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テルディアスの故郷編
走り抜けた風
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カン! カン! カン!
「楽しそうだこと」
修練場に設置された椅子に座りながら、メリンダは溜息を吐いた。
その視線の先には、楽しそうに模擬刀を振るっているサーガの姿。
サーガの相手をしている剣士は、サーガの早さに付いていくのもやっとの状態で、おたおたとしている。
そんな暇そうなメリンダの側にティアが寄ってきて、
「お暇ですか?」
声を掛けた。
「あら? まあ、ほほほ…」
ええ暇です。とも答えられずに、苦笑いで返すメリンダ。
「よろしかったら、あちらで一緒にお茶しませんか?」
この剣道場の裏ボスと噂されているティア。お客様の接待もお手の物。
「じゃあ、頂こうかしら?」
剣の打ち合いを見ていてもさっぱり分からないので、かなり暇していたメリンダはこれ幸いとその申し出を快く受けた。
女性同士話す事もあるのだろう。楽しそうに二人が談話室の方へ消えていった。
そんなことなど意にも介さず、サーガは楽しそうに剣を振るう。
相手の剣を躱し、体を回転させながら迫る。
相手の目を見つめ、殺気をぶつける。
「ひっ…」
相手が一瞬怯んだ。
その顔の横に剣を突き出す。
ビュッ
剣風で髪が揺れる。
そのまま硬直してしまう。
しっかり5秒程固まっていた相手が、恐る恐る剣を下げた。
「ま…、参りました…」
その言葉を受け、サーガも剣を下げた。
「ったく、本当~にテルディアスはここで剣術を習ってたんか?」
剣を肩に担ぎ、周りを見渡すサーガ。
何人か相手にしたが、テルディアス程の実力を持つ者はいなかった。
「テルディアスはここで1、2を争う強さだったよ」
サーガの相手をしていた剣士リュックがサーガの疑問に答える。
「ほう? それで、1、2を争ってた奴は?」
その質問に、リュックの視線が一点に絞られる。
そんな会話が聞こえていたのか、周りで練習していた者達の視線も同じ所に集まった。
サーガがその視線につられてその先を見ると、一人の男が備品の手入れなどをしている。
「ん?」
多数の視線に気付き、その男、アスティが顔を上げた。
「っし! やろうぜ! 兄さん!」
サーガが楽しそうにアスティに剣を向ける。
「やる?!」
アスティが何故か青い顔をする。
「そ、そんな…」
そのまま何故かヨレヨレと地面に座り込むと、
「初めてだけど…、優しくしてね」
と恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「おい」
何をやる気だ。
「やるったら剣《コレ》だろ! 何が悲しくて男と肌を合わせにゃならんのだ」
と剣を振り回す。
「ん? そっかそっか、そうだよな」
ケラケラ笑いながらアスティ立ち上がる。
「いや~、おかしいとは思ったんだ」
「本当かよ」
思わず突っ込む。
「んじゃま、さっそく」
さあやろうとばかりにサーガが剣を構えるが、
「まあ待ちたまへ」
何故か手を上げストップを掛けるアスティ。
「あん?」
「一応ここもそこそれなりに名のある道場だ。腕の立つ者もゴロゴロいる。だからどうだろう? うちの門下生全員と戦って、勝つ事がもしできたなら…。その時は師範たるこの俺が相手になってあげよう」
何故か門下生達が眼を合わせている。
それに気付かないサーガ。
「フン? いいだろう」
自信ありげにニヤリと笑うと、
「おっしゃ! まとめてかかってこいやー!」
と声を張り上げるが、
「あー。ダメダメ」
何故か止めるアスティ。
「あ?」
「ちゃんと一人一人相手してあげてね♡」
「いや、まとめてやった方が早い…」
「そーではないのよ」
とサーガの頭にガシッと手を乗せ、
「おい、お前ら~。この姿《ナリ》に惑わされてるみたいだが、このボウヤ、かなり実戦経験積んでる実力者だぞー。油断するなー」
と門下生達に向かって言った。
