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改稿版
クソ親父との出会いと誕生日会と聖女フェナの暴走!
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その後、ジャックとの仕事は順調に進み着々と生活費(主に家族と使用人の食費)を稼いでいた一家の大黒柱のセリス。
カターニア公爵家では使用人の賄いは全額公爵家持ちなので油断は出来ないのだ。
「うおおおお!!ベン精肉店のツケを完済したぞぉおおおお!!!」
厨房で勝利の雄叫びを上げる勝者セリス!
「お嬢様!おめでとうございます!!」セリスの苦労を知っている料理人達も大喜びだ。
「ありがとう、ありがとうね、皆んな!」
苦楽を共にした戦友達、お互いに肩を叩いてお嬢様の戦果を讃えてる・・・そこに!
「ベン精肉店でーす!セリス様、今週分の精肉をお届けにきました~」
噂の宿敵さんがたっくさんのお肉を持って現れましたよ!
そしてこの配達人はセリスを厨房のボスだと思い込んでいるのだ・・・あれ?間違ってない?!
公爵家の家族11人、使用人86人(住み込みの子供含む)、護衛騎士18人、働き盛り育ち盛りの115名が一週間で消費するお肉なのでとにかく量がヤバい!
このお肉の全てが公爵家負担なので確かにセリスの言う通りバカには出来ないね!
「ああ・・・いつもご苦労様です。うん、いつものそこに置いておいて下さい」
一気に熱が冷めて通常モードに戻ったセリス。
「毎度~」お肉を納品して請求書を机の上に置いて颯爽と去る宿敵さん・・・
そしてその請求書を懐にしまって今月の金策の旅に出掛けるセリス。
いつもの光景である。
「さっ・・・お肉も来た事だし夕飯の下拵えしますか」
「そっすね」
カチャカチャ、トントントン、
いつもと同じ様にお料理をする音が厨房に鳴り響き始めた。
こうしてカターニア公爵家とベン精肉店との「今月」の戦いの幕が上がったのだった。
皆んなのスキッ腹は1時間たりとも待ってはくれないのだ。
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そんな毎日を過ごしているセリスも9歳の誕生日が近いのだが?
「お父様・・・とても嬉しいのですが・・・贅沢は・・・」
「うんうん、可愛いよセリス」
「本当に妖精タン見たいだわ」
「お母様にも「妖精タン」が移った?!」
セリスは新しいドレスに身を包み父と母と一緒にお誕生日会のリハーサルをしていた。
どうでも良い話しだが魔法世界に「妖精タン」が居るか?居ないか?で言うと普通に居る・・・そう・・・貴方の直ぐ後ろにも・・・
真面目な話しを書くとセリスも「妖精タン」の一種である。
セリスの場合は「妖精タンの突然変異個体」の肩書きが付くのだが。
《夢も希望も無い言い方すんな!素直に「元霊樹」って言え!》
話しを戻して誕生日会に新しいドレスを新調する・・・貴族としては当然の嗜みなのだが、セリスにこびり付いた前世の金銭感覚が拒絶反応を示す。
しかし長子の誕生日会はカターニア公爵家のメンツに関わる大事なイベントなので疎かには出来ないのも分かるのだが・・・
「だって9歳でしょ?直ぐに成長するじゃんか!来年にはもう着れないじゃん?」
そう大事なのはそこなのだ、実に勿体無いのだ。
勿体無い精神の日本人、特にセリスの前世は大正生まれで昭和初期育ち、大きな戦争と戦後の物不足の苦労を体験している。
極貧の中での質素倹約の時代の人間だったので、この貴族の感覚にはとてもでないが慣れそうも無い。
本当は着れなくなったドレスは妹達にあげたい・・・あげたいのだが。
セリスが何かを双子の妹に渡すとそれが原因で大喧嘩を始めてしまうのだ。
2人共、セリスお姉様が大好きなのでお姉様がくれる物は全部、自分が独り占めしたいのだ。
それぞれ違うドレスをあげてもダメだった・・・
自分を慕う妹達はとても可愛いのだが困った妹達なのだ。
その下の産まれたばかりの妹達は三つ子・・・既にシスコンの予兆が出ている?!
「って、これもう詰んでんじゃん?」とセリスはため息をついた・・・
「もう!13歳までワンピースで良いじゃんか!」とセリスは思う。
ワンピース・・・奴は、とぉーっても優秀な子なのだ。
良い生地の少し大きめな物を買って、あらかじめスカートを詰めておけば成長期の子供に対応出来るのだ。
「早くデカくなって服の寸法が変わらんくならんかな~」
そう願うセリスだが、17歳で身長は止まっても胸の成長が20歳まで全然止まらん未来が来る事をまだ知らない。
女性の服の胸の部分はとてもセンシティブな場所なのでリメイクが出来ない。
身長が止まっても結局20歳まで毎年服を買う羽目になるのだ。
結局、このセリスの使われなくなった子供服はその原因にもなった双子の妹の1人、裁縫職人ステファニーがリメイクして末娘や公爵家の使用人の子弟で結成されたカターニアキッズ(後に勇者ライセントによって結成されるゴリゴリの武闘派集団、「カターニア魔法剣士旅団」の前身)に着せるのだが、お披露目までの日はかなり遠い。
そんな事を考えてるセリスの所にフェナが、「お嬢様、なにか怪文書が来ましたよ」と手紙を持って来た。
「いや、栄えある9歳のお誕生日会目前の主人にそんな怪文書を持ってくんな!」
「いえ、「金稼げるぜ?」とか封筒の表にデカデカと書いてあるので」
封筒に書かれた見慣れた筆記体を見ながら呆れた様子のフェナ。
「貸して!見るから!」と、フェナから手紙を奪い取るセリス。
セリスが速攻で食いつく様に封筒に細工をする送り出し人もなかなか巧妙だ。
そして封を切って手紙を検めると、「いや、怪文書って・・・冒険者ギルドのハイマスターからの手紙じゃない。しかも正式な依頼書?」怪訝そうなセリス。
「おいおい一体何事なんじゃい?」と更に手紙を読み進めると、「ああ~、ジャックさんとの仕事がギルドにバレて、このまま放置するとお前の税金がヤバい事になるから一度、確定申告をやりにギルドに顔出せやって事か~、やっぱり放置するのマズイよね~」と項垂れた。
追徴課税が来るだろうなぁ~と思っていたら、やっぱり来た。
一応、その分は使わずに残しているのだが・・・やっぱり勿体なーーーい!!!
「マズイんですか?」フェナが首を傾げる。
「うん、手紙にはヤベェ金額の追徴課税が来るぞっ!って書いてる」
「ヤベェじゃないですか!」
「マジでヤベェですね、冒険者ギルドへ行きます!」
こうしてセリスは見事に冒険者ギルドのマスターに釣り出されてしまったのだった。
普段ならギルマスから手紙を寄越されたくらいでは冒険者ギルドには絶対に行かないが追徴課税はマジヤベェ。
30%の割り増し料金だからね!早く確定申告をせねばならん!
何でセリスが冒険者ギルドに行きたがらないかと言うと冒険者ギルドが「王妃の直轄機関」で、ギルドに来る王妃の部下の人に見つかると高確率で誘拐されるからだ。
前に冒険者の資格について尋ねる為に冒険者ギルドを訪れてそのまま誘拐された時など王妃に構い倒されて夕方にカターニア公爵がセリスの奪還に来るまで家に帰れなかったのだ。
王妃の事は大好きなのだが、王城で着せ替え人形にされてお茶やお菓子を食う暇あったら働きたいセリス。
普通の令嬢なら王妃からお誘いのお茶会など感涙の涙を流す所なのだが、とことん令嬢には向いてない性格なのだ。
「ラーナ様!ドレスの試着はラーナ様にお願いします!」
「うふふふふふ、良いじゃないセリス~、今度はコレね、あら!可愛い!
