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友達(後半)
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足元に打ち上げられた魚の様なモノを見下ろしながら、子供の時も家の近くの川沿いにこんなのがいたなぁと思いながら見ていた。
まぁ、あちらは『本物』の魚だったんだけれども。
夕焼けで赤く染まる河川敷の端で人心地ついたのか人魚のおっさんはゆっくりと起きあがり、まさしく人魚のポーズよろしく手で地面を支えている。
「なんや、まだおったんか?」息も絶え絶えに虚勢を張る人魚のおっさん。
いつの間にか撮影隊も居なくなっていた。
「とりあえず、お疲れ様です。何か…最後まで見ちゃいましたね。」
「あんなに取り直ししたん初めてやからなぁ…」
「じゃあ、俺もそろそろこの辺で…」
見学料払え等と、難癖を付けられる前に退散しようとすると「ちょい待ちいな。」掴まってしまった、足を物理的に。
「腹減ってない?飯食わへん?」「御飯ですか?」思わぬお誘いだ、そういえば夕方に撮影(?)し始めて結構経っており、辺りは夜の帳が落ちている。人魚のおっさんの背後の川も黒く染まっている。
「打ち上げしよう、打ち上げ。」確かに人魚が食べるものに興味がある。
「分かりました、行きましょうか。」
「話が分かるやんけ、ほんなら…ぐふぅ!」
「大丈夫ですか?」
「『大丈夫ですか?』やあらへん…何してんねん!?」
「えっ、川の中入るんですよね?しっかり掴まってますから行きましょう。」
「違う違う、何で背中乗んねん!」
「下半身で泳ぐんですよね?」
「誰が位置の話してんねん!なんで、俺に跨がってるか聞いてんねん、わしゃバイクか!?」
「えっ、大体こういうの背中に乗って、水底の目的地まで行くんじゃないんですか?」
「行けるかぁ!そもそも、水底ってなんやねん!水の中なんか息出来ひんやないか。」
「えっ、水の中って息出来ないんですか?」
おっさんの背中から降りながら、その事実にびっくりして聞いてみる。
「そりゃそうやろ。肺呼吸やからな基本的に。」
「えっ、じゃあ呼吸はどうしてるんですか?」
「普通に陸で吸って潜るで。」
「でもそれじゃあ…耳とか鼻に入ってきますよね?」
「えっ?閉じれるで?」
「えっ?」「えっ?」
「もう、カバじゃん…」小声で呟く。
怒られるかと思いきや聞こえなかったらしく「とりあえず向こう岸まで橋渡って行っといて、俺の家向こうの方やから」そう言いながら人魚のおっさんは川に潜って行った。
打ち上げといっても居酒屋じゃないんだ、と思いながら河川敷から土手に向かい、左手にある橋を渡っていく。
そもそも人魚の家のイメージが出来ない、水の中ではないのは分かったけれども、まさか『橋の下』というオチは無いだろうし。
向こう岸の土手に着いたが、人っ子一人、人魚一頭いない。
まぁ、この数え方が正しいのかは分からないけれど。
まだ、川の中なのか?と暗い水に目を向けても水面に変化はない。
と思っていると、不意に肩を叩かれる。
「うぃ、お待たせ。ほな行こか。」
振り向くと、人魚のおっさんが立っていた。
上半身に黒いパーカーを羽織っているが、見事な程似合っていない。
先に歩き出すおっさんを見ていると疑問が湧いた。
というか、てっきり…「あれなんですね、乾いたら人間の足になるとかじゃないんですね?」
「映画見すぎやで、乾いて人間みたいになるんやったら、濡れたら半魚人になるんかい。っていつもツッコミそうなるわ。」
ジャンプしながら先導していく。
土手から階段を降り、目の前の道をまっすぐ歩き2本目の筋を右に曲がった左手におっさんの家があった。
というか…
「デザイナーズマンション、ですね。」
「ええやろ!?」
昭和のテレビアニメよろしく木造一軒家じゃなく、10階建てのコンクリート打ちっぱなしで、窓もそんなに面積は要らないんじゃないかと思うほど、昼間に見たなら太陽の光を取り込もうという気概を感じるほど存在感がある。
こういう外観の建物を見ると、いつも安藤某を思い出してしまう。
っていうか、人魚が住むイメージじゃねぇ。
