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出逢い
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今のご時世、人が転んでても、荷物を盛大にぶちまけても、誰も助けたりしない。
道に迷ってるご高齢にも声をかけるのが憚られる。
それはきっと、見返りのない事をしたくないのと、少しでも優しさを見せると、際限なく甘えてくる今の人々の人間性の結果なのかもしれない。
そこに異論はないのだけど、さすがに今、目の前の川で溺れてる人を無視する気持ちは俺にはなかった。
もちろん、その後にひどく後悔することになるのだけど…
「あのな、見て分からんか?」
「はぁ…」
「『はぁ…』ちゃうねん!溺れてるか泳いでるかの違いも分からんのか?って聞いてんねん」
バーコード型の髪の毛までぐっしょりと濡れた小太りの男が血管が浮き出るほど、唾がこちらに飛んできそうなほど、早口で捲し立ててくる。
それで一瞬、嫌な顔をしてたのを見られて更に激昂してくる。
「なんでそんな顔されなあかんねん、こっちゃ被害者やぞ!?お前が溺れてるのか泳いでるのかも分からんと急にこっち近付いてきたな~思ったら髪の毛掴んで、ぐーって引っ張ったやん、なんやあれ!」
「いや、救助する時は髪の毛掴んだらしがみついてこないって昔TVで見たことが…」
「テレビ!?今の御時世に、テレビ見て得た知識って何年前やねんそれ!フォローアップせんかい!っていうか、その前に何発か殴ってきたよな!?」
「はい、あれも溺れてる人は必死になってしがみついてくるから、とりあえず気絶させて。っていうのをですね…」
「こわっ、何それ!まぁまぁ、今の話聞いて百歩譲って髪の毛掴んだり、殴ってきたのはしゃあない…殴るのと髪の毛掴むのの間に何か喉輪してこんかった?」
「のどわ?」
「あれやん、相撲で喉ぐー押すやつ。」
「あっ、あれのどわっていうんですね?」
「喉輪っていうんですね、やあらへん!息止まるか思たわ!殺人ですわ、殺人未遂ですわ!こわっ、もう警察呼んだろかしら?」
「いや、警察は…っていうか、あれですよね。あな…」
「…なんか反応悪いな兄ちゃん、ってか、おっちゃんか?何でもええけど、喋り過ぎて疲れたわ。兄ちゃんタバコないの?」
「ありますけど…」「ちょうだいや」そう言って取り出したタバコを奪い取り、旨そうに紫煙を燻らした。ちょうど良い機会だと思い、一番聞きたかった事を聞いて見る事にした。
「あの?」「なんやねん。」「一つ、聞いてもよろしいですか?」「なんや、別に川で泳いでたのに意味なんかないで。」「いや、あの…」「なんやねん、はっきり言えや!」
下半身に目を送り、とある箇所を指差し聞いてみた。
「半魚人さん、なんですか?」
みるみるゆでダコの様に赤くなっていく半魚人(?)の顔。
「ハンギョジン!?言うに事欠いてあんなんと一緒にすんなや!」
「半魚人は空想上の生き物やんけ!?見たことあるか、半魚人が銅像なってんの!?」
どうやら話を聞いてみると、この人(?)が言うには銅像になるのは実在するものという謎の理論があるらしかった。
「でも、河童はどうなんですか?あれは空想上の生き物なんじゃ…」
「はぁ~…ほんま、何も知らんな。あいつら普通におるで?昨日も一緒に飲みに行ってな~、あっ、ちなみに龍もおるで、何かあいつ最近忙しい言うて付き合い悪いねんな~…」
そのまま、自分語りが始まりそうなので、話を元に戻す事にした。
「で、あなたは結局何の生き物なんですか?」
「えっ、いや分からん?どっからどう見ても人魚やんけ!」
「えっ!?人魚?」
「何やねん?ちゃんと見いや。」
そういって両手を広げた自称人魚をまじまじと見てみる。
薄くなった髪、タプタプの顎肉、だらしない三段腹から先、本来あるはずの下半身が、鯉のぼりを履いたかのようにーもちろん、見た目は布ではないー魚の胴体から尾びれまでがまるまる付いている。
思わず、胴体の鱗を二、三度撫でてみる。
「本物だ…」
「いったっ、お前何を撫でてんねん!鱗剥がれるわ!」
「いや、えぇ…」
呆気にとられてると街全体に鳴り響く『夕焼小焼』、逢魔が時の合図だ。
「えっ、もうこんな時間なん?やっば、スーパーの割引始まるわ。まぁ、悪気ないの分かったから、次から気ぃつけよ?この川、結構人魚おるからな。」
そういうと人魚のおっさんはザブンと重い音を立てて、川の底へ、帰っていった。
色んな思いが頭に浮かんでは消え、頭の中に疑問符だらけになる中で「太ってる人魚もいるんだ…」と独り言ちた。
※次回予告
「すいません、勘弁してください!自分、人魚っす!ジャンプしても小銭入れるポケットないんで音鳴らないっす!」
「見ろや!誰がどう見ても河童やんけ!小○旬?訳の分からんことを言うな!」
「リュウグウジョウ?」
