105 / 296
古代魔獣の遺跡編
黄色い男再び!
しおりを挟む
夜が明け、テルディアスが夜の間のことを報告すると、アドサンが憤った。
ドン!
と机を叩く。
「やはりハッサンか! そうではないかと思っていたんだ!!」
「だが確証は…」
「いいや! ハッサンに違いない! 今度の長議選で邪魔な私を消したいのだろう! 我が弟ながら、あの腹黒野郎の考えそうなことだ!!」
と拳を握りしめる。
「こうなったらこっちからも刺客を――」
「送っちゃダメでしょ」
キーナがギロリと睨み付けた。
その迫力に押され、アドサンの士気があっという間にしぼんでしまう。
「はい…」
「まだ確証はないのだから、きちんと調べてからにした方がいい。もし万が一間違えていてでもしたら、長議選とやらでまずいんじゃないのか?」
「ぐ…」
テルディアスに睨まれ、アドサンが言葉を失くした。
よほど長議選とやらが大事らしい。
街中の路地をテルディアス達一行が歩いて行く。
とにかくハッサンの家の周囲を調べてみようと言うことになったのだが。
「別に、ついてこなくてもいいぞ?」
「にゅ? 調べるくらいなら僕にもできるもん!」
「そうよ、一応、手伝わせなさい!」
テルディアスだけに働かせることに一応負い目があるらしい。
しかし、テルディアスにとっては邪魔なだけだったりして。
二人の扱いをどうしようかと悩みながら先を進んで行く。
すると、曲がり角から突然、大男が飛び出して来た。
そしてテルディアスを見ると、手に持っていた剣を振り上げる。
「覚悟しろ!」
何でだ、と突っ込む間もなく、男が剣をテルディアスに向かって振り下ろす。
テルディアスが素早い動作で腰の剣を引き抜き、その剣を受けた。
ガギイン!
金属のぶつかり合う音が響く。
「下がってろ!」
「もが…」
「危ないって!」
加勢しようとするキーナをメリンダが壁際に引き摺っていく。
勝負はあっけなくついた。
剣を払ったテルディアスが、男の脇腹に少し(かなり?)きつく剣の柄を当てた。
男は白目を剥いて倒れ込んだ。
「テル! 大丈夫?」
キーナがすぐさまテルディアスに駆け寄る。
静かに剣を収めたテルディアス、
「ああ…」
と男を見下ろす。
「どうかした?」
「昨日の奴、というわけではなさそうだな…」
昨夜の男はこんな大柄でもなかったし、こんなに弱くもなかった。
仲間なのだろうか?
しかしこんな弱い仲間がいるのか?
そして何故突然テルディアスに斬りかかってきたのか。
狙いはアドサンではなかったのか?
「よく分からないけど、知ってること全部吐いてもらえばいいんでしょ?」
テルディアスが逡巡していると、メリンダが近づいてきて、腰の鞭をサラリと抜き放ち、両手に構えた。
「あたしに、ま・か・せ・て♪」
メリンダの顔が煌めく。
二人は何故か体が震えた。
((何故だろう…。気の毒に思える…))
同じ事を考えた。
その時、
「あれ? やっぱしお前ら」
キーナにとっては久しぶり、テルディアスにとっては二度と聞きたくない人物の声が響いた。
「よお、久しぶりだなぁ」
道の先で立っていたのは、黄色い髪、黄色い瞳をもつ小柄な男。
右手に持った剣を肩に担いで、相変わらずのにやけ顔でそこにいた。
「サーガ?!」
キーナが声を上げた。
(誰?)
メリンダのみ目が点になっている。
「何してんだ? こんな所で」
「サーガこそ!!」
二度と会えないと思っていた人物が、いきなり目の前に現われたのだ。
キーナはビックリ仰天。テルディアスも驚いている。
「俺はまあ、その倒された男と、ハッサンつーおっさんの所で用心棒してて…」
と倒れた男を見ながらサーガが語る。
ハッサン?
