キーナの魔法

小笠原慎二

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受難

テルディアス達の受難

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森の中を進んで行き、ちょっと休憩しようという話になった。
少し開けたその場所で、各々が休憩を取り始めた。
元気なキーナは休憩だというのにちょろちょろと動き回っている。

そして、キーナはふと思った。
今なら、アレが作れるかもしれないと…。
○ティーハ○ターのファンでもあったキーナは、試しにあちこち作ってみた。
となれば・・・
出来映えを試さないわけにはいかないではないか!
ということで、

「テルー! メリンダさーん! サーガー!」

3人を呼んだ。












「なんだ?」
「何かあったのかしら?」

サーガとメリンダが立ち上がる。
テルディアスも横になっていた体を起こした。

「早く早くー! こっち来てー!」

森の中からキーナが呼んでいる。
何かあったのかと、3人はキーナの声がした方へと向かった。
この時、テルディアスはなんだか妙な危機感を覚え、珍しく一番前ではなく、一番後ろから歩いて行った。
キーナ関連ではいつも先陣を切るテルディアスに違和感を覚えることもなく、サーガを先頭にして一行は森の中へと入っていく。

「キーナァ!」
「こっちこっちー!」

サーガの呼びかけに答えるその声は、特に切羽詰まったものでもなく、3人は周りに気を配りながら木々を避けて歩く。

ズボッ!

「な、何?!」

突然後ろから聞こえた音に反応してメリンダが振り向いた。
そこにはいるはずのテルディアスの姿がなくなっていた。
視線を下にすると、そこには黒く広がる穴。落とし穴にはまったらしい。

「テルディアス――――!!」

メリンダが穴を覗き込みながらその名を叫んだ。












暗い穴の中をどこまでも滑っていくテルディアス。
しかし出口は意外と近かった。
すぐに明るくなってきたかと思うと、宙に投げ飛ばされる。

「お、来た」

のんきな声が聞こえてきた。

ボフン

枯れ草でも敷いてあるのか、思ったよりも着地地点は柔らかかった。
てててと足音が聞こえ、キーナが覗き込んでくる。

「あれ?」

テルディアスの顔を見て何故か慌て出す。

「メリンダさんじゃない?!」

それはどういう意味だとテルディアス腹を立てる。
いや、落とし穴に落とすこと自体があれ・・なのだけれども。

「やば、作戦を変えなきゃ!」

慌てて走り出そうとしたキーナを足を、テルディアスが掴んだ。

「キーナ…。説明しろ…」

テルディアスのその怒りの表情を見て、顔を引き攣らせるキーナ。

「あ、あのね、これには、その、深いわけでもないわけがありまして…」

迫るテルディアスにキーナがタジタジと言い訳をしていた時、

「キャ―――――――!!」

森の中から悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴に反応する2人。特にキーナは心配そうに、風を操り様子を探っている。
何か分かったのか、胸を撫で下ろすキーナ。

「あ~、良かった。メリンダさん比較的安全な罠にかかってくれた」

とほっと溜息。ついてる場合か。

ワナ・・?」

テルディアスの目が吊り上がる。元々目つきは鋭い方ではあるが。

「お前、あれほど言ったのに反省してなかったのか…?」
「いや…、その…、あの…」

ご存じの通り、テルディアス、以前キーナにでかい落とし穴に落とされている。
その後もちまちま小さな罠などを作っていたりして、その度にテルディアスが説教食らわせているというのに、まだ懲りないらしい。

