キーナの魔法

小笠原慎二

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幕間

闇の間

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床と壁以外何もない空間。
黒一色のその空間に、足音が響いた。

「オルト。光の御子が現われたそうよ」

その空間の端に座り込んでいた、短い黒髪、黒服の少年、オルトが振り向く。

「光の御子? 今頃?」

足音を立てながら、その女は長い黒髪をかき上げる。

「光の宮の者達が騒いでたわ」
「光の宮? まだそんな所見てたの? ルーン」
「違うわよ」

露出の多い服を着たその女、ルーンはクスリと笑う。

「光の宮をかなり派手にぶっ壊した奴がいるって聞いたから、面白そうだから見に行ったらね、光の御子が壊したってさ」
「ふ~ん、自分の座する所壊してどーするんだろうね?」

興味なさそうにオルトが答える。

「さ~ね。あちらさんの考えはよく分からないわ。で、どうする?」
「何が?」
「光の御子よ! 決まってるでしょ!」
「ああ・・・」
あの御方・・・・が消えたのも、光の御子が原因かもしれないし・・・。いっそのこと潰しておく? あの御方・・・・もきっと喜ぶはずよ」

腕をグルグル回して張り切っている。

「そだね~。完全に目覚められたら後々面倒そうだし、早めに片付けた方がいいんだろうけど」
「けど?」
「でもこっちがもう少しで終わりそうだから」

少年の目の前には、表情を一切失くした少女が人形のように座っていた。
ウェーブのかかった色素の薄い髪も、色艶を失くしている。

「こっちが終わってからでもいいよね?」
「あら、もう少し?」

ルーンがその少女の顔を覗き込んだ時、突然、その何もない空間に、少年が現われた。

「アディ! アディを返せ!」

少し長い黒髪を後ろで束ねたその少年は、四肢を踏ん張り、目の前の二人と対峙する。

「あ~らら」
「どうやってここまで?」
「ま~、闇の眷属だから、来ようと思えば来れるか」

オルトは納得したように頷いた。
そして、横にいたルーンが消える。

「だめじゃない。大人しくしてなきゃ」

次の瞬間、少年の後ろに立っていた。

「こんな高位の光の者滅多に発見できないし、利用できるだけさせてもらわなきゃ」

オルトが少女の顎を指で軽く上げる。
そしてその目を覗き込む。

「もうすぐ洗脳も終わるし、そしたら・・・、まずは君達の街を破壊しに行ってもらおうか?」

オルトが残酷な光をその目に宿らせ、ニタリと笑った。

「ふざけるな! お前達の好きにはさせない!」

そう叫んだ少年の足元から、闇の力が蠢きだす。

「やだなぁ。僕に指図するの?」

オルトの目が冷ややかに細められた。
少年が闇の力をその掌に集め、オルトに向かって放つ。
冷ややかにそれを見ていたオルト。
解き放たれた力は、オルトの目の前で急激に軌道を変え、放った少年に向かって奔った。

ズド!

闇の力が少年の体に突き刺さった。

「・・・!」
「君じゃ、僕には勝てないよ」

ニヤリとオルトが笑った。
がくりと膝を突く少年。

「う・・・」
「同じ闇の眷属だから、殺すこともできないしね。しかし、君生意気だね。そんなんじゃさぁ、いずれ発狂しちゃうよ? 早く闇に意識を任せなよ」

少年の頭を鷲掴みにし、無理矢理顔を上げさせ、満面の笑みで忠告する。
早く仲間になれと。
少年は目を閉じる。
きりっと開けられた瞳には、強い決意の光が見えた。

「俺には・・・、アディがいる・・・。アディがいれば、俺は俺を見失うことはない・・・!」

ズドオ!

「げふっ」

オルトが少年の腹に蹴りを食らわす。
たまらず倒れ込む少年。

「あーくさくさっ。聞いてらんないよ! ルーン、後は頼んでいい?」
「任せといて。きちんと闇に染めてあげるわ」

ルーンが少年の腕を取る。

「く、くそ・・・。放せっ!」

なんとか逃れようともがく少年。
そこに、

「ナト・・・」

小さな声が聞こえた。
はっとして少年が少女を見つめる。
オルトとルーンもつられて少女を見つめた。

「ナト・・・」

同じように小さな声が少女の口から漏れた。
その目からは涙が一筋、零れ落ちた。

「アディ!」

少年が少女の名を叫ぶ。
ルーンが力を発動させる。

「アディ!!」

少年はルーンと共に、空間に飲み込まれていった。

「あーあ、洗脳溶けかかってるの?」

オルトが少女に近づき、その顔を覗き込む。

「やり直し? あーでも、完全に解けてはいないか~」
「かわいそうな・・・人・・・」
「え?」

少女の口から切れ切れに言葉が発せられる。

「可哀相な・・・人達・・・」

オルトが目を見開いた。

「闇に呑まれて・・・、光を失くした・・・」

アディの双眸から涙が零れ落ちる。

バシッ!

オルトが思い切り少女の頬を叩いた。
人形のように床に転がる少女。

「フン。最後のあがきってやつ? 君にはこの先、色々と役に立ってもらわなきゃいけないからね・・・。ふふふ・・・」

少女の目からはとめどなく涙が溢れている。

「御子・・・様・・・、救っ・・・て」

少女の最後の言葉も、ただ闇に吸い込まれていくだけだった。
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