三人の頭にハテナマークが踊った。
テルディアスの周りの空気が揺らぐ。
「つまり、この男の仲間ということか…」
「にょ?」
テルディアスのオーラが何となく暗くなった感じがして、キーナが思わず一歩後退る。
「ま、そうなるな」
と言いながら、倒れた男に向かってあかんべーをしている。
さんざんチビだとからかわれていたのだ。
「ならばお前も…」
テルディアスが腰の剣をサーガに向かって抜き放つ。
寸前、その行動に気付いたサーガが、後ろに飛んで逃げた。
「わ!」
ひゅっ
テルディアスの剣が空を切った。
キーナとメリンダは何が起こったのか分からない。
二人して唖然とする。
「何しやがる!」
サーガも剣を構えた。
「問答無用!」
テルディアスが走り寄る。
ギキイン!
剣がぶつかる音が響いた。
「テル!」
キーナが必死に叫ぶが、二人は止まる様子がない。
メリンダがキーナの肩に手を置いて、さりげなく安全な場所にキーナを移動させる。
「キーナちゃん、あの男知り合いなの?」
「うん」
メリンダの問いにキーナが頷いた。
「前に、テルが僕を置いて独りで先に行っちゃったことがあって、その時に僕の用心棒やってくれたの」
押しかけ用心棒ではあったが。
「ふ~ん」
メリンダが何故が面白くなさそうな顔をした。
何故だろう?
ギン!キン!ガン!
火花でも出そうな激しい音が響く。
「多少は腕を上げたようだな」
「あたぼーよ」
ギン!
剣を押し付け合いながら、二人が睨み合う。
「てめーを倒す為に腕を磨いてたんだ」
「ふ、ぬかせ」
剣を弾き、距離を取る。
「ど、どうしよう、止めないと…」
オロオロとキーナが二人を止めようとするが、
「あら、テルディアスに任せておけば大丈夫でしょ」
とメリンダがキーナの肩を放さない。
「うん…、でも…、なんだか、テルが…、いつものテルじゃない…」
キーナが心配そうにテルディアスを見つめる。
(? どこが?)
メリンダには何が違うのかさっぱり分からなかった。
テルディアスが距離を詰める。
サーガがにやりと笑った。
「!」
テルディアスは嫌な予感がしたが、その足を止めることはない。
その時、サーガの体の周りの風が巻いた。
「!」
呪文も唱えていないのに、風が不自然に巻くことはない。
しかし、その動きは明らかに自然の風の動きではない。
テルディアスが足を止める。
しかし、その時には風は形を整え、テルディアスに向かって来ていた。
すぐに地の魔法を発動させようとするが、間に合わない。
咄嗟に両手で頭を庇う。
ゴウ!
風が耳元で音を立てる。
「ぐああ!」
風の刃が全身を駆け抜けた。
サーガは不適な笑みを浮かべ、それをただ眺めていた。
風が通り過ぎ、テルディアスが顔を上げる。
全身のあちこちが切り刻まれていた。
力を加減されたのか、まだ扱いに慣れていないのか、致命傷になるほどの傷ではない。
(詠唱なしで風を…?!)
「へへへへ…」
テルディアスの考えが読めたのか、サーガが笑った。
「テル!」
駆け寄ろうとするキーナの肩をメリンダが必死に掴む。
「だめよ! キーナちゃん! 危ないわ!」
「でも、テルが…」
「あいつならあれくらい平気よ。それより…」
メリンダが黄色い男を見つめた。
「へへ、驚いたか?」
テルディアスが無言で睨み返す。
「詠唱なしで風を喚べる。これはかなりきついだろ?」
サーガの周りの風が踊る。
詠唱なしで魔法を使う。
これはつまり、予備動作なしで攻撃を仕掛ける事になる。
普通戦いなどでは、予備動作などから相手の動きを予測するのだが、つまりそれができないことになる。
となると、避ける、対処する事が難しくなる。
テルディアスは呼吸を整えると、再び、サーガに向かって地を蹴った。
「わかんねぇか?」
サーガが風を捲いた。
風が形作られ、刃がテルディアスに迫る。
直前、
ダン!
テルディアスが地を蹴り、壁伝いに走り出す。
風の刃はテルディアスがいた場所を通り抜けていく。
「早い!」
テルディアスの刃がサーガに迫った。
しかし、
ど!
風の塊がテルディアスの体を打った。
テルディアスの目にサーガの勝ち誇った顔が見えた。
そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまう。
「テルゥ!!」
キーナが叫んだ。
ズダン!