あらー?このドレスなんて金髪に映えるわね~」
王女ラーナは黒髪でセリスは金髪、同じドレスでも印象がガラリと変わり、見てると楽しい王妃に着せ替え人形にされるセリス。
幸か不幸か比較的小柄なセリスは2歳年下の王女ラーナと服の寸法がピタリと一致しているのだ。
「セリス様、あきらめて下さい・・・」
母のハイテンションを見て気の毒そうな王女ラーナ。
ちなみに王妃とは血の繋がりは無いがセリスとラーナ姫はガッツリと血の繋がりが有る親戚筋だ。(セリスが従姉妹の姉になる)
何とビックリ!この時点でセリスにも第8王位継承権が有ったりするのだ。
そしてドレス達が「王城から追放された悲劇の王女シーナ」の為に作られたブツだと察しているセリスは凄く王妃からお願いを断り辛い・・・
何故なら一方的に政争に巻き込まれたとは言え、セリスの実家のカターニア公爵家もシーナ姫の追放に一枚噛んでしまっているからだ。
本来なら「わたくしの子が酷い目に会っているのにカターニアの娘が幸せなんて!」とか王妃に恨まれていても仕方ないはずなのだが、自分を手放しに可愛がってくれる王妃を不思議には思っている。
そう言う理由もあって出来れば冒険者ギルドに近寄りたくはないが、「追徴課税だけは避けねばならぬ!」とセリスは冒険者ギルドへ向かうのであった。
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家の馬車が父の仕事で使われていたので「ドレスを着たままでの5kmマラソン」を敢行して冒険者ギルドへ到着した汗だくセリスとフェナ。
「こ・・・コレ・・・お願い・・・します。ウエエ!!ゲホゲホゲホ」
なんてはしたない!とは言え、9歳児の短い足で5kmも走ると凄え疲れるのだ。
それ以前にドレス姿で街中を5kmも走る公爵令嬢はセリスくらいなモノなのだが。
受付で手紙を見せギルドマスターとの面会を要請すると、「え~と・・・はい!大丈夫ですね、今からマスターの部屋へ案内します・・・違う意味で大丈夫ですか?」
公爵令嬢とは思えない程、疲れた様子のセリスを心配する受付の男性職員。
「らいりょうふれふ」全然大丈夫じゃないセリス。
「お茶・・・より水の方が良いですね?マスターの部屋に持って行きますね」
男性職員がそう言ってギルドマスターの部屋へと案内してくれる。
「ありふぁとうほはいひぇす」もう何言ってんのか分からんセリス。
こうしてセリスの心肺機関と足腰は鍛え上げられて強靱になって行くのだった。
ギルド内部はなんと言うか「市役所?」と思ったセリスだが、そもそも「市役所」って何なんじゃい!と1人脳内ツッコミをしていた。
ここら辺の細かい前世の記憶が曖昧なのだ。
セリス一行が廊下を歩いていると、大量の書類を抱えてずっこけた女性職員が通り掛かったイケメン男性職員に助けらてポッと頬を赤らめていた。
「お約束やね」と恋愛テンプレを見ながらギルドの内部を進むセリス。
近い将来この廊下を「勝手に上がって下さい、場所は知ってますよね?」と言われ何度も何度も1人で歩く羽目になる事を今のセリスはまだ知らない。
今日は初日なので職員も丁寧に案内してくれてるが、その内にセリスへの扱いがめっちゃ雑になるのだ。
何なら職員達から「同僚」と思われてしまうのだ。
ギルドマスターの部屋の前まで来ると「マスター、お客様です」と扉をノックする男性職員。
「どうぞ」中から声が聞こえると職員は扉を開けて「お入り下さい」と中に入れてくれる。
セリスが部屋の中に入ると・・・
「いや!書類の山しか見えん!」
セリスの目の前50cmまで大量の書類が積み重なっていたのだ
現在9歳のセリスの身長は120cm、まだまだ小さいのだ。
「やあ、よく来てくれたね、君がセリスさんかい?」と書類の山の向こうから声が聞こえるが。
「いや、あんた私が見えてんの?」思わずツッコミ入れるセリス。
「いや全然見えん」
「もう!毎日仕事終わりに少しずつでも片付けなさいよ」
何故か知らないがスムーズに叱責の言葉が出る、口の悪いセリスだが流石に初対面の人間相手にこんな叱責などは言わないはずなのだが?
「あれ?何で私・・・うわあ?!」
「悪い悪い」
ぬうっと、書類の向こうから筋骨隆々な男が現れる。
「デカ?!筋肉の塊!!!ステーキにして食ったらめっちゃ固そう!」
「ジャックの言う通り、本当に失礼な嬢ちゃんだな」
そう言いつつ声の主が何をするのか?と思ったら脇に手を突っ込まれてヒョイと持ち上げられた。
よく猫にやってビョーーーンと伸びるヤツね。
「おい?一応言っとくが私は公爵令嬢だぞ?」幾らなんでも不敬である。
普通こう言う無礼な事をされた場合は真っ先に専属護衛騎士のフェナが止めるのだが・・・今日に限ってなぜか何も言わん?
「なしてコイツ何も言わないんだ?」と思ってギルドマスターを改めて見て納得した。
「硬え事言うなよ、嬢ちゃんはいつもジャックに肩車して貰ってんだろ?」
そう笑うギルドマスターはフェナの好みだろうと思われる結構なワイルド系イケメン筋肉親父だったからだ。
それならば・・・やる事は一つ。
「ギルドマスターさん、結婚して下さい」
「ん?俺と?嬢ちゃんが?」
「いえ、ギルドマスターさんとフェナ・・・私の護衛騎士と結婚して欲しいです」
ギルドマスターは「ん?」と言った感じでフェナを見て、「俺とフェナが結婚??いや、妹とは結婚は出来んぞ」と笑われた。
「私も兄ちゃんと結婚なんてマジ勘弁です」
「兄弟なの?!?!フェナ!そう言う大事な事は先に言えー!!」
「ええ?!セリス様は知ってると思ってましたよ?!」
カターニア公爵家の護衛騎士フェナが冒険者ギルドマスターの妹なのは王城でも割と有名な話しだ。
「知らんわい!今初めて知ったわい!
つーか私の情報をギルドマスターに流したのお前だろ!!」
「違いますよ!兄さんと食事した時にお嬢様の話題で盛り上がっただけですよぉ」
「そう言うのを「情報を流す」って言うのよ!」
ギルドマスターの名前は、イノセント・クーガーでフェナの本名は、フェナ・クーガーで実の兄妹だったのだ。
なのでイノセントがセリスを持ち上げてもフェナは特に何も言わなかったのだ。
「はあ、分かったよもう良いよ・・・
イノセントさん?この体制は地味に疲れるからせめて肩車をして下さい」
「おう、分かったぞ」ヒョイとセリスを肩車するイノセント。
精神的には大人だが子供の本能で肩車を所望するセリスだった。
「・・・これだと話し辛くね?」
「そうですね、これはダメですね、やっぱり降ろして下さい」
それでイノセントから降りたのだが、やはり書類の山にスッポリと埋もれるセリス。
「手伝ってやるから話しの先に書類の整理するぞ!クソ親父!」
出会ってたったの15分でイノセントに対して「クソ親父」が定着したセリスだった。
カサカサカサカサ、ガサササササササ、トントントン、
「早ええ?!」
一心不乱に書類の片づけをするセリス。これはセリスの前世での本能である。
前世での漁師生活で狭い漁船内で物が散らかっているのは命関わる。
知り合いの漁師が自分が飲んで置いたペットボトルに自分の足を滑らせ海に落ちて亡くなった痛ましい事故もある。
徹底的な整理整頓が日常の船の上で生きて来たのだ。
そう言った前世の記憶と感覚があるので部屋の掃除を自分でやる癖が生まれながらに身についているのだ。
その感覚でもこの部屋はダメだ!レッドカード、1発退場なのだ。
「何でこんなに溜め込んでんのよ!」
《片付けが苦手だったあの人を思い出すのよ!》とセリスは思い・・・「えー?あの人ってどの人よ?」と1人でクスっと笑う。
「いや~片付けるより先に他の書類がドンドン来ちまってよ」
セリスが片付け始めたので仕方なく自分も片付けるイノセント。
ガサガサガサガサ、トントントントントントン、
「そんなの侍女さんかメイドさんを雇えば良いじゃないの?」
「定期的に募集して雇うんだが仕事量が多くて中々定着してくれなくてなぁ・・・
直ぐに他に行っちまうんだよなぁ、ここより仕事が楽だからな。
そうだ!嬢ちゃんが1日金貨1枚で片付けのアルバイトやんね?実働5時間で」
「やります!よろしくお願いします。契約は今日からで良いですか?」即決セリス。
金貨1枚、日本円で約1万5000円だ!
実働5時間で1万5000円?!時給3000円だと?そんなモンやるに決まってるだろ!
「お、おう、じゃあよろしく頼むわ」
イノセント的には冗談のつもりだったのだが・・・
セリスちゃん、書類整理のアルバイトをゲットたぜ!