「と、とりあえず、その、サーガが危ないから、罠外してきて良い?」
「サーガ?」

サーガが危ない?それはどういうことであろう。
キーナが心配そうに話し出す。

テル用のコース・・・・・・・に入っちゃったみたいなんだよね。テルには簡単だけど・・・・・・・・・サーガには難しい・・・・・・・・かなぁって…」

その言葉を聞いて、テルディアスの顔色が変わった。
ニブイキーナにはそれは分からなかった。

「だから外しに行ってくる!」

そう力強く言い張るキーナの肩を、テルディアスが掴んだ。

「まあまてキーナ。あいつもそれなりの実力を持ってるんだ。俺と比較したと知ったら、後であいつが悲しむ。このまま見届けてやれ」

と、とてもいい顔で言い切りました。
そんなテルディアスをきょとんと見つめていたキーナ。

「そうだよね」

とにっこり。
突然ころりと態度を変えたテルディアスを訝しむこともなく、このまま続行できるということしか頭になく、

「よし、じゃあこのまま実験台になってもらおう!」

と嬉しそうに持ち場についた。
その後ろで、テルディアスが悪い笑みを浮かべていた。














少し時は戻って。

「テルディアス――!!」

メリンダがテルディアスが落ちて行った穴に向かって必死に叫んでいた。

「何なのかしら? そうなってるの?」
「分からん」

メリンダの隣で穴を覗き込んでいたサーガ。
何故こんな所に落とし穴が仕掛けられていたのか訝しがる。しかもこの穴、結構奥まで続いている。
誰が?何のために?

「なんでこんな所に落とし穴が…」

その時、空気を切り裂いて何かが飛んでくる音。

「姐さん!」
「きゃ!」

メリンダを突き飛ばし、自分もその場から離れる。

ドカカッ!!

今までいた場所に、先端を尖らせた木の棒が飛んで来て突き立った。

「な、何コレ…、なんなの…」

メリンダが驚いてじりじりと後ろへ下がっていく。

「姐さん! あんまし動くな!」

メリンダの動きに気付いてサーガが声をかけるも…、

「え?」

とメリンダがサーガの言葉に反応した瞬間、メリンダの周りの草が持ち上がったかと思えば、網が見えて、それがメリンダを包みながら上へと持ち上がっていった。

「キャ―――――――!!」

あっという間に樹上へと持ち上げられたメリンダ。
サーガ、ほらやっぱりと頭を抱えた。
罠満載の地底宮で、これでもかと罠に吸い込まれるようにかかっていた、罠女王、とでも言えば良いか。
落とし穴の他にも罠があるかもしれないと思っていたらば案の定。早速かかってくれました。

「何コレ――! いや――! 助けて――!」

網の中でゆさゆさと暴れるメリンダ。しかしそんなことで罠が簡単に外れることなどなく。

「落ち着け姐さ~ん」

サーガが一声かける。とりあえず落ち着かせる為に。落ち着いた所でどうにもならないのは変わらないのだが。
サーガが風を繰り、周りの状況を探り始める。
木々の間を通る風が色んな事をサーガに伝えていく。
それを読み取ったサーガであるが、表情はあまり芳しくない。

(上手い具合に木立や地面に仕掛けが隠されてやがる…。全部見切るのは骨だな…)

風の性質を持つサーガは、地系の力に弱い。
あからさまにおかしい枝振りとか、盛り上がった地面ならいざ知らず、上手い具合に地に隠されると発見するのは難しい。

〈姐さん、落ち着いて聞け〉

遠くて聞こえないだろうと、サーガが風を繰って言葉をメリンダまで届ける。

〈俺はとりあえずキーナの様子を見てくるから。姐さんはそこで待っててくれ〉
「え~、いや~、あたしも行く~」

1人残される心細さに、メリンダが涙目になる。

〈この森一帯に巧妙に罠が仕掛けられてるみたいなんだ。一歩歩くごとに罠に引っかかるような姐さんが歩くと危ない〉
「う…」

何も言えなくなるメリンダ。

〈キーナの安全が確認できたら、助けに戻ってくるから〉
「早くね~~~!!」
〈ハイハイ〉

メリンダに背を向け、サーガが一応片手を振って返事を返す。
キーナもこの森の何処かで何かの罠にかかってしまっているのかもしれない。
テルディアスは自分でどうにかできるから心配ないだろう。
そんなことを考えながら、2、3歩踏み出したその時、

ピン

何か小さな音が聞こえたと思った瞬間、

「どおえええええ?!」

サーガの左足が吊り上げられ、逆さまの宙づりにされてしまう。
逆さまのまま揺れ動くサーガを見て、メリンダが頭を抱えた。

(いきなり…、心配だわ。いやでも、あたしがいない分いいのかしら?)

「ナンジャコリャー!」

叫びながら、サーガがつられた左足をなんとかしようと藻掻いていた。
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