両手をつきながらもなんとか着地するテルディアス。
マスクがじわりと赤く染まった。
「詠唱と詠唱の間がねぇからな。初撃を躱したくらいじゃ、避けきれねーよ」
サーガが得意そうに説明する。
テルディアスが力を込めた。
「地縛!」
その声に応えるかのように、地面から木の根が飛び出して来て、サーガに向かっていく。
サーガがそれを睨み付けると、
ザシュ!
サーガの周りで木の根が切り裂かれた。
「!」
風は地に弱い。
地の力を防ぐには、それ以上の、例えるなら2倍くらいの力を発現させなければならない。
それを軽々とやってのけた。
「へへ、こんなもんじゃ、俺は捕らえられねーぜ」
ちちちっとサーガが指を振った。
「ねえ、キーナちゃん」
「何?」
両手を祈るように合わせて、ハラハラしながらキーナが二人の戦いを見ている。
「あの男、風の一族の者なんじゃない?」
頭の後ろから降ってきた言葉に、一瞬キーナが硬直する。
「え?」
と勢いよくメリンダに振り向いた。
「だって、風を詠唱なしで操ってるし」
「…でも、本人はそんなこと一言も…」
キーナの事情は全てサーガに話してある。
もちろん、テルディアスのことも。
だからサーガは風の一族をキーナ達が探していることは承知しているはず。
そもそも水の宝玉のことを教えてくれたのはサーガなのだ。
「ん~? おっかしいわね~。確かに鍛錬を積めば常人でも詠唱なしで使えるようになるとは聞いたけど…」
チラリとサーガを見る。
「どう頑張っても15、6…」
鍛錬と言ってもそんな簡単な事ではない。
かなり長い間修行なりしなければできるはずがない。
「あ、でもサーガって、風の魔法以外使えないって…」
雪山でぽろりと零していたことを思い出した。
『俺は風しか使えねーの。相性が悪いんだかなんだか、俺は風しか習得できなかったんだ』
気になる人は、サーガ編の雪山あたりを読み返してみてね。
精霊の加護を受けた者は、その精霊の色を体に、髪と瞳に宿して生まれてくる。
火は赤。
風は黄色。
そして、加護を受けているので、他の精霊の力は使えない。
ただし、呪文を唱えることなく使うことができる。
見事にすべてに当てはまっていた。
「あ…」
「風の一族の証拠よ」
ドン!
と机を叩く。
「やはりハッサンか! そうではないかと思っていたんだ!!」
「だが確証は…」
「いいや! ハッサンに違いない! 今度の長議選で邪魔な私を消したいのだろう! 我が弟ながら、あの腹黒野郎の考えそうなことだ!!」
と拳を握りしめる。
「こうなったらこっちからも刺客を――」
「送っちゃダメでしょ」
キーナがギロリと睨み付けた。
その迫力に押され、アドサンの士気があっという間にしぼんでしまう。
「はい…」
「まだ確証はないのだから、きちんと調べてからにした方がいい。もし万が一間違えていてでもしたら、長議選とやらでまずいんじゃないのか?」
「ぐ…」
テルディアスに睨まれ、アドサンが言葉を失くした。
よほど長議選とやらが大事らしい。
街中の路地をテルディアス達一行が歩いて行く。
とにかくハッサンの家の周囲を調べてみようと言うことになったのだが。
「別に、ついてこなくてもいいぞ?」
「にゅ? 調べるくらいなら僕にもできるもん!」
「そうよ、一応、手伝わせなさい!」
テルディアスだけに働かせることに一応負い目があるらしい。
しかし、テルディアスにとっては邪魔なだけだったりして。
二人の扱いをどうしようかと悩みながら先を進んで行く。
すると、曲がり角から突然、大男が飛び出して来た。
そしてテルディアスを見ると、手に持っていた剣を振り上げる。
「覚悟しろ!」
何でだ、と突っ込む間もなく、男が剣をテルディアスに向かって振り下ろす。
テルディアスが素早い動作で腰の剣を引き抜き、その剣を受けた。
ガギイン!
金属のぶつかり合う音が響く。
「下がってろ!」
「もが…」
「危ないって!」
加勢しようとするキーナをメリンダが壁際に引き摺っていく。
勝負はあっけなくついた。
剣を払ったテルディアスが、男の脇腹に少し(かなり?)きつく剣の柄を当てた。
男は白目を剥いて倒れ込んだ。
「テル! 大丈夫?」
キーナがすぐさまテルディアスに駆け寄る。
静かに剣を収めたテルディアス、
「ああ…」
と男を見下ろす。
「どうかした?」
「昨日の奴、というわけではなさそうだな…」
昨夜の男はこんな大柄でもなかったし、こんなに弱くもなかった。
仲間なのだろうか?
