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男娼の館編
少年達救出大作戦その2
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屋敷の一角から火の手が上がる。一部壁も吹き飛んでいるが、あまりそこは触れない事にする。
広間の方が騒がしくなって来た。
爆音と火事で混乱が起きているらしい。
サーガがその様子を探る。
「ま、陽動的には上手く行ったか…」
壊せとまでは言ってないけどね。
メリンダはてへ、と舌を出して笑っている。やはりわざとか?
「んじゃ、作戦通り、お前らは下を頼むぜ」
「ラジャ!」
キーナが敬礼した。
作戦その2:混乱に乗じて二手に分かれ、捕らわれた少年達を解放する。
キーナとテルディアスは地下の少年達を。
サーガとメリンダは部屋に連れられて行った少年達を救出。
一応そういったことの経験のないキーナ達への配慮もある。
まさにその現場、などを直視しようものなら、キーナは固まって、ショックで動けなくなってしまうだろう。
なので、まだ手をつけられていない状態の少年達担当である。
戦闘はテルディアス任せ、キーナは専らピンクの領主から奪った鍵で少年達の枷を外す役目である。
テルディアスが部屋の扉をそっと開け、広間の様子を伺う。
広間は情報が錯綜し、混乱が混乱を呼んでいる状態になっているようだ。誰もこちらの様子を気にする様子はない。
一気に扉を開け、テルディアスとキーナが飛び出す。
競りの指揮を執っていた青年がこちらに気付いた。
「な、なんだ…?!」
テルディアスが一気にその距離を詰め、その青年の顔に手をかけ、そのまま勢いよく青年の頭を床に叩きつけた。
意識を失った青年が床に伸びる。
今までそこで競りにかけられていた少年が、その様子を唖然としながら見ていた。
「手を出して!」
キーナがその少年に駆け寄る。
反射的に少年が手を出すと、キーナがその手首の枷の鍵を素早く外していく。
「あ、あの…?」
ガチャン!
と音を立て、両手を縛っていた枷が外れ、床に落ちた。
「もう大丈夫だからね」
と少年に向かってにっこりと笑いかける。
「え? …はあ…」
その笑顔にちょっと胸が高鳴った少年は、訳も分からず間抜けな返事を返してしまう。
「上手く逃げてね!」
そう言い捨てると、テルディアスと共に地下へと続く通路に駆けて行ってしまった。
取り残された少年は、呆然とその背中を見送っていたが、ふと我に返ると呟いた。
「逃げろったって、何処へ? 僕にはもう…、帰る場所もないのに…」
この少年も、生活のために売られたようである。
「その台詞、直にキーナに言って欲しかったなぁ…」
「うわ!」
突然目の前に現われたサーガに驚き、声を上げる。
「何何? なんの話?」
その後ろからメリンダが顔を出した。
「根本的解決についてのお話し」
とサーガが返す。
メリンダの姿を見て、少年が目を瞠った。
「な、な、な、なんで…、女の人が?!」
「はぁ~い」
メリンダがにこやかに笑って手を振った。
男好きのメリンダは、美少年も大好物です。
その話は置いといて。
「あ~、これからこの屋敷、火に包まれて落ちるから、とりあえず外に出た方が良いぜ~」
サーガが少年に一応忠告し、少年達が連れ込まれた部屋へと足を進め出す。
その先にあるだろう光景を想像すると、ちょっと足の進みが弱くなったりもする。
いやいや、ここは頑張らなければ。
「な、なんで?!」
火事だと騒いでいるのは少年も分かっているが、ただの火事ならば、この広い屋敷がそんな簡単に火に包まれるなどあり得ないだろう。
メリンダが心の中で、
(あたしです…)
と呟いた。
メリンダの役割は、最終的には小火を大火事にして、この屋敷を丸ごと焼き上げてしまう事である。実は今もじりじりと火勢を上げていたりする。
「細かい事は気にすんな」
サーガが言い放った。
「あ~、それから……」
「逃がさんぞ!」
別の男の声がサーガの声に被ってきた。
見れば、競りの舞台の横手にある階段から、一人の青年が駆け上がって来る所だった。
