異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

妖術?

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「ハヤテ!」

動かないハヤテの元へと走り寄ると、ハヤテが微かに首を動かす。

「ああ、無理しないでいいよ。生きてて良かった…」

側にしゃがみ込むと、薄目を開けてこちらを見てきた。健気…。

リィン

頭の上からリンちゃんが降りてきて、ハヤテの頭に降り立つ。

「リンちゃん! 治せる?」

リンちゃんは頷くと、腕をまくるような仕草をして、ハヤテの頭に両手をついた。
そんな仕草何処で仕入れてきたんだ、可愛い…。
リンちゃんの体の光が増し、ハヤテの体も光り始めた。
数分後、光が収まりリンちゃんが疲れたように尻をつく。

「グア」

ハヤテが体を起こし、立ち上がった。体を起こした拍子に転げ落ちそうになったリンちゃんを両手で受け止める。危ない危ない。

「ハヤテ~。良かった~。この、心配掛けさせおって」

ハヤテの首に抱きつく。
おお、この感触にこの大きさ…。なんて私の腕にピッタリ…。
手で撫でながら、顔も羽毛でモフモフモフモフ。なんて抱き心地が良いのだろう…。

「八重子、いい加減にしないと日が暮れるぞ?」

クロからストップが入りました。
渋々体を離し、ハヤテにはまだ休んでいてもらって、ごねたけど、ちょっと強く言って休んでもらって、その間に倒したゴブリン達の左耳を切り取る。
さすがに多いのと、森の中で人の気配もないことから、クロも人化して手伝ってくれる。

「草むしりの時にその姿で手伝ってくれても良かったのに…」
「人に見られて説明を求められたらどう説明する気だの」
「・・・、通りがかりの親切なお兄さん」

苦しいか。

一度耳を集めて、それをリンちゃんに止血してもらい、袋に入れる。
血が垂れないだけでも有り難い。

「主、このホブゴブリンとゴブリンメイジも左耳でよろしいのか?」

ここまで来てやっと正体が判明したでかいゴブリンと着飾ったゴブリン。

「同じで良いんじゃないかな? 同じゴブリンなんだし?」
「念のために身に付けている物の一部でも持って帰れば、説明も楽になるのではないかの」
「そうだね。何かしら持っていこうか」

でもホブゴブリンは身に付けている物って、ほぼただのゴブリンと変わらないのだが。

「この大きい棍棒でも持っていくかの」

何故そんな大きい物片手で持てるんですかクロさん。
でかい奴が持っていただけあって、棍棒と思わしき物もでかい。丸太と言っても過言ではない。

「この装飾品、遺跡から持ち出したのであろうか。売れば良い値になるかと思われるぞ」

シロガネ、剥いてる。

「そういえば、遺跡の中って、もうゴブリンいないよね?」
「うむ。もう動く者の気配はないの」

良かった。捕まってる女性とかいたらどうしようかと…。同じ女性として、そんな場面あまり見たくないしね。
ゴブリン達の死体をこのままでは、村の方にまでも死臭が立ち込めてしまうと、集めて処分することに。肉体労働はおまかせする。ハヤテも少し回復したのか、回収を手伝う。
ホブとメイジは念のため別で地面に埋めるとか。倒したことを疑われた時の為らしい。
地面に埋めるのはシロガネがひょいとやってしまった。シロガネは風と水と地属性の魔法が使えるらしい。
集められたゴブリン達の死体を前に、クロがハヤテに講義を行う。

「よいかハヤテ。魔法でもなんでも使い方次第だ。お主の戦い方はまだ力任せで、駆け引きがなってはおらん。今後の課題だの」
「クア!」
「火の魔法もただ爆散させるだけではなく、収縮して威力を上げることも重要だ。つまりこのようにだの」

クロの掌に、紫の炎が現われた。
何故に紫?

