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光の宮三度
ダン限界
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お婆さんが台車をゴロゴロ転がしながら戻って来た。
「! お前?!」
ダンが椅子に手を掛けて、体を起こしていた。ダンに打った吹き矢には、丸一日は眠ってしまう睡眠薬が塗られていたはず。
お婆さんが懐に手を突っ込む。そして吹き矢を構えようとするが、
バシッ
何かに手を叩かれ、落としてしまった。
「な…?」
上を見ると、何故か天井から蔓がぶら下がっている。それがするりと動いてお婆さんの右手に絡みつく。
「なんじゃ?!」
外そうと左手で引っ張っていたら、その左手にも蔓が巻き付いてきた。
「なんじゃこれは?!」
床からやはり蔓が伸びて、右足、左足も動かなくなる。
「この…」
外そうと藻掻く。そして気付いた。仄かに緑の光を体に纏わせたダンが、こちらを睨んでいることに。
「…!」
何故か分かった。この蔓は、この緑の髪の男がやっているのだと。
足元の床が盛り上がり、ザワザワと音を立てながら細い木が生えてくる。
「な、何を…!」
木は驚くべき早さで成長し、あっという間にお婆さんの姿を隠し始める。
「や、やめ…」
口の中に木の枝が侵入し、葉が生える。声を出せなくなった。
そのまま木々はザワザワと成長し続け、細い幹が幾重にも絡まった立派な木が部屋の中に聳え立った。
異様な光景だった。
ダンの体から光が消える。
ふらつく頭を押さえつつ、一番近くにいるシアの元へ這いながら近寄る。
全身に経度の火傷が見られ、内部にも多少のダメージが見られた。ただ命に別状はなさそうだった。
ほっとしつつ、治療を始める。
そして、先程の不思議な感覚を思い出す。
ダンに打たれた即効性の睡眠薬。ある程度毒などに耐性を持つ体ではあるが、それも全てではない。先程も意識を失いかけた。
だがしかし、今の自分達の置かれた状況を考えると眠ってなどいられない。ダンは落ちそうになる意識を懸命に繋ぎ止めていた。すると、腰に下げていた宝玉の入った袋から、温かいものが流れてくるのを感じた。
不思議な力を感じたダンは、それに縋り付く。力を手にし、体内に入った睡眠薬を中和していく。全てを中和することは出来なかったが、意識を保てるくらいにはなった。そして、再びやって来たお婆さんに、ダンは初めて怒りのままに力を使った。
気付いて見れば、お婆さんは木の中に閉じ込められていた。しかし、ダンにしては珍しく、助けようという気は起きない。まずは皆の治療が先と、まだまともに動かない体を動かし始めたのだ。
シアの治療が終わると、次はサーガ。サーガもシアと似たような状態だった。これも治す。メリンダの容態を見るが、メリンダは薬で眠っているだけだった。
ほっとして力が抜ける。そのままダンは、床に倒れて気を失った。
「おい! おい!」
肩を揺さぶられ、ダンが目を開けた。
「生きてるか?!」
サーガの顔が見えた。
「ダン! 大丈夫ですの?!」
シアの顔も覗き込んできた。
まだ頭はふらついたものの、ダンはなんとか頷いた。
2人の顔がほっとしたように緩んだ。
シアがダンの側に寄り添い、サーガはメリンダの元へ移動する。
「姐さん、姐さん」
メリンダの肩を掴み揺さぶるも、メリンダは眼を覚ます気配はない。
「無理…。薬…」
ダンは重い体を起こす。シアは心配そうにその体に手を添える。
「ち、薬か」
薬で眠らされているならば、それが抜けるまでは起きることは難しいだろう。
一先ず外傷はなさそうなのでそのまま眠らせておくかと、サーガは視線を移す。
