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水の都編
探索
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「とにかく出口を探そう。せめて壁が分かれば・・・」
音の反響で聞き分けられたらいいのだが、広い部屋らしく、よく分からない。
壁伝いに移動すれば、暗くても方向を見失うことはない。
だからせめて壁を見つけたいと思っていた。
「壁が分かればいいん?」
「ああ」
「ならいい方法があるよ」
キーナが何かゴソゴソし始めた。
また何か道具でも出すのかと思いきや、
「テルここね」
とペタペタとテルディアスを触って確認すると、何かを投げたような感じがあった。
カーンカンカンカンカンカン・・・
「!」
石を投げたらしい。
そしてまた別の方向へ。
カーンコンカンカンカン・・・
そしてまた別の方向へ。
カーンカンカンカンカンコッ・・・
そしてまた別の方向へ。
カーンカンカンコッ
最後の音が一番近くで止まった。
「あっちだよ」
「なるほど・・・」
(うまい手を・・・)
本当にこいつは一体何者なのか、それともこれも御子の力なのか。
などと思っても聞けはしない。だいたいこいつ自身が分かっていない気がする。
テルディアスはキーナを背に乗せ、音が近かった方へ向かって四つん這いで進んでいく。
「テル重くない?」
「まったく」
キーナが気にして声をかけてくるが、キーナくらいの重さテルディアスにはどうってことはない。いいトレーニングになるくらいの重さでしかない。
馬乗りというよりはおんぶに近い感じで、身体を密着させてはいるが指先に意識を集中しているせいか気にならない。むしろ気にしない。
いくらか進むと、壁に辿り着いた。
暗闇だと数センチ進むだけでも神経をかなり使う。
そのためテルディアスは休憩を取った。
壁があるというだけで、何故か少し安心感が出てくるのだから不思議だ。
「さて、ここから右か左か・・・」
この選択を間違うと延々と彷徨わなくてはならなくなる。ここが重要だった。
キーナの野生の勘に賭けてみよう。とテルディアスは思う。
まあなんとなくだけど、キーナは野生児という感じだから・・・。もちろん本人には言いません。
キーナは余程怖いのか、テルディアスの腕に必死にしがみついている。
両腕でしがみつき、足さえも絡めてきそうな勢いである。
あまりギュウギュウにしがみつくと、あまりあるとも言えないけれども、それなりに柔らかさを感じてしまって落ち着かないのだが・・・。
「キーナ、お前はどっちだと思う?」
努めて冷静にテルディアスが問いかける。
「ん? 僕?」
キーナは少し思案した。
「右」
「よし、右に行くか」
即決。
「そんなんで決めちゃっていいの?」
「こういうときは直感に頼った方がいいんだ」
お前の方が野生の勘が働きそうだからとはもちろん言わない。
「行くぞ。乗れ」
「うん」
キーナがまたテルディアスの背に乗る。
テルディアスは壁を確認しながら四つん這いで進んでいく。
「テル重くない?」
キーナが心配して声をかける。
「大丈夫だ」
「疲れない?」
「疲れたら休む」
キーナは楽だが、自分が乗っていることによってテルディアスが余計に疲れないかと心配である。本当は降りたいのではあるけれども。
「離れる方が心配だ。この暗闇でもし何かあったとしても何も分からん。マント掴む手だけ残して身体は消えてるとかな」
確かに、気配も感じさせない何かがいたとしたら、少しでも離れていたら危険だ。
キーナは自分の手だけが、テルディアスのマントからぶら下がっていることを想像して青くなる。
「これが一番安全なんだ」
そう言い切って進むテルディアス。
その背中にキーナは己の全てを預け、温もりをただ感じ取る。
(テルの背中・・・広いな)
キーナは少しだけ恐怖心が薄れたように感じた。
部屋の隅らしき場所に到達し、小休止を取る。
壁と壁が直角になっていることから、四角い部屋であろうということが想像できた。
部屋であるならばどこかに出口、もしくは通路に出ることができるはずである。そしてその先に水の気配があれば、そこに出口があるはずである。
あの女性が幻でなければ。
キーナが身体を固くして身を寄せてくる。
細かに震えているようにも感じられる。
(こいつの精神が保っている間に出口を探さないと。気づいているか知らんが、ここは、死の気配に満ちている・・・)
ただ暗いというだけではない。
何かおどろおどろしいというか、禍々しいというか、嫌な空気が満ちている。
普段にぶいキーナでも某かを感じているはずである。
(常人が長くいられるような場所じゃない)
「キーナ、寒くないか?」
「うん、大丈夫」
キーナの声が少し元気を失くしているように聞こえた。
「行くぞ。乗れ」
「うん」
キーナがテルディアスの背によじ登る。
(一刻も早く、ここから脱出しないと!)
