異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ドラゴンの里の変革

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クレナイと滄司の決闘、見たかったけど、出来なかった。
人の身で近くで見るのは危ないってのと、元の姿に戻って飛んだりするから意味がないと。そうだね。
クレナイと滄司の決闘はすぐに行われ、2人してあっちの方に行ってしまった。
離れた所に行ったと思ったら元の姿に戻り、白爺の言う「山のあっち」に向かって飛んで行った。
その後、ドカンとかドゴンとかズガンとか、まあ色々な破壊音が聞こえ、宴が終わる頃には静かになった。
そして、クレナイが青いドラゴン、まあ滄司だわね、を掴んで戻って来た。
それを開いた所にぞんざいに投げ捨て、着地すると同時に人の姿に。

「ふ、まだまだじゃのう」

そう言いながら近づいて来たクレナイも、よく見ると結構ボロボロ。
リンちゃんにお願いして、治してもらう。

「うむ。すまぬのう。リンや」

クレナイが終わったら、ついでに滄司も。

「ぬぬ、もう少しだったのに…」

動けるようになったら負け惜しみを呟いていた。いや、クレナイのボロボロぶりからしても、結構拮抗していたのかもしれない。

「まあ、ソウシには難しいかもしれん。というか、今のドラゴン族の中で、クレナイに勝てる雄はいるのかのう」
「え、クレナイってそんなに強いんですか?」
「なにせ、お前さんに名を貰っておるしのう」
「あれ、それなら滄司も…」
「氏ももらっておろう」

え~と、それですかい。
氏って言うよりは、あだ名みたいな感じで付けたんだけどな…。

「儂のように適当な名ではなく、存在を表す言葉で名を付けておる。それを言うならソウシもかなり強いのじゃが…。氏をもらってしまってはのう。ソウシがクレナイに勝てるのはいつになることやら」
「滄司にも付けるか…」
「お止めなされ。そうそうポンポン付けて良いものでもない」

白爺が言う?!

「てことは…、クレナイの婚期がどんどん遅れて行くんじゃ…」

いや、これは、もしかして番を見つけられなくなっちゃうんじゃ…。そして一生独り身…。
これって、私のせいか?

















クレナイはご両親と共に家に戻り、私達は白爺のお家にお邪魔する事に。
そして、先程約束した白爺が知らないだろう知識を披露。
私がいた世界の事を話したり、知っている昔話を話したり。
白爺も奥さんも、面白そうに聞いていた。
ついでにコハクも目を輝かせていた。そういえば皆にあまり話した事なかったっけ。
ハヤテは早々に眠くなったようで、先に就寝。宿で布団を経験していたせいか、そのまま布団にゴロリと横になり眠ってしまった。布団が気に入ったのかな?

そんな感じに話していると、いつの間にか時が経ち、コハクもうとうとするようになる。
さすがに遅くなりすぎるのもどうかと言う事で、寝る事になった。
白爺はもっと聞きたい顔してたけど、奥さんが止めていた。
ドラゴンも女性が強いのだろうか。















朝になり起きると、やはり皆すでに起きていて…。うん!いつもの事!
朝ご飯は私達にだけ出された。昨日いっぱい食べたので、ドラゴンの皆さんはしばし絶食するのだそう。
うん、山を作っていた肉達が、どんどん白爺と奥さんの口に運ばれて消えて行く光景ったらもう。食欲無くすこと請け合い。しかもいろんな調味料を加えた事により、食欲は増進して…。う、思い出すと朝食が食べられなくなる。考えるの止めよう。

それを考えると、クレナイの3人前は、大分我慢しているのだなと思う。今まで気にならなかったけど。もしかしたら抑える事によって、皆と一緒に食事したいのかもね。何気に寂しがり屋だし。
朝食の後、コハクは昨日作ったコップの彫り物について話があると、奥さんに連れられて行った。ハヤテはドラゴンの子供達と遊ぶ事に。子供だと、まだ変身出来ない子や、すでに完全に変身出来る子に分かれている。そこに混じって人型の姿で遊んでいた。まあ、怪我しなけりゃいいさ。
シロガネは、私の隣に座り、白爺と私の会話を大人しく聞いているようだった。でも途中ちょっと視線をシロガネに向けたら、何故か膝の上のクロを睨んでいたようなんだけど、なんでだろう?
しばらく歓談して、里も見て回りたいので家を出た。
ぐるりと白爺に案内して貰う。いや、こういうのって、お付きの者とかがやるんじゃ?暇なのか?

「リバーシって知ってます?」
「リバーシ?」

簡単に説明するも、やはり知らないらしい。ということで、シロガネに作って貰う事に。

え?なんで私がやらないんだって?ふ、私にそんな器用なことが出来るわけないだろう!

そこまで広くはない里の中、すぐに見学は終わってしまう。まあ、面白いのは炊事場が外にあって、それを皆で共同で使ってるって事かな。なにせ量が多いから、家に竈を置くのも、大量に作るのも不便なんだと。あの量なら、納得。
そこへ、クレナイのお父さんとお母さんが姿を見せた。おや、クレナイとの積もる話は終わったのかな?

