二人のおっさん

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旅行

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「永久未来続くものなどあるはずはないから~🎵」恐ろしく普通の歌声で風を切りながらバイクは山道を走っていく。
 10月のある日、例年より温かいと言われているがやはり山を越える、その木々の間を走っていると肌寒く感じる。
「街はソウトウにぎやかで~、僕はカンショウさみしげで~🎵」

 朝早くから急に呼び出されて、こんな風に連れていかれると思わなかったけれど、何より気になるのが…
「Rockは詳しいぜ、過ぎた事ばかりがなぜ🎵」
「ちょっと良いですか?」
「眩しく見えるのかな、あの頃よりも少しは🎵」
「とりあえず歌うの止めましょうか!」
 バイクに股がっている黒い革ジャンおっさんに声をかける。
「なんやねん、今一番ええところやねん。大サビやで。」
「いやいや、何の説明も聞いてないんで。」
「あぁ、SOPHIAさんの『beautiful』やで。」
「誰が何の曲か聞いたんだよ。これ何処に向かってるんですか?」
 もう、これくらいのツッコミはしていかないと、話の脱線が凄いので、家にお邪魔した後からこういう物言いになってしまった。
「いや、海見に行きたくてな~、日本海。でも、一人で行くのも寂しいから。」
「まぁ、それは良いんですけど…」
「けど、なによ?」

「足、なんで魚じゃないんですか?人魚なのに。っていうか、人間の足にならないって言ってませんでしたか?」
 そう、バイクに股がってる。というかデニムを履いてる事にびっくりしてしまった。
「そりゃ、ハーレー運転するんやったら人間の足に変えなギアも満足に変えられへんからやんけ。っていうか、そもそも『乾いただけでは』人間の足にならへんだけやで。」
 そういえば、前回そんな話を言われたような…

「じゃあ、どうやったら人間の足に?」
「しらん。人間の足になれ!って思ったらなる。」
 会話止めてんじゃねえぞ…
 まぁ、それもいつも通りなので黙殺することにする。
「っていうか、サイドカーなんですね。」
 ハーレーに横付けされたサイドカーに座り、項垂れながら聞いてみた。
「ハーレーと言えばサイドカー、サイドカーと言えばハーレーやんけ。」
「聞いたことねぇわ、そんな言葉。」

 そうこうしてるうちに山道の中、右側に開けた場所が出てきた。
 特に相談もなく、右折してその場所に入る。
 少し古びた大きめの建物、隣には御手洗いだけの建物があり、大きめの建物の入り口付近には植物が販売されている。 
「道の駅じゃないですか?」
「やっぱり、バイク旅するんやったら道の駅はマストやろ?」
 確かに、道の駅しかり高速のSAしかり、こういう場所はワクワクするよなぁ…
「特に買う予定もない野菜を見つつ、ワケわからんご当地ソフトクリーム食べようぜ~」
 そう言いながら腕を水平に伸ばして某アニメキャラの様にキーンと口ずさみながら建物の中に入っていく。
「人魚関係なくなっちゃってるけど大丈夫?」

 *

「いや、バニラ食べてんじゃん。」
 ご当地の緑茶ソフトを口に含みながら隣のおっさんの白い物体を指差す。
「えっ、北海道って書いてたから…」
「ここ日本海だよ!もっというと北陸に入った所だわ!」
「という事は…詐欺?」
「何でだよ!大体どこもソフトクリームでバニラの場合は『北海道』って書いてるんだよ。」
「何のために?」
「からあげ金賞と同じ理由だよ!」

 と掛け合いをしていると何処からともなく尋常じゃない声量の子供の泣き声が聞こえてくる。
 俺達が出てきた建物の隣、御手洗いと逆の方に目をやると芝生広場がありその真ん中辺りに音の発生源と思われる小学校にもまだ行ってない様な年齢の男の子と、全身を藁で覆ったような出で立ちで右手に木の棒、そして赤鬼の様に真っ赤なペイントを顔に施している男が「これからは嘘を付かず、笑って過ごすか~」とがらがら声で喋っている。

何処にでもああいうのがあるんだなぁ、とボーッと見ていると
「オラァッ!」
「殴った!?」
いつの間にか横に居たはずの人魚が藁男の傍で仁王立ちで拳を握りしめ、藁男は殴られた衝撃で広場に横たわっていた。
「さぁ、坊主!こいつは俺に任せて安全な場所にブフゥッ!?」
俺のドロップキックをお腹に受けて、横たわる物体が二つに増えた。
「何してんだよ!?」
「変質者がいたから…」
「あれは秋田のなまはげと同じ扱いなの!良くあるやつだよ!」
「そうなん?…でも、ドロップキックはあかんと思うねん、直撃やねん。」
「そんなことより」
「そんなこと?」
「人が増えてきたから目撃者多いし、捕まりますよ。」
「大丈夫」
そういうと下半身が魚に変わっていく。
「とりあえず、上半身を革ジャンで隠すから、デカい魚が打ち上げられたと勘違いさせてほとぼりさめたら逃げよう。」
「見られてるっつったろうが!」

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