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プロローグ
報酬一発?
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「あれ? 俺、死んだはずじゃ…」
目を開け、むくりと体を起こす。あれほどに辛かった体の諸症状が消えている。周りにいたはずのメリンダ達の姿も見えない。というか見覚えのない白い空間に横になっていたようだ。
「そうか、ここが死後の世界って奴か」
体から離れた魂が行き着く死後の世界。ここがそうなのかと立ち上がり辺りを見回す。
「ぬ? 人がいたのか」
「ん? 誰だお前」
少し離れた場所に黒髪黒眼の端正な顔立ちの青年が立っていた。見たことのない人物だ。
「我が輩はクロム。寿命で死んだはずなのだがの」
青年が名乗る。
「俺はサーガ。俺もある意味寿命で死んだハズなんだけど」
やはり死んだ者の行き着く場所であったかと納得する。
「ようこそおいでくださいました、クロムさん、サーガさん」
違う場所から綺麗な女性の声が響いてきて、そちらに顔を向ける。少し前まで誰もいなかったはずのその場所に、金髪の美しい女性が立っていた。
「突然呼びつけてしまい真に申し訳ございません。しかし、世界の危機が迫っており、やむを得ない状況でございました」
なんだか女性がよく分からないことを話し出す。
「何を言うておる?」
「何言ってんだあんた?」
首を傾げる2人。女性が少し悲しそうな困ったような顔をして話しを続ける。
「遅ればせながら自己紹介をさせて頂きますね。私はとある世界を管理する女神、アルカディスと申します。今回寿命で亡くなったお二人を召喚させて頂いたのには訳がございます。特にクロムさんには関わりの深いことにございます」
クロムを見つめ、息を吸う。
「貴方の大事な方の魂が、この世界の邪神に攫われ、利用されようとしています」
「なんだと?!」
すぐに誰か思い当たったのか、クロムが顔を険しくする。
「私達の方でも手を回しましたがあちらもいろいろ用意周到でして、すでに私達の手には負えない事態となってしまっております。なので貴方をお呼びした事態でございます」
「どういうことなのだ! 何故彼奴が攫われたのだの!」
「世界は混沌の中に無数に存在する泡のようなものだとお考え下さい。時折その泡が近づき、その世界のことを知る機会があることもあります。あの方の魂は珍しく魔力に全く反応しない魂でありました。邪神はその性質を利用し、この世界を破滅に導こうとしてあの方の魂を密かに貴方の世界から攫ってきました。私達も先頃その事態に気付き、なんとかしようとしましたがすでにこの世界に転生してしまっており手が出せません。ですのであなた方に協力を仰ぎたいと思い急遽お呼び立て致しました」
「自分の世界のことなのに手が出せぬと?」
「例えて言うならば、水面に浮かぶ砂粒をまったく波を立てずに掬い上げるようなことだとお思いください。出来ませんよね?」
「ぬう…」
「私達、神と呼ばれる者達が世界に干渉するということはそれだけリスクのあることなのです。ですので貴方方をお呼びしました。私達が直接干渉することは出来ませんが、加護を付けた者達を降ろすことは可能です」
「加護、かの」
「はい。クロムさんならお分かりになられますよね?」
「まあのう。それで、あの男は誰だの?」
あの男、サーガが顎で示される。
なんだかよく分からない話をボケーっと聞いていたサーガが、自分に話しが振られたようで目をパチクリさせる。
「時と運命を司る女神の神託によりお呼びしました。また別の世界からお喚びしましたサーガさんです」
「え? 俺、関係あんの?」
「はい。貴方にも世界を救う手助けをお願いしたいのです」
「え、やだ」
サーガの返答に目を点にする女神。
「あ、あの…、世界の危機なのですよ? それを、救う手助けを…」
「なんで俺がやらなきゃらなんのよ。別の奴に頼めよ」
まったくその通りかもしれない。
「我が輩も何故あの男なのか疑問であるぞ。神託といえど信用ならぬ」