「ヤエコ、殿、だったな」
「はい。そうです」

確かチチ、じゃないヂヂさんだっけか。

「申し訳なかった」

そう言って2人が頭を下げた。なんのこっちゃい。

「あの、何がでしょう?」
「私は貴女を誤解していた。人間など皆同じ物だと思っていた。しかし、夕べの娘との話で、貴女がいかに娘の事を大事にしてくれていたのか知った。そうとは知らず、いきなり敵意を向けてしまって申し訳ない」
「本当に、申し訳なく思っております」
「いえいえ、大事な子供が攫われて、今まで生死も分からない状態だったんですもの。仕方ないですよ」

2人がゆっくり頭を上げた。

「本当に、娘のクレナイが言う通りのお方だな」
「ええ、真に」

いやいや、何を言ったんだよクレナイ。

「いや、昨夜娘と話をしたのですが、これがまた、今までの主への愚痴と、それに比べての今の主の偉大さなどをコンコンと説明されましてな。それほど娘が慕っている方なら、悪い方ではないのだろうと」
「まるで恋する乙女のように、貴方の事を話していたのですよ」

クレナイ…。やめて、過大評価。誇大妄想。

「いえ、私も人間ですから。警戒は怠らないで下さい」
「本当に面白い御仁だな」
「ええ」
「自分で自分のことを警戒しろなどと言う人間は珍しいわい」

まあそうでしょうね。
いやでも、私だって人間ですから、汚い部分だってちゃんとありますよ。それがどう作用するかは分からないんだし。

野良猫、今は地域猫という変な名前になったけど、彼らが私を見て逃げる事に、時折ほっとする。そりゃあ猫好き人間から見たら寂しいけど、その警戒心があれば、生き物を生き物と思わないような変な人間に捕まる事はないだろう。
一番嫌なのは、人間の事を信頼している野良さん達が、そういう心ない人間に捕まってしまう事。だから、私を見て逃げる子は、ちょっとほっとするんだ。
人間はただ知恵が回るだけの、弱小生物なのにね。
そろそろお昼時だなと話していたら、向こうから子供達の群れが。ん?なんか、浮いてません?

















一緒に遊んでいるうちに、何がきっかけか、ハヤテが部分変化をしてしまったらしい。それを知った子供達は目を輝かせ、どうやるのどうやるのと質問攻め。
まだ語彙が十分でないハヤテが一生懸命説明して、と言っても「こうをね、こうするの!」という脳筋スタイル感覚説明だった、にも関わらず、子供達は感覚を真似する?のが早い。
1人が出来るようになると、後の子達も負けじと頑張って、皆出来るようになりましたとさ。

「こ、こ、こ、こ、これは! 大発見じゃーーーーー!!」

白爺が喜んでいた。

「これが出来るようになれば、人間の街にも行きやすくなるわい!」

ああ、そうね。いちいちドラゴンの姿に戻って飛んで行くと騒ぎになっちゃうからね。
っていうか、羽生えた人間がいても騒ぎになるわ!
そこんところを白爺にきちんと説明する。部分変化で飛ぶのはいいが、人に見られたやはり大騒ぎになるから気をつけろと。

「なに。この姿でも腐ってもドラゴンじゃ。人間如き束でかかって来ても負けやせん」

そういうことじゃない!!
あああ、種族間の感覚のズレって…。説明しても分かって貰えない…。

「大丈夫じゃて。そこら辺は儂らも分かっておる。見られんようにして飛ぶわい」

本当に分かっているのか分からないけど、もう私に出来る事はない。
早速どうやるのか子供達に訪ねていたけど、子供達の説明は、まあ、そんな感じで要領を得ない。

「うちのシロガネとクレナイも出来るようになってますから、そっちで聞いてみては?」
「なんと! 分かった! 行ってくるのじゃ!」

と、私を置いて一目散に駆け出して行ってしまった。

「長老様! 私も!」
「私も参ります!

お父さんとお母さんも行ってしまった。
そんなに部分変化したいのかしら?
仕方ないので、子供達とお食事する場所へ。当然、ドラゴンの子達は食べません。
煮炊き係のお姉さん(叔母さんとは言わない)が、私達の分の食事を作ってくれていた。ありがたや。
ドラゴンの子供達は食べる必要がないので、遊びに行ってしまった。そこに、コハクが奥さんに連れられてやって来た。そういえばシロガネはどうしただろう?

リバーシ作れる?と聞いたら「お安い御用である」って胸を叩いて、白爺達の家の方に向かって行ったんだよね。時を忘れて作ってるのかな?

コハクも私の隣に座って、今まで何をしていたのか話し始めた。
簡単に言えば、あのコップの模様の彫り方を説明していたそうな。
昨日コップを見て興味を持った者の中から、手先が器用な者を選び、コハクが教えていたらしい。
ところがまあ、初心者にあんなにコハクのような綺麗な模様が描けるわけもなく、悪戦苦闘していたとか。あれはコハクが器用すぎるのよ。
簡単な模様から練習していったらいいと言って、まずは直線を描く練習、それから曲線、図形、などとレベルを上げて行っているのだそうな。コハク、先生になれるんじゃない?
出て来たお食事を食べていたら、クレナイがやってきた。

「主殿、部分変化を教えても良いのじゃろうか?」

と困った顔のクレナイ。

「すでに遅いよ。子供達は全員出来るようになってるらしいから。ハヤテのおかげで」
「手遅れじゃったか…」

クレナイが頭を抱えた。

「部分変化とは、なんですか?」

事情を知らない奥さんに、躊躇ったがどうせバレるしと説明。目を輝かせる。

「クレナイ! さあさあ、皆さんお待ちになってるんじゃありませんの?! いきましょう!」
「いや、奥方殿! しかし部分変化は人化に慣れてしまった者ほど修練しにくくて…」
「大丈夫です! 私達には時間がたっぷりあるのですから!」

クレナイが引き摺られるように連れて行かれた。

「食べよう」
「そうですね」
「たべうー」

何事もなかったかのように、私達は食事をしたのだった。
気がついたら、煮炊き係さんもいなくなっていた。職場放棄じゃないか?
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