金貨1枚に気合いが入ったセリスは3時間で書類整理の作業を終わらせて無事に金貨1枚をゲットする。
「凄えな・・・床が見えたの久しぶりだぜ」
「ただ整理しただけで内容の確認をした訳じゃないからね?今日の夜はキリキリ働け」
ようやく来客用の机と椅子が発掘されたのでササっと拭き掃除をして座り本題の追徴課税の話しに入る。
「これが追徴課税の「予定」の金額だ」
「うっ・・・240万円(相当)・・・」
セリスの想像よりは大分少なかったが、それでもヤバい金額だ。
「支払い「予定」は2ヶ月後だな」
さっきからあくまで「予定」だと強調するイノセント。
これは・・・何か良からぬ事を企んでいるぞ?
「マスターさん!上級貴族のアレやコレで何とかなりませんか?」
ド直球で抜け道や不正で何とかならんか聞く上級貴族のカターニア公爵家令嬢のセリスさん。
「よぉし!嬢ちゃん「特別公務」って知ってるか?」
「確か・・・貴族を対象に国が一時的に給金を払って公務をさせる制度ですよね?」
例えば、急に盲腸になって入院した領主の代わりに、治療期間中は他の領主が兼任で公務を行い、国が謝礼金を手伝ってくれた他の領主に礼金を支払う制度の事だね。
「そうだ、追徴課税分をギルド発注の特別公務で働かないか?」
冒険者は自由市民だが管轄する冒険者ギルドは公的機関なので特別公務の適用範囲内なのだ。
「働きます!よろしくお願いします」即決セリス再び!
「お、おう・・・
フェナ・・・聞いた通りの嬢ちゃんだな」
「フェナ!あんた、どんな話しを兄貴に吹き込んでるのよ?!」
「ありまま、全てです」
「主を売っておいて何でそんなに偉そうなの?!」
実の所でフェナはふざけているのでなく「霊視」よりセリスの「本当の秘密」を聞かされていた。
結構狙われる可能性が有るセリスの安全確保の為に霊視の配下になっている。
兄貴へのセリス情報の開示も霊視の指示によるモノだ。
そしてフェナは、その事を隠すつもりは毛頭も無い。
セリスに危険が迫れば即座に「セリスの本当の秘密」も含めて全てをセリスにぶっちゃける所存。
話しを戻して何はともあれ追徴課税・・・このコンチクショウは何とかなる感じになって来た。
それから特別公務の内容の話し合いになった。
「それで何をするの?」
「無論幽霊問題だな。
教会とあまり関係性が良くない連中とか、納める寄付金がない連中がギルドに依頼して来るんだが・・・幽霊関連を冒険者の中で対応出来る奴が少ない」
「ふーん?それで私が探知装置になれば良いのね?」
どうせ霊視の事もバレてんだろ?と、イノセントにカマを掛けるセリス。
「その身も蓋もない言い方何とかならんモンかね?実際にその通りだけどな」
「ハッキリと物を言うのは生来の物なので私にもどうにもなりませんね」
「本当に変わった公爵令嬢だな」
公爵令嬢だろうが、どうにもならん物はどうにもならん。
口が悪いのもどうにもならん・・・いや、そこは直ぐに治せよ。
「分かっていると思うけど私は戦えないわよ?
それと霊視を使用する際は特別スキル報酬も追加でお願いします」
「ちゃっかりしてんな~。
分かったよ、報酬上乗せしとくよ、そんで報酬追徴課税分は分割払いにして報酬と天引き、余剰分は現金で手渡すよ。
契約的にこんなモンか」
「話しが早くて助かります、それで契約しましょう」
「本当に8歳か?」
「明日で9歳になりますのよ、明日の夜は優雅に誕生日会ですわ、お~ほほほほ」
「それで何で今日仕事してんの?」
「その誕生日会の経費で今月分の生活費を使っちゃたからよぉー!!」
「公爵令嬢って大変なんだなぁ」
しみじみと言うイノセントだがそんな訳あるかい!
カターニア公爵家が異常なだけなのだ。
普通の公爵令嬢はナイフとフォークより重い物は持たないのだ!
それは言い過ぎで中世ヨーロッパの令嬢達は日々暇を見つけては筋トレしていたと歴史書には書いてある。
中世のドレスはアホ見たいに重いからね!
そんなこんなで冒険者ギルドの仕事を始めるセリスだった。
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イノセントに会った日の夜は誕生日会の前夜会(親しい身内だけでのパーティー)だったので文字通りのダッシュで家に帰ったセリス。
「ぶへぇ!ゴホゴホゴホゴホ!!」
冒険者ギルドへの行き帰りで10kmをドレスを着たまま走ったのだ。
そろそろ死んでしまいそうなセリス。
汗だく埃まみれだったので侍女に風呂にぶち込まれて丸洗いされた。
ついでにフェナも丸洗いされていた。
「何であんた達は毎回毎回、こんなに汚れて帰って来るのよ!」
一応セリスにも専属侍女なる女性が居る。名前をミミリーと言う。
カターニア公爵家の親戚筋の男爵家令嬢で行儀見習いと花嫁修行で15歳の頃からセリスに仕えている。
そしてこの3年間で「セリスお嬢様は甘やかすとヤバい」と言う事が判明してからはセリスに対して情け容赦がなくなった。
「ミミリーがマジ容赦ない!」バッシャバシャバシャ
グワシグワシと身体を洗濯物の様にタオルで擦られて悲鳴を上げるセリス。
「当たり前でしょ?!もう時間が無いんだから!」そしてお股をグワシグワシ!!
「ああー!そこはらめー!」
「やかましい!大人しく洗われろ!黙ってれば天使の様な金髪美少女なのに勿体無いわ!」そしてお胸をグワシグワシ!!
「うっふーーーん?!」
30分後、グッタリと浴槽に浸かるペッカペカの公爵令嬢が居た。
次はフェナがミミリーにやられている。
最初はいきなりお胸からだ!グワシグワシ!!
「ああ~ん、いやあーんん!!」
「やかましい!艶艶な声上げんな!変な気持ちになる!
それにあんた少し太ったよ!婚活女なんだから少しは気を使え!」
とどめ!とばかりに、お股をグワシグワシ!!
「あっはぁーん!」
「やかましい!」ベシッとミミリーに頭を叩かれたフェナだった。
30分後、ペッカペカの護衛女性騎士がそこに居た。
そして3人の侍女に集られてドレスの着付けが始まる。
とは言えコルセット不用のお子様なので直ぐに装着は終わる。
「ペッタンコだから着替えが楽ちんね!」
セリスはドレスを翻して鏡の前でクルクル回る、こう言う所はお嬢様っぽいね。
母の着替えを見ていて「コルセットおっかねぇ」とビクビクしていたのだ。
「でも・・・お嬢様って骨格的にお胸が凄く大きくなりそうなんですね~」
数多の女性の着付けを行なって来た年嵩の侍女が怖い事を言う。
「え~?動くのに邪魔だからお胸なんて要らないよ?」
結論から言うと年嵩の侍女の予言は大当たりしてセリスのお胸はめっちゃ大きくなってコルセットでギッチギチに絞められ苦労する事になる
そして父と母に御披露目。
「おお!可愛いよセリス、さすが我娘、お城のお姫様の様だ」
コーバ・フォン・カターニア公爵は冗談でそう言うが、数年前のコーバがその気になっていたら「お姫様セリス」が爆誕していたのだがな。
「「おねいさま!きれい!」」
妹の双子、ステファニー&クリスティーナも可愛いらしいドレスに身を包んでお姉様セリスに抱きつく。
「さあセリス、こちらにいらっしゃい」
セリスは母のバルバラ夫人に促されてお誕生日席に座って料理を見た瞬間に白目剥いて気絶しそうになった。
《予定より3品も多い!しかもこれキャビアじゃんこれ!》
これでセリスが午前中にギルドで頑張った1500円(相当)のアルバイト代がキャビア代金として吹き飛んだ・・・
「ま・・・まぁ誕生日だし」と諦めて誕生日会を楽しむ事にしたセリスだがキャビアを睨み付ける。
《しかしキャビアよお前は許さん!お前はしょっぱいだけで大して美味くも無いのに無駄に高えんだよ!》
なんなら「とびっこ」の方が絶対に美味しいと思っている。
その日からキャビアを不倶戴天の敵に認定したセリスだった
《そもそもキャビアは買うモンじゃない!獲るモノだ!》
いやそんな事言われましてもねー。
セリスは前世で参加した「漁師さん達の釣り大会」で見事に「チョウザメ」を釣り上げて周囲の漁師をビビらせた事があった。
「何?この魚?サメじゃないよね?」
さすがは漁師さん、初見でチョウザメがサメでない事を見抜く。
「これ「チョウザメ」だぜ?・・・日高地方にも居たんだな?」
日本のチョウザメは石狩地方限定で昭和初期まで釣れたそうです。
「コイツの卵が「キャビア」になるんだぜ?」
「へー?でもリリース!」速攻でチョウザメをリリースする八千代さん。
「ああ!勿体ねえ!」
「漁師が絶滅危惧種を釣り上げたら怒られるわよ?