門下生達がざわめき始める。
「なるほど…」
「そういうことか…」
という呟きが聞こえてくる。
「おい兄さん。さりげな~く失礼なこと言ってくれてるよな…。そして押すな」
「ん?」
サーガの頭に乗せられた手が、軽くサーガを圧迫する。
これ以上縮んだらどうする。
「いや~、丁度良い高さに頭があるからつい。わはははは」
とぐりぐりサーガの頭を撫でまくる。
「っの…ヤロオ!!」
ぶち切れたサーガが剣を振り回すが、
「おっとっとっと」
器用にその剣を避け、あっという間にサーガと距離を取るアスティ。
「ほれほれ、俺とやるのは門下生達とやった後だよ~~ん」
と手を振る。
「ニャロウ…」
風で一気に距離を詰めて仕留めてやろうかと考えているサーガの肩に、ポンと手が置かれる。
「まあまあ、サーガ君。アスティとやるのは諦めた方がいいよ」
「あん?」
先程相手にしていたリュックだった。
「何言ってんだ! 絶対ぶっ倒す!」
とギリギリとアスティを睨みながら宣言するが、
「いや、実はね」
とリュックが話し出す。
「アスティはさぼり師範とか、逃げのアスティとか異名を持っていてね…。滅多に門下生の練習相手をしない事で有名なんだ…。困った人でねぇ…」
とポリポリ頭を掻く。
こけるサーガ。
向こうではアスティがポーズを取りながら、こちらに投げキッスしている。
完全におちょくってるとしか思えない。
「いいのかよ、この道場…」
他人事ながら、サーガ心配になった。
「まあ~、今のところ大丈夫みたいだよ」
先行き不安である。
「それに、時折道場破りみたいな人も来てね、良い練習相手になってるよ」
道場破りがやって来て、それを師範が出ずに門下生が相手にしているのか。
そう考えれば、この道場もそれなりにレベルが高いのであろう。
(結局師範は出ねーのか…)
そこでも難癖つけて逃げているらしい。
いや、相手しようよ。
「てことで、やろっか?」
とリュックが剣を構えた。
「ぬあっ?!」
気付けば、サーガ相手の順番待ちの列がズラリと伸びていた。
(結局、俺が師範の代わりに練習相手にされてるんじゃ…)
サーガはそれ以上考えないようにして、一番目のリュックに剣を向けた。
また夜が来た。
テルディアスは一日手紙を読むのに夢中で、部屋から動こうとさえしなかった。
キーナは適当にマーサさんのお手伝いなどをしながら過ごした。
またテルディアスの部屋で眠るキーナ。
今夜もテルディアスは部屋に来る事はないだろう。
眠っていたキーナが、ふと眼を開けた。
「?」
誰かに、何かに呼ばれているような気がして、体を起こす。
それは外から聞こえてくるようだった。
窓を開け、そこから外に出る。
建物の裏側、林の方から何かが聞こえてくる。
キーナが建物の裏側から顔を覗かせると、ざあっと風が通り過ぎた。
キーナがその風が通り過ぎるのをキョトンとした顔で待った。
そして、
「いいよ」
その何かに向かって答えた。
「僕で力になれるなら」
そう言って、手を伸ばした。
月明かりに照らされた山の中、道なき道を行く人影。
アスティだった。
その手元には小さな花。
鼻歌混じりに進んで行くと、少し開けた場所に出た。
風がざあっと走り抜ける。
その片隅に、少し盛られた土山に、ポツンと置かれた少し大きめの石。
アスティはそこに近づくと、その山の周りを少し綺麗にして、持っていた花をそっと置いた。
「リザ、今日は嬉しい報告だ! なんと、あいつが帰って来たんだ!」
と、楽しそうに石に向かって語りかける。
「これで、俺の心残りもなくなったよ。そろそろ俺も、そっちに行く頃合いかな?」
そう言って、少し寂しそうに微笑んだ。
その時、後ろからその肩に手が置かれた。
不思議に思い振り向くと、そこにはいるはずのない女性が立っていた。
「リ…ザ…?」
月の光を受けて、リザが穏やかに微笑んでいた。
「リザなのか…?」
とアスティが立ち上がった途端、
「しけた面してんじゃねーや、このタコ!」
「え?」
アスティが固まった。
いや、リザの口調そのままなのではあるけれど、いきなりタコ?