一部が仮面で隠されているが、その顔の造形は悪くないだろう事はよく分かる。
「せっかく競り落としたんだ! 屋敷に連れ帰ってでもォ?!」
サーガが空気の塊を青年の顔にぶつけると、青年はそのままごろんごろんと回転しながら器用に階段を転げ落ちていった。
「見た目だけならいい男なのに…」
メリンダ、ボソリと呟いた。
サーガが少年に振り返り、少しきつい眼差しを向ける。
「お前は家畜として生きたいのか? それとも人として生きたいのか?折角選べる好機が巡ってきたんだ。よおく考えな」
そして顔を背けると、メリンダに支えられながら、廊下を進み出した。
もう振り返る事はなかったが、背後で少年が拳を握りしめているのは分かった。
「で? 根本的解決って何よ?」
メリンダが聞いてくる。
「まんまだよ。売られてきた奴が今更家に帰れると思うか?ここを壊すって事は、つまりは居場所を失くすってことだぜ?ま、キーナはそこまで考えてねーだろーけど」
その言葉でメリンダやっと気がついた。
この騒動の結末を。
「テルディアスもキーナにゃ甘いからな~。まあ、俺も言えた義理じゃないか。ここを壊すだけじゃ、本当の意味での救いにならねーんだよ」
薄暗い通路を抜け、地下に下りる階段を駆け下りる。
「おい! 上で何が起きてる!」
地下の見張りの男が、こちらに向けて問いかけてきた。
薄暗い所から明るい所へ。一気に飛び出る。
その折に、きちんと足の裏で挨拶する事を忘れない。
テルディアスの足が伸び、階段の降り口で待ち構えていた男の顔面に思い切りよく押しつけられ、丁寧に床まで案内する。
ズダン!
派手な音を立て、見張りの男が床に転がった。
気を失った男の体をまさぐり、テルディアスが地下の鍵等を持ってないか探す。
その間にキーナが走り下りてきて、
「手を出して!」
順番に並んでいた少年達の枷を、片っ端から解いていく。
少年達は何が起きたか分からず、されるがままになっている。
「! キーナ?!」
「タクト!」
列の後ろの方に、タクトがいた。
テルディアスが何故か一瞬タクトの方を鋭い目で睨み付けた。嫉妬はみっともないよ?
「なんで、ここに?」
タクトの前の子まで順番に枷を素早く外していく。
「助けに来たの!」
張り切ってタクトの枷も外してやる。
「助け…?」
ガチャン!
と音を立て、タクト手を縛り付けていた枷が床に落ちた。
「さ、これで逃げられるよ!」
キーナが満面の笑みで答える。
しかし、タクトの顔は曇ったまま。
「どこへ?」
「え?」
キーナが固まった。
どこへ?
その答えをキーナは知らなかった。
「どこへ逃げろというの? 今更帰る場所なんてないのに」
「え…」
キーナは考えてもいなかった。
ここさえ無くなれば、枷が外れれば、みんな自由になれる。
それしか考えていなかった。
「攫われてきた子らはいいさ、帰る場所もあるだろうさ。でも、僕のように売られて来た子らは、親に捨てられたようなものなんだよ?親に捨てられた僕たちがどこへ行けるってのさ!どうやって生きて行けってのさ!」
タクトはつい、今までに溜まった鬱憤が爆発して、キーナに怒鳴り散らしてしまった。
逃げられる、帰れる場所があるキーナが羨ましかった。
タクトにはもう、帰る場所はないのだ。
キーナが力なく項垂れた。
そこまで考えていなかった。ただ、少年達の暗い顔を晴らしてあげたいだけだった。
ここさえなくなれば、皆笑顔になれると信じていた。
「ごめん…なさい…。僕…、僕は、ただ……」
「家畜でさえ檻の鍵が開いたら逃げ出すというのに、貴様らはそれ以下だな」
テルディアスの辛辣な声が響いた。
テルディアスの眼光に射竦められ、ビクリとなるタクト。
「キーナ」
テルディアスがキ-ナに近づく。
「こんな与えられなければ自分の生き様も決められんような奴ら、助ける意義があるのか?」
キーナ、テルディアスの言葉に反論しようにも言葉が出ない。
「こんな奴ら解放してやった所で、野垂れ死にするだけだ。それに、どうやら人間では無く、人形《・・》でいたいらしいしな」
人形。
その言葉を聞き、タクトがギクリとなる。
今までのおぞましい記憶の中で、自分を買った男達が一様に呟いていた言葉。
