
自立すると言い出して、一歩も引かず、魔道具店まで始め、貴族の令嬢だというのにお金を稼いでいる。
アールグレーン公爵は勘当したと公言しており、家に連れ戻す気さえないようだ。
十年前の記憶であれば、父親のアールグレーン公爵に叱られ、泣きそうな顔をしていたのだが、今はどうだ?
むしろ、すがすがしいまでに実家を無視している……というか、目に入っていないのか?
「どう考えてもおかしいな」
「ルーカス様? なにか気にかかることがおありですの?」
ソニヤはこちらを気遣っているが、目は若い音楽家に向いている。
けど、僕はその目をこちらへ向けることができる。
それも、たった一言で。
「サーラだよ。彼女のことを考えていた」
ソニヤが慌てて僕のほうを振り返り、焦り出した。
「ま、まあっ! わたくしという妻がありながら、元妻が気になるなんて!」
「君も気になっているはずだ。噂を聞いただろう? 【修復】スキルを極め、店は繁盛し、魔道具を次々と売り出している」
「ええ……」
「特に鍋は評判で、貴族たちの屋敷で使いたいと、特注の大鍋を注文する者までいるそうだ」
今、僕がこんな話をしたところで、ソニヤはなにもできない。
宮廷魔術師たちが、火の魔石が凍った事件について調べているからだ。
すでに犯人がわかっているはずだが、わざと捜査中のままなのは、ソニヤの動きを封じるため。
いつでも切り札を取り出せるぞと、リアムはソニヤを脅しているのだ。
――ソニヤの計画は、浅はかだったとしか思えない。
気が強く、魔力もあり、外見も悪くないが、四大公爵家の箱入り娘。
誰もが使えるような魔道具でない魔道具を使って、サーラに嫌がらせをしたらどうなるか、それくらいわかるだろうに、なにかあっても、実家のノルデン公爵家が、自分を守ってくれるという慢心のせいで、彼女は失敗した。
ソニヤは僕の隣で、悔しそうにしているので精一杯だ。
――本当につまらないな。
僕が元妻のサーラに会うには、理由がいる。
次期国王として、父上に指名されるまで、醜聞は避けたい。
それに対して、リアムのほうは独身で、サーラを目覚めさせた恩人だ。
――だからといって、リアムがサーラと結婚する可能性はない。
サーラは僕の妻として王宮へ入った。
本来なら、王宮から出られず、他の男の妻になるなどもってのほか。
離縁された王や王子の妃が、王宮以外で暮らすとするなら、行き先は修道院のみだ。
修道院へ行き、静かに暮らすことだけが、許された道だったのだ。
それが、サーラは自分に不利な条件を出し、絶対に無理だろうと思わせ、僕の承諾を得て、王宮の外で暮らし始めた。
――相手がサーラだと思って油断したな。
あれは罠だったのだと、今ならわかる。
「どうにかできないかな」
「もっ、申し訳ありません! 未熟な演奏をルーカス様の前で披露してしまい……」
演奏が止んだのに気づいて、ちょうどいいと思い、席を立つ。
「次回の演奏に期待しよう。精進したまえ」
「ルーカス様。どちらへ行かれるの? わたくしもご一緒しますわ」
ソニヤがなにか察したのか、そんなことを言い出した。
今まで僕自身に興味がなかったくせに、サーラが目覚めたとたん、ライバル心が復活したらしい。
彼女が一番好きなのは、『第一王子の妃』という肩書で、次に狙うは『王妃』の地位である。
僕は僕で、彼女に期待しているのは、実家のノルデン公爵家の後見であり、他に期待することもない。
結婚して十年――お互い得られるものがあるから、仲のいい夫婦を演じている。
「いや、君は演奏を最後まで楽しんだらいい。僕は図書館へ行く用事がある。調べものがあったのを思い出した」
「図書館……。そうですの。それでしたら、わたくしは演奏を最後まで楽しませていただきますわ」
「ああ」
僕がサーラに会いに、王宮の外へ行くとでも思ったのか、こちらの行動を監視している。
――僕の即位を後押しするのはノルデン公爵だが、それだけでは即位後、ノルデン公爵家に権力を奪われかねない。
他の四大公爵家を味方につける必要があるが、この四家は仲が悪い。
宮廷で権力争いをしているから、当然と言えば当然なのだが、国王陛下の父上も四家の均衡を保つのに頭を悩ませている。
――四大公爵家は力を持ちすぎた。それを抑えるには、圧倒的な力がいると、父上は考えているのだろう。
父上は国民からも信頼され、魔術師としても優秀なリアムを王にするつもりなのだ。
僕を貢献するノルデン公爵が、それを妨害しているため、簡単にはいかない。
――ノルデン公爵の権力を使っても指名を得られないとは……本当に目障りな弟だ。
考え事をしながら、広間の外へ出る。
ヴィフレア王国の王宮には、多くの書物を保管した図書館があった。
その書物の複製は、王立魔法学院にあるのだが、原本は王宮に保管されている。
当然、王宮の図書館にしか置かれていない書物もあり、調べものをするなら、こちらのほうが早い。
「お父さま!」
外に出たなり、駆け寄ってきたのは、銀髪に青い瞳をした息子、ラーシュだった。
もちろん、今も満ち足りた生活を送っている――はずだった。
――おかしい。いつもと変わらない生活を送っているはずが、退屈で仕方がない。
けれど、自分が退屈だと思っている理由がわからなかった。
若い音楽家たちを招いた午後、広間には不協和音が奏でられていた。
音楽好きな父上が、魔道具師を呼び、音が反響しやすい広間を造らせ、こうして若い音楽家を王宮に招き、演奏させることで、生活の支援をしている。
彼らの演奏は以前より上達し、成長を喜ぶべきなのだが、今日はそんな気分になれない。
――いや、退屈なのは、今日だけじゃない。最近ずっとそうだ。
原因はわかっている。
それは、別れた元妻のサーラのことが気になっているからだ。
――彼女は変わった。それも別人のように。
以前の彼女を思い出してみよう。
『はい、ルーカス様』
『ルーカス様が良いと思われるほうで構いません』
『すべて、ルーカス様のお好みに合わせます』
これが、以前のサーラである。
従順で、おとなしく平凡な令嬢だったというのに、今のサーラは真逆だ。
自立すると言い出して、一歩も引かず、魔道具店まで始め、貴族の令嬢だというのにお金を稼いでいる。
アールグレーン公爵は勘当したと公言しており、家に連れ戻す気さえないようだ。
十年前の記憶であれば、父親のアールグレーン公爵に叱られ、泣きそうな顔をしていたのだが、今はどうだ?
