キーナの魔法

小笠原慎二

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闇の宮編

光は時を、闇は空間を司る

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「どういうことだ?」

テルディアスがその静寂を打ち破る。
キーナも事の次第を多少理解したのか、目をパチクリさせた。

「本来ならば、50年前に御子様方が現われていらっしゃったはずなのですが、その記録がありません。そして、次に現われるのは、男性だったはずなのですが…」

皆がキーナを見た。

「え…?」

キーナがたじろぐ。

「男…?」

テルディアスも疑問の声を出す。

「キーナちゃんは…」

メリンダもどう言ったらいいのかと先が続かない。

「やっぱり男だったのか…」

サーガの呟きに、メリンダがチョップを食らわす。

「何言ってんのよこのバカ!!」

バカです。
そのやりとりに多少顔を引き攣らせつつ、リーステインが先を続ける。

「実は、私共も驚いております。ルイスから話しを聞いた時も半信半疑でした。それに、その…、闇の御子様らしき女性が現われていたこともあり…」
「!」

テルディアスが固まる。

「闇の御子…、女性…」

キーナの頭にもあの女性の姿が浮かび上がった。
黒髪の黒い瞳。そして、黒いドレスを纏ったあの女性…。

「はい。テルディアス様はお会いしたことがありますわよね? というか、あの御方の力の片鱗を感じますし」
「…、あの、女が…御子?」
「あの人が、御子? 僕の探してる人…?」

テルディアスとキーナの顔が曇る。

「ああ、いいえ。その…、私共も確かなことは分かりかねますが…、その、光と闇の対となる者は必ず男と女になるはずなので…、ええと…」
「どちらかが偽物かもしれない、と?」

サーガの言葉に、全員が固まる。
少し沈黙があった。

「私共には、分かりかねます…」

ようやっとという感じで、リーステインが声を出した。

「なるほど、だから俺が間違われたわけか…」

テルディアスが納得したという感じで溜息を吐く。
光の者に最初に捕まった時、何故かテルディアスが御子として扱われた。
あれは、御子は男であるという思い込みから来たのだろう。

「御子さんの力が発現したすぐ側に男がいりゃ、間違われるわな。俺もキーナちゃんが御子だって確信を持ったのは、力を解放した時だったしな」

ルイスがキーナを見てにこりと笑う。
何故かテルディアスはそれをじろりと睨む。

「そういや、キーナちゃんはどうして光の力を使わないんだ?」
「むにゅ?」
「普通御子なら、どんな奴も相手にならない力を持ってるんだが…」

光の力を使えば、シゲールに捕まっても簡単に抜け出させたはずだ。

「その…、どうやって使うのか、よく分からなくて…」
「は?」

ルイスとリーステインの目が点になる。

「あたしたちも教えてあげられないしね?」
「俺達が使うのは四大精霊だからなぁ」

メリンダとサーガが頷き合う。

「どうって、発現すれば、その、なんとなく分からないか?」
「ルイスさん達はどうやって使ってるの?」

ルイスとリーステインが顔を見合わす。

「どうってその…、四大精霊を扱う時とあまり変わらないと思うが…」
「確かに、四大精霊よりは気配は掴みにくいかもしれませんが…」

ルイスとリーステインも首を傾げる。

「ええと、光は時、闇は空間を司る、と言うことはご存じで…?」
「にゅ?」

ハテナマークを飛ばすキーナを見て、リーステインの口元が引き攣る。

「ああ、それそれ、どういうことなんだ?」

サーガが突っ込んで来た。

「空間を司るって、空間移動するってやつだろ? 闇の奴が使ったりするやつ」
「はい。闇は空間を司る、つまり空間を操る力を持ちます。ただし、下位になるほど、その力の行使は制限が伴います。上位の者になると、容易に空間を移動し、はては空間の間に自分の空間を形成することも可能です」
「空間の形成…?」

サーガが首を傾げる。

「簡単に言ってしまえば、自分だけの、他の人が絶対に立ち入ることの出来ない不可侵領域を作れてしまうということですね」
「うわ…えげつねぇ…」

そんな場所を作れる奴が、もし殺人鬼的な奴だとしたら…。サーガが冷や汗を流す。

「まあ、実際、出来てしまうのですけれど、今の所闇の者の中で一番、あの方を覗いて一番力があるのは私ですので、もし発見できれば、私なればその空間を壊すことも出来ます」
「え、そんなことできんだ」
「はい。上位の者に、下位の者は絶対に敵いません」
「へ~」

サーガとリーステインの会話に、メリンダとテルディアスも心の中で驚いていた。
そんな常識があったとは。
いや、だがしかし、あの方、というのが一番なわけで…。
テルディアスの顔が曇る。

「光は、私も全容は知れませんが、時を操る力を持つと聞いております。上位の者となると、数秒だか数分だか、未来や過去へ行くことも出来るとか」
「「「「!!」」」」

時間移動…。

テルディアス達の背中が寒くなる。
テルディアスは思い出す。最初に光の者達に捕まったあの時。
何故か突然目の前に現われた光の者達。あれは、まさに時間を移動してきたのでは…。

テルディアスがふとキーナを見ると、いつもバカ明るいキーナの顔が、心なしか暗くなっていた。

「そんなことしたら、歴史を操り放題なんじゃ…」

サーガが真剣な目で問いかける。

「詳しいことは分かりませんが、時間を大幅に移動するとかなり力を消耗するらしいですよ。時には命を落とすとか。それと、今は光の宮中心に世界は動いています。何か操りたいことなどあるのですかね?」

リーステインの逆問いかけに、そういえばそうかとサーガの顔が緩んだ。
自分中心に世界が回っているのならば、改めて何かをしようとも思わないだろう。

「光の力はさすがに私も管轄外なので、御子様にお教えできることはありませんわ。それに、もしかしたら何か特別な事情やら制約やらがあるのかもしれません」
「御子だしな」

リーステインの言葉に、ルイスも頷いた。
御子とは、ある種人を超えた力を操る者達だ。普通の者とは違う何かがあってもおかしくない。

「それに、今回はいろいろと特殊ですし」

100年現われなかった御子。そして男のはずが女として現われた。これが意味するところは…。
そんなこと誰にも分かるはずがない。なにせ当の本人がよく分かっていない。

「まあ、せっかく闇の宮へいらっしゃったのですから、ゆっくりしてらっしゃいませ。何もないところではありますが、一応温泉がございますので…」
「「温泉!!」」

女性2人の目が輝いた。もちろんだが、キーナとメリンダだ。断って置くが、キーナは女の子だ。そして日本人だから、余計に風呂は大好きだ。

「おお、そうそう、歓迎するぜ。後で案内してやるよ」

ブンブンと首を縦に素早く振る2人。目が怖いほどに光っている。

「補給したい物、ある」
「ああ、それも用意させて貰うぜ。この後俺が街を案内してやるよ。まあ、本当に何もないところだけどな」

そして、ダンが欲しいものリストを作り、それをリーステインが受け取って、まだ仕事があるからと部屋を出て行った。
キーナ達はルイスについてゾロゾロと街、もとい宮の中を観光へと出かけたのであった。
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