それにキャビアって別に美味しくも無いじゃん?」
八千代も話しのタネに高級キャビアを買って食ったが「微妙・・・」と低評価だった。
常に獲れたて新鮮な海産物を食ってる漁師さん的にはとりわけ美味いブツでは無いらしい。
しかし、なんだかんだ楽しい9歳の誕生日を迎えたセリスだったとさ。
次の日、お誕生日会の当日。
「お嬢様、お手紙が届きました」
今日はお客様が大勢やって来るイベントの当日なので、ちゃんと侍女らしくメイド服を着たミミリーがイノセントからの依頼書を持って来た。
お誕生日会は午後3時からなのでそれまで仕事をしている。
「おっ?来たね、どれどれ」早速、依頼書の中身を確認すると・・・
「多くね?」15種類の特別公務の依頼内容が書かれていた。
《これがギルドにある塩漬け依頼の一覧と金額だ。
嬢ちゃんに合わせるから好きな所から攻めてくれ》と書かれていた。
「そうは言われてねー」セリスはそう言いながら詳しい内容を確認する。
1番報酬料が高いのは・・・ボタノ炭鉱に沸いたゾンビの群れ退治で8000万円(相当)
「却下!無理!絶対に死ねる自信がある!」
次に高いのは禁足地で確認された忌み神の退治で5000万円(相当)
「はい!却下!つーか、あのクソ親父は9歳児になにさせるつもりよ!」
こう言う時は必ず絡みに出て来る霊視さんがこの数日間行方不明だ。
霊視自体は自前で問題なく出来るのであまり心配はしてないが少し寂しいセリス。
過去にも行方不明になる事が数回あって気がついたらシレッと戻って来てるのだ。
「お仕事だったの?」
《そう・・・最近ゴルド王国と魔族が妙に活性化していてねぇ、その対策を真魔族と協議・・・・・・・・・霊視は仕事なんてしません》
「お仕事大変ね?真魔族?」
《仕事なんてしてませーん》
「嘘つけ、ふーん?真魔族って「南の大陸」よね?・・・・・・エルフさんかな?」
だんだんと霊視の正体がバレて行く、そもそも隠す気あんのかも疑問だ。
《エルフさんではありません》
霊視設定をまだ続ける様子の霊視さん。
話しを依頼書に戻して、次は安い順に見て行く。
墓地の見廻り「夜間限定」1日一万五千円相当。
「夜間か無理ね寝てるし、それ以前に夜間の外出許可が出る訳ないし」
9歳児セリスはまだまだグッスリと寝て成長するのが仕事だ。
次は村の石切場に出現する死霊達の説得。成功報酬200万円(相当)
「説得って何?」詳しい資料を見る。
『○○村の石切場の増築工事に反対する森の死霊達の説得をお願いします。
彼らは私達の祖先にあたり強行な除霊はしたくありません。
増築工事への反対も「村の自然を守りたい」との願いで悪意はありませんが石が枯渇して治水工事が進みませんし工事業者が怖がって逃げてしまっています。
もし死霊の説得に成功したら報酬として200万円(相当)をお支払い致します。
交通費は要相談で。』
「う~ん?死霊に悪意が無いなら危険は少ないかな?」
とりあえずこの仕事の話しを聞いて見るつもりのセリスだった。
夕方に行われた「セリス誕生日会」は貴族色が強く大して面白くないので割愛。
100人以上の人への挨拶回りに偉い人の長い世間話しでセリスの笑顔が少しヒクヒクしていたとだけ。
次の日イノセントに連絡を取ってフェナを伴って○○村にギルド手配の馬車に揺られて3時間かけて来た。
「これが冒険者ギルドからの依頼受注証明書です」
フェナが○○村の村長に依頼書類を手渡す。
一応、大人のフェナが受注した事になっているからだ。
セリスは知らなかったがフェナはAランクの冒険者でもある。
「おおっ!お待ちしておりました」
Aランク冒険者の思わぬ登場に嬉しそうな村長さん。
「あの?仕事の前に村長さんに質問があります」セリスが手を上げる。
「何ですかな?お嬢様」
「この村の名前・・・本当に○○村で良いんですか?」
「○○村で宜しいですよ、中々個性的な名前でしょう?」
「・・・そうですか」
マジで村の正式名称が「○○村」だった。
「ちなみに隣村が「〒〒村」なんですよ」
「嘘つけ、そもそも何で読むんじゃい?郵便局郵便局村か?」
面倒臭くなったのでとりあえず村長に問題の石切場に案内してもらう。
「うわー?これは酷い・・・
到着した途端に霊視を発動して唖然とするセリス。
いるわいるわ死霊が・・・石切場全体にみっちりいるわ死霊が。
「これなんなん?!どう言う事?この数は異常だよ」
混乱したセリスがフェナに尋ねた瞬間!
「エクサホーリー!!」いきなり最上位浄化魔法を死霊にぶちかますフェナ!
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・
フェナの聖なる一撃で大半の死霊が成仏してしまった・・・説得はどうした?
「はっ?!つい!」ついつい聖女の時のクセが出てしまった様子だ。
「つい!じゃねぇよ!説得って言われてんだろ!いきなりエグい魔法を使うな!
てか、あんた本当になんでカターニア公爵家に仕えてんの?!」
「お嬢様を見ていて飽きないからですね」
「もう少しこう・・・何か有るんでないかい?」
すると凄い勢いで死霊が飛んで来て、《おい!最上位の聖女なんて反則だろ?!》と、生き残った?死霊が猛烈に抗議して来る。
「すみませんでした、でも反則ってなに?」
《一応、依頼内容は「説得」だろ?!空気読めよ!お前が苦労して俺達を説得する流れだろ?!》
「なして依頼の事を知ってるか分からんがその通りですね。
重ねてすみませんでした。
じゃあ今から説得を始めます」
《淡々としてんなぁ嬢ちゃん》
些細なイレギュラーは有ったが死霊への説得の仕事を開始するセリス。
「それで?死霊さん達は何でここに集まってるんです?」
《ここは死霊にとってパワースポットだからな、燃料補給してんだ》
「なるほど、それで何で石切場の増築に反対なんですか?」
《増築すると力場が変わってパワースポットの効力が落ちるからだな》
結構切実な問題だった・・・問題なのだが・・・ある点が腑に落ちんセリス。
「死霊達さんは成仏をしないんですか?」そうこれだ。
《そんなモン成仏すると女風呂を思う存分に覗けないからだね》
「よぉしフェナ!もう一回エクサホーリーだ!このアホンダラを蹴散らせ!」
「エクサホーリー!!」ビカビカビカビカーーーーー!!!!
《おおおおおおおお??・・・おおおお・おお・・・・・・・気持ちいいーー?!》
覗き魔の死霊は滅びた。
ってか、エクサホーリーの連射とかフェナの聖力はどうなってんだ?
それからセリスは残ってる連中に「幽霊さん達が成仏しないのはなぜ?」と幽霊に尋ねて回る。
《そりゃ俺も女の着替えを覗きたいから》「覗くな!エクサホーリー!!」
《幽霊だと女のスカートの下から覗きたい放題・・・》「お前もか!エクサホーリー!!」
《君可愛いね?パンツを・・・」「くたばりやがれ下さい!エクサホーリー!!」
《俺はどっちかと言うと男の・・・》「論外!!エクサホーリー!!」
《私は100年前に死んだのだが、若い頃に死別した彼女とこの場所での再会の約束をした事が心残りでね・・・》「エクサホーリー!!」
「フェナちょっと待て!今の奴、結構まともな理由じゃ無かったか?!」
「あっ・・・つい」
「・・・うん、まぁ、やっちまったのは仕方ない、次ぃ!」
《僕ちんは、君の様な金髪ロリロリウルルンな幼女が来るのをずっと・・・》
「アホかぁ!死ねぇ!!!!!」「最強クラスにキモい!!エクサホーリー!!!」
こうして一応は全員に聞いて回ったのだがまともな理由だったのは1人だけだった・・・
それもフェナが問答無用で消してしまったが。
森の石切場は完全に浄化された。・・・・・・・・もちろんフェナ1人の力でね!
