異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ほれほれ、こっちだぞ

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ハヤテの後に付いていくと、遺跡のような物が見えてきた。
どうやらゴブリン達はそこを拠点にしている様子。
木陰からそっと覗くと、ある程度形の残っている遺跡の入り口辺りに、数匹のゴブリン。
ハヤテを警戒しているのだろうか。

「あれ、中にもいるよね」
「うむ。数十匹ほど気配があるの。そこそこ大きな群れらしい」
「大きいのか…。じゃあギルドに戻って報告かな? 大きいと他の冒険者さん達と協力して退治しなきゃいけないんだよね?」
「それは自分たちで処理できない場合であろう?」

できるんですかクロさん。

「ハヤテ、良い機会だ。戦闘訓練も兼ねてゴブリン共を殲滅するのだ」
「クア!」

殺る気満々ですね。

「馬とリンはここで八重子を守っておれ」
「馬ではない! ペガサスだ!」
「大声を出すと気付かれてしまうぞ」

気付かれたようです。
ゴブリン達がこちらを向いて、数匹がこちらに歩いて来ます。

「おい馬、八重子にかすり傷でも負わせるのではないぞ。もし傷を負わせたならば、この先ではなく駄馬《・・》呼ばわりするでの」
「このク猫が、我が主に傷を負わせることなどさせるはずがなかろうが」
「口先だけならば如何様にも言える物だの。行くぞハヤテ」
「グアー!」

ハヤテとクロが飛び出して行きました。

「あのクソ猫…。猫風情の分際で…」

うん、うちのクロさん口が悪いようで、ごめんなさい。

「まあまあシロガネ。私は頼りにしてるから、よろしくね。シロガネは防御が得意なんでしょう?」
「うむ。我は防御魔法が得意であるぞ。一応攻撃魔法も使えなくはないがな」

草食動物だから防御が得意なのかしら?そういうのは関係ないのかしら?

「リンは癒やしの力が我らの中で随一であるし、ハヤテも魔法を覚えれば今以上の戦力になるはずである。人のパーティとやらで言うと、とてもバランスの良いパーティだと思えるが」

人が一人しかいない不思議なパーティが出来ていた。これはこれでありなのか?

飛び出して行ったハヤテは、翼を大きく広げると、大きく羽ばたかせた。
風の渦がゴブリン達に迫り、スパッと綺麗に両断していく。
おお、これは鎌鼬、ならぬエアカッターですな!これは、魔法なのか?

「ほお、ハヤテも少しは魔力の使い方が分かってきたようだな」

野生の勘で魔法を使っているようです。

「グアー!」

ハヤテが声を上げると、炎の球が一つ、二つ、三つ。ハヤテの頭上に現われる。
それがゴブリン達に向かって飛んで行き、大きくはないが爆発する。
あれは火の魔法か?ファイヤーボールか?

「ほお、ハヤテは火属性とも相性が良いようであるな」

あっという間に外にいたゴブリン達は倒された。
その間クロは、ハヤテの戦い方を見ていた。
小さい先生に大きな生徒…。やべ、可愛くて萌える。
遺跡の中からワラワラとゴブリン達が出て来て、それをハヤテが迎え撃つ。
ハヤテはまだまだ小さいと言えどもグリフォンだ。そのかぎ爪や嘴でゴブリン達をどつき回し、魔法を使って蹂躙する。
クロはそれを油断なく眺めている。

そして、一際大きなゴブリンが出て来た。
あれはホブゴブリンと言う奴か?それともチャンピオン?
名前なんぞ分からないけど、今までのゴブリンとは格が違うと言うことは私にも分かった。
その後ろからは、いやに飾りっ気の多いゴブリン。メイジかシャーマンか。