固まったアスティを笑ったまま睨み付け、
「早くいい女見つけて幸せになれ! じゃないと俺が生まれ変われねーだろ」
そして、本当に嬉しそうに、楽しそうに笑った。
「生まれ…?」
その時、風が吹いた。
アスティが一瞬眼を閉じる。
眼を開けると、もうリザの姿はなかった。
(幻…? だが…リザ…)
幻にしてはハッキリし過ぎていた。
そして、一度も見た事がない幸せそうな笑みを浮かべていた。
(笑っていた…)
守れなかった。助けられなかった。
なのに、彼女は笑っていた。
信じられないような、それでいて、はっきり現実だと分かるような。
「!」
その時、アスティは気付いた。
遠く、眼を凝らしてやっと見えるかの所に佇む人影。
白い光を纏ったその少女は、アスティを見てにっこりと微笑むと、消えた。
(…今、のは…?)
最早何が現実で何が幻なのか。
混乱してきたので、アスティは考える事をやめた。
幻だろうがなんだろうが、自分が確かに見て、声を聞いた事は事実なのだ。
空を見上げると、朧気な月。
風がまた、草原を走り抜けていく。
「生まれ変わって…、来るのか? リザ…」
生まれ変わり。
そんな物が本当にあるのかどうかも分からないけれど、彼女がそう言ったのだ。
「そっか…」
アスティの顔が、いつものとぼけた笑顔に戻った。
「楽しそうだこと」
修練場に設置された椅子に座りながら、メリンダは溜息を吐いた。
その視線の先には、楽しそうに模擬刀を振るっているサーガの姿。
サーガの相手をしている剣士は、サーガの早さに付いていくのもやっとの状態で、おたおたとしている。
そんな暇そうなメリンダの側にティアが寄ってきて、
「お暇ですか?」
声を掛けた。
「あら? まあ、ほほほ…」
ええ暇です。とも答えられずに、苦笑いで返すメリンダ。
「よろしかったら、あちらで一緒にお茶しませんか?」
この剣道場の裏ボスと噂されているティア。お客様の接待もお手の物。
「じゃあ、頂こうかしら?」
剣の打ち合いを見ていてもさっぱり分からないので、かなり暇していたメリンダはこれ幸いとその申し出を快く受けた。
女性同士話す事もあるのだろう。楽しそうに二人が談話室の方へ消えていった。
そんなことなど意にも介さず、サーガは楽しそうに剣を振るう。
相手の剣を躱し、体を回転させながら迫る。
相手の目を見つめ、殺気をぶつける。
「ひっ…」
相手が一瞬怯んだ。
その顔の横に剣を突き出す。
ビュッ
剣風で髪が揺れる。
そのまま硬直してしまう。
しっかり5秒程固まっていた相手が、恐る恐る剣を下げた。
「ま…、参りました…」
その言葉を受け、サーガも剣を下げた。
「ったく、本当~にテルディアスはここで剣術を習ってたんか?」
剣を肩に担ぎ、周りを見渡すサーガ。
何人か相手にしたが、テルディアス程の実力を持つ者はいなかった。
「テルディアスはここで1、2を争う強さだったよ」
サーガの相手をしていた剣士リュックがサーガの疑問に答える。
「ほう? それで、1、2を争ってた奴は?」
その質問に、リュックの視線が一点に絞られる。
そんな会話が聞こえていたのか、周りで練習していた者達の視線も同じ所に集まった。
サーガがその視線につられてその先を見ると、一人の男が備品の手入れなどをしている。
「ん?」
多数の視線に気付き、その男、アスティが顔を上げた。
「っし! やろうぜ! 兄さん!」
サーガが楽しそうにアスティに剣を向ける。
「やる?!」
アスティが何故か青い顔をする。
「そ、そんな…」