「村長さん・・・」
「はい・・・」
「任務完了したから金を寄越せ」
「はい・・・」アホな先祖にドン引きしている村長さん。
こうしてセリスは200万円(相当)の金貨をゲットしたのだった。
自分では何もしてないが部下の力は自分の物、自分の力は自分の物なのだ。
カターニア公爵家では使用人の賄いは全額公爵家持ちなので油断は出来ないのだ。
「うおおおお!!ベン精肉店のツケを完済したぞぉおおおお!!!」
厨房で勝利の雄叫びを上げる勝者セリス!
「お嬢様!おめでとうございます!!」セリスの苦労を知っている料理人達も大喜びだ。
「ありがとう、ありがとうね、皆んな!」
苦楽を共にした戦友達、お互いに肩を叩いてお嬢様の戦果を讃えてる・・・そこに!
「ベン精肉店でーす!セリス様、今週分の精肉をお届けにきました~」
噂の宿敵さんがたっくさんのお肉を持って現れましたよ!
そしてこの配達人はセリスを厨房のボスだと思い込んでいるのだ・・・あれ?間違ってない?!
公爵家の家族11人、使用人86人(住み込みの子供含む)、護衛騎士18人、働き盛り育ち盛りの115名が一週間で消費するお肉なのでとにかく量がヤバい!
このお肉の全てが公爵家負担なので確かにセリスの言う通りバカには出来ないね!
「ああ・・・いつもご苦労様です。うん、いつものそこに置いておいて下さい」
一気に熱が冷めて通常モードに戻ったセリス。
「毎度~」お肉を納品して請求書を机の上に置いて颯爽と去る宿敵さん・・・
そしてその請求書を懐にしまって今月の金策の旅に出掛けるセリス。
いつもの光景である。
「さっ・・・お肉も来た事だし夕飯の下拵えしますか」
「そっすね」
カチャカチャ、トントントン、
いつもと同じ様にお料理をする音が厨房に鳴り響き始めた。
こうしてカターニア公爵家とベン精肉店との「今月」の戦いの幕が上がったのだった。
皆んなのスキッ腹は1時間たりとも待ってはくれないのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな毎日を過ごしているセリスも9歳の誕生日が近いのだが?
「お父様・・・とても嬉しいのですが・・・贅沢は・・・」
「うんうん、可愛いよセリス」
「本当に妖精タン見たいだわ」
「お母様にも「妖精タン」が移った?!」
セリスは新しいドレスに身を包み父と母と一緒にお誕生日会のリハーサルをしていた。
どうでも良い話しだが魔法世界に「妖精タン」が居るか?居ないか?で言うと普通に居る・・・そう・・・貴方の直ぐ後ろにも・・・
真面目な話しを書くとセリスも「妖精タン」の一種である。
セリスの場合は「妖精タンの突然変異個体」の肩書きが付くのだが。
《夢も希望も無い言い方すんな!素直に「元霊樹」って言え!》
話しを戻して誕生日会に新しいドレスを新調する・・・貴族としては当然の嗜みなのだが、セリスにこびり付いた前世の金銭感覚が拒絶反応を示す。
しかし長子の誕生日会はカターニア公爵家のメンツに関わる大事なイベントなので疎かには出来ないのも分かるのだが・・・
「だって9歳でしょ?直ぐに成長するじゃんか!来年にはもう着れないじゃん?」
そう大事なのはそこなのだ、実に勿体無いのだ。
勿体無い精神の日本人、特にセリスの前世は大正生まれで昭和初期育ち、大きな戦争と戦後の物不足の苦労を体験している。
極貧の中での質素倹約の時代の人間だったので、この貴族の感覚にはとてもでないが慣れそうも無い。
本当は着れなくなったドレスは妹達にあげたい・・・あげたいのだが。
セリスが何かを双子の妹に渡すとそれが原因で大喧嘩を始めてしまうのだ。
2人共、セリスお姉様が大好きなのでお姉様がくれる物は全部、自分が独り占めしたいのだ。
それぞれ違うドレスをあげてもダメだった・・・
自分を慕う妹達はとても可愛いのだが困った妹達なのだ。
その下の産まれたばかりの妹達は三つ子・・・既にシスコンの予兆が出ている?!
「って、これもう詰んでんじゃん?」とセリスはため息をついた・・・
「もう!13歳までワンピースで良いじゃんか!」とセリスは思う。
ワンピース・・・奴は、とぉーっても優秀な子なのだ。
良い生地の少し大きめな物を買って、あらかじめスカートを詰めておけば成長期の子供に対応出来るのだ。
「早くデカくなって服の寸法が変わらんくならんかな~」
そう願うセリスだが、17歳で身長は止まっても胸の成長が20歳まで全然止まらん未来が来る事をまだ知らない。
女性の服の胸の部分はとてもセンシティブな場所なのでリメイクが出来ない。
身長が止まっても結局20歳まで毎年服を買う羽目になるのだ。
結局、このセリスの使われなくなった子供服はその原因にもなった双子の妹の1人、裁縫職人ステファニーがリメイクして末娘や公爵家の使用人の子弟で結成されたカターニアキッズ(後に勇者ライセントによって結成されるゴリゴリの武闘派集団、「カターニア魔法剣士旅団」の前身)に着せるのだが、お披露目までの日はかなり遠い。
そんな事を考えてるセリスの所にフェナが、「お嬢様、なにか怪文書が来ましたよ」と手紙を持って来た。
「いや、栄えある9歳のお誕生日会目前の主人にそんな怪文書を持ってくんな!」
「いえ、「金稼げるぜ?」とか封筒の表にデカデカと書いてあるので」
封筒に書かれた見慣れた筆記体を見ながら呆れた様子のフェナ。
「貸して!見るから!」と、フェナから手紙を奪い取るセリス。
セリスが速攻で食いつく様に封筒に細工をする送り出し人もなかなか巧妙だ。
そして封を切って手紙を検めると、「いや、怪文書って・・・冒険者ギルドのハイマスターからの手紙じゃない。しかも正式な依頼書?」怪訝そうなセリス。
「おいおい一体何事なんじゃい?」と更に手紙を読み進めると、「ああ~、ジャックさんとの仕事がギルドにバレて、このまま放置するとお前の税金がヤバい事になるから一度、確定申告をやりにギルドに顔出せやって事か~、やっぱり放置するのマズイよね~」と項垂れた。
追徴課税が来るだろうなぁ~と思っていたら、やっぱり来た。
一応、その分は使わずに残しているのだが・・・やっぱり勿体なーーーい!!!
「マズイんですか?」フェナが首を傾げる。
「うん、手紙にはヤベェ金額の追徴課税が来るぞっ!って書いてる」
「ヤベェじゃないですか!」
「マジでヤベェですね、冒険者ギルドへ行きます!」
こうしてセリスは見事に冒険者ギルドのマスターに釣り出されてしまったのだった。
普段ならギルマスから手紙を寄越されたくらいでは冒険者ギルドには絶対に行かないが追徴課税はマジヤベェ。
30%の割り増し料金だからね!早く確定申告をせねばならん!
何でセリスが冒険者ギルドに行きたがらないかと言うと冒険者ギルドが「王妃の直轄機関」で、ギルドに来る王妃の部下の人に見つかると高確率で誘拐されるからだ。
前に冒険者の資格について尋ねる為に冒険者ギルドを訪れてそのまま誘拐された時など王妃に構い倒されて夕方にカターニア公爵がセリスの奪還に来るまで家に帰れなかったのだ。
王妃の事は大好きなのだが、王城で着せ替え人形にされてお茶やお菓子を食う暇あったら働きたいセリス。
普通の令嬢なら王妃からお誘いのお茶会など感涙の涙を流す所なのだが、とことん令嬢には向いてない性格なのだ。
「ラーナ様!ドレスの試着はラーナ様にお願いします!」
「うふふふふふ、良いじゃないセリス~、今度はコレね、あら!可愛い!