手袋から通して伝わる冷たい石の感触だけを頼りに、テルディアスはじりじりと闇の中を進んでいった。
コツン、コツンと上品な音を響かせ、城の地下への階段を降りていく。
談笑していた警備兵がその存在に気づき、驚いて声を上げた。
「ナギタ王?!」
「変わりはないか?」
水の王国の現国王、ナギタ王であった。
青い髪に青い瞳、水の精霊に祝福された御印を持つ、水の宝玉に選ばれた王。
「御自らこのような場所へ来られるなど・・・」
慌てて警備兵が押しとどめようとするが、
「よいのだ」
王は地下階の部屋へと入っていった。
さほど広くない部屋の真ん中には、水路のような穴があった。
湛えられた水は波を立てることもなく静かである。
「いかなる大泥棒であってもこの道に気づくことはありえないでしょう。現に今まで誰一人としてここから出てきた者は・・・」
「お主は感じなかったのか?」
「は・・・え?」
「水の女神の気配に」
「し、しかし! 水巫女もおらずに女神が現れるなど、考えられません!」
「だが、現れたのだ・・・」
「・・・!」
水の都にいる者達の大多数が感じていた。
水の女神が顕現したことを。
だが、水の女神が現れるのは、その媒介となる巫女がいる時のみ。
その巫女の資格を有することも、簡単ではない。
そして巫女は水巫女の神殿から滅多に出ることはない。
ともなれば、水の女神が顕現した気配は気のせいだったのでは?と皆思っていた。
一部の者を除いては。
「警備の者を増やせ。油断するな」
警備兵の一人が素早く敬礼すると、仲間を呼びに階段を駆け上がっていった。
暗闇の中、時の流れさえもはや分からなくなっている。
今が朝なのか、昼なのか、夜なのか、まして、自分が本当に起きているのかさえもあやふやになっていく。
目を開けても閉じても真っ暗闇。
キーナという存在がいなければ、テルディアスもとうに気がふれてしまっていたかもしれない。
(どれくらい進んだんだろう・・・。手探りだから微々たるものだろうが・・・。大きな部屋らしき場所から通路らしき場所に入って・・・、曲がり角もなく延々真っ直ぐ・・・)
通路に入った気がしたのは音の反響の仕方が変わったからだ。
暗闇であるせいか、聴覚が鋭くなっている。
普通に歩いているならばたいした距離ではないような気もするが、この暗闇ではどれくらい進んでいるのかも見当が付かない。
「テル・・・出られるよね?」
「・・・当たり前だろ! 俺を信じろ!」
「うん・・・」
キーナの精神が限界に近い。
時間の感覚もないこの暗闇で、ここまで保ったのも頑張った方だろう。
急がねば、急がねば。
気が焦る。
焦る程に嫌な考えが浮かんでくる。
あの時右ではなく左だったのでは・・・
違う方向に進んでいるのかも・・・
何か見落としたか・・・?
本当は出口なんてないんじゃないか・・・?
(何を考えているんだ! くそ! ・・・俺も、限界か・・・?)
その時、テルディアスの手が、壁がまた曲がったことを伝えてきた。
右手に通路があるようだ。
その通路に入ると、キーナの鼻が臭いを嗅ぎつけた。
「水の臭い?」
「え?」
テルディアスが進むと、突然、床が消えた。
その下に手を伸ばすと、指先に触れる感触。
(水だ!)
テルディアスの心が沸き立つ。
「キーナ、降りろ」
「うん? 小休止?」
「いや、見つけた」
「出口?!」
キーナがいそいそとテルディアスの背から降りる。
「の手掛かり」
「手掛かり?」
キーナが目をしばたたかせる。見えないが。
「この辺りにあるはずだ」
テルディアスが辺りの壁を触って調べ始める。
扉かスイッチでもないかと。
キーナは床が落ちこんでいることを知り、その先に手を伸ばす。水が触れた。
水路?になっているのだろうか?
