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辺境の村ファーレ編

ファーレの村へ

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それは軽めのジェットコースターであった。
信じられない速度でサーガが走って行く。

「ん? 前に誰かいるな」

と呟くと森の中へとダイブ。
木々を避けて走り、地面の凸凹はジャンプで躱す。そして再び道に出て風のように走る。
今までに体験したことのない速度に上下運動。ファーレは失神寸前だった。しかし気を失うことは許されない。

「この道はどっちだ~」

と分かれ道でサーガが聞いてくるからだ。

「ひ、左、です…」
「左ね」

ドヒュン!

「これは~」
「み、右、デス…」

ドヒョン!

内蔵がひっくり返りそうになる感覚。何かが迫り上がって来るような来ないような…。
奇跡的にせっかく食べたお肉を口から出すことにはならなかった。
そしてなんと、空の赤みが増した頃にファーレの住んでいる村に着いたのだった。

「ここか?」
「そ、そうでふ…」

半死半生のファーレが答える。

「うわ…、思った以上に何もなさそう…」

失礼な事を呟いている。
簡素な塀で囲まれた小さな村。サーガが思った以上に質素な村だった。
ファーレを地面に降ろしてやったが、足に力が入らないらしく座り込んだまま立てない。

「ま、しゃーねーか」
「ご、ごめんなさい…」

もう一度おんぶして、村の中へと入って行く。

「ファーレ!」

少し小太りな女性が駆け寄って来た。

「どうしたんだい? 何かあったのかい? この人は?」

矢継ぎ早に質問してくる。

「め、メリアおばさん、私は大丈夫。ちょっと慣れないことにびっくりして足に力が入らなくなっちゃって」

普通に生きていればあんな速度を味わうことはない。
ただおばさんは別の意味で取ったようだった。

「そうだね…。大変だったろう。で、この子はなんだい?」

おばさんから見ればサーガも「子」に分類されるようだ。

「このお兄さんがルペンサーを退治してくれるって言ってくれたの」
「ども。サーガっす」

サーガがぺこりと頭を下げる。

「え? この子が?」

思い切り不信な目でサーガをジロジロ眺め回す。

「そうなの。他に受けてくれる人もいなくて…」

受付で拒絶されたとも言いにくい。

「そうなのかい。それは仕方ないね」

諦めた様子で溜息を吐く。
そんなやってもいないうちから諦めないで欲しいとも思うが、サーガが強そうに見えないのは本人も自覚している。

「とにかく、おじいちゃんに話して来るわ」
「ああ、分かったよ。後で皆にも集まるように言っておくよ」
「ありがとう」

メリアおばさんから離れ、ファーレの家を目指す。

「おじいちゃんとやらが村長さんなのか?」
「そうよ」
「親は?」
「? 昔に病気で死んじゃったんだって。私の小さい頃のことだからよく知らないわ」
「そかー」

だからこんな小さな子が1人で街まで行く羽目になったのかと納得。
家の前まで来るとやっと力が入るようになったのか、地面に降ろしてもファーレがへたり込むことはなかった。

「ただいま! おじいちゃん!」
「おお、ファーレ」

夕飯の仕度をしていたのか、白髪の長身の人物が振り返る。

「おかえり。よく無事に帰ってきてくれた」

道中の危険が分かっていたなら自分が行けば良いのにとも思うが、よく見ればお爺さんは右足を引き摺っている。

「この人は?」
「依頼を引き受けてくれた冒険者のサーガさんよ!」
「どもっす。三食昼寝付きで引き受けたサーガっす」

お爺さんが目を丸くする。
ファーレから事情を聞いて頷いたお爺さん。

「こんな辺鄙な所に来てもらうんだ。それくらいはしよう」

お爺さんから許可ももらえた。
その後まさに質素という言葉を再現した夕飯を頂き、村の皆にも紹介される。顔を覚えてもらって不審人物と思われないためである。
一定の年齢の者達からは子供にしか見られず、本当に冒険者かと疑われたりもした。背が低いからではない。童顔気味だからだきっと。
集会から家に帰る途中、サーガはファーレに問いかける。

「この辺り、温泉とかってあるの?」
「温泉? 一山越えた向こうにそれらしいのはあるけど…」
「なるほど」

ファーレが指さした山の方から、温泉特有の臭いが漂って来ていた。もちろんだが普通の人が気付くような臭いではない。今日は走りまくって汗も掻いたし、出来れば一っ風呂浴びたいところである。
用意された部屋に入る。ファーレの両親が使っていた部屋だという。掃除は丁寧にされているらしく、綺麗なものだった。

「じゃ、寝る前に一応村をぐるっと回ってくらあ」
「え? もう真っ暗よ」

街灯などあるわけもない村。陽が落ちれば辺りは真っ暗闇である。

「ふふん。そんな俺には便利魔道具アイテムがあるのだ!」

いつか使ってやろうと魔道具屋で買い込んだうちの1つを収納袋から取り出す。

「その名も、ランタン!」

パパラパッパパ~

と音がしたかは分からない。
スイッチを入れるとあら不思議。柔らかな光が辺りを照らし出す。

「凄い…。街にはこんな便利な物が売られてるのね…」

ファーレが目を瞬かせる。

「てことで、ちょっと見回ってきてから寝るわ。先寝ててちょ~」
「あ、おやすみなさい…」

サーガが扉から出て行った。













小さな村だ。それほど見回る場所もない。
所々塀が壊れている場所などがあった。そこからルペンサーが忍び込んで来たのだろう。
小さい村と言っても結界を張るにはそれなりの大きさの物を張らなければならない。その為に必要となるのが目印となるもの。それは髪の毛や爪など、自分の体の一部などであると媒体にしやすい。しかしサーガの場合、マーキング行為でもってそれを可能にしてしまうことも出来る。つまり、立ちショ○である。
あまりお行儀が良いとは言えない行為だが、手っ取り早くサーガは村の四方にマーキングを行った。そして風の結界を張る。
今張ったものは誰かが通った事に反応するだけのもので、通行を妨げる効果はない。ルペンサーの気配をまだサーガは知らないので、今はこれでいい。ルペンサーの気配が分かるようになれば、ルペンサーだけを遮る結界を張ってしまえばいい。

「うし、んじゃ、一っ風呂浴びてくるかな~」

暗くなれば村は明かりもないので早々に寝静まる。サーガは自分を伺っている者がいないかを確認し、夜空に舞い上がった。
一山と言えど、飛んでしまえばあっという間。

「よっほ~い!」

空中で器用に服を脱ぎ、誰もいないのを良いことに風呂へとダイブ。水飛沫が上がる。
時たま誰かが訪れているのだろう。多少石などで整備されていた。

「あ~、ちょっと熱めだけど、生き返るう~」

こう見えてサーガは結構綺麗好きで風呂好きである。あまり身汚くしていると病気になりやすくなるという、傭兵時代からの知恵である。あ、記憶なかったっけ。

「これで綺麗なお姉ちゃんでも一緒に入ってくれたら、もっと癒やされるんだけどな~」

人里離れた山奥の露天風呂にわざわざ入りに来る者など滅多にいないだろう。しかも夜に。

「綺麗どころもいなかったし、食事は思った以上に質素だし…。う~ん。選択を間違えたかな? ま、2、3日温泉でゆっくりするか~」

仕事しに来たんじゃないのかい?
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