ヒーロー劣伝

山田結貴

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第五話 狙われたヒーロー! 遊園地の決戦

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「きゃーっ!」
 美江が間の抜けた声を上げながら宙を泳ぐはめになったのは、それから数分も経たないうちのことであった。
「あ、あれ。痛くない」
 瞬く間にアスファルトの地面に叩きつけられたというのに、全く痛みを感じない。
 無理矢理着せられたスーツの衝撃吸収率が異常なまでに高いからなのか。それとも、自分はあのまま天にでも召されたのだろうか……。
「そこのお姉さん。パンツ丸見えだよ」
「ひゃあっ」
 聞き覚えのない声に恥ずかし過ぎる指摘をされ、美江は頬を赤らめながらすぐさま飛び起きた。
 気がつけば、辺りには数人の野次馬が集まっている。
「あんた、ここのスタッフかい? それとも、ショーに出る人?」
「いや、その」
 野次馬の一人である男性に尋ねられ、すぐに否定したくなったがそれは大変難しい。何故なら。
「黒沢さんの馬鹿……」
 自分は永山みたいな金の亡者とは違うが、今回ばかりは許されるはず。帰ったら慰謝料として、特別手当をむしりとってやる!
 こんな考えが、いつになく脳内を支配してしまうのも無理はない。
 現在の美江の風貌は、変身という名のスーツ着用技術により、普段は地味だの何だの言われる彼女からは大きくかけ離れたものになっていた。
 いつもは下ろしている髪は、無駄に目立つリボンによってツインテールになってしまっている。スパンコールできらめく薄桃色のスカートは、気を抜けばすぐにパンチラ状態に陥ってしまうくらい短い。上はブレザーをアレンジしたようなかわいらしい作りにはなっているものの、どういうわけか胸元だけ露出度が異常だ。
 それらを総合して端的に表現するならば、日曜日の朝にでも放送されていそうな、アニメに登場する戦うヒロインを彷彿させる姿になってしまったのである。
 ここまでコスプレチックな格好で遊園地にいれば、先程のような誤解を受けても仕方のない話だ。
「あ、そうだ。こんなところで油を売ってる場合じゃなかったんだ。あっちの方で、面白いことが」
 野次馬のうちの一人が言うと、皆思い出したかのように「あ、そうだった」などと呟きながらゾロゾロと美江の前から去っていった。
「面白いこと?」
 今の自分よりも、面白いことになっているものがあるというのか。もしかして、怪人関係か?
 直感した美江は、丈が短いスカートに注意しながら集団の後を追った。
 この遊園地はジェットコースターや観覧車などの一通りのアトラクションが整っている程度で、大人気のネズミキャラクターが頑張っているどこかの夢の国みたいに常時大盛況というわけではない。
 だが、今日はいつになく周囲が騒がしい。やはり怪人が、多大な被害を与えているのだろうか。
「あっ」
 野次馬達を追いかけていると、ほどほどの規模といった感じのイベントステージ周辺に辿り着いた。
 そこには既に、黒山の人だかりが出来上がっている。大人も一応いるようだが、よく見るとその打ち分けは子供がやや多い。
「何なの。この騒ぎは」
 ステージの看板には『土星戦士サターンマン・スペシャルショー』と派手な字体で書かれている。ちなみに『サターンマン』はヒーローもののドラマの主人公であるため、ここが怪人に襲撃された場所であることは間違いなさそうだ。
 しかし、見物客のせいで肝心のステージ上どんなことになっているのか確認できない。
 がやがやとした中でかろうじて聞き取れるのは「ヒーロー! 怪人なんかに負けるなー!」という子供の声や、「最近のショーって、変わってるのねえ」などといった、保護者のものと思われる声だけだった。
「これじゃあ、何が起きてるのか全然わからない。こうなったら」
 監視役として高給をいただいている身分としては、多少身体を張ってでも事の次第を見届けなければなるまい。
 美江はゴクっと唾を飲んでから、小柄な体格を活かして見物客の群れへと突入していった。
 ある程度の覚悟は決めていたものの、それは想像を絶するほどの苦難の道のりであった。
「すみません。前に行かせて下さい」
「あっ! アニメに出てくる女戦士にそっくり」
「握手してー」
「握手ー」
「あ、あの。私は……」
「ねえ、いっつも怪獣にぶちかましてる『ミラクルキラクルスペシャルフラッシュ』してー」
「お姉ちゃん、アニメに出てくる女の子よりおっぱい大きいー」
「いや、だから私は」
「お、姉ちゃん。いいケツしてるな」
「きゃーっ!」
 やはりこの格好で、人混みに突っ込んでいく方が無謀だったか。
 幅広い年齢層の者にからまれまくった結果、ステージの前についた頃には、美江は色々な意味でボロボロになってしまっていた。
「はあ……はあ……ん?」
 乱れた髪や服装を整えながら、ようやくステージに目を向ける。
 するとそこには、おそらく誰もが目を疑うであろう光景が繰り広げられていた。
「な……なななな」
 ステージの下手には、目の前の事態にパニックを起こしているステージの進行役らしき女性