そこでキーナはとある大好きなアニメを思い出す。
「まさか水の中を通ってくなんてないよね~?」
と気軽に言った。
「なるほどな・・・」
テルディアスが妙に納得した声を出す。
「へ?」
「ここは水の都だ。あり得ない話ではないだろう」
確かに、水路には船が浮かび、水の上を行き来し、上水、下水も完備されていて、その水路も定期的に点検されているような都だし、水の中に通路を作っていても不思議はない。
「ええええ~~?」
「とにかく調べてみる必要はあるな」
「調べるのおおお~~~?」
この暗闇の中水に入る。
かなり勇気のいる行為だ。
「俺が調べてくるから、お前はここで待ってろ、いいな」
「え?」
「ここから動くなよ」
そう言ってキーナの頭を一撫ですると、キーナの前から気配が消え、バシャンという音が立った。
「て、テル?!」
思い切り息を吸う音、そしてザブンという音がすると、そのまま何も音がしなくなってしまった。
「テル!!」
キーナの声だけが通路に響いた。
暗い水の中を潜ると、すぐに足が付いた。
(思ったよりは深くないな)
そして前を見ると、うっすらと明かりが差し込んできている。
(明かり?!)
テルディアスは光に吸い寄せられるように水の中を移動する。
出口らしき所には、特に何ごともなく進むことができた。
あとは水面から顔を出せばそこは光ある世界。
(やったぞキーナ! これで出られる!)
テルディアスが安堵した瞬間、
ギャリイン!
双子石が悲鳴のような音を出した。
(なんだ今の・・・? キーナ?!)
急いで闇の中へと戻る。壁伝いに水面を目指し、顔を出す。
「キーナ?! キーナ! どこだ?! キ・・・」
暗闇から何かが覆い被さってきた。
バッシャン!
水の中へ押し戻される。
慌てるテルディアスが抱きついてきた者を確認すると、やはりキーナだった。
とにかくなんとか水の上へ顔を出す。
「ぶはっ!」
げへげへ、ごほごほ、水を吐き出す。
「お、お前! いきなり飛び込んでくるな!」
「だ、だって・・・、テル、急に消えちゃうから・・・。怖くて怖くて・・・。心細くなって泣いちゃって・・・。そしたらテルの声が聞こえたから・・・」
だからって暗闇の中いきなり抱きつくのは危ないと思うが。
(この暗闇に、独り・・・)
せめてキーナに、もそっとちゃんと言い聞かせてから行くべきだったとテルディアス反省。
先を急ぎすぎた。
「悪かった。独りにさせて」
テルディアスがキーナのおでこにおでこをくっつける。
その温もりに安心したのか、キーナがミィ~と泣き始めた。
「泣くなっつーに」
「だって怖かったんだもーん」
キーナの涙が止まるまで、テルディアスはキーナの濡れた髪をナデナデしていた。
音の反響で聞き分けられたらいいのだが、広い部屋らしく、よく分からない。
壁伝いに移動すれば、暗くても方向を見失うことはない。
だからせめて壁を見つけたいと思っていた。
「壁が分かればいいん?」
「ああ」
「ならいい方法があるよ」
キーナが何かゴソゴソし始めた。
また何か道具でも出すのかと思いきや、
「テルここね」
とペタペタとテルディアスを触って確認すると、何かを投げたような感じがあった。
カーンカンカンカンカンカン・・・
「!」
石を投げたらしい。
そしてまた別の方向へ。
カーンコンカンカンカン・・・
そしてまた別の方向へ。
カーンカンカンカンカンコッ・・・
そしてまた別の方向へ。
カーンカンカンコッ
最後の音が一番近くで止まった。
「あっちだよ」
「なるほど・・・」
(うまい手を・・・)
本当にこいつは一体何者なのか、それともこれも御子の力なのか。
などと思っても聞けはしない。だいたいこいつ自身が分かっていない気がする。
テルディアスはキーナを背に乗せ、音が近かった方へ向かって四つん這いで進んでいく。
「テル重くない?」
「まったく」
キーナが気にして声をかけてくるが、キーナくらいの重さテルディアスにはどうってことはない。いいトレーニングになるくらいの重さでしかない。
馬乗りというよりはおんぶに近い感じで、身体を密着させてはいるが指先に意識を集中しているせいか気にならない。むしろ気にしない。
いくらか進むと、壁に辿り着いた。
暗闇だと数センチ進むだけでも神経をかなり使う。
そのためテルディアスは休憩を取った。
壁があるというだけで、何故か少し安心感が出てくるのだから不思議だ。
「さて、ここから右か左か・・・」
この選択を間違うと延々と彷徨わなくてはならなくなる。ここが重要だった。
キーナの野生の勘に賭けてみよう。とテルディアスは思う。
まあなんとなくだけど、キーナは野生児という感じだから・・・。もちろん本人には言いません。
キーナは余程怖いのか、テルディアスの腕に必死にしがみついている。
両腕でしがみつき、足さえも絡めてきそうな勢いである。
あまりギュウギュウにしがみつくと、あまりあるとも言えないけれども、それなりに柔らかさを感じてしまって落ち着かないのだが・・・。
「キーナ、お前はどっちだと思う?」
努めて冷静にテルディアスが問いかける。