あ~、異世界知識が零れてくる~。

一応危険な場所なのではあるけれど、ちょっと私はワクワクしていた。異世界好きだったらしょうがないよね?
ハヤテがまた翼を羽ばたかせる。
ところが、後ろのシャーマンみたいな奴が持っている杖を振ると、風が弾かれた。
火の弾を発射しても防がれてしまう。
そしてでかい奴がハヤテに迫ってくる。上空へ逃げるハヤテ。
上空からまた風をお見舞いするが、やはり防がれてしまう。
魔法では無理と悟ったのか、かぎ爪を剥き出し、大きい奴に襲いかかる。

しかし、

「あ!」

思わず声が出てしまった。
動きを読まれていたのか、足を掴まれてしまうハヤテ。そのまま地上へと叩きつけられてしまう。

「ハヤテ!」

思わず飛び出しそうになり、慌てたシロガネに押さえつけられる。

「主! 貴方が出ていってどうなさるおつもりか!」
「どうって…」

何も考えてません。
と、その騒ぎでこちらのことが気付かれてしまったらしい。
でかい奴がこちらを見て、にいっと気持ち悪い笑顔を浮かべた。
え~と、確かゴブリンて、他の生物の雌を攫って繁殖するとか…。
待って!待って!さすがに嫌です!まだまともにお付き合いもしたことないのに!
背筋が凍るほどに寒くなった。

「安心しろ八重子。それはさすがに我が輩がさせん」

いつの間にかクロが、でかい奴と私との間に。
さすが猫。忍び歩きは天下一品。

猫は獲物を獲るために、できるだけ近づきます。その時、どれだけ足音を殺して近づけるかどうかで狩りの成功率が上がります。もちろん、近ければ近いほど成功率は上がります。
さて、その時に役に立つのが、足の裏などに生えている毛なのです。
飼っている人は知っていると思いますが、猫の肉球の間からも、結構毛が出てます。
猫はその毛をセンサーとして使い、肉球の柔らかさも手伝って、ほぼ音を立てずに歩くことが出来ます。
知らず知らず人の近くに来て、気付かずに尻尾を踏んでしまうことも何度か…。
もし触らせてくれる猫ちゃんでしたら、その肉球の間の毛も触って見て下さい。
何気にそこの毛もサラサラのフワフワで、ついでに肉球がプニプニで…、夢見心地になれます。
なんて素晴らしいかな、猫様。

大きいゴブリンが、なんだこの猫的な感じで、持っていた棍棒をクロに振り下ろすが、寸前でクロの姿は消えていた。

「ほれほれ、こっちだぞ」

いつの間にか大きい奴の後ろに現われたクロ。
大きい奴がまた棍棒を振り回すが、かすりもせずにまたクロが消える。

「「ほれほれ、こっちだぞ」」

何故かクロが増えてます。
左右に現われたクロに驚くでかい奴。
しかし頭はやはりそう良くないらしく、また棍棒を振り回す。
また寸前でクロの姿は消え、

「「「ほれほれ、こっちだぞ」」」

また増えた。
棍棒を振り回す。
クロが消え、クロが増える。



「「「「「「「「「「ほれほれ、こっちだぞ」」」」」」」」」」

何匹になったのか数えられなくなったクロの大群。
あんなにクロがいたら…。私は嬉しくてみんな抱きしめてしまうかも…。
ちょっとでかい奴がうらやましい。
しかし当人は嬉しくもなんともないらしく(当たり前か)、棍棒を振り回すが、クロは消えるどころか増えていき…。

「グオオオ!」

でかい奴が吠えた。いい加減飽きたか?
と思った次の瞬間、でかい奴の首元に、これまたでかくなったクロが噛みついていた。
虎くらいあるんじゃないか?

ゴキ

鈍い音がして、でかい奴が動きを止める。
クロが離れると、でかい奴はゆっくりと倒れた。
気がつけば、あれほどいたクロもいなくなっている。
そして、残っていたゴブリン達やシャーマンらしき奴も、いつの間にか地に倒れていた。

「クロさん万能…」
「な、なんだ? 何故あんなにクソ猫がいっぱい…?」

シロガネも目を丸くしてます。
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