カードを差し込み、オートロックの入り口をくぐり、エレベーターに乗り込む。
迷わず10階のボタンを押すのも、イメージと違う。
「っていうか」
「ん?」
「何でデザイナーズマンションなんですか?」
「オシャレやん。」
いつも思うが、この人は思った事を具現化する人なんだと思った。急に面白いから人魚がカツアゲからのダブルダッチするとか、オシャレだからデザイナーズマンションに住んだり、その内カッコいいからGT-R乗りそうな。
足がないから無理か。
そうこうしてる内に玄関の鍵を開け中に入る。
と、とてつもない良い匂いがしてくる。
中華屋さんの匂いだ。
「あれ?あいつ来てたんや。」
「あいつ?」
「ツレやツレ」そう言うと、玄関マットでおっさんが尾びれの砂を払う。
タイル張りの床、目の前の右手にすりガラス左手の壁はこれまたタイル張りの洗面台だ。
どうやらすりガラスの向こうはユニットバスの様だった。
共同生活には不向きな造りだとつくづく思うが、人魚のおっさんは気にせず、ずんずん奥に進む。
ユニットバスの前の通路辺りに段差があり、その先はフローリングになって、10畳ほどの広さがあるがその一番手前のキッチンに一人の男が立っていた。
「お前、来るんなら連絡せえよ。」
「良いじゃねぇか、ダチに逢うだけなんだから。飯作っといたぞ。」そう言うとフローリングの中央のダイニングテーブルに皿を置いて、こちらを振り返り、俺の存在に気付く。
「あれ、誰?君」
「はぁ…急に連れて来られたんですけど。」
「へぇ~珍しい。」
端正な顔立ち、長身に黒のコーディネートがとても似合っている。
っていうか、この人は…
「小○旬さんじゃねぇか!」
「はぁ?なに言ってんねん。こいつがこの前言ってた河童の『ジュン』やで。」
「いや、確かに河童の役やってたけども!っていうか、見た目も河童に寄せてねぇし。」
「河童の役?訳の分からんことを言うな!」
「普通の事しか言ってねえわ。」
「とりあえず、何の事か分からねぇけど、冷めるから飯食おうぜ。」
「そうやな、とりあえず食おうか。何作ってくれたん?」
「チャーハン」
「あんたはチャーハン食べる側の人間だろうが!」がデザイナーズマンションの部屋中に響き渡った。
第二話、完
まぁ、あちらは『本物』の魚だったんだけれども。
夕焼けで赤く染まる河川敷の端で人心地ついたのか人魚のおっさんはゆっくりと起きあがり、まさしく人魚のポーズよろしく手で地面を支えている。
「なんや、まだおったんか?」息も絶え絶えに虚勢を張る人魚のおっさん。
いつの間にか撮影隊も居なくなっていた。
「とりあえず、お疲れ様です。何か…最後まで見ちゃいましたね。」
「あんなに取り直ししたん初めてやからなぁ…」
「じゃあ、俺もそろそろこの辺で…」
見学料払え等と、難癖を付けられる前に退散しようとすると「ちょい待ちいな。」掴まってしまった、足を物理的に。
「腹減ってない?飯食わへん?」「御飯ですか?」思わぬお誘いだ、そういえば夕方に撮影(?)し始めて結構経っており、辺りは夜の帳が落ちている。人魚のおっさんの背後の川も黒く染まっている。
「打ち上げしよう、打ち上げ。」確かに人魚が食べるものに興味がある。
「分かりました、行きましょうか。」
「話が分かるやんけ、ほんなら…ぐふぅ!」
「大丈夫ですか?」
「『大丈夫ですか?』やあらへん…何してんねん!?」
「えっ、川の中入るんですよね?しっかり掴まってますから行きましょう。」
「違う違う、何で背中乗んねん!」
「下半身で泳ぐんですよね?」
「誰が位置の話してんねん!なんで、俺に跨がってるか聞いてんねん、わしゃバイクか!?」
「えっ、大体こういうの背中に乗って、水底の目的地まで行くんじゃないんですか?」
「行けるかぁ!そもそも、水底ってなんやねん!水の中なんか息出来ひんやないか。」
「えっ、水の中って息出来ないんですか?」
おっさんの背中から降りながら、その事実にびっくりして聞いてみる。
「そりゃそうやろ。肺呼吸やからな基本的に。」
「えっ、じゃあ呼吸はどうしてるんですか?」
「普通に陸で吸って潜るで。」
「でもそれじゃあ…耳とか鼻に入ってきますよね?」
「えっ?閉じれるで?」
