キーナの魔法

小笠原慎二

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地底宮の冒険

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床に手を当て、キーナが座り込んで地の気を練っていた。

(分かるだけでも結構あるな。下手に行ったらどれだけ引っかかる事か…)

魔力が押さえられているせいか、全ての罠を把握することは出来なかったが、今居る場所から両方向に、えげつない量の罠が張り巡らされているのは感知できた。
この遺跡を作った者の性格が窺えそうだ。

「となると」

立ち上がり、天井を見上げる。
ツタなのか木の根なのかが、複数に絡まり張り巡らされている。

「あれを伝って行くのが無難か」

と言っても天井にジャンプして届くわけでもない。

「風《カウ》…」

右手に小さな風の刃をこしらえ、それを飛ばした。

スパ

風の刃は綺麗に根の一部を切り、切られた所が床に垂れ下がった。
助走をつけ、キーナが罠の手前で床を蹴る。
宙空で根を掴み、反動を利用して向こう側へ、通路が終わり、二手に分かれているT字路へと飛んだ。
華麗に着地。

「10点」

言わせておこう。
再び床に手を当てる。
地の気を再び張り巡らせ、罠を調べる。
どうやらその先に罠はないようであった。

(こっからは罠らしき罠はなし…)

一応警戒は怠らないようにする。

「よしっと、そんじゃ」

立ち上がり、右を見て左を見て、

「まずはこっちに行ってみよー!」

深く考えることはせず、なんとなく右を選んで歩き出した。
すると、

ズズゥン…

「にゃ?!」

大きな音がした。

「何かの罠?」

気付かないうちに罠に触れたかと見回すが、特に異変はない。
そう、確かに罠が発動した音ではあったのだが、そこからは離れた別の場所での罠の音だったのだった。
そしてサーガが走り出す…。












しばらく行くと道は行き止まりになっていた。

(行き止まり…、だけど何か、変)

よく分からない直感が、キーナにここは変だと語りかける。
チョロチョロと動き回って壁を調べ始める。
動きそうな石はない。出っ張りも引っ込んだ所もない。

コンコン

壁を叩き始めた。
端から順に、壁を叩いていく。

トントン

一部で音が変わる。

「!」

その場所をいじくっていると、壁が動き、鍵穴が覗いた。

ニヤリ

キーナ、泥棒七つ道具を取り出し、器用に開錠し始める。

カチャカチャ、ガチャリ

然程難しい鍵では無く、あっけなく鍵は開いた。

「・・・・・・」

さて、これは扉であるならどうやって開けるものなのであろうか。
試しに押してみた。
力一杯押してもびくともしない。
今度は引いてみた。
力一杯引いてもびくともしない。
ぜいこらぜいこら、一休み。

「? 扉じゃないの?」

何処かの罠でも解くだけの鍵穴だったのだろうか?
そこでふとキーナは思い出した。

(押してもダメ、引いてもダメ、スライドでしたってナゾナゾがあったっけ)

試しに横に引いてみた。

ズズズ・・・

動いた。
重いけど。

「・・・。良い性格してるよ…」

ここで引き戸を持って来るとは…。
気落ちしている暇はない。
扉の先を覗くと、そこは整備されていない、まさに洞窟と呼べるような通路だった。
少しであるが、風が通った。
洞窟の中の凝った空気が、少し浄化されたような気配がした。

「外に繋がってるのか…。非常口?」

非常口か裏口か、はたまた正当な出入り口なのか。

「ま、今はまだいいや」

そう言って、キーナはその扉を丁寧に閉めた。
風が通らなくなった。

「まだ肝心のお宝を見つけてないもんね」

とニヤリと笑い、キラリと瞳を輝かせると、

「んだば、今度はあっちに行ってみよー!」

と今来た道を戻り始めた。














「ん?」

サーガがそれに気付いた。

「風が通った…。誰か出口を見つけたか?」

小さな空気の動き。
凝った空気が揺らめく。

「出口?!」

メリンダの顔が輝いた。
この空間から出られるかもしれないと、顔を輝かせる。

「あ…、すぐに閉めやがった」
「え~~~」

メリンダ涙。
とにかく罠のない所へ早く逃れたかった。
そして二人は同じ事を思った。

(キーナ(ちゃん)だろうな…)

出口を見つけて、あのキーナが素直にそこから出ていったとは考えにくい。
多分丁寧にそこを閉じ、また遺跡の探索を始めたのだろう…。
もうちょっと大人しくしてくれればなぁと、二人は溜息をついたのだった。













「ふむ…」

反対の道をずんずん行くと、また行き止まりになっていた。

「こっちはモノホンの行き止まりか…」

何かを隠してあるような気配もなかった。

「んだば、最初の所まで戻ってみっぺー」

とまた道を戻り始める。
最初の、キーナが出て来た穴の場所まで戻り、反対側へと向かうのだ。
その時、

ズン

「ん?」

地面が揺れた。

ドゴオ!