愛らしい人形だの、可愛らしい人形だのほざきながら、自分の体を弄る。
仕事だと割り切った。感情を凍らせた。食べるために、生きるために仕方がないのだと、自分を納得させていた。それしか自分には生きる術がないのだと。
「人形は人形らしく、飼い主の元にいた方が幸せなんだろ?」
テルディアスが冷たく言い放ち、足先を反対側に向ける。
「行くぞキーナ」
「テル…」
「出たい奴だけ出してやれば良い。出た後の生活まで、お前は面倒見切れないだろ?」
キーナの痛い所をわざと突いてやる。
そして、ある程度は割り切れと暗に言い含めた。
キーナが身を固くする。
「手を貸してやろうがなかろうが、死ぬ奴は死ぬんだ。放っておけ」
テルディアスが足早に遠ざかる。
テルディアスはその言葉通りに、助かりたいものしか助けないつもりのようだ。
(だけど…)
キーナはどうしていいのか分からなくなった。
テルディアスの言い分も分かってしまった。
それに、ここを出た後の事まで考えていなかった。
自分の浅はかさに舌打ちしたい気分だ。
タクトを見るが、タクトの視線は床に落ちたまま。こちらを見ようとしない。
助けたい。やはり置いていくわけには行かない。
でもどう声を掛けたら良いのか分からず、キーナがまごまごしていると、突然、タクトがキーナの腕を掴んだ。
「僕…、人形のままなんて…嫌だ…」
「タクト…」
タクトの瞳が潤んでいる。
「でも…、どうしたらいいのか…、分かんないよ…」
「タクト…」
「それくらい自分で考えろ」
相変わらず辛辣な声を浴びせるテルディアス。
「人間なら考えろ。自分で選べ。そして行動しろ。お前の頭はただ付いているだけの飾り物では無いだろ?」
タクトの目が大きく開かれた。
「タクト…あのね、とにかくここを出て……」
「出るよ!!」
タクトが声を張り上げた。
「僕、ここを出る!!」
その声は地下に響き渡った。
キーナは嬉しそうににっこり笑って、
「うん!!」
頷いた。
「僕も…」
「僕も出る!」
「僕も! 早く出して!」
「僕も行く!」
タクトの言葉を皮切りに、そこに居た少年達も自分も出たいと叫び始めた。
キーナの顔にやる気が漲り始める。
「キーナ、俺は下を見てくる。ここは頼んだぞ」
テルディアスが見張りの男から奪った鍵束を見せた。
もう一階下があるようなのだ。
「ラジャ!」
キーナが元気よく敬礼した。
その姿に不安を覚えるテルディアスだった。
広間の方が騒がしくなって来た。
爆音と火事で混乱が起きているらしい。
サーガがその様子を探る。
「ま、陽動的には上手く行ったか…」
壊せとまでは言ってないけどね。
メリンダはてへ、と舌を出して笑っている。やはりわざとか?
「んじゃ、作戦通り、お前らは下を頼むぜ」
「ラジャ!」
キーナが敬礼した。
作戦その2:混乱に乗じて二手に分かれ、捕らわれた少年達を解放する。
キーナとテルディアスは地下の少年達を。
サーガとメリンダは部屋に連れられて行った少年達を救出。
一応そういったことの経験のないキーナ達への配慮もある。
まさにその現場、などを直視しようものなら、キーナは固まって、ショックで動けなくなってしまうだろう。
なので、まだ手をつけられていない状態の少年達担当である。
戦闘はテルディアス任せ、キーナは専らピンクの領主から奪った鍵で少年達の枷を外す役目である。
テルディアスが部屋の扉をそっと開け、広間の様子を伺う。
広間は情報が錯綜し、混乱が混乱を呼んでいる状態になっているようだ。誰もこちらの様子を気にする様子はない。
一気に扉を開け、テルディアスとキーナが飛び出す。
競りの指揮を執っていた青年がこちらに気付いた。
「な、なんだ…?!」
テルディアスが一気にその距離を詰め、その青年の顔に手をかけ、そのまま勢いよく青年の頭を床に叩きつけた。
意識を失った青年が床に伸びる。
今までそこで競りにかけられていた少年が、その様子を唖然としながら見ていた。
「手を出して!」
キーナがその少年に駆け寄る。
反射的に少年が手を出すと、キーナがその手首の枷の鍵を素早く外していく。
「あ、あの…?」
ガチャン!
