キーナの魔法

小笠原慎二

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最終章~光の御子と闇の御子~

御子という存在

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この世界は光と闇が形作っている。そして二神精霊から産み落とされた四大精霊と呼ばれる火、水、風、地の精霊達が世界を管理している。
言ってみれば光と闇は外から世界を支え、四大精霊は中で世界の循環が滞らないように見張っているようなものだ。
そしてこの世界は想いの力によって時折歪みを生じる。いろんな生き物達のいろいろな感情、そういうものが集まると、それが世界に干渉してくることがある。小さな歪みでもそれが集まれば大きくなり、そのうち世界に穴を開けてしまう。有の世界の外には無の世界があり、お互いに侵蝕しあっている。片方のバランスが崩れてしまえば、あっという間に飲み込まれてしまうだろう。

ところが、光と闇は世界の外からしか干渉できない。世界を創造するほどの力なので大きすぎるのだ。下手に中に手を入れたなら、それだけで世界を壊してしまうだろう。
しかし歪みは世界の中からでしか直せない。世界を形作る力なので四大精霊では対応出来ない。故に、御子という存在が作られた。
光と闇の力の欠片から生み出されたその魂に力と記憶を植え付け、世界の中へと落とす。そして中から修正するはずだったのだが、力と記憶の大きさに魂が耐えきれず、その器となる肉体も成体となる前に死んでしまう。
考えた末に、力と記憶は宝玉という形をとって、必要な時に必要な分だけ使えるようにした。
大きすぎる力を宝玉が制御し、魂と肉体の負担を減らしたのだ。
魂も連続で使い過ぎるとすぐに疲弊してしまう。故に1度中に落とした後は休息が必要となる。精霊からすればほんの一時ではあるし、その間に世界の歪みがひどく大きくなることもない。特に問題のないことだった。

後に御子と呼ばれるようになるその2つの魂は、生まれる時に宝玉を魂に植え付けられて世界に落とされる。そして役割を全うすると戻って来て休息する。その間宝玉も別の場所に保管しておく。それが一連の流れだった。









「人と言う存在のはどんな生き物よりも想いの力が強くて厄介なの」

白いキーナが一口茶をすする。人ではないのに茶を飲むのかとキーナはいらんことを考えていた。まあ、神様にもお水とか御神酒を供えるものだし。
人の感情は強い。だからこそ魔法と呼ばれる技術が発達していったのだ。人が一番うまく魔法を使えるのもそういうことになる。
人が精霊になるという伝承はあるが、稀によほど綺麗な魂であればそういうこともなきにしもあらずではあるが、滅多なことで人の魂が精霊になることはない。根っこから違うものなので、人は死ぬと魂の帰る場所へ帰るだけである。

「最初のきっかけは、やっぱりレオちゃんこと、レオナルド・ラオシャスが現われた辺りだと思う」

彼は天才であった。強い力を持ち、明晰な頭脳を持っていた。世界の真理へと近づき、人では辿り着けない領域までやって来てしまった。彼が光の力を発現してしまったことにより、世界の歪みが大きくなる。
なんとか被害を最小限に抑えたものの、その時代の御子の寿命が尽きてしまう。
歪みはそのまま残り、それも原因の1つなのか、人が入り込めない場所へまたやって来るものがあった。リー・リムリィという名の女性が闇の宝玉を保管していた空間の狭間へ偶然も重なり入り込んでしまう。そして闇の宝玉に触れ、狂った。

「人が操れるようなものでなし。特に闇の宝玉は人の負の感情を司っているから」

闇に呑まれた彼女がまた世界の歪みを深めていく。世界の自浄作用なのか、バランスを取るかのように、レオナルド・ラオシャスのように光の力を発現させる者が新たに現われた。
後に四賢者と呼ばれる者達だ。