「で、でも、時と運命を司る女神の神託ですので…」
「仕事を頼むなら、ちゃんと報酬を用意しなきゃだぜ?」
サーガが腕を組む。
「ほ、報酬? えと、異世界召喚特典でご希望のチート能力を一つお与えすることが出来ますけれど…」
「チート能力?」
「望むままの力を…」
「んなら、なんでも覗ける力がいい! これで風呂の壁も意味なしの覗き放題!」
「却下で。他の能力にして下さい」
「ええー…。他に思いつかねー」
女神の白い目も気にせず悩み出すサーガ。
「女神よ、本当に奴で良いのかの?」
「し、神託ですので…」
クロムの問いに苦しそうに女神が答える。
「もう死んでるってんなら金ってわけにもいかねーしなぁ。でも体はあるみたいだなぁ」
ペタペタと自分の体に触れる。
「体と申しますか、今は霊体になっているだけですが…」
「魂だけの状態ということかの」
詳しいのかクロムが頷く。
「左様にございます」
「霊体? 魂? まあなんにせよ触ることが出来るなら…。答えは一つ!」
女神に向かって人差し指を突き立てる。
「女神様との一発!」
女神とクロムが白けた顔になった。
「いや~、神様となんてまさに夢のような話しだなぁ。まさに天にも昇る心地なのかなぁ」
サーガが1人ウキウキしている。
「女神よ、念を押すが本当に奴で良いのかの?」
「し、神託のはずですので…」
クロムに問われ、女神がこめかみを押さえながら苦しげに呻く。
「報酬を確約してくれるならやってやってもいいぜ~? 駄目ならやんない」
ニヤニヤと女神を見つめるサーガ。
その時、サーガが立っていた場所の床が消えた。
「ほえ?」
サーガの体? が重力に従うかのように下へと落ちていく。
「な、ちょ、待て!」
慌てて風の力を纏い上へと飛ぼうとするが、何故か体は浮かばない。穴からにゅっと女神が顔を出す。
「とにかくよろしくお願いいたしま~す。受肉のショックでしばらく記憶の混濁が起こりますけれど、チート能力のこと考えておいて下さいね~」
「ちょ待て! まだやるとは言ってなーーーーい!! 報酬ーーーー!!」
穴はまるで最初から無かったように綺麗に消え、サーガは雲間を地面に向かって落ちて行った。
目を開け、むくりと体を起こす。あれほどに辛かった体の諸症状が消えている。周りにいたはずのメリンダ達の姿も見えない。というか見覚えのない白い空間に横になっていたようだ。
「そうか、ここが死後の世界って奴か」
体から離れた魂が行き着く死後の世界。ここがそうなのかと立ち上がり辺りを見回す。
「ぬ? 人がいたのか」
「ん? 誰だお前」
少し離れた場所に黒髪黒眼の端正な顔立ちの青年が立っていた。見たことのない人物だ。
「我が輩はクロム。寿命で死んだはずなのだがの」
青年が名乗る。
「俺はサーガ。俺もある意味寿命で死んだハズなんだけど」
やはり死んだ者の行き着く場所であったかと納得する。
「ようこそおいでくださいました、クロムさん、サーガさん」
違う場所から綺麗な女性の声が響いてきて、そちらに顔を向ける。少し前まで誰もいなかったはずのその場所に、金髪の美しい女性が立っていた。
「突然呼びつけてしまい真に申し訳ございません。しかし、世界の危機が迫っており、やむを得ない状況でございました」
なんだか女性がよく分からないことを話し出す。
「何を言うておる?」
「何言ってんだあんた?」
首を傾げる2人。女性が少し悲しそうな困ったような顔をして話しを続ける。
「遅ればせながら自己紹介をさせて頂きますね。私はとある世界を管理する女神、アルカディスと申します。今回寿命で亡くなったお二人を召喚させて頂いたのには訳がございます。特にクロムさんには関わりの深いことにございます」
クロムを見つめ、息を吸う。
「貴方の大事な方の魂が、この世界の邪神に攫われ、利用されようとしています」
「なんだと?!」
すぐに誰か思い当たったのか、クロムが顔を険しくする。
「私達の方でも手を回しましたがあちらもいろいろ用意周到でして、すでに私達の手には負えない事態となってしまっております。なので貴方をお呼びした事態でございます」
「どういうことなのだ! 何故彼奴が攫われたのだの!」