と音を立て、両手を縛っていた枷が外れ、床に落ちた。
「もう大丈夫だからね」
と少年に向かってにっこりと笑いかける。
「え? …はあ…」
その笑顔にちょっと胸が高鳴った少年は、訳も分からず間抜けな返事を返してしまう。
「上手く逃げてね!」
そう言い捨てると、テルディアスと共に地下へと続く通路に駆けて行ってしまった。
取り残された少年は、呆然とその背中を見送っていたが、ふと我に返ると呟いた。
「逃げろったって、何処へ? 僕にはもう…、帰る場所もないのに…」
この少年も、生活のために売られたようである。
「その台詞、直にキーナに言って欲しかったなぁ…」
「うわ!」
突然目の前に現われたサーガに驚き、声を上げる。
「何何? なんの話?」
その後ろからメリンダが顔を出した。
「根本的解決についてのお話し」
とサーガが返す。
メリンダの姿を見て、少年が目を瞠った。
「な、な、な、なんで…、女の人が?!」
「はぁ~い」
メリンダがにこやかに笑って手を振った。
男好きのメリンダは、美少年も大好物です。
その話は置いといて。
「あ~、これからこの屋敷、火に包まれて落ちるから、とりあえず外に出た方が良いぜ~」
サーガが少年に一応忠告し、少年達が連れ込まれた部屋へと足を進め出す。
その先にあるだろう光景を想像すると、ちょっと足の進みが弱くなったりもする。
いやいや、ここは頑張らなければ。
「な、なんで?!」
火事だと騒いでいるのは少年も分かっているが、ただの火事ならば、この広い屋敷がそんな簡単に火に包まれるなどあり得ないだろう。
メリンダが心の中で、
(あたしです…)
と呟いた。
メリンダの役割は、最終的には小火を大火事にして、この屋敷を丸ごと焼き上げてしまう事である。実は今もじりじりと火勢を上げていたりする。
「細かい事は気にすんな」
サーガが言い放った。
「あ~、それから……」
「逃がさんぞ!」
別の男の声がサーガの声に被ってきた。
見れば、競りの舞台の横手にある階段から、一人の青年が駆け上がって来る所だった。
一部が仮面で隠されているが、その顔の造形は悪くないだろう事はよく分かる。
「せっかく競り落としたんだ! 屋敷に連れ帰ってでもォ?!」
サーガが空気の塊を青年の顔にぶつけると、青年はそのままごろんごろんと回転しながら器用に階段を転げ落ちていった。
「見た目だけならいい男なのに…」
メリンダ、ボソリと呟いた。
サーガが少年に振り返り、少しきつい眼差しを向ける。
「お前は家畜として生きたいのか? それとも人として生きたいのか?折角選べる好機が巡ってきたんだ。よおく考えな」
そして顔を背けると、メリンダに支えられながら、廊下を進み出した。
もう振り返る事はなかったが、背後で少年が拳を握りしめているのは分かった。
「で? 根本的解決って何よ?」
メリンダが聞いてくる。
「まんまだよ。売られてきた奴が今更家に帰れると思うか?ここを壊すって事は、つまりは居場所を失くすってことだぜ?ま、キーナはそこまで考えてねーだろーけど」
その言葉でメリンダやっと気がついた。
この騒動の結末を。
「テルディアスもキーナにゃ甘いからな~。まあ、俺も言えた義理じゃないか。ここを壊すだけじゃ、本当の意味での救いにならねーんだよ」
薄暗い通路を抜け、地下に下りる階段を駆け下りる。
「おい! 上で何が起きてる!」
地下の見張りの男が、こちらに向けて問いかけてきた。
薄暗い所から明るい所へ。一気に飛び出る。
その折に、きちんと足の裏で挨拶する事を忘れない。
テルディアスの足が伸び、階段の降り口で待ち構えていた男の顔面に思い切りよく押しつけられ、丁寧に床まで案内する。
ズダン!
派手な音を立て、見張りの男が床に転がった。
気を失った男の体をまさぐり、テルディアスが地下の鍵等を持ってないか探す。
その間にキーナが走り下りてきて、
「手を出して!」
順番に並んでいた少年達の枷を、片っ端から解いていく。
少年達は何が起きたか分からず、されるがままになっている。
「! キーナ?!」
「タクト!」
列の後ろの方に、タクトがいた。
テルディアスが何故か一瞬タクトの方を鋭い目で睨み付けた。嫉妬はみっともないよ?
「なんで、ここに?」
タクトの前の子まで順番に枷を素早く外していく。
「助けに来たの!」
張り切ってタクトの枷も外してやる。
「助け…?」
ガチャン!
と音を立て、タクト手を縛り付けていた枷が床に落ちた。
「さ、これで逃げられるよ!」
キーナが満面の笑みで答える。
しかし、タクトの顔は曇ったまま。
「どこへ?」
「え?」
キーナが固まった。
どこへ?