その視線の先にある、不自然な木。先程までなかった、家の中で立派に育った木。その中心にある、まだ生きている人の気配。
「あれ、お前?」
サーガが指さした物をダンが見て、頷いた。
「まあ、なんですの?」
気配を感じることはあまり得意ではないシアは首を傾げている。サーガは大体の予想はついたが、それ以上何も言わないことにした。
「とにかくここを出るぞ」
サーガがメリンダを抱き上げようとすると、ダンが待てと言う風に手を上げた。
「なん?」
ダンが重い体を引き摺るように荷物の所へ行く。そしてなにやらゴソゴソしていた。中から小さなビンと小さじ、メリンダのコップを用意。
「水」
「分かりましたわ」
シアに水をコップに入れてくれと頼むと、メリンダの元へと移動。ビンの蓋を開け、小さじで中の物をちょびっとだけ掬う。
「・・・・・・」
匂いに敏感なサーガは、その異様な匂いに顔を顰める。ダンはそれをメリンダの口の中に突っ込んだ。
ダンが作った?物なのだから、害はないのだろうけれども、なんだか心配になってメリンダの様子を眺めるサーガ。
ダンはビンの蓋をきっちり閉め、コップを手に持ちスタンバイ。
と、メリンダがかっと目を見開いた。
「っぐぅっ!!!!」
起き上がると同時に口元に手を当てる。そこにすかさずダンがコップを差し出す。メリンダはほぼ反射的にそのコップを手にし、中の水をゴクゴクと飲み干した。
「っ! もう一杯!」
メリンダの声に、シアが慌てて水を入れる。それもあっという間に飲み干すメリンダ。
「ぅぅぅぅ…」
ちょっと涙目になりながら口元を押さえているメリンダの目の前に、ダンが飴のような物を差し出した。メリンダはダンの顔を見る。ダンは頷いた。メリンダは飴を口の中に放り込んだ。
「・・・・・・!」
少しして、ようやっとメリンダの表情が落ち着いてくる。
サーガ、ちょっと背筋が寒くなった。メリンダの世話をしている時に蹴飛ばしてでも起こせと言った事を思い出す。まさかその時、これを使おうとしていたんじゃ…。
いや、何もなかったのだから考えまい。
「キーナちゃんは…?」
メリンダが隣にいたはずのキーナがいないことに気付いた。
「多分だけど、光の宮だ」
サーガが答えた。あの時、一瞬だが背後に立った気配。紛れもない光の者の気配だった。
ダンも頷いた。
「光の者、キーナ抱えて、出て行った」
ダンは薄れる意識の中、その気配を感じていた。
「光の宮…」
メリンダの顔が青ざめる。
「光の宮の方が、キーナさんを迎えに来たということですの?」
1人的外れな答えに行き着いているシア。
「急いで助けに行かないと!」
「分かってる。姐さん、立てるか?」
「え…と、大丈夫よ!」
「お前は?」
サーガがダンを見る。
ダンは少し視線を落とした。
「…動けない、程じゃない」
体は重いが動けないわけではない。
「まあいい。とりあえずここを出るぞ」
部屋の入り口付近に生える木を避け、そこにあった台車を何故かサーガが破壊した。
「なんで壊したの?」
「どうせもう使わねーだろ」
何故いちいち破壊する必要があるのかとメリンダは首を傾げるが、サーガはそれ以上何も言わなかった。
先程お婆さんが重く閉ざされていた扉を開けた時にでも空気が漏れたのだろう。サーガの鼻はこの家の地下から漂う嫌な臭いを嗅ぎ取っていた。
4人は外へと出た。
シアが木についてダンに質問したが、ダンは首を横に振るだけで何も言わなかった。
「光の宮から迎えが来たのでしたら、喜ばしいことではありませんの?」
シアが不思議そうに尋ねてくる。
「姐さん、俺テルディアス探してくっから、このガキに現実を教えてやっといて」
「分かったわ」
サーガが茂みを掻き分けて、森の中へと入っていく。ダンはだるそうに地面に座っている。