そのまま何故かヨレヨレと地面に座り込むと、
「初めてだけど…、優しくしてね」
と恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「おい」
何をやる気だ。
「やるったら剣《コレ》だろ! 何が悲しくて男と肌を合わせにゃならんのだ」
と剣を振り回す。
「ん? そっかそっか、そうだよな」
ケラケラ笑いながらアスティ立ち上がる。
「いや~、おかしいとは思ったんだ」
「本当かよ」
思わず突っ込む。
「んじゃま、さっそく」
さあやろうとばかりにサーガが剣を構えるが、
「まあ待ちたまへ」
何故か手を上げストップを掛けるアスティ。
「あん?」
「一応ここもそこそれなりに名のある道場だ。腕の立つ者もゴロゴロいる。だからどうだろう? うちの門下生全員と戦って、勝つ事がもしできたなら…。その時は師範たるこの俺が相手になってあげよう」
何故か門下生達が眼を合わせている。
それに気付かないサーガ。
「フン? いいだろう」
自信ありげにニヤリと笑うと、
「おっしゃ! まとめてかかってこいやー!」
と声を張り上げるが、
「あー。ダメダメ」
何故か止めるアスティ。
「あ?」
「ちゃんと一人一人相手してあげてね♡」
「いや、まとめてやった方が早い…」
「そーではないのよ」
とサーガの頭にガシッと手を乗せ、
「おい、お前ら~。この姿《ナリ》に惑わされてるみたいだが、このボウヤ、かなり実戦経験積んでる実力者だぞー。油断するなー」
と門下生達に向かって言った。
門下生達がざわめき始める。
「なるほど…」
「そういうことか…」
という呟きが聞こえてくる。
「おい兄さん。さりげな~く失礼なこと言ってくれてるよな…。そして押すな」
「ん?」
サーガの頭に乗せられた手が、軽くサーガを圧迫する。
これ以上縮んだらどうする。
「いや~、丁度良い高さに頭があるからつい。わはははは」
とぐりぐりサーガの頭を撫でまくる。
「っの…ヤロオ!!」
ぶち切れたサーガが剣を振り回すが、
「おっとっとっと」
器用にその剣を避け、あっという間にサーガと距離を取るアスティ。
「ほれほれ、俺とやるのは門下生達とやった後だよ~~ん」
と手を振る。
「ニャロウ…」
風で一気に距離を詰めて仕留めてやろうかと考えているサーガの肩に、ポンと手が置かれる。
「まあまあ、サーガ君。アスティとやるのは諦めた方がいいよ」
「あん?」
先程相手にしていたリュックだった。
「何言ってんだ! 絶対ぶっ倒す!」
とギリギリとアスティを睨みながら宣言するが、
「いや、実はね」
とリュックが話し出す。
「アスティはさぼり師範とか、逃げのアスティとか異名を持っていてね…。滅多に門下生の練習相手をしない事で有名なんだ…。困った人でねぇ…」
とポリポリ頭を掻く。
こけるサーガ。
向こうではアスティがポーズを取りながら、こちらに投げキッスしている。
完全におちょくってるとしか思えない。
「いいのかよ、この道場…」
他人事ながら、サーガ心配になった。
「まあ~、今のところ大丈夫みたいだよ」
先行き不安である。
「それに、時折道場破りみたいな人も来てね、良い練習相手になってるよ」
道場破りがやって来て、それを師範が出ずに門下生が相手にしているのか。
そう考えれば、この道場もそれなりにレベルが高いのであろう。
(結局師範は出ねーのか…)
そこでも難癖つけて逃げているらしい。
いや、相手しようよ。
「てことで、やろっか?」
とリュックが剣を構えた。
「ぬあっ?!」