次回『オヤジ狩りの人魚と河童』
~不定期連載になります、他の作品も鋭意制作中の為、気長にお待ちください。~
道に迷ってるご高齢にも声をかけるのが憚られる。
それはきっと、見返りのない事をしたくないのと、少しでも優しさを見せると、際限なく甘えてくる今の人々の人間性の結果なのかもしれない。
そこに異論はないのだけど、さすがに今、目の前の川で溺れてる人を無視する気持ちは俺にはなかった。
もちろん、その後にひどく後悔することになるのだけど…
「あのな、見て分からんか?」
「はぁ…」
「『はぁ…』ちゃうねん!溺れてるか泳いでるかの違いも分からんのか?って聞いてんねん」
バーコード型の髪の毛までぐっしょりと濡れた小太りの男が血管が浮き出るほど、唾がこちらに飛んできそうなほど、早口で捲し立ててくる。
それで一瞬、嫌な顔をしてたのを見られて更に激昂してくる。
「なんでそんな顔されなあかんねん、こっちゃ被害者やぞ!?お前が溺れてるのか泳いでるのかも分からんと急にこっち近付いてきたな~思ったら髪の毛掴んで、ぐーって引っ張ったやん、なんやあれ!」
「いや、救助する時は髪の毛掴んだらしがみついてこないって昔TVで見たことが…」
「テレビ!?今の御時世に、テレビ見て得た知識って何年前やねんそれ!フォローアップせんかい!っていうか、その前に何発か殴ってきたよな!?」
「はい、あれも溺れてる人は必死になってしがみついてくるから、とりあえず気絶させて。っていうのをですね…」
「こわっ、何それ!まぁまぁ、今の話聞いて百歩譲って髪の毛掴んだり、殴ってきたのはしゃあない…殴るのと髪の毛掴むのの間に何か喉輪してこんかった?」
「のどわ?」
「あれやん、相撲で喉ぐー押すやつ。」
「あっ、あれのどわっていうんですね?」
「喉輪っていうんですね、やあらへん!息止まるか思たわ!殺人ですわ、殺人未遂ですわ!こわっ、もう警察呼んだろかしら?」
「いや、警察は…っていうか、あれですよね。あな…」
「…なんか反応悪いな兄ちゃん、ってか、おっちゃんか?何でもええけど、喋り過ぎて疲れたわ。兄ちゃんタバコないの?」
「ありますけど…」「ちょうだいや」そう言って取り出したタバコを奪い取り、旨そうに紫煙を燻らした。ちょうど良い機会だと思い、一番聞きたかった事を聞いて見る事にした。
「あの?」「なんやねん。」「一つ、聞いてもよろしいですか?」「なんや、別に川で泳いでたのに意味なんかないで。」「いや、あの…」「なんやねん、はっきり言えや!」
下半身に目を送り、とある箇所を指差し聞いてみた。
「半魚人さん、なんですか?」
みるみるゆでダコの様に赤くなっていく半魚人(?)の顔。
「ハンギョジン!?言うに事欠いてあんなんと一緒にすんなや!」
「半魚人は空想上の生き物やんけ!?見たことあるか、半魚人が銅像なってんの!?」
どうやら話を聞いてみると、この人(?)が言うには銅像になるのは実在するものという謎の理論があるらしかった。
「でも、河童はどうなんですか?あれは空想上の生き物なんじゃ…」
「はぁ~…ほんま、何も知らんな。あいつら普通におるで?昨日も一緒に飲みに行ってな~、あっ、ちなみに龍もおるで、何かあいつ最近忙しい言うて付き合い悪いねんな~…」
そのまま、自分語りが始まりそうなので、話を元に戻す事にした。
「で、あなたは結局何の生き物なんですか?」
「えっ、いや分からん?どっからどう見ても人魚やんけ!」
「えっ!?人魚?」
「何やねん?ちゃんと見いや。」
そういって両手を広げた自称人魚をまじまじと見てみる。
薄くなった髪、タプタプの顎肉、だらしない三段腹から先、本来あるはずの下半身が、鯉のぼりを履いたかのようにーもちろん、見た目は布ではないー魚の胴体から尾びれまでがまるまる付いている。
思わず、胴体の鱗を二、三度撫でてみる。
「本物だ…」
「いったっ、お前何を撫でてんねん!鱗剥がれるわ!」
「いや、えぇ…」
呆気にとられてると街全体に鳴り響く『夕焼小焼』、逢魔が時の合図だ。
「えっ、もうこんな時間なん?やっば、スーパーの割引始まるわ。まぁ、悪気ないの分かったから、次から気ぃつけよ?この川、結構人魚おるからな。」
そういうと人魚のおっさんはザブンと重い音を立てて、川の底へ、帰っていった。
色んな思いが頭に浮かんでは消え、頭の中に疑問符だらけになる中で「太ってる人魚もいるんだ…」と独り言ちた。
※次回予告
「すいません、勘弁してください!自分、人魚っす!ジャンプしても小銭入れるポケットないんで音鳴らないっす!」
「見ろや!誰がどう見ても河童やんけ!小○旬?訳の分からんことを言うな!」
「リュウグウジョウ?」
次回『オヤジ狩りの人魚と河童』
~不定期連載になります、他の作品も鋭意制作中の為、気長にお待ちください。~
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