「そしてこうして」

ゴミでも投げるかのようにクロがその炎をゴブリン達の死体の山に放り投げる。
すると一気に火が回り、あっという間に一筋の煙を残して全て消えてしまった。
ちょっと待て、何故一瞬で消えた。

「こうなるのだ」
「クア」
「ちょっと待て――!!」

有り難いことにシロガネから待ったがかかりました。

「貴様! 今の炎は何だ! 色はおかしいわ熱量をあまり感じられないわ、一瞬で燃え上がって消えてしまうわ…。普通の炎の色は赤であろう! 燃えるにもそこそこ時間が必要ではないか! しかも周りをほとんど燃やしていないとは、どういう魔法だ!」
「魔法ではない。妖術だ」

きっぱり。

「よ、ようじゅつ…?」
「この世界の理とは少しズレた力である。故に、説明は難しいの」

狐火とか、そういう類いのものなのでしょうか。
てか、あれってそんなに高い温度なのかしら?

「魔法でも頑張れば同じような現象を再現することは可能なのではないか? 熱量を収縮して風で周りの温度を調整してやれば…できるのではないかの?」

できるんでしょうかね?

「いくら熱量を収縮したとして、一瞬で骨も残さず消すなど、どれだけの力だ」

だよね。

「クア?」

リン?

ハヤテとリンちゃんと共に、私達は首を傾げていた。出来るかどうか実験したくても、出来る人がいないものね。









2人(?)の論争に適当に終止符を打ち、遺跡を調べようと言うことに。

「ダンジョン…」
「それほど複雑な物でもないし、奥もそれほど深くは無いぞ」

クロさん、夢ぶち壊し。
試しに入ってみたが、ゴブリンがいたせいかなんとなく臭いようなジメジメしていて、奥もクロの言っていた通りそんなに深くなく、特に珍しいアイテムがあるようなこともなかった。

「隠し部屋とか…」
「ないぞ」

クロさん、夢ぶち壊し…。
入り損でした。

「う~、なんか臭いが移った気がする…」

気のせいかもしれないけど、やっぱりちょっと気持ち悪い。
シロガネがウォーターボールを出してくれて手を洗ったけど、やはりちゃんと洗いたいねぇ。

「ふむ。近くに川がありそうだの。昼を食べ忘れていたし、そこで一休みするかの」

大賛成。
森の中をえっちらおっちら行くのも時間がかかるので、シロガネに馬…ペガサスに戻ってもらい、空から。クロも猫に戻ってます。
少し行くと、それほど大きくはないが、シロガネが楽に入れそうなくらいの幅の川があった。
空からだと早いね。
手を洗ったり口を漱いだり、シロガネとハヤテはゴクゴク飲んでます。
クロもテチテチと可愛い舌を動かして飲んでる。うう、あの姿が可愛い。


猫の不思議な話で、猫は何故か水脈が分かるのだそうで。本当か嘘かは分からないが、昔見たテレビ番組で、試しに野良のにゃんこが気持ちよさそうに寝ている所をダウジングしてみると、ほぼ反応していた。たまにしないのもあったけど。
何故水脈の上で寝るのかは分かっていないのだそうだ。


私もペットボトルの水を飲んで、持って来た昼食を食べる。んふふ、ウララちゃんの宿の昼はいつも美味しい。
てか、虹彩雉の一件以来、おじさんの料理の情熱が増したとか。良かったね?
しばらく昼休憩ということにして、シロガネはそこらの草を食べ始め、ハヤテは適当に狩りに。クロは私のお弁当をちょっとあげて、あとは草むらで何かを獲っていたけど、それは見ないふり。リンちゃんも近くで咲いていた花に頭を突っ込んでご満悦。

リンちゃん、頭の髪に刺しているものがストローらしく、花の側に行くとそれを引っこ抜いて花の中にぶっ差して蜜を飲んでいる。
う~ん、のどかだなぁ。
数時間前にゴブリンの群れに突っ込んでいたとは考えられん。
でも、側に置かれた袋の膨らみが、存在を証明している。
ま、嫌なことは考えないでいいでしょう!

しばらく川の畔で休憩して(遊んで)、風の魔法で体を乾かしてもらった。
水浴びはしてないよ。サービスシーンはないからね。しようかと思ったけど、ちょっと冷たかったのさ。
それから皆で歩いて村まで帰った。
丁度夕飯の時間になる頃だった。
ハヤテが獲って来た猪を差し上げたら喜ばれましたよ。
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