あらー?このドレスなんて金髪に映えるわね~」
王女ラーナは黒髪でセリスは金髪、同じドレスでも印象がガラリと変わり、見てると楽しい王妃に着せ替え人形にされるセリス。
幸か不幸か比較的小柄なセリスは2歳年下の王女ラーナと服の寸法がピタリと一致しているのだ。
「セリス様、あきらめて下さい・・・」
母のハイテンションを見て気の毒そうな王女ラーナ。
ちなみに王妃とは血の繋がりは無いがセリスとラーナ姫はガッツリと血の繋がりが有る親戚筋だ。(セリスが従姉妹の姉になる)
何とビックリ!この時点でセリスにも第8王位継承権が有ったりするのだ。
そしてドレス達が「王城から追放された悲劇の王女シーナ」の為に作られたブツだと察しているセリスは凄く王妃からお願いを断り辛い・・・
何故なら一方的に政争に巻き込まれたとは言え、セリスの実家のカターニア公爵家もシーナ姫の追放に一枚噛んでしまっているからだ。
本来なら「わたくしの子が酷い目に会っているのにカターニアの娘が幸せなんて!」とか王妃に恨まれていても仕方ないはずなのだが、自分を手放しに可愛がってくれる王妃を不思議には思っている。
そう言う理由もあって出来れば冒険者ギルドに近寄りたくはないが、「追徴課税だけは避けねばならぬ!」とセリスは冒険者ギルドへ向かうのであった。
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家の馬車が父の仕事で使われていたので「ドレスを着たままでの5kmマラソン」を敢行して冒険者ギルドへ到着した汗だくセリスとフェナ。
「こ・・・コレ・・・お願い・・・します。ウエエ!!ゲホゲホゲホ」
なんてはしたない!とは言え、9歳児の短い足で5kmも走ると凄え疲れるのだ。
それ以前にドレス姿で街中を5kmも走る公爵令嬢はセリスくらいなモノなのだが。
受付で手紙を見せギルドマスターとの面会を要請すると、「え~と・・・はい!大丈夫ですね、今からマスターの部屋へ案内します・・・違う意味で大丈夫ですか?」
公爵令嬢とは思えない程、疲れた様子のセリスを心配する受付の男性職員。
「らいりょうふれふ」全然大丈夫じゃないセリス。
「お茶・・・より水の方が良いですね?マスターの部屋に持って行きますね」
男性職員がそう言ってギルドマスターの部屋へと案内してくれる。
「ありふぁとうほはいひぇす」もう何言ってんのか分からんセリス。
こうしてセリスの心肺機関と足腰は鍛え上げられて強靱になって行くのだった。
ギルド内部はなんと言うか「市役所?」と思ったセリスだが、そもそも「市役所」って何なんじゃい!と1人脳内ツッコミをしていた。
ここら辺の細かい前世の記憶が曖昧なのだ。
セリス一行が廊下を歩いていると、大量の書類を抱えてずっこけた女性職員が通り掛かったイケメン男性職員に助けらてポッと頬を赤らめていた。
「お約束やね」と恋愛テンプレを見ながらギルドの内部を進むセリス。
近い将来この廊下を「勝手に上がって下さい、場所は知ってますよね?」と言われ何度も何度も1人で歩く羽目になる事を今のセリスはまだ知らない。
今日は初日なので職員も丁寧に案内してくれてるが、その内にセリスへの扱いがめっちゃ雑になるのだ。
何なら職員達から「同僚」と思われてしまうのだ。
ギルドマスターの部屋の前まで来ると「マスター、お客様です」と扉をノックする男性職員。
「どうぞ」中から声が聞こえると職員は扉を開けて「お入り下さい」と中に入れてくれる。
セリスが部屋の中に入ると・・・
「いや!書類の山しか見えん!」
セリスの目の前50cmまで大量の書類が積み重なっていたのだ
現在9歳のセリスの身長は120cm、まだまだ小さいのだ。
「やあ、よく来てくれたね、君がセリスさんかい?」と書類の山の向こうから声が聞こえるが。
「いや、あんた私が見えてんの?」思わずツッコミ入れるセリス。
「いや全然見えん」
「もう!毎日仕事終わりに少しずつでも片付けなさいよ」
何故か知らないがスムーズに叱責の言葉が出る、口の悪いセリスだが流石に初対面の人間相手にこんな叱責などは言わないはずなのだが?
「あれ?何で私・・・うわあ?!」
「悪い悪い」
ぬうっと、書類の向こうから筋骨隆々な男が現れる。
「デカ?!筋肉の塊!!!ステーキにして食ったらめっちゃ固そう!」
「ジャックの言う通り、本当に失礼な嬢ちゃんだな」
そう言いつつ声の主が何をするのか?と思ったら脇に手を突っ込まれてヒョイと持ち上げられた。
よく猫にやってビョーーーンと伸びるヤツね。
「おい?一応言っとくが私は公爵令嬢だぞ?」幾らなんでも不敬である。
普通こう言う無礼な事をされた場合は真っ先に専属護衛騎士のフェナが止めるのだが・・・今日に限ってなぜか何も言わん?
「なしてコイツ何も言わないんだ?」と思ってギルドマスターを改めて見て納得した。
「硬え事言うなよ、嬢ちゃんはいつもジャックに肩車して貰ってんだろ?」
そう笑うギルドマスターはフェナの好みだろうと思われる結構なワイルド系イケメン筋肉親父だったからだ。
それならば・・・やる事は一つ。
「ギルドマスターさん、結婚して下さい」
「ん?俺と?嬢ちゃんが?」
「いえ、ギルドマスターさんとフェナ・・・私の護衛騎士と結婚して欲しいです」
ギルドマスターは「ん?」と言った感じでフェナを見て、「俺とフェナが結婚??いや、妹とは結婚は出来んぞ」と笑われた。
「私も兄ちゃんと結婚なんてマジ勘弁です」
「兄弟なの?!?!フェナ!そう言う大事な事は先に言えー!!」
「ええ?!セリス様は知ってると思ってましたよ?!」
カターニア公爵家の護衛騎士フェナが冒険者ギルドマスターの妹なのは王城でも割と有名な話しだ。
「知らんわい!今初めて知ったわい!
つーか私の情報をギルドマスターに流したのお前だろ!!」
「違いますよ!兄さんと食事した時にお嬢様の話題で盛り上がっただけですよぉ」
「そう言うのを「情報を流す」って言うのよ!」
ギルドマスターの名前は、イノセント・クーガーでフェナの本名は、フェナ・クーガーで実の兄妹だったのだ。
なのでイノセントがセリスを持ち上げてもフェナは特に何も言わなかったのだ。
「はあ、分かったよもう良いよ・・・
イノセントさん?この体制は地味に疲れるからせめて肩車をして下さい」
「おう、分かったぞ」ヒョイとセリスを肩車するイノセント。
精神的には大人だが子供の本能で肩車を所望するセリスだった。
「・・・これだと話し辛くね?」
「そうですね、これはダメですね、やっぱり降ろして下さい」
それでイノセントから降りたのだが、やはり書類の山にスッポリと埋もれるセリス。
「手伝ってやるから話しの先に書類の整理するぞ!クソ親父!」
出会ってたったの15分でイノセントに対して「クソ親父」が定着したセリスだった。
カサカサカサカサ、ガサササササササ、トントントン、
「早ええ?!」
一心不乱に書類の片づけをするセリス。これはセリスの前世での本能である。
前世での漁師生活で狭い漁船内で物が散らかっているのは命関わる。
知り合いの漁師が自分が飲んで置いたペットボトルに自分の足を滑らせ海に落ちて亡くなった痛ましい事故もある。
徹底的な整理整頓が日常の船の上で生きて来たのだ。
そう言った前世の記憶と感覚があるので部屋の掃除を自分でやる癖が生まれながらに身についているのだ。
その感覚でもこの部屋はダメだ!レッドカード、1発退場なのだ。
「何でこんなに溜め込んでんのよ!」
《片付けが苦手だったあの人を思い出すのよ!》とセリスは思い・・・「えー?あの人ってどの人よ?」と1人でクスっと笑う。
「いや~片付けるより先に他の書類がドンドン来ちまってよ」
セリスが片付け始めたので仕方なく自分も片付けるイノセント。
ガサガサガサガサ、トントントントントントン、
「そんなの侍女さんかメイドさんを雇えば良いじゃないの?」
「定期的に募集して雇うんだが仕事量が多くて中々定着してくれなくてなぁ・・・
直ぐに他に行っちまうんだよなぁ、ここより仕事が楽だからな。
そうだ!嬢ちゃんが1日金貨1枚で片付けのアルバイトやんね?実働5時間で」
「やります!よろしくお願いします。契約は今日からで良いですか?」即決セリス。
金貨1枚、日本円で約1万5000円だ!
実働5時間で1万5000円?!時給3000円だと?そんなモンやるに決まってるだろ!
「お、おう、じゃあよろしく頼むわ」
イノセント的には冗談のつもりだったのだが・・・
セリスちゃん、書類整理のアルバイトをゲットたぜ!
金貨1枚に気合いが入ったセリスは3時間で書類整理の作業を終わらせて無事に金貨1枚をゲットする。
「凄えな・・・床が見えたの久しぶりだぜ」
「ただ整理しただけで内容の確認をした訳じゃないからね?今日の夜はキリキリ働け」
ようやく来客用の机と椅子が発掘されたのでササっと拭き掃除をして座り本題の追徴課税の話しに入る。
「これが追徴課税の「予定」の金額だ」
「うっ・・・240万円(相当)・・・」
セリスの想像よりは大分少なかったが、それでもヤバい金額だ。
「支払い「予定」は2ヶ月後だな」
さっきからあくまで「予定」だと強調するイノセント。
これは・・・何か良からぬ事を企んでいるぞ?