メリンダは知っている限りのことをシアに説明した。
「確かに、優秀な血を残すことは上に立つ者の義務ですわ」
どうも考え方の齟齬がある。
「でもキーナちゃんは王族でも貴族でもないわ」
「光の御子なのでしょう? より良い子を成すのは当たり前の事ではないですの?」
シアもそうあれと教えられて来た。なので何がいかんのか理解が出来ない。
「あんたも、テルディアス以外の人と子を作れって言われたら嫌でしょう?」
「王族の義務ならば仕方ありませんわ」
メリンダ、頭を抱えた。これはもうサーガに説明させた方がいい気がする。
「見付けたぜ~」
森の中からサーガが飛んで来た。その後ろからテルディアスも飛んで来た。
「!」
「テルディアス様!!」
サーガが軽やかに地面に降り立つのとは反対に、どさりと地面落ちたように見えた。どうやらサーガに運んで貰っていたようだ。その姿はまさに満身創痍。
「テルディアス様!!」
シアが駆け寄るが、テルディアスは逃げようとする素振りすら見せない。それほど怪我が酷いのかも知れない。
ダンも近寄って来て、テルディアスの治療を始めた。この中で一番酷い怪我をしていた。
「アホが。油断しやがって」
サーガの言葉に、ギロリと睨み返すテルディアス。
「時…、を、操…られた…」
口の中を切っているのか、まだ顔の怪我が酷くて喋るのが辛いのか、テルディアスの口調が辿々しい。
「俺の、時を、遅く…された…」
テルディアスが悔しそうに歯噛みする。
サーガが目を見開き、その後何か考えるような顔になった。
「俺の時を遅くって、どういうことなの?」
テルディアスの実力を良く知っているメリンダが尋ねる。
「対象の、時の流れを、操る事が、出来るらしい。自分の時の流れを早くして、目にも見えない早さで動くとか、触れた者の時を遅くするとか。俺も遅くされて、まともに攻撃をくらった」
ダンの治療が効いてきたのか、テルディアスの言葉が流暢になっていく。
「でなければあんな攻撃…」
動かない体に何発も何発も、本当に単純な殴る蹴るの攻撃をくらった。普通に動けたなら絶対に食らうはずは無かった。
テルディアスの治療が終わると、ダンの体がぐらついた。
「ダン?!」
シアがその体を支える。
「ダン? どうした?」
テルディアスも気付いて、ダンに声を掛ける。
「多分、使い過ぎ…。休む、大丈夫…」
そう言って、ダンが体を横たえた。
「力の使い過ぎか…」
テルディアスの顔が険しくなる。
「なんだ? 何かあるのか?」
サーガが問いかける。
「あの光の者が言っていた。キーナには眠って貰ったまま子を作ると。何かの儀式をした後とは言っていたが、時間が無い」
「キーナちゃん…」
メリンダの周辺の景色が揺らいだ。サーガが身の危険を感じて少し距離を取る。
「そいつは不味いな…。光の宮は…、ここから然程遠くなかったと思ったけど」
港町の時と比べれば近い。サーガが急げば今日中には宮の近くまで行けるかもしれない。
「俺が風の結界を張れば、少しは早く飛べるか?」
「?! 飛べないことはないが、お前が出来るのか?」
「ふん。やるしかないだろう」
「よし。姐さん、なるべく近くに寄って」
「え? ええ」
「その熱量抑えてからね」
「え?! ええ…」
メリンダが知らず知らず上げていた自分の周りの温度を下げる。これで周りの者が火傷する心配もなくなる。
結界の維持もそれなりに気を使う。なのでできるだけ小さく張った方が負担は軽くなる。
ダンは寝ていていいという許可を貰い、所要時間を確認すると、あの丸薬を取り出して服用した。そしてそのまま眠りに就く。
テルディアスが風の結界を張ると、サーガがそれを風の力で持ち上げ飛ばす。
「凄いですわね…」
初めての移動手段に、シアが目を丸くしていた。