「私達も焦ったわ」

キーナのように僕という一人称は使わないようである。顔はそっくりでも性格までは同じではないようだ。

魂を世界に落とす時期になっても宝玉がない。とりあえず2つの魂を世界に落としてはみたものの、片方に記憶が欠けている状態である。2人は出会っても擦れ違っただけで終わってしまった。そして仕事をすることもなく魂は帰って来てしまった。

「頭を抱えたわ」

なんとか彼女から宝玉を取り出さなければならない。しかし空間の狭間へ入ってしまった彼女は四大精霊の使いでも迂闊に手を出せない。
そうこうしているうちにまた魂を送り出す時が来た。不毛と分かっていても落とさないわけにはいかない。
2つの魂は必ず巡り会い惹かれ合う運命になっている。体の成熟に合わせ、お互いを想うようになると力が解放されるのだ。だがしかし、

「なんと、魔女が闇の御子を狙ってきたの。おかげで出会うはずの運命も狂わされた」

闇の宝玉が御子を呼んだのかもしれない。だが光の御子とも出会う前だったこともあり、御子はただの人間のまま魔女から逃げ出す。そして闇の御子は人と出会うことを避けるようになる。その先で光の御子と出会うはずだったのに、このままでは出会うこともなくその生を終わらせてしまう。

「終わったと思った…」

このままでは歪みは大きくなるばかり。世界が内側から崩壊していくのをただ眺めるしかない。そんな時、光の精霊は見付けてしまった。

「違う世界に私の作った魂ととてもよく似た光を持つ魂を」

いけないと分かっていても手を伸ばしてしまった。自分の世界をただ守りたかった。

「一か八かの賭けでもあった」

光の精霊は仮の宝玉をその魂に埋め込んだ。宝玉が世界に2つもあればそれだけで途端にバランスが崩れてしまう危険もある。だがしかし、御子達はまだ目覚めていない。賭けだった。
そして世界に落とした。出来るだけ闇の御子の近くへと。
その少女は運良く闇の御子と接触を果たした。あとは闇の御子の成長を促してくれさえすれば、闇の宝玉も近場にある。お互いに呼び合うはずだ。

だが、その成長は歯噛みするほど遅かった。思った以上に遅かった。何度文句を言ったかもしれない程に遅かった。自分よりも上位の彼方にいるという運命の女神が何か邪魔をしているのではないかと思うほどに遅かった。
テルディアスが気まずそうに視線を逸らす。

「それにやっぱり、負担が大きかったみたいで…」

白いキーナがキーナに向かって頭を下げる。

「暴走させてしまったのは私の責任です」
「いや、まあ、僕も抑えきれなかったし…」

2人の顔が暗くなる。それに巻き込んで大勢の命も奪ってしまった。

「少しずつではあるけど、闇の御子にも目覚めの兆候が見られるようになってくれて。何故か最後の枷がなかなか外れなかったけど」

テルディアスがまた目を逸らした。

「でもなんとか宝玉も元の場所に戻ってくれたし。これで一安心だわ。キーナには本当にお世話になりました」
「いへいへ。お役に立てて良かったです」

2人が頭を下げ合う。

「待て。お前は本当に納得してるのか?」

テルディアスがキーナに少し強い口調で問う。
キョトンとした顔でキーナがテルディアスを見上げる。

「ええと、納得というかなんというか、いきなり拉致られて知らない場所に連れて来られて川に落とされて怖い目に合って死にそうな目にもあったけど」

白いキーナが脂汗ダリダリになっている。

「でもテルとか皆に会えて、僕、楽しかったから」

キーナがにっこりと笑う。

「元の世界じゃ経験出来ない事もいっぱい出来たし、まあ死ななかったから良かったんじゃんない?」
「それは結果論だろう…」

テルディアスが頭を抱えた。

「これだけいろいろ経験出来て、元の世界の元の時間の元の場所にちゃんと戻してくれるんだもの。僕2年間得したようなものだと思ってるよ」
「キーナ…」

テルディアスが苦しそうな顔をしてキーナを見つめる。

「テル、これで本当に、お別れだね」

キーナも寂しそうに笑った。
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