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第三章 女王イリスの誕生

2話 「戦斧闘技」

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ゴブリンロードのドンゴを看取り、ラーデンブルグ公国へ帰って来たイリス。

夜中に帰るなり師匠のクレアのベッドに潜り込む。
イリスは、酷く落ち込んだ時は必ずクレアのベッドに潜り込む癖が有る。

「早かったな・・・ドンゴ殿をちゃんと送ったか?」

「・・・はい」
イリスはゴソゴソとクレアの胸に顔を埋めて目を閉じる。

「そうか・・・良く頑張ったな」
自分の胸元に顔を埋めるイリスの頭を優しく撫でるクレア。
そしてクレアなりのハイエルフの矜持を語る。

「イリスはハイエルフとして生きる上でこれから何度も親しい者を見送らねばならん。
その度に大いに泣いて、そして大いに笑わないとならない。
妾達が皆が生きた証になるのだからな、泣いてるばかりではいかんのじゃ」

「はい」

「その様子じゃと「ワイトキング」には会っておらんな?」

「・・・ごめんなさい」

死者の王ワイトキング・・・死者の送り人であるハイエルフは死者の魂を送った後にワイトキングに会い、送った魂の今世での功績を説明をしなければならない。 

産まれて初めての親しい者の死がイリスには悲しくて悲しくて仕方なく、とてもワイトキングに会う余裕が無かったのだ。

「まぁ、ドンゴ殿なら問題あるまい。
ドンゴ殿はな・・・異世界へと旅立ったらしい・・・」
イリスが会いに行かなかったのでワイトキングからクレアの方に報告が来たのだ。

「え?!異世界?!」

「正確には「故郷へと帰った」と言うべきか」

「エリカが居た世界ですか?」

「それが違うらしいのう、ガイヤより遥か遠くにある異世界らしい。
ふふふ・・・ドンゴ殿はな?前世では「勇者」だったらしいのじゃ」

「ええ?!勇者?!」

「そうじゃ、その世界が現在は結構ピンチらしくてのう・・・
ドンゴ殿はまた勇者として転生して故郷の為に尽くすとの事じゃ」

「そっか・・・ドンゴさんは、この世界に転生しなかったんだ・・・寂しい」
グリグリとクレアの胸に顔を擦り付けるイリス。

「なあに、それでも妾達の方が遥かに長生きするのじゃ、必ずドンゴ殿の魂に会う日は必ず来る」

「そうだと・・・良いなぁ・・・・・・・すぅ」
相当量の魔力を消費したイリスはもう起きていられずに寝息を立て始める。

「ふう・・・そろそろイリスの勇者としての因果が動き始める頃よな・・・
愛しい弟子よ・・・挫ける事なかれ」
そう言って眠るイリスの頭に祝福のキスを落とすクレアだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「イリス!完全復活ーーーー!!」