「! お前?!」
ダンが椅子に手を掛けて、体を起こしていた。ダンに打った吹き矢には、丸一日は眠ってしまう睡眠薬が塗られていたはず。
お婆さんが懐に手を突っ込む。そして吹き矢を構えようとするが、
バシッ
何かに手を叩かれ、落としてしまった。
「な…?」
上を見ると、何故か天井から蔓がぶら下がっている。それがするりと動いてお婆さんの右手に絡みつく。
「なんじゃ?!」
外そうと左手で引っ張っていたら、その左手にも蔓が巻き付いてきた。
「なんじゃこれは?!」
床からやはり蔓が伸びて、右足、左足も動かなくなる。
「この…」
外そうと藻掻く。そして気付いた。仄かに緑の光を体に纏わせたダンが、こちらを睨んでいることに。
「…!」
何故か分かった。この蔓は、この緑の髪の男がやっているのだと。
足元の床が盛り上がり、ザワザワと音を立てながら細い木が生えてくる。
「な、何を…!」
木は驚くべき早さで成長し、あっという間にお婆さんの姿を隠し始める。
「や、やめ…」
口の中に木の枝が侵入し、葉が生える。声を出せなくなった。
そのまま木々はザワザワと成長し続け、細い幹が幾重にも絡まった立派な木が部屋の中に聳え立った。
異様な光景だった。
ダンの体から光が消える。
ふらつく頭を押さえつつ、一番近くにいるシアの元へ這いながら近寄る。
全身に経度の火傷が見られ、内部にも多少のダメージが見られた。ただ命に別状はなさそうだった。
ほっとしつつ、治療を始める。
そして、先程の不思議な感覚を思い出す。
ダンに打たれた即効性の睡眠薬。ある程度毒などに耐性を持つ体ではあるが、それも全てではない。先程も意識を失いかけた。
だがしかし、今の自分達の置かれた状況を考えると眠ってなどいられない。ダンは落ちそうになる意識を懸命に繋ぎ止めていた。すると、腰に下げていた宝玉の入った袋から、温かいものが流れてくるのを感じた。
不思議な力を感じたダンは、それに縋り付く。力を手にし、体内に入った睡眠薬を中和していく。全てを中和することは出来なかったが、意識を保てるくらいにはなった。そして、再びやって来たお婆さんに、ダンは初めて怒りのままに力を使った。
気付いて見れば、お婆さんは木の中に閉じ込められていた。しかし、ダンにしては珍しく、助けようという気は起きない。まずは皆の治療が先と、まだまともに動かない体を動かし始めたのだ。
シアの治療が終わると、次はサーガ。サーガもシアと似たような状態だった。これも治す。メリンダの容態を見るが、メリンダは薬で眠っているだけだった。
ほっとして力が抜ける。そのままダンは、床に倒れて気を失った。
「おい! おい!」
肩を揺さぶられ、ダンが目を開けた。
「生きてるか?!」
サーガの顔が見えた。
「ダン! 大丈夫ですの?!」
シアの顔も覗き込んできた。
まだ頭はふらついたものの、ダンはなんとか頷いた。
2人の顔がほっとしたように緩んだ。
シアがダンの側に寄り添い、サーガはメリンダの元へ移動する。
「姐さん、姐さん」
メリンダの肩を掴み揺さぶるも、メリンダは眼を覚ます気配はない。
「無理…。薬…」
ダンは重い体を起こす。シアは心配そうにその体に手を添える。
「ち、薬か」
薬で眠らされているならば、それが抜けるまでは起きることは難しいだろう。
一先ず外傷はなさそうなのでそのまま眠らせておくかと、サーガは視線を移す。
その視線の先にある、不自然な木。先程までなかった、家の中で立派に育った木。その中心にある、まだ生きている人の気配。
「あれ、お前?」
サーガが指さした物をダンが見て、頷いた。
「まあ、なんですの?」
気配を感じることはあまり得意ではないシアは首を傾げている。サーガは大体の予想はついたが、それ以上何も言わないことにした。