「ん? 僕?」
キーナは少し思案した。
「右」
「よし、右に行くか」
即決。
「そんなんで決めちゃっていいの?」
「こういうときは直感に頼った方がいいんだ」
お前の方が野生の勘が働きそうだからとはもちろん言わない。
「行くぞ。乗れ」
「うん」
キーナがまたテルディアスの背に乗る。
テルディアスは壁を確認しながら四つん這いで進んでいく。
「テル重くない?」
キーナが心配して声をかける。
「大丈夫だ」
「疲れない?」
「疲れたら休む」
キーナは楽だが、自分が乗っていることによってテルディアスが余計に疲れないかと心配である。本当は降りたいのではあるけれども。
「離れる方が心配だ。この暗闇でもし何かあったとしても何も分からん。マント掴む手だけ残して身体は消えてるとかな」
確かに、気配も感じさせない何かがいたとしたら、少しでも離れていたら危険だ。
キーナは自分の手だけが、テルディアスのマントからぶら下がっていることを想像して青くなる。
「これが一番安全なんだ」
そう言い切って進むテルディアス。
その背中にキーナは己の全てを預け、温もりをただ感じ取る。
(テルの背中・・・広いな)
キーナは少しだけ恐怖心が薄れたように感じた。
部屋の隅らしき場所に到達し、小休止を取る。
壁と壁が直角になっていることから、四角い部屋であろうということが想像できた。
部屋であるならばどこかに出口、もしくは通路に出ることができるはずである。そしてその先に水の気配があれば、そこに出口があるはずである。
あの女性が幻でなければ。
キーナが身体を固くして身を寄せてくる。
細かに震えているようにも感じられる。
(こいつの精神が保っている間に出口を探さないと。気づいているか知らんが、ここは、死の気配に満ちている・・・)
ただ暗いというだけではない。
何かおどろおどろしいというか、禍々しいというか、嫌な空気が満ちている。
普段にぶいキーナでも某かを感じているはずである。
(常人が長くいられるような場所じゃない)
「キーナ、寒くないか?」
「うん、大丈夫」
キーナの声が少し元気を失くしているように聞こえた。
「行くぞ。乗れ」
「うん」
キーナがテルディアスの背によじ登る。
(一刻も早く、ここから脱出しないと!)
手袋から通して伝わる冷たい石の感触だけを頼りに、テルディアスはじりじりと闇の中を進んでいった。
コツン、コツンと上品な音を響かせ、城の地下への階段を降りていく。
談笑していた警備兵がその存在に気づき、驚いて声を上げた。
「ナギタ王?!」
「変わりはないか?」
水の王国の現国王、ナギタ王であった。
青い髪に青い瞳、水の精霊に祝福された御印を持つ、水の宝玉に選ばれた王。
「御自らこのような場所へ来られるなど・・・」
慌てて警備兵が押しとどめようとするが、
「よいのだ」
王は地下階の部屋へと入っていった。
さほど広くない部屋の真ん中には、水路のような穴があった。
湛えられた水は波を立てることもなく静かである。
「いかなる大泥棒であってもこの道に気づくことはありえないでしょう。現に今まで誰一人としてここから出てきた者は・・・」
「お主は感じなかったのか?」
「は・・・え?」
「水の女神の気配に」
「し、しかし! 水巫女もおらずに女神が現れるなど、考えられません!」
「だが、現れたのだ・・・」
「・・・!」
水の都にいる者達の大多数が感じていた。
水の女神が顕現したことを。
だが、水の女神が現れるのは、その媒介となる巫女がいる時のみ。
その巫女の資格を有することも、簡単ではない。
そして巫女は水巫女の神殿から滅多に出ることはない。
ともなれば、水の女神が顕現した気配は気のせいだったのでは?と皆思っていた。
一部の者を除いては。
「警備の者を増やせ。油断するな」
警備兵の一人が素早く敬礼すると、仲間を呼びに階段を駆け上がっていった。
暗闇の中、時の流れさえもはや分からなくなっている。
今が朝なのか、昼なのか、夜なのか、まして、自分が本当に起きているのかさえもあやふやになっていく。
目を開けても閉じても真っ暗闇。
キーナという存在がいなければ、テルディアスもとうに気がふれてしまっていたかもしれない。
(どれくらい進んだんだろう・・・。手探りだから微々たるものだろうが・・・。大きな部屋らしき場所から通路らしき場所に入って・・・、曲がり角もなく延々真っ直ぐ・・・)
通路に入った気がしたのは音の反響の仕方が変わったからだ。
暗闇であるせいか、聴覚が鋭くなっている。
普通に歩いているならばたいした距離ではないような気もするが、この暗闇ではどれくらい進んでいるのかも見当が付かない。
「テル・・・出られるよね?」
「・・・当たり前だろ! 俺を信じろ!」
「うん・・・」
キーナの精神が限界に近い。
時間の感覚もないこの暗闇で、ここまで保ったのも頑張った方だろう。
急がねば、急がねば。
気が焦る。
焦る程に嫌な考えが浮かんでくる。
あの時右ではなく左だったのでは・・・
違う方向に進んでいるのかも・・・
何か見落としたか・・・?