《いよ!イリス!カッコいい!空元気全開だけどねぇー》
今日は珍しくグリフォンの姿のエリカがイリスを茶化す。

イリスの背中にはドンゴの遺品の大戦斧が装備されている。
帰る時にドンゴのお弟子さん達が形見分けをしてくれたのだ。

「空元気でも良いのよ!目下の目標は背中の大戦斧を使える様になる事です!」

《でもイリスは「拳闘士」だよね?》

「イリス殿が武器を持つのは良い傾向です」
ガストンの指摘通りイリスは武器を持つの嫌がり戦場でも丸腰で参戦するのだ。

せめて短剣くらいと皆が言っても邪魔だからと言う事を聞かない、そんなイリスが武器に興味を示したので少し安心するガストン。

「その通り!なので戦斧闘技を開発します!」

イリスの言う戦斧闘技とは戦士が戦斧を振り回す戦い方では無く、肉弾戦において身体の一部分として戦斧を使う技法の事である。

「戦斧闘技ですか?また随分と難しい技になりそうですなぁ」
空元気でも元気が出たイリスにホッとするリザードマンのロイ。

「いや案外大戦斧と武闘技は相性良いかも知れませんよ?
例えば戦斧ごと体当たりするとか、円の動きにも合ってますね」

「さすがガストンさん!その通りなのです!幾つか候補を考えたから見ててね!」
そう言いながら演武を始めるイリス。

戦斧を両手で持ちクルッと前転しつつドン!!回転斬りの様な動作から始まり。
それから戦斧を寝かせて肘を当てて身体ごと横に回転する。

「ふーむ?リーチは短いですが防御としては使えそうな技ですなぁ」

《相手の身体が回転しながら戦斧が目の前に迫って来るからね、私なら5歩以上は後退するわ》

「イリス殿、もう少し戦斧を身体に密着させては?」

「こう?」イリスの戦斧は片刃なので肩に担いでクルンクルンと右斜め回って見る。

《お?動きがスムーズになった》

「手元が見えないので相手は、かなりやり辛いでしょうなぁ」

「イリス殿は軽量なのでより近くに戦斧を重心をもって来るのが良いでしょう」

「!!そうか!戦斧を本体にすれば良いんだ!」
今後はポールダンスの様に戦斧を中心に回り始めるイリス。

《うわ!もう完全に曲芸じゃん》

「これはまた・・・」見た事も無いイリスの動きに面を食らうロイ。

そして実戦訓練よ!とロイと手合わせしたイリスだが見事に負けた・・・
戦闘と曲芸は別物でドッシリと腰を落としたロイは接近する攻撃のみに集中してイリスの攻撃を完封したのだ。

「むう・・・難しいわ」

「しかし武器の使用により一撃は重くなってますから収穫は有りましたぞ」

「エリカは何か感じた?」

《ん?魔法攻撃も併用させたら?回転している時にファイアーボールを撃ちだすとかしたら攻撃も幅も広がるんじゃない?》

「それだーーーー!!!」

エリカの助言でイリスはポールダンスしながらファイアーボールを撃ち出したら狙いが全然定まらずに四方八方にファイアーボールを撃ち出して、たまたま近くを歩いていたシルフィーナにファイアーボールが直撃した。

「いきなり何なんですのーーーー?!」
背中をプスプス焦がしたシルフィーナは激オコである。

「ごめんなさーーーーい?!?!」

それから戦斧闘技の話しを聞いたシルフィーナは、「んー?」とイリスの戦斧を持ってポールダンスを始めた。

《うわ?!上手い!!》

それから「ウインドカッター!」回転しながら魔法を発動させると風刃は曲線を描いて全て的に的中した。

「いきなり成功ーーーー?!」

《シルフィーナちゃん凄ーーーーい?!》

「イリス、回っている時に戦斧を見ているでしょう?
回っている時も相手から視線を離してはいけませんわ」

「む・・・難しそう」

「大岩回避の応用ですわ。
あの時も大岩から視点を離したらすぐにプチンしていたでしょう?
大切なのは一点への集中力ですわ」

「そっか!あれだね」

《あっ・・・嫌な予感が》

「エリカ!早速霊峰シルバニアに修行をしに行くよ!」

《やっぱりかぁーー!嫌ぁああああああ?!》

嫌がるエリカに飛び乗り手綱を引くイリス、悲しいかな既にイリスから調教済みのエリカはイリスの手綱捌きには抵抗出来ない、ブワッと翼を広げて空に飛び立つ。



《いやあーーーーん?!?!》
エリカとイリスはエリカの悲痛な叫びを残して空に消えて行った・・・




「・・・・・・・仕事ほっぽり出して行ってしまいましたわ」

「まぁ、イリス殿には気分展開が必要だから良いんじゃないかな?」

「そうですな、今は何かに夢中になるべきですな」

ゴブリンロードのドンゴの死で落ち込んで現在空元気中のイリスが本当に元気を取り戻せるならと、総長のサボりを容認する龍騎士隊の隊長達。

言い出しっぺの参謀エリカが見事に巻き込まれたが些細な事だろう。


果たしてイリスは悲しみを乗り越えて戦斧闘技を完成させる事が出来るのか?
そして巻き込まれたエリカは何回大岩にプチンされるのか?

ドンゴの死によりイリスの運命は動き始めたのだった。



《嫌ぁあああああ?!大岩プチンはもう嫌ぁあああああ?!》








「あれ?「魔法世界の解説者」への出張はもう終わり?」

『そっすね、「戦乙女の英雄編」が妙に長引いてますからね。
予定より倍以上の文字数のエピソードになってます』

「・・・早く主人公シーナを出しなさいよ?」

『そっすね、すみません』
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