「とにかくここを出るぞ」
サーガがメリンダを抱き上げようとすると、ダンが待てと言う風に手を上げた。
「なん?」
ダンが重い体を引き摺るように荷物の所へ行く。そしてなにやらゴソゴソしていた。中から小さなビンと小さじ、メリンダのコップを用意。
「水」
「分かりましたわ」
シアに水をコップに入れてくれと頼むと、メリンダの元へと移動。ビンの蓋を開け、小さじで中の物をちょびっとだけ掬う。
「・・・・・・」
匂いに敏感なサーガは、その異様な匂いに顔を顰める。ダンはそれをメリンダの口の中に突っ込んだ。
ダンが作った?物なのだから、害はないのだろうけれども、なんだか心配になってメリンダの様子を眺めるサーガ。
ダンはビンの蓋をきっちり閉め、コップを手に持ちスタンバイ。
と、メリンダがかっと目を見開いた。
「っぐぅっ!!!!」
起き上がると同時に口元に手を当てる。そこにすかさずダンがコップを差し出す。メリンダはほぼ反射的にそのコップを手にし、中の水をゴクゴクと飲み干した。
「っ! もう一杯!」
メリンダの声に、シアが慌てて水を入れる。それもあっという間に飲み干すメリンダ。
「ぅぅぅぅ…」
ちょっと涙目になりながら口元を押さえているメリンダの目の前に、ダンが飴のような物を差し出した。メリンダはダンの顔を見る。ダンは頷いた。メリンダは飴を口の中に放り込んだ。
「・・・・・・!」
少しして、ようやっとメリンダの表情が落ち着いてくる。
サーガ、ちょっと背筋が寒くなった。メリンダの世話をしている時に蹴飛ばしてでも起こせと言った事を思い出す。まさかその時、これを使おうとしていたんじゃ…。
いや、何もなかったのだから考えまい。
「キーナちゃんは…?」
メリンダが隣にいたはずのキーナがいないことに気付いた。
「多分だけど、光の宮だ」
サーガが答えた。あの時、一瞬だが背後に立った気配。紛れもない光の者の気配だった。
ダンも頷いた。
「光の者、キーナ抱えて、出て行った」
ダンは薄れる意識の中、その気配を感じていた。
「光の宮…」
メリンダの顔が青ざめる。
「光の宮の方が、キーナさんを迎えに来たということですの?」
1人的外れな答えに行き着いているシア。
「急いで助けに行かないと!」
「分かってる。姐さん、立てるか?」
「え…と、大丈夫よ!」
「お前は?」
サーガがダンを見る。
ダンは少し視線を落とした。
「…動けない、程じゃない」
体は重いが動けないわけではない。
「まあいい。とりあえずここを出るぞ」
部屋の入り口付近に生える木を避け、そこにあった台車を何故かサーガが破壊した。
「なんで壊したの?」
「どうせもう使わねーだろ」
何故いちいち破壊する必要があるのかとメリンダは首を傾げるが、サーガはそれ以上何も言わなかった。
先程お婆さんが重く閉ざされていた扉を開けた時にでも空気が漏れたのだろう。サーガの鼻はこの家の地下から漂う嫌な臭いを嗅ぎ取っていた。
4人は外へと出た。
シアが木についてダンに質問したが、ダンは首を横に振るだけで何も言わなかった。
「光の宮から迎えが来たのでしたら、喜ばしいことではありませんの?」
シアが不思議そうに尋ねてくる。
「姐さん、俺テルディアス探してくっから、このガキに現実を教えてやっといて」
「分かったわ」
サーガが茂みを掻き分けて、森の中へと入っていく。ダンはだるそうに地面に座っている。
メリンダは知っている限りのことをシアに説明した。
「確かに、優秀な血を残すことは上に立つ者の義務ですわ」
どうも考え方の齟齬がある。
「でもキーナちゃんは王族でも貴族でもないわ」
「光の御子なのでしょう? より良い子を成すのは当たり前の事ではないですの?」