「マスターさん!上級貴族のアレやコレで何とかなりませんか?」
ド直球で抜け道や不正で何とかならんか聞く上級貴族のカターニア公爵家令嬢のセリスさん。
「よぉし!嬢ちゃん「特別公務」って知ってるか?」
「確か・・・貴族を対象に国が一時的に給金を払って公務をさせる制度ですよね?」
例えば、急に盲腸になって入院した領主の代わりに、治療期間中は他の領主が兼任で公務を行い、国が謝礼金を手伝ってくれた他の領主に礼金を支払う制度の事だね。
「そうだ、追徴課税分をギルド発注の特別公務で働かないか?」
冒険者は自由市民だが管轄する冒険者ギルドは公的機関なので特別公務の適用範囲内なのだ。
「働きます!よろしくお願いします」即決セリス再び!
「お、おう・・・
フェナ・・・聞いた通りの嬢ちゃんだな」
「フェナ!あんた、どんな話しを兄貴に吹き込んでるのよ?!」
「ありまま、全てです」
「主を売っておいて何でそんなに偉そうなの?!」
実の所でフェナはふざけているのでなく「霊視」よりセリスの「本当の秘密」を聞かされていた。
結構狙われる可能性が有るセリスの安全確保の為に霊視の配下になっている。
兄貴へのセリス情報の開示も霊視の指示によるモノだ。
そしてフェナは、その事を隠すつもりは毛頭も無い。
セリスに危険が迫れば即座に「セリスの本当の秘密」も含めて全てをセリスにぶっちゃける所存。
話しを戻して何はともあれ追徴課税・・・このコンチクショウは何とかなる感じになって来た。
それから特別公務の内容の話し合いになった。
「それで何をするの?」
「無論幽霊問題だな。
教会とあまり関係性が良くない連中とか、納める寄付金がない連中がギルドに依頼して来るんだが・・・幽霊関連を冒険者の中で対応出来る奴が少ない」
「ふーん?それで私が探知装置になれば良いのね?」
どうせ霊視の事もバレてんだろ?と、イノセントにカマを掛けるセリス。
「その身も蓋もない言い方何とかならんモンかね?実際にその通りだけどな」
「ハッキリと物を言うのは生来の物なので私にもどうにもなりませんね」
「本当に変わった公爵令嬢だな」
公爵令嬢だろうが、どうにもならん物はどうにもならん。
口が悪いのもどうにもならん・・・いや、そこは直ぐに治せよ。
「分かっていると思うけど私は戦えないわよ?
それと霊視を使用する際は特別スキル報酬も追加でお願いします」
「ちゃっかりしてんな~。
分かったよ、報酬上乗せしとくよ、そんで報酬追徴課税分は分割払いにして報酬と天引き、余剰分は現金で手渡すよ。
契約的にこんなモンか」
「話しが早くて助かります、それで契約しましょう」
「本当に8歳か?」
「明日で9歳になりますのよ、明日の夜は優雅に誕生日会ですわ、お~ほほほほ」
「それで何で今日仕事してんの?」
「その誕生日会の経費で今月分の生活費を使っちゃたからよぉー!!」
「公爵令嬢って大変なんだなぁ」
しみじみと言うイノセントだがそんな訳あるかい!
カターニア公爵家が異常なだけなのだ。
普通の公爵令嬢はナイフとフォークより重い物は持たないのだ!
それは言い過ぎで中世ヨーロッパの令嬢達は日々暇を見つけては筋トレしていたと歴史書には書いてある。
中世のドレスはアホ見たいに重いからね!
そんなこんなで冒険者ギルドの仕事を始めるセリスだった。
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イノセントに会った日の夜は誕生日会の前夜会(親しい身内だけでのパーティー)だったので文字通りのダッシュで家に帰ったセリス。
「ぶへぇ!ゴホゴホゴホゴホ!!」
冒険者ギルドへの行き帰りで10kmをドレスを着たまま走ったのだ。
そろそろ死んでしまいそうなセリス。
汗だく埃まみれだったので侍女に風呂にぶち込まれて丸洗いされた。
ついでにフェナも丸洗いされていた。
「何であんた達は毎回毎回、こんなに汚れて帰って来るのよ!」
一応セリスにも専属侍女なる女性が居る。名前をミミリーと言う。
カターニア公爵家の親戚筋の男爵家令嬢で行儀見習いと花嫁修行で15歳の頃からセリスに仕えている。
そしてこの3年間で「セリスお嬢様は甘やかすとヤバい」と言う事が判明してからはセリスに対して情け容赦がなくなった。
「ミミリーがマジ容赦ない!」バッシャバシャバシャ
グワシグワシと身体を洗濯物の様にタオルで擦られて悲鳴を上げるセリス。
「当たり前でしょ?!もう時間が無いんだから!」そしてお股をグワシグワシ!!
「ああー!そこはらめー!」
「やかましい!大人しく洗われろ!黙ってれば天使の様な金髪美少女なのに勿体無いわ!」そしてお胸をグワシグワシ!!
「うっふーーーん?!」
30分後、グッタリと浴槽に浸かるペッカペカの公爵令嬢が居た。
次はフェナがミミリーにやられている。
最初はいきなりお胸からだ!グワシグワシ!!
「ああ~ん、いやあーんん!!」
「やかましい!艶艶な声上げんな!変な気持ちになる!
それにあんた少し太ったよ!婚活女なんだから少しは気を使え!」
とどめ!とばかりに、お股をグワシグワシ!!
「あっはぁーん!」
「やかましい!」ベシッとミミリーに頭を叩かれたフェナだった。
30分後、ペッカペカの護衛女性騎士がそこに居た。
そして3人の侍女に集られてドレスの着付けが始まる。
とは言えコルセット不用のお子様なので直ぐに装着は終わる。
「ペッタンコだから着替えが楽ちんね!」
セリスはドレスを翻して鏡の前でクルクル回る、こう言う所はお嬢様っぽいね。
母の着替えを見ていて「コルセットおっかねぇ」とビクビクしていたのだ。
「でも・・・お嬢様って骨格的にお胸が凄く大きくなりそうなんですね~」
数多の女性の着付けを行なって来た年嵩の侍女が怖い事を言う。
「え~?動くのに邪魔だからお胸なんて要らないよ?」
結論から言うと年嵩の侍女の予言は大当たりしてセリスのお胸はめっちゃ大きくなってコルセットでギッチギチに絞められ苦労する事になる
そして父と母に御披露目。
「おお!可愛いよセリス、さすが我娘、お城のお姫様の様だ」
コーバ・フォン・カターニア公爵は冗談でそう言うが、数年前のコーバがその気になっていたら「お姫様セリス」が爆誕していたのだがな。
「「おねいさま!きれい!」」
妹の双子、ステファニー&クリスティーナも可愛いらしいドレスに身を包んでお姉様セリスに抱きつく。
「さあセリス、こちらにいらっしゃい」
セリスは母のバルバラ夫人に促されてお誕生日席に座って料理を見た瞬間に白目剥いて気絶しそうになった。
《予定より3品も多い!しかもこれキャビアじゃんこれ!》
これでセリスが午前中にギルドで頑張った1500円(相当)のアルバイト代がキャビア代金として吹き飛んだ・・・
「ま・・・まぁ誕生日だし」と諦めて誕生日会を楽しむ事にしたセリスだがキャビアを睨み付ける。
《しかしキャビアよお前は許さん!お前はしょっぱいだけで大して美味くも無いのに無駄に高えんだよ!》
なんなら「とびっこ」の方が絶対に美味しいと思っている。
その日からキャビアを不倶戴天の敵に認定したセリスだった
《そもそもキャビアは買うモンじゃない!獲るモノだ!》
いやそんな事言われましてもねー。
セリスは前世で参加した「漁師さん達の釣り大会」で見事に「チョウザメ」を釣り上げて周囲の漁師をビビらせた事があった。
「何?この魚?サメじゃないよね?」
さすがは漁師さん、初見でチョウザメがサメでない事を見抜く。
「これ「チョウザメ」だぜ?・・・日高地方にも居たんだな?」
日本のチョウザメは石狩地方限定で昭和初期まで釣れたそうです。
「コイツの卵が「キャビア」になるんだぜ?」
「へー?でもリリース!」速攻でチョウザメをリリースする八千代さん。
「ああ!勿体ねえ!」
「漁師が絶滅危惧種を釣り上げたら怒られるわよ?
