キーナの魔法

小笠原慎二

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奴の名はサーガ

夢3

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テル…

呟いたのか、ただ思っただけなのか。
ぼんやりと目を開けると、そこはいつもの闇の中。

(また…闇の中)

上も下もわからない。
自分が立っているのか、ただ浮いているのか、沈んでいるのか、横になっているのかよくわからない。
ただ闇の中にキーナは存在していた。
ただ一人。
ところがまた、いつもと違っていた。
目を凝らすと、遠くの方で何かが光っていた。
その光の中、座っているものは、キーナのよく知る人物。

(ああ…、また、テルがいる…、また、ひとりじゃない…)

光に吸い寄せられるかのようにフラフラと歩き、テルの横にたどり着く。

「テル」

キーナが声をかけた。
振り向いたその顔は、キーナのよく知るダーディンの顔をしていた。

「誰だお前は?!」

冷たく言い放つ。

「もう三回目なのに~…」

いい加減分かってよ、夢なのに。
と文句を言いながらも、独りじゃない安心感に包まれていた。
いそいそと横に座りながら、

「何してんの?」

と声をかけるが、

「見ての通り座っている」

「そ~じゃないっしょ!」

「…」

夢でもぶっきらぼうな奴だ。
と、夢の中のテルが、少しおどおどしたようにキーナの顔を見た。

「お前、俺が怖くないのか?」

「どーして?」

「どーしてって…」

「?」

「…」

見りゃわかるだろうとでも言いたげに、キーナの顔を見つめるテル君。
さっぱり訳の分かっていないキーナ。
夢でも同じかお前ら。

「ダーディンを知らんのか?」

なんなんじゃこいつはと思いっきり顔に書きながら、キーナに質問するテル君。

「知ってるよ!」

それがどうしたとばかりに答えるキーナ。

「でもテルは違うっしょ?!」
当たり前とばかりに言い放つキーナ。
驚くテル。

「テルのこと信じてるもん」

やすやすと、テルディアスの欲しい言葉を放つキーナ。
本人は無自覚であるが。
警戒していたテルの顔がほころぶ。

「なんで…、見ず知らずの俺のことを…?」

「ん~、見ず知らずってわけでもないんだけど…」

なんと言ったら良いのかと考えこむが、特に良い言い回しが思いつくはずもない。

「なんか、テルといると安心するんだ。それだけなんだけど…」

「答えになってないな」

まさにその通りだな。
テルの瞳が警戒心をなくし、穏やかな光を湛えている。

「ひとつ、いいか?」

テルがおずおずと話しかけた。

「何?」

キーナは笑顔で受け答える。

「触れても、いいか?」

心の緊張が読み取れるような、震えるのを隠しているような声。

「いいよ」

キーナは笑顔で答えた。
固まった体をほぐすかのように、おずおずと、怖々と、テルが手を伸ばす。
その手をキーナは少しも恐れることはなく、そっと手を掴むと、少し強引にその手を自分の頬に押し当てた。
キーナの手よりも1.5倍は大きいのではないかと思えるその手。
キーナの顔がやすやすと隠れてしまうだろう。
たとえその色が異質なものだとしても、キーナは気にならなかった。

「テルの手、大きいね」

自分の手を押し当てているその少女がつぶやく。

「それに、あったかい」

柔らかく、温かい。
長いこと忘れていたような気がする。
人は、こんなにも温かいものなのだと。
その温かさを、手に入れたくなった。
もっと感じていたいと思った。
もっと温もりを感じていたい…。
頭がぼうっとなる。
もっと近くで、体中で感じていたい…。
この少女の存在を、温もりを感じていたい…。
意識が、少女のみに向けられていく…。

「ねえ、テル?」

ふいに少女が自分を見つめた。

「い?! あ、いや…」

「?」

我に返ってしどろもどろになるテル。
顔が赤くなる。
いったい何を考えていたのやら…。

「ずっと、僕の傍にいてね?」

キーナが穏やかに微笑む。
テル君の瞳が驚愕に開かれる。

「お前は…、一体…」

永遠に思える時が、一瞬のうちに過ぎ去って行った。
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