「世界は混沌の中に無数に存在する泡のようなものだとお考え下さい。時折その泡が近づき、その世界のことを知る機会があることもあります。あの方の魂は珍しく魔力に全く反応しない魂でありました。邪神はその性質を利用し、この世界を破滅に導こうとしてあの方の魂を密かに貴方の世界から攫ってきました。私達も先頃その事態に気付き、なんとかしようとしましたがすでにこの世界に転生してしまっており手が出せません。ですのであなた方に協力を仰ぎたいと思い急遽お呼び立て致しました」
「自分の世界のことなのに手が出せぬと?」
「例えて言うならば、水面に浮かぶ砂粒をまったく波を立てずに掬い上げるようなことだとお思いください。出来ませんよね?」
「ぬう…」
「私達、神と呼ばれる者達が世界に干渉するということはそれだけリスクのあることなのです。ですので貴方方をお呼びしました。私達が直接干渉することは出来ませんが、加護を付けた者達を降ろすことは可能です」
「加護、かの」
「はい。クロムさんならお分かりになられますよね?」
「まあのう。それで、あの男は誰だの?」
あの男、サーガが顎で示される。
なんだかよく分からない話をボケーっと聞いていたサーガが、自分に話しが振られたようで目をパチクリさせる。
「時と運命を司る女神の神託によりお呼びしました。また別の世界からお喚びしましたサーガさんです」
「え? 俺、関係あんの?」
「はい。貴方にも世界を救う手助けをお願いしたいのです」
「え、やだ」
サーガの返答に目を点にする女神。
「あ、あの…、世界の危機なのですよ? それを、救う手助けを…」
「なんで俺がやらなきゃらなんのよ。別の奴に頼めよ」
まったくその通りかもしれない。
「我が輩も何故あの男なのか疑問であるぞ。神託といえど信用ならぬ」
「で、でも、時と運命を司る女神の神託ですので…」
「仕事を頼むなら、ちゃんと報酬を用意しなきゃだぜ?」
サーガが腕を組む。
「ほ、報酬? えと、異世界召喚特典でご希望のチート能力を一つお与えすることが出来ますけれど…」
「チート能力?」
「望むままの力を…」
「んなら、なんでも覗ける力がいい! これで風呂の壁も意味なしの覗き放題!」
「却下で。他の能力にして下さい」
「ええー…。他に思いつかねー」
女神の白い目も気にせず悩み出すサーガ。
「女神よ、本当に奴で良いのかの?」
「し、神託ですので…」
クロムの問いに苦しそうに女神が答える。
「もう死んでるってんなら金ってわけにもいかねーしなぁ。でも体はあるみたいだなぁ」
ペタペタと自分の体に触れる。
「体と申しますか、今は霊体になっているだけですが…」
「魂だけの状態ということかの」
詳しいのかクロムが頷く。
「左様にございます」
「霊体? 魂? まあなんにせよ触ることが出来るなら…。答えは一つ!」
女神に向かって人差し指を突き立てる。
「女神様との一発!」
女神とクロムが白けた顔になった。
「いや~、神様となんてまさに夢のような話しだなぁ。まさに天にも昇る心地なのかなぁ」
サーガが1人ウキウキしている。
「女神よ、念を押すが本当に奴で良いのかの?」
「し、神託のはずですので…」
クロムに問われ、女神がこめかみを押さえながら苦しげに呻く。
「報酬を確約してくれるならやってやってもいいぜ~? 駄目ならやんない」
ニヤニヤと女神を見つめるサーガ。
その時、サーガが立っていた場所の床が消えた。
「ほえ?」
サーガの体? が重力に従うかのように下へと落ちていく。
「な、ちょ、待て!」
慌てて風の力を纏い上へと飛ぼうとするが、何故か体は浮かばない。穴からにゅっと女神が顔を出す。
「とにかくよろしくお願いいたしま~す。受肉のショックでしばらく記憶の混濁が起こりますけれど、チート能力のこと考えておいて下さいね~」
「ちょ待て! まだやるとは言ってなーーーーい!! 報酬ーーーー!!」
穴はまるで最初から無かったように綺麗に消え、サーガは雲間を地面に向かって落ちて行った。
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