それにキャビアって別に美味しくも無いじゃん?」
八千代も話しのタネに高級キャビアを買って食ったが「微妙・・・」と低評価だった。
常に獲れたて新鮮な海産物を食ってる漁師さん的にはとりわけ美味いブツでは無いらしい。
しかし、なんだかんだ楽しい9歳の誕生日を迎えたセリスだったとさ。
次の日、お誕生日会の当日。
「お嬢様、お手紙が届きました」
今日はお客様が大勢やって来るイベントの当日なので、ちゃんと侍女らしくメイド服を着たミミリーがイノセントからの依頼書を持って来た。
お誕生日会は午後3時からなのでそれまで仕事をしている。
「おっ?来たね、どれどれ」早速、依頼書の中身を確認すると・・・
「多くね?」15種類の特別公務の依頼内容が書かれていた。
《これがギルドにある塩漬け依頼の一覧と金額だ。
嬢ちゃんに合わせるから好きな所から攻めてくれ》と書かれていた。
「そうは言われてねー」セリスはそう言いながら詳しい内容を確認する。
1番報酬料が高いのは・・・ボタノ炭鉱に沸いたゾンビの群れ退治で8000万円(相当)
「却下!無理!絶対に死ねる自信がある!」
次に高いのは禁足地で確認された忌み神の退治で5000万円(相当)
「はい!却下!つーか、あのクソ親父は9歳児になにさせるつもりよ!」
こう言う時は必ず絡みに出て来る霊視さんがこの数日間行方不明だ。
霊視自体は自前で問題なく出来るのであまり心配はしてないが少し寂しいセリス。
過去にも行方不明になる事が数回あって気がついたらシレッと戻って来てるのだ。
「お仕事だったの?」
《そう・・・最近ゴルド王国と魔族が妙に活性化していてねぇ、その対策を真魔族と協議・・・・・・・・・霊視は仕事なんてしません》
「お仕事大変ね?真魔族?」
《仕事なんてしてませーん》
「嘘つけ、ふーん?真魔族って「南の大陸」よね?・・・・・・エルフさんかな?」
だんだんと霊視の正体がバレて行く、そもそも隠す気あんのかも疑問だ。
《エルフさんではありません》
霊視設定をまだ続ける様子の霊視さん。
話しを依頼書に戻して、次は安い順に見て行く。
墓地の見廻り「夜間限定」1日一万五千円相当。
「夜間か無理ね寝てるし、それ以前に夜間の外出許可が出る訳ないし」
9歳児セリスはまだまだグッスリと寝て成長するのが仕事だ。
次は村の石切場に出現する死霊達の説得。成功報酬200万円(相当)
「説得って何?」詳しい資料を見る。
『○○村の石切場の増築工事に反対する森の死霊達の説得をお願いします。
彼らは私達の祖先にあたり強行な除霊はしたくありません。
増築工事への反対も「村の自然を守りたい」との願いで悪意はありませんが石が枯渇して治水工事が進みませんし工事業者が怖がって逃げてしまっています。
もし死霊の説得に成功したら報酬として200万円(相当)をお支払い致します。
交通費は要相談で。』
「う~ん?死霊に悪意が無いなら危険は少ないかな?」
とりあえずこの仕事の話しを聞いて見るつもりのセリスだった。
夕方に行われた「セリス誕生日会」は貴族色が強く大して面白くないので割愛。
100人以上の人への挨拶回りに偉い人の長い世間話しでセリスの笑顔が少しヒクヒクしていたとだけ。
次の日イノセントに連絡を取ってフェナを伴って○○村にギルド手配の馬車に揺られて3時間かけて来た。
「これが冒険者ギルドからの依頼受注証明書です」
フェナが○○村の村長に依頼書類を手渡す。
一応、大人のフェナが受注した事になっているからだ。
セリスは知らなかったがフェナはAランクの冒険者でもある。
「おおっ!お待ちしておりました」
Aランク冒険者の思わぬ登場に嬉しそうな村長さん。
「あの?仕事の前に村長さんに質問があります」セリスが手を上げる。
「何ですかな?お嬢様」
「この村の名前・・・本当に○○村で良いんですか?」
「○○村で宜しいですよ、中々個性的な名前でしょう?」
「・・・そうですか」
マジで村の正式名称が「○○村」だった。
「ちなみに隣村が「〒〒村」なんですよ」
「嘘つけ、そもそも何で読むんじゃい?郵便局郵便局村か?」
面倒臭くなったのでとりあえず村長に問題の石切場に案内してもらう。
「うわー?これは酷い・・・
到着した途端に霊視を発動して唖然とするセリス。
いるわいるわ死霊が・・・石切場全体にみっちりいるわ死霊が。
「これなんなん?!どう言う事?この数は異常だよ」
混乱したセリスがフェナに尋ねた瞬間!
「エクサホーリー!!」いきなり最上位浄化魔法を死霊にぶちかますフェナ!
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・
フェナの聖なる一撃で大半の死霊が成仏してしまった・・・説得はどうした?
「はっ?!つい!」ついつい聖女の時のクセが出てしまった様子だ。
「つい!じゃねぇよ!説得って言われてんだろ!いきなりエグい魔法を使うな!
てか、あんた本当になんでカターニア公爵家に仕えてんの?!」
「お嬢様を見ていて飽きないからですね」
「もう少しこう・・・何か有るんでないかい?」
すると凄い勢いで死霊が飛んで来て、《おい!最上位の聖女なんて反則だろ?!》と、生き残った?死霊が猛烈に抗議して来る。
「すみませんでした、でも反則ってなに?」
《一応、依頼内容は「説得」だろ?!空気読めよ!お前が苦労して俺達を説得する流れだろ?!》
「なして依頼の事を知ってるか分からんがその通りですね。
重ねてすみませんでした。
じゃあ今から説得を始めます」
《淡々としてんなぁ嬢ちゃん》
些細なイレギュラーは有ったが死霊への説得の仕事を開始するセリス。
「それで?死霊さん達は何でここに集まってるんです?」
《ここは死霊にとってパワースポットだからな、燃料補給してんだ》
「なるほど、それで何で石切場の増築に反対なんですか?」
《増築すると力場が変わってパワースポットの効力が落ちるからだな》
結構切実な問題だった・・・問題なのだが・・・ある点が腑に落ちんセリス。
「死霊達さんは成仏をしないんですか?」そうこれだ。
《そんなモン成仏すると女風呂を思う存分に覗けないからだね》
「よぉしフェナ!もう一回エクサホーリーだ!このアホンダラを蹴散らせ!」
「エクサホーリー!!」ビカビカビカビカーーーーー!!!!
《おおおおおおおお??・・・おおおお・おお・・・・・・・気持ちいいーー?!》
覗き魔の死霊は滅びた。
ってか、エクサホーリーの連射とかフェナの聖力はどうなってんだ?
それからセリスは残ってる連中に「幽霊さん達が成仏しないのはなぜ?」と幽霊に尋ねて回る。
《そりゃ俺も女の着替えを覗きたいから》「覗くな!エクサホーリー!!」
《幽霊だと女のスカートの下から覗きたい放題・・・》「お前もか!エクサホーリー!!」
《君可愛いね?パンツを・・・」「くたばりやがれ下さい!エクサホーリー!!」
《俺はどっちかと言うと男の・・・》「論外!!エクサホーリー!!」
《私は100年前に死んだのだが、若い頃に死別した彼女とこの場所での再会の約束をした事が心残りでね・・・》「エクサホーリー!!」
「フェナちょっと待て!今の奴、結構まともな理由じゃ無かったか?!」
「あっ・・・つい」
「・・・うん、まぁ、やっちまったのは仕方ない、次ぃ!」
《僕ちんは、君の様な金髪ロリロリウルルンな幼女が来るのをずっと・・・》
「アホかぁ!死ねぇ!!!!!」「最強クラスにキモい!!エクサホーリー!!!」
こうして一応は全員に聞いて回ったのだがまともな理由だったのは1人だけだった・・・
それもフェナが問答無用で消してしまったが。
森の石切場は完全に浄化された。・・・・・・・・もちろんフェナ1人の力でね!
「村長さん・・・」
「はい・・・」
「任務完了したから金を寄越せ」
「はい・・・」アホな先祖にドン引きしている村長さん。
こうしてセリスは200万円(相当)の金貨をゲットしたのだった。
自分では何もしてないが部下の力は自分の物、自分の力は自分の物なのだ。
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