本当は出口なんてないんじゃないか・・・?
(何を考えているんだ! くそ! ・・・俺も、限界か・・・?)
その時、テルディアスの手が、壁がまた曲がったことを伝えてきた。
右手に通路があるようだ。
その通路に入ると、キーナの鼻が臭いを嗅ぎつけた。
「水の臭い?」
「え?」
テルディアスが進むと、突然、床が消えた。
その下に手を伸ばすと、指先に触れる感触。
(水だ!)
テルディアスの心が沸き立つ。
「キーナ、降りろ」
「うん? 小休止?」
「いや、見つけた」
「出口?!」
キーナがいそいそとテルディアスの背から降りる。
「の手掛かり」
「手掛かり?」
キーナが目をしばたたかせる。見えないが。
「この辺りにあるはずだ」
テルディアスが辺りの壁を触って調べ始める。
扉かスイッチでもないかと。
キーナは床が落ちこんでいることを知り、その先に手を伸ばす。水が触れた。
水路?になっているのだろうか?
そこでキーナはとある大好きなアニメを思い出す。
「まさか水の中を通ってくなんてないよね~?」
と気軽に言った。
「なるほどな・・・」
テルディアスが妙に納得した声を出す。
「へ?」
「ここは水の都だ。あり得ない話ではないだろう」
確かに、水路には船が浮かび、水の上を行き来し、上水、下水も完備されていて、その水路も定期的に点検されているような都だし、水の中に通路を作っていても不思議はない。
「ええええ~~?」
「とにかく調べてみる必要はあるな」
「調べるのおおお~~~?」
この暗闇の中水に入る。
かなり勇気のいる行為だ。
「俺が調べてくるから、お前はここで待ってろ、いいな」
「え?」
「ここから動くなよ」
そう言ってキーナの頭を一撫ですると、キーナの前から気配が消え、バシャンという音が立った。
「て、テル?!」
思い切り息を吸う音、そしてザブンという音がすると、そのまま何も音がしなくなってしまった。
「テル!!」
キーナの声だけが通路に響いた。
暗い水の中を潜ると、すぐに足が付いた。
(思ったよりは深くないな)
そして前を見ると、うっすらと明かりが差し込んできている。
(明かり?!)
テルディアスは光に吸い寄せられるように水の中を移動する。
出口らしき所には、特に何ごともなく進むことができた。
あとは水面から顔を出せばそこは光ある世界。
(やったぞキーナ! これで出られる!)
テルディアスが安堵した瞬間、
ギャリイン!
双子石が悲鳴のような音を出した。
(なんだ今の・・・? キーナ?!)
急いで闇の中へと戻る。壁伝いに水面を目指し、顔を出す。
「キーナ?! キーナ! どこだ?! キ・・・」
暗闇から何かが覆い被さってきた。
バッシャン!
水の中へ押し戻される。
慌てるテルディアスが抱きついてきた者を確認すると、やはりキーナだった。
とにかくなんとか水の上へ顔を出す。
「ぶはっ!」
げへげへ、ごほごほ、水を吐き出す。
「お、お前! いきなり飛び込んでくるな!」
「だ、だって・・・、テル、急に消えちゃうから・・・。怖くて怖くて・・・。心細くなって泣いちゃって・・・。そしたらテルの声が聞こえたから・・・」
だからって暗闇の中いきなり抱きつくのは危ないと思うが。
(この暗闇に、独り・・・)
せめてキーナに、もそっとちゃんと言い聞かせてから行くべきだったとテルディアス反省。
先を急ぎすぎた。
「悪かった。独りにさせて」
テルディアスがキーナのおでこにおでこをくっつける。
その温もりに安心したのか、キーナがミィ~と泣き始めた。
「泣くなっつーに」
「だって怖かったんだもーん」
キーナの涙が止まるまで、テルディアスはキーナの濡れた髪をナデナデしていた。
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