「えっ?」「えっ?」
「もう、カバじゃん…」小声で呟く。
怒られるかと思いきや聞こえなかったらしく「とりあえず向こう岸まで橋渡って行っといて、俺の家向こうの方やから」そう言いながら人魚のおっさんは川に潜って行った。
打ち上げといっても居酒屋じゃないんだ、と思いながら河川敷から土手に向かい、左手にある橋を渡っていく。
そもそも人魚の家のイメージが出来ない、水の中ではないのは分かったけれども、まさか『橋の下』というオチは無いだろうし。
向こう岸の土手に着いたが、人っ子一人、人魚一頭いない。
まぁ、この数え方が正しいのかは分からないけれど。
まだ、川の中なのか?と暗い水に目を向けても水面に変化はない。
と思っていると、不意に肩を叩かれる。
「うぃ、お待たせ。ほな行こか。」
振り向くと、人魚のおっさんが立っていた。
上半身に黒いパーカーを羽織っているが、見事な程似合っていない。
先に歩き出すおっさんを見ていると疑問が湧いた。
というか、てっきり…「あれなんですね、乾いたら人間の足になるとかじゃないんですね?」
「映画見すぎやで、乾いて人間みたいになるんやったら、濡れたら半魚人になるんかい。っていつもツッコミそうなるわ。」
ジャンプしながら先導していく。
土手から階段を降り、目の前の道をまっすぐ歩き2本目の筋を右に曲がった左手におっさんの家があった。
というか…
「デザイナーズマンション、ですね。」
「ええやろ!?」
昭和のテレビアニメよろしく木造一軒家じゃなく、10階建てのコンクリート打ちっぱなしで、窓もそんなに面積は要らないんじゃないかと思うほど、昼間に見たなら太陽の光を取り込もうという気概を感じるほど存在感がある。
こういう外観の建物を見ると、いつも安藤某を思い出してしまう。
っていうか、人魚が住むイメージじゃねぇ。
カードを差し込み、オートロックの入り口をくぐり、エレベーターに乗り込む。
迷わず10階のボタンを押すのも、イメージと違う。
「っていうか」
「ん?」
「何でデザイナーズマンションなんですか?」
「オシャレやん。」
いつも思うが、この人は思った事を具現化する人なんだと思った。急に面白いから人魚がカツアゲからのダブルダッチするとか、オシャレだからデザイナーズマンションに住んだり、その内カッコいいからGT-R乗りそうな。
足がないから無理か。
そうこうしてる内に玄関の鍵を開け中に入る。
と、とてつもない良い匂いがしてくる。
中華屋さんの匂いだ。
「あれ?あいつ来てたんや。」
「あいつ?」
「ツレやツレ」そう言うと、玄関マットでおっさんが尾びれの砂を払う。
タイル張りの床、目の前の右手にすりガラス左手の壁はこれまたタイル張りの洗面台だ。
どうやらすりガラスの向こうはユニットバスの様だった。
共同生活には不向きな造りだとつくづく思うが、人魚のおっさんは気にせず、ずんずん奥に進む。
ユニットバスの前の通路辺りに段差があり、その先はフローリングになって、10畳ほどの広さがあるがその一番手前のキッチンに一人の男が立っていた。
「お前、来るんなら連絡せえよ。」
「良いじゃねぇか、ダチに逢うだけなんだから。飯作っといたぞ。」そう言うとフローリングの中央のダイニングテーブルに皿を置いて、こちらを振り返り、俺の存在に気付く。
「あれ、誰?君」
「はぁ…急に連れて来られたんですけど。」
「へぇ~珍しい。」
端正な顔立ち、長身に黒のコーディネートがとても似合っている。
っていうか、この人は…
「小○旬さんじゃねぇか!」
「はぁ?なに言ってんねん。こいつがこの前言ってた河童の『ジュン』やで。」
「いや、確かに河童の役やってたけども!っていうか、見た目も河童に寄せてねぇし。」
「河童の役?訳の分からんことを言うな!」
「普通の事しか言ってねえわ。」
「とりあえず、何の事か分からねぇけど、冷めるから飯食おうぜ。」
「そうやな、とりあえず食おうか。何作ってくれたん?」
「チャーハン」
「あんたはチャーハン食べる側の人間だろうが!」がデザイナーズマンションの部屋中に響き渡った。
第二話、完
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