その答えをキーナは知らなかった。
「どこへ逃げろというの? 今更帰る場所なんてないのに」
「え…」
キーナは考えてもいなかった。
ここさえ無くなれば、枷が外れれば、みんな自由になれる。
それしか考えていなかった。
「攫われてきた子らはいいさ、帰る場所もあるだろうさ。でも、僕のように売られて来た子らは、親に捨てられたようなものなんだよ?親に捨てられた僕たちがどこへ行けるってのさ!どうやって生きて行けってのさ!」
タクトはつい、今までに溜まった鬱憤が爆発して、キーナに怒鳴り散らしてしまった。
逃げられる、帰れる場所があるキーナが羨ましかった。
タクトにはもう、帰る場所はないのだ。
キーナが力なく項垂れた。
そこまで考えていなかった。ただ、少年達の暗い顔を晴らしてあげたいだけだった。
ここさえなくなれば、皆笑顔になれると信じていた。
「ごめん…なさい…。僕…、僕は、ただ……」
「家畜でさえ檻の鍵が開いたら逃げ出すというのに、貴様らはそれ以下だな」
テルディアスの辛辣な声が響いた。
テルディアスの眼光に射竦められ、ビクリとなるタクト。
「キーナ」
テルディアスがキ-ナに近づく。
「こんな与えられなければ自分の生き様も決められんような奴ら、助ける意義があるのか?」
キーナ、テルディアスの言葉に反論しようにも言葉が出ない。
「こんな奴ら解放してやった所で、野垂れ死にするだけだ。それに、どうやら人間では無く、人形《・・》でいたいらしいしな」
人形。
その言葉を聞き、タクトがギクリとなる。
今までのおぞましい記憶の中で、自分を買った男達が一様に呟いていた言葉。
愛らしい人形だの、可愛らしい人形だのほざきながら、自分の体を弄る。
仕事だと割り切った。感情を凍らせた。食べるために、生きるために仕方がないのだと、自分を納得させていた。それしか自分には生きる術がないのだと。
「人形は人形らしく、飼い主の元にいた方が幸せなんだろ?」
テルディアスが冷たく言い放ち、足先を反対側に向ける。
「行くぞキーナ」
「テル…」
「出たい奴だけ出してやれば良い。出た後の生活まで、お前は面倒見切れないだろ?」
キーナの痛い所をわざと突いてやる。
そして、ある程度は割り切れと暗に言い含めた。
キーナが身を固くする。
「手を貸してやろうがなかろうが、死ぬ奴は死ぬんだ。放っておけ」
テルディアスが足早に遠ざかる。
テルディアスはその言葉通りに、助かりたいものしか助けないつもりのようだ。
(だけど…)
キーナはどうしていいのか分からなくなった。
テルディアスの言い分も分かってしまった。
それに、ここを出た後の事まで考えていなかった。
自分の浅はかさに舌打ちしたい気分だ。
タクトを見るが、タクトの視線は床に落ちたまま。こちらを見ようとしない。
助けたい。やはり置いていくわけには行かない。
でもどう声を掛けたら良いのか分からず、キーナがまごまごしていると、突然、タクトがキーナの腕を掴んだ。
「僕…、人形のままなんて…嫌だ…」
「タクト…」
タクトの瞳が潤んでいる。
「でも…、どうしたらいいのか…、分かんないよ…」
「タクト…」
「それくらい自分で考えろ」
相変わらず辛辣な声を浴びせるテルディアス。
「人間なら考えろ。自分で選べ。そして行動しろ。お前の頭はただ付いているだけの飾り物では無いだろ?」
タクトの目が大きく開かれた。
「タクト…あのね、とにかくここを出て……」
「出るよ!!」
タクトが声を張り上げた。
「僕、ここを出る!!」
その声は地下に響き渡った。
キーナは嬉しそうににっこり笑って、
「うん!!」
頷いた。
「僕も…」
「僕も出る!」
「僕も! 早く出して!」
「僕も行く!」
タクトの言葉を皮切りに、そこに居た少年達も自分も出たいと叫び始めた。
キーナの顔にやる気が漲り始める。
「キーナ、俺は下を見てくる。ここは頼んだぞ」
テルディアスが見張りの男から奪った鍵束を見せた。
もう一階下があるようなのだ。
「ラジャ!」
キーナが元気よく敬礼した。
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