シアもそうあれと教えられて来た。なので何がいかんのか理解が出来ない。
「あんたも、テルディアス以外の人と子を作れって言われたら嫌でしょう?」
「王族の義務ならば仕方ありませんわ」
メリンダ、頭を抱えた。これはもうサーガに説明させた方がいい気がする。
「見付けたぜ~」
森の中からサーガが飛んで来た。その後ろからテルディアスも飛んで来た。
「!」
「テルディアス様!!」
サーガが軽やかに地面に降り立つのとは反対に、どさりと地面落ちたように見えた。どうやらサーガに運んで貰っていたようだ。その姿はまさに満身創痍。
「テルディアス様!!」
シアが駆け寄るが、テルディアスは逃げようとする素振りすら見せない。それほど怪我が酷いのかも知れない。
ダンも近寄って来て、テルディアスの治療を始めた。この中で一番酷い怪我をしていた。
「アホが。油断しやがって」
サーガの言葉に、ギロリと睨み返すテルディアス。
「時…、を、操…られた…」
口の中を切っているのか、まだ顔の怪我が酷くて喋るのが辛いのか、テルディアスの口調が辿々しい。
「俺の、時を、遅く…された…」
テルディアスが悔しそうに歯噛みする。
サーガが目を見開き、その後何か考えるような顔になった。
「俺の時を遅くって、どういうことなの?」
テルディアスの実力を良く知っているメリンダが尋ねる。
「対象の、時の流れを、操る事が、出来るらしい。自分の時の流れを早くして、目にも見えない早さで動くとか、触れた者の時を遅くするとか。俺も遅くされて、まともに攻撃をくらった」
ダンの治療が効いてきたのか、テルディアスの言葉が流暢になっていく。
「でなければあんな攻撃…」
動かない体に何発も何発も、本当に単純な殴る蹴るの攻撃をくらった。普通に動けたなら絶対に食らうはずは無かった。
テルディアスの治療が終わると、ダンの体がぐらついた。
「ダン?!」
シアがその体を支える。
「ダン? どうした?」
テルディアスも気付いて、ダンに声を掛ける。
「多分、使い過ぎ…。休む、大丈夫…」
そう言って、ダンが体を横たえた。
「力の使い過ぎか…」
テルディアスの顔が険しくなる。
「なんだ? 何かあるのか?」
サーガが問いかける。
「あの光の者が言っていた。キーナには眠って貰ったまま子を作ると。何かの儀式をした後とは言っていたが、時間が無い」
「キーナちゃん…」
メリンダの周辺の景色が揺らいだ。サーガが身の危険を感じて少し距離を取る。
「そいつは不味いな…。光の宮は…、ここから然程遠くなかったと思ったけど」
港町の時と比べれば近い。サーガが急げば今日中には宮の近くまで行けるかもしれない。
「俺が風の結界を張れば、少しは早く飛べるか?」
「?! 飛べないことはないが、お前が出来るのか?」
「ふん。やるしかないだろう」
「よし。姐さん、なるべく近くに寄って」
「え? ええ」
「その熱量抑えてからね」
「え?! ええ…」
メリンダが知らず知らず上げていた自分の周りの温度を下げる。これで周りの者が火傷する心配もなくなる。
結界の維持もそれなりに気を使う。なのでできるだけ小さく張った方が負担は軽くなる。
ダンは寝ていていいという許可を貰い、所要時間を確認すると、あの丸薬を取り出して服用した。そしてそのまま眠りに就く。
テルディアスが風の結界を張ると、サーガがそれを風の力で持ち上げ飛ばす。
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だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
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