むしろ、すがすがしいまでに実家を無視している……というか、目に入っていないのか?
「どう考えてもおかしいな」
「ルーカス様? なにか気にかかることがおありですの?」
ソニヤはこちらを気遣っているが、目は若い音楽家に向いている。
けど、僕はその目をこちらへ向けることができる。
それも、たった一言で。
「サーラだよ。彼女のことを考えていた」
ソニヤが慌てて僕のほうを振り返り、焦り出した。
「ま、まあっ! わたくしという妻がありながら、元妻が気になるなんて!」
「君も気になっているはずだ。噂を聞いただろう? 【修復】スキルを極め、店は繁盛し、魔道具を次々と売り出している」
「ええ……」
「特に鍋は評判で、貴族たちの屋敷で使いたいと、特注の大鍋を注文する者までいるそうだ」
今、僕がこんな話をしたところで、ソニヤはなにもできない。
宮廷魔術師たちが、火の魔石が凍った事件について調べているからだ。
すでに犯人がわかっているはずだが、わざと捜査中のままなのは、ソニヤの動きを封じるため。
いつでも切り札を取り出せるぞと、リアムはソニヤを脅しているのだ。
――ソニヤの計画は、浅はかだったとしか思えない。
気が強く、魔力もあり、外見も悪くないが、四大公爵家の箱入り娘。
誰もが使えるような魔道具でない魔道具を使って、サーラに嫌がらせをしたらどうなるか、それくらいわかるだろうに、なにかあっても、実家のノルデン公爵家が、自分を守ってくれるという慢心のせいで、彼女は失敗した。
ソニヤは僕の隣で、悔しそうにしているので精一杯だ。
――本当につまらないな。
僕が元妻のサーラに会うには、理由がいる。
次期国王として、父上に指名されるまで、醜聞は避けたい。
それに対して、リアムのほうは独身で、サーラを目覚めさせた恩人だ。
――だからといって、リアムがサーラと結婚する可能性はない。
サーラは僕の妻として王宮へ入った。
本来なら、王宮から出られず、他の男の妻になるなどもってのほか。
離縁された王や王子の妃が、王宮以外で暮らすとするなら、行き先は修道院のみだ。
修道院へ行き、静かに暮らすことだけが、許された道だったのだ。
それが、サーラは自分に不利な条件を出し、絶対に無理だろうと思わせ、僕の承諾を得て、王宮の外で暮らし始めた。
――相手がサーラだと思って油断したな。
あれは罠だったのだと、今ならわかる。
「どうにかできないかな」
「もっ、申し訳ありません! 未熟な演奏をルーカス様の前で披露してしまい……」
演奏が止んだのに気づいて、ちょうどいいと思い、席を立つ。
「次回の演奏に期待しよう。精進したまえ」
「ルーカス様。どちらへ行かれるの? わたくしもご一緒しますわ」
ソニヤがなにか察したのか、そんなことを言い出した。
今まで僕自身に興味がなかったくせに、サーラが目覚めたとたん、ライバル心が復活したらしい。
彼女が一番好きなのは、『第一王子の妃』という肩書で、次に狙うは『王妃』の地位である。
僕は僕で、彼女に期待しているのは、実家のノルデン公爵家の後見であり、他に期待することもない。
結婚して十年――お互い得られるものがあるから、仲のいい夫婦を演じている。
「いや、君は演奏を最後まで楽しんだらいい。僕は図書館へ行く用事がある。調べものがあったのを思い出した」
「図書館……。そうですの。それでしたら、わたくしは演奏を最後まで楽しませていただきますわ」
「ああ」
僕がサーラに会いに、王宮の外へ行くとでも思ったのか、こちらの行動を監視している。
――僕の即位を後押しするのはノルデン公爵だが、それだけでは即位後、ノルデン公爵家に権力を奪われかねない。
他の四大公爵家を味方につける必要があるが、この四家は仲が悪い。
宮廷で権力争いをしているから、当然と言えば当然なのだが、国王陛下の父上も四家の均衡を保つのに頭を悩ませている。
――四大公爵家は力を持ちすぎた。それを抑えるには、圧倒的な力がいると、父上は考えているのだろう。
父上は国民からも信頼され、魔術師としても優秀なリアムを王にするつもりなのだ。
僕を貢献するノルデン公爵が、それを妨害しているため、簡単にはいかない。
――ノルデン公爵の権力を使っても指名を得られないとは……本当に目障りな弟だ。
考え事をしながら、広間の外へ出る。
ヴィフレア王国の王宮には、多くの書物を保管した図書館があった。
その書物の複製は、王立魔法学院にあるのだが、原本は王宮に保管されている。
当然、王宮の図書館にしか置かれていない書物もあり、調べものをするなら、こちらのほうが早い。
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