キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
44 / 296
奴の名はサーガ

温泉騒動~その2

しおりを挟む
あ、と思った時には、お湯の中へ引きずり込まれた。
必死に手にを伸ばし、岩をつかむ。
足を引っ張るものを目で辿ると、何か黒い植物のツタのようなものが、暗い暗い、温泉の底の方から伸び、その底にいるものは…形のあるのかないのか、良く分からない黒い大きな塊だった。

背筋に冷たいものが走った。
あれは関わってはいけないもの。
必死に足をばたつかせると、植物のツタのようなものがするりと外れた。
慌てて水面に逃げる。

「ぶはっ!」

いきなり引きずり込まれたので息がやばかった。

「テルー! 大変…」

その先の言葉は、再び足首に巻きついた黒いものによって阻まれた。













「キーナ?」
「おい、これはずせよ」
「キーナ!!」

サーガの言葉はテルディアスの耳には入らないらしい。
湯から飛び出し、岩を飛び上がってキーナのいる側を確認しに行く。

「せめて外してけー!!」

サーガの抗議の叫びもどこ吹く風。
地の力で両手を縛られたまま、サーガは放置されることとなった。
岩に上に上がったテル君。
気づいてないのか?のぞきだぞ。
まあキーナが消えてしまっているからセーフ?

「キーナ?」

そう、消えてしまっていた。
しかし岸辺には畳んで置いてある服。
まさか裸でどこかへ行ったわけはないだろう。
さすがに。
いくらなんでも。
いくらキーナであっても。

「なんかあったんか?」

サーガ風を纏い、飛んできた。

「いない…」

期待していたものがいなかった…っておいおい、何を書かせる。
いるはずの神秘の女体が…。
だめだ。こいつの頭はこんなことばっかりだ。
話が進まないので無視。
湖面も静まり返り、まるで最初から誰もいなかったかのよう…。









水面下ではキーナが必死に岩をつかんで、引きずり込まれないように頑張っていた。
しかしここは水(お湯)の中。

ガボッ

油断したとたんに息が漏れた。

(息が…!)

このまま続いたら…。
というかそろそろ…。
意識が遠のきかけていく。








コポ…

湖面に泡が立った。

「どこに…?」

周りを見渡すサーガ。
だが、湖面を見ていたテルは気づいた。

バッ

「あ! テルディアス?!」

バッシャア!!

テルディアスが湖へ飛び込んだ。
あまり深くない湖。

(あぶね…)

危うく飛び込んだ拍子に頭をぶつけるところだった。
周りを見渡すと、キーナが岩にしがみついていた。
その足首に絡まる黒いツタのようなもの。
そしてその先には…。
キーナがテルに気づいた。

(テル…!)

ゴバッ

テルディアスの顔をみて一瞬気が緩んだ。
大量の息がキーナの口から洩れ出でた。

(キーナ!)

事態を察し、手近にあったナイフのような小岩をつかみ、キーナの元へ急ぐ。
キーナの手が岩から離れた。
手を伸ばし、キーナの腕をつかむ。
そのままキーナを引き戻す。
足首にからんだ黒いツタのようなものを小岩で切ろうとするが、どんなに衝撃を与えてもそれは切れなかった。

(切れない! 息が…!)

湖面まで上がっている時間はない。
テルディアスは最善と思われる方法をとった。
自分の息を、キーナに与えたのだ。

キーナが目を開けた。
すると目の前にテルの顔。
そして唇に温かな感触…。

すぐに顔は離れたけど、キーナ、顔真っ赤ですぜ?

(今はいい…、だが、水(お湯)から出られなければいずれ…)

限界が来る。

(水(お湯ね)の中では呪文が使えない! だが今ここでキーナを放すわけにはいかない!)

引く力はどんどん強くなっていく。
このままでは二人共…、と思われたその時。

「風巻《カウギリ》!」

ドオオオオオオオ!!

存在を軽く忘れられていたサーガが、水中からテルディアスを排出させようと風の魔法を唱えたのだ。

(あいつか?! だが今は有難い!)

風に乗って水も巻かれ、水中も凄いことになっていた。

ブチブチッ

(切れた?!)

どんなにしても切れなかった黒いツタが簡単にブッチ切れた。
その隙に風と水の巻上げる方へと泳いで逃げる。
ある程度まで行くと、水が少なくなり風の音が大きくなった。

「風翔《カウレイ》!」

風の魔法を唱え、風と水の巻上げから飛び出す。
そのまま岸へとキーナを運んで行った。

「お、出た」

お目当ての二人を見つけ、サーガも二人の元へ急ぐ。
岸にキーナを下ろし、必死に目線をそらすテルディアス。

「そこの茂みに隠れてろ」
「うん」

か細い腕で胸を隠しつ、キーナが茂みへ走ろうとしたその時、

「おーい、何かあったんかー?!」

能天気な声が空から降ってきた。

「む?」

サーガに気づいて振り向く二人。
キーナはまだ茂みに隠れられていなかった。
その後ろ姿るや、まだまだ未発達さは残しつつも、可憐ともいうべきか。
特に臀部の形はなかなかいいもので…。
サーガの目に、キーナの臀部が焼き付けられた。

プッチーン

なんか切れる音がしたぞ?

「おっしりーーーーーーー!!!」
「うきゃああああああ!!!!」

理性の糸が切れたサーガがキーナに向かって突っ込んできた。
その間にテルディアスが割り込み、

みし・・・

見事、拳がサーガの顔にクリーンヒットしました。
慌てて茂みに駆け込むキーナ。

「サーガのH!!」

茂みの陰でぷんすかぷん。
地べたに落ちたサーガの前に、仁王のような威圧感を備えたテルディアスが立ち尽くす。

「おいしそうなおしりだったもんだから、理性が一瞬ぶっ飛んだ…」

顔をさすりさすり、サーガが起き上がる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...