「うわきゃあ!!」

突然目の前の床が割れた。
大きな拳のような物が見えたが、すぐに引っ込んで見えなくなった。
咄嗟に壁際まで避難していたキーナ。
その辺りの反射神経はさすがというか。

「にゃ、にゃんら?!」

恐る恐る穴を覗き込もうとした時、穴から何かが飛び出して来た。

スタ

綺麗に床に着地する。

「テル!」

テルディアスだった。

「キーナ?!」

テルディアスも驚いてキーナに駆け寄る。

「無事か?!」
「うん! テルも無事…」
「よし、逃げるぞ」
「へ?」

問答無用でキーナを担ぎ上げる。
途端に、

ドゴオ!

床の穴から、何かの頭が突き出てきた。
テルディアスが走り始める。

「土人形だ。ここの守護者らしい」
「ほえ~」
(ゴーレムかぁ)

穴からゆっくり出てくる土人形を見ながら、キーナ感嘆の溜息。
高さ5メートルはあろうかとも思える巨大な土で出来た人形が動いている。
凄い光景だ。

「って、ああ! テル! こっちだめ! 行き止まり!」
「何?!」

テルディアス急ブレーキ。

「ゴーレムの向こうに行かなきゃダメなの!」

と土人形の方を指さす。

(ゴーレム?)

多分土人形のことだろうと、テルディアス勝手に解釈する。
時折キーナは、よく分からない単語を発するのである。
まあ大体はなんとなく分かるものなのだけれど、いちいち気にしてられないので放っていた。

「奴の向こう側か…」

土人形は既に穴から這い出て、臨戦態勢に入っている。

「しっかり掴まってろ!」
「はいな!」

キーナがテルディアスの首にしがみついた。
テルディアスが床を蹴る。
そこに向かって土人形が手を伸ばしてきた。
テルディアスが魔力を練りながら、その手を躱し、腕に飛び乗り、肩まで駆け上がる。
肩まで上がった所で、土人形の頭に手をやった。

「地爆《ウルテガ》」

土人形の頭が吹っ飛んだ。
素早くその肩から飛び降り、さらに走り出す。

「やった…」

キーナが動かなくなった土人形を見つめた。

「奴は土人形だ。切ろうが砕こうがすぐに再生する」

テルディアスの言葉通り、頭があった部分がモコモコと盛り上がって来ていた。

「だが、動きはは鈍《のろ》い。今のうちに引き離す!」

テルディアスが更に足に力を込めた。













通路を走っていく。

「テル! あそこ右!」

キーナが見えてきた通路を指さす。

「右だな」
「と、それと…」

キーナが言葉を続ける前に、テルディアスがその通路に飛び込んでいく。

「罠が…」

天井から矢が降ってきた。
気の杭が通路を通せんぼする。
横から岩が飛び出して来て、壁に押しつぶそうとする。

「あるから…」

天井から岩が降ってきた。
床から鋭い刃が突き出してくる。
壁から槍が飛び出して来た。

キーナはそれを全てテルディアスの背後に見ていた。

「…なんだ?」

テルディアスは前しか見ていなかった。

「…何デモナイ」
(罠の発動よりテルの移動速度の方が速い…)

この罠の数々を仕掛けた人が見たら、どんな顔をするのだろうか…。













罠地帯を抜けた後は特に罠もなく、キーナとテルディアスは通路を一直線。
右に左に曲がってはいたが、分かれ道はなかった。

「!」

左手に、なんとも怪しげな扉が見えてきた。

「あれは…」

ほどなくその扉の前に着く。
いかにも怪しい。

「いかにも~な扉だねい」

(輝いとる…)

キーナの顔は面白いものを見つけたとばかりに輝いている。
チョロチョロと扉の周りを調べ始めるキーナ。
その様子を眺めるテルディアス。
何故かこういう時は、キーナは驚くほど勘が良い。
なので任せる。
少しすると、キーナの動きが止まった。

「・・・・・・」
「どうした? キーナ」

何の反応もしなくなったキーナに声を掛ける。

「カ…」
「か?」
「鍵穴が…ない」
「カギアナがない?」
「普通は扉に鍵を掛けるでしょ? 外付けのものないし、扉そのものにも鍵穴はないし。カラクリかと思ったけど、そんな仕掛けもないし…。考えられる最悪の場合として、どこかの罠を作動させないと扉が開かないとか…」

RPGで時折見かける手法ですね。
わざとその罠にはまらないと、肝心の扉の鍵が開かないという面倒くさいやつ。
テルディアスが顔をしかめた。
ここまできて、またあちこち探し回らなければならないのか?

「壊すか」

扉に手を当てた。
キーナ慌てて止める。

「中がどうなってるか分からないからちょっと。それに正攻法で開けないとお宝がなくなることも…」

ずるをして手に入れようとすると、肝心のお宝が破壊されてしまう。
よくある手ですね。
そこへ、

「キーナ?! 無事だったか!」

サーガの声が響いた。
見ると、通路の奥の横道から、サーガが出て来た。
後ろにはメリンダもいる。

「サーガ! メリンダさん!」
「キーナちゃん!」

メリンダの顔も喜びに輝く。

「キーナちゃ…」
「姐さん」

キーナに駆け寄ろうとしたメリンダを、サーガが止めた。

俺の後ろ・・・・を歩け!」
「はい…」

メリンダがしおらしくサーガの後ろに従った。

「「?」」

メリンダのその姿に、首を傾げるキーナとテルディアスであった。
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