気付けば、サーガ相手の順番待ちの列がズラリと伸びていた。
(結局、俺が師範の代わりに練習相手にされてるんじゃ…)
サーガはそれ以上考えないようにして、一番目のリュックに剣を向けた。
また夜が来た。
テルディアスは一日手紙を読むのに夢中で、部屋から動こうとさえしなかった。
キーナは適当にマーサさんのお手伝いなどをしながら過ごした。
またテルディアスの部屋で眠るキーナ。
今夜もテルディアスは部屋に来る事はないだろう。
眠っていたキーナが、ふと眼を開けた。
「?」
誰かに、何かに呼ばれているような気がして、体を起こす。
それは外から聞こえてくるようだった。
窓を開け、そこから外に出る。
建物の裏側、林の方から何かが聞こえてくる。
キーナが建物の裏側から顔を覗かせると、ざあっと風が通り過ぎた。
キーナがその風が通り過ぎるのをキョトンとした顔で待った。
そして、
「いいよ」
その何かに向かって答えた。
「僕で力になれるなら」
そう言って、手を伸ばした。
月明かりに照らされた山の中、道なき道を行く人影。
アスティだった。
その手元には小さな花。
鼻歌混じりに進んで行くと、少し開けた場所に出た。
風がざあっと走り抜ける。
その片隅に、少し盛られた土山に、ポツンと置かれた少し大きめの石。
アスティはそこに近づくと、その山の周りを少し綺麗にして、持っていた花をそっと置いた。
「リザ、今日は嬉しい報告だ! なんと、あいつが帰って来たんだ!」
と、楽しそうに石に向かって語りかける。
「これで、俺の心残りもなくなったよ。そろそろ俺も、そっちに行く頃合いかな?」
そう言って、少し寂しそうに微笑んだ。
その時、後ろからその肩に手が置かれた。
不思議に思い振り向くと、そこにはいるはずのない女性が立っていた。
「リ…ザ…?」
月の光を受けて、リザが穏やかに微笑んでいた。
「リザなのか…?」
とアスティが立ち上がった途端、
「しけた面してんじゃねーや、このタコ!」
「え?」
アスティが固まった。
いや、リザの口調そのままなのではあるけれど、いきなりタコ?
固まったアスティを笑ったまま睨み付け、
「早くいい女見つけて幸せになれ! じゃないと俺が生まれ変われねーだろ」
そして、本当に嬉しそうに、楽しそうに笑った。
「生まれ…?」
その時、風が吹いた。
アスティが一瞬眼を閉じる。
眼を開けると、もうリザの姿はなかった。
(幻…? だが…リザ…)
幻にしてはハッキリし過ぎていた。
そして、一度も見た事がない幸せそうな笑みを浮かべていた。
(笑っていた…)
守れなかった。助けられなかった。
なのに、彼女は笑っていた。
信じられないような、それでいて、はっきり現実だと分かるような。
「!」
その時、アスティは気付いた。
遠く、眼を凝らしてやっと見えるかの所に佇む人影。
白い光を纏ったその少女は、アスティを見てにっこりと微笑むと、消えた。
(…今、のは…?)
最早何が現実で何が幻なのか。
混乱してきたので、アスティは考える事をやめた。
幻だろうがなんだろうが、自分が確かに見て、声を聞いた事は事実なのだ。
空を見上げると、朧気な月。
風がまた、草原を走り抜けていく。
「生まれ変わって…、来るのか? リザ…」
生まれ変わり。
そんな物が本当にあるのかどうかも分からないけれど、彼女がそう言ったのだ。
「そっか…」
アスティの顔が、いつものとぼけた笑顔に戻った。
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