しかしこんな弱い仲間がいるのか?
そして何故突然テルディアスに斬りかかってきたのか。
狙いはアドサンではなかったのか?
「よく分からないけど、知ってること全部吐いてもらえばいいんでしょ?」
テルディアスが逡巡していると、メリンダが近づいてきて、腰の鞭をサラリと抜き放ち、両手に構えた。
「あたしに、ま・か・せ・て♪」
メリンダの顔が煌めく。
二人は何故か体が震えた。
((何故だろう…。気の毒に思える…))
同じ事を考えた。
その時、
「あれ? やっぱしお前ら」
キーナにとっては久しぶり、テルディアスにとっては二度と聞きたくない人物の声が響いた。
「よお、久しぶりだなぁ」
道の先で立っていたのは、黄色い髪、黄色い瞳をもつ小柄な男。
右手に持った剣を肩に担いで、相変わらずのにやけ顔でそこにいた。
「サーガ?!」
キーナが声を上げた。
(誰?)
メリンダのみ目が点になっている。
「何してんだ? こんな所で」
「サーガこそ!!」
二度と会えないと思っていた人物が、いきなり目の前に現われたのだ。
キーナはビックリ仰天。テルディアスも驚いている。
「俺はまあ、その倒された男と、ハッサンつーおっさんの所で用心棒してて…」
と倒れた男を見ながらサーガが語る。
ハッサン?
三人の頭にハテナマークが踊った。
テルディアスの周りの空気が揺らぐ。
「つまり、この男の仲間ということか…」
「にょ?」
テルディアスのオーラが何となく暗くなった感じがして、キーナが思わず一歩後退る。
「ま、そうなるな」
と言いながら、倒れた男に向かってあかんべーをしている。
さんざんチビだとからかわれていたのだ。
「ならばお前も…」
テルディアスが腰の剣をサーガに向かって抜き放つ。
寸前、その行動に気付いたサーガが、後ろに飛んで逃げた。
「わ!」
ひゅっ
テルディアスの剣が空を切った。
キーナとメリンダは何が起こったのか分からない。
二人して唖然とする。
「何しやがる!」
サーガも剣を構えた。
「問答無用!」
テルディアスが走り寄る。
ギキイン!
剣がぶつかる音が響いた。
「テル!」
キーナが必死に叫ぶが、二人は止まる様子がない。
メリンダがキーナの肩に手を置いて、さりげなく安全な場所にキーナを移動させる。
「キーナちゃん、あの男知り合いなの?」
「うん」
メリンダの問いにキーナが頷いた。
「前に、テルが僕を置いて独りで先に行っちゃったことがあって、その時に僕の用心棒やってくれたの」
押しかけ用心棒ではあったが。
「ふ~ん」
メリンダが何故が面白くなさそうな顔をした。
何故だろう?
ギン!キン!ガン!
火花でも出そうな激しい音が響く。
「多少は腕を上げたようだな」
「あたぼーよ」
ギン!
剣を押し付け合いながら、二人が睨み合う。
「てめーを倒す為に腕を磨いてたんだ」
「ふ、ぬかせ」
剣を弾き、距離を取る。
「ど、どうしよう、止めないと…」
オロオロとキーナが二人を止めようとするが、
「あら、テルディアスに任せておけば大丈夫でしょ」
とメリンダがキーナの肩を放さない。
「うん…、でも…、なんだか、テルが…、いつものテルじゃない…」
キーナが心配そうにテルディアスを見つめる。
(? どこが?)
メリンダには何が違うのかさっぱり分からなかった。
テルディアスが距離を詰める。
サーガがにやりと笑った。
「!」
テルディアスは嫌な予感がしたが、その足を止めることはない。
その時、サーガの体の周りの風が巻いた。
「!」
呪文も唱えていないのに、風が不自然に巻くことはない。
しかし、その動きは明らかに自然の風の動きではない。
テルディアスが足を止める。
しかし、その時には風は形を整え、テルディアスに向かって来ていた。
すぐに地の魔法を発動させようとするが、間に合わない。
咄嗟に両手で頭を庇う。
ゴウ!
風が耳元で音を立てる。
「ぐああ!」
風の刃が全身を駆け抜けた。
サーガは不適な笑みを浮かべ、それをただ眺めていた。
風が通り過ぎ、テルディアスが顔を上げる。
全身のあちこちが切り刻まれていた。
力を加減されたのか、まだ扱いに慣れていないのか、致命傷になるほどの傷ではない。
(詠唱なしで風を…?!)
「へへへへ…」
テルディアスの考えが読めたのか、サーガが笑った。
「テル!」
駆け寄ろうとするキーナの肩をメリンダが必死に掴む。
「だめよ! キーナちゃん! 危ないわ!」
「でも、テルが…」
「あいつならあれくらい平気よ。それより…」
メリンダが黄色い男を見つめた。
「へへ、驚いたか?」
テルディアスが無言で睨み返す。
「詠唱なしで風を喚べる。これはかなりきついだろ?」
サーガの周りの風が踊る。
詠唱なしで魔法を使う。
これはつまり、予備動作なしで攻撃を仕掛ける事になる。
普通戦いなどでは、予備動作などから相手の動きを予測するのだが、つまりそれができないことになる。
となると、避ける、対処する事が難しくなる。
テルディアスは呼吸を整えると、再び、サーガに向かって地を蹴った。
「わかんねぇか?」
サーガが風を捲いた。
風が形作られ、刃がテルディアスに迫る。
直前、
ダン!
テルディアスが地を蹴り、壁伝いに走り出す。
風の刃はテルディアスがいた場所を通り抜けていく。
「早い!」
テルディアスの刃がサーガに迫った。
しかし、
ど!
風の塊がテルディアスの体を打った。
テルディアスの目にサーガの勝ち誇った顔が見えた。
そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまう。
「テルゥ!!」
キーナが叫んだ。
ズダン!
両手をつきながらもなんとか着地するテルディアス。
マスクがじわりと赤く染まった。
「詠唱と詠唱の間がねぇからな。初撃を躱したくらいじゃ、避けきれねーよ」
サーガが得意そうに説明する。
テルディアスが力を込めた。
「地縛!」
その声に応えるかのように、地面から木の根が飛び出して来て、サーガに向かっていく。
サーガがそれを睨み付けると、
ザシュ!
サーガの周りで木の根が切り裂かれた。
「!」
風は地に弱い。
地の力を防ぐには、それ以上の、例えるなら2倍くらいの力を発現させなければならない。
それを軽々とやってのけた。
「へへ、こんなもんじゃ、俺は捕らえられねーぜ」
ちちちっとサーガが指を振った。
「ねえ、キーナちゃん」
「何?」
両手を祈るように合わせて、ハラハラしながらキーナが二人の戦いを見ている。
「あの男、風の一族の者なんじゃない?」
頭の後ろから降ってきた言葉に、一瞬キーナが硬直する。
「え?」
と勢いよくメリンダに振り向いた。
「だって、風を詠唱なしで操ってるし」
「…でも、本人はそんなこと一言も…」
キーナの事情は全てサーガに話してある。
もちろん、テルディアスのことも。
だからサーガは風の一族をキーナ達が探していることは承知しているはず。
そもそも水の宝玉のことを教えてくれたのはサーガなのだ。
「ん~? おっかしいわね~。確かに鍛錬を積めば常人でも詠唱なしで使えるようになるとは聞いたけど…」
チラリとサーガを見る。
「どう頑張っても15、6…」
鍛錬と言ってもそんな簡単な事ではない。
かなり長い間修行なりしなければできるはずがない。
「あ、でもサーガって、風の魔法以外使えないって…」
雪山でぽろりと零していたことを思い出した。
『俺は風しか使えねーの。相性が悪いんだかなんだか、俺は風しか習得できなかったんだ』
気になる人は、サーガ編の雪山あたりを読み返してみてね。
精霊の加護を受けた者は、その精霊の色を体に、髪と瞳に宿して生まれてくる。
火は赤。
風は黄色。
そして、加護を受けているので、他の精霊の力は使えない。
ただし、呪文を唱えることなく使うことができる。
見事にすべてに当てはまっていた。
「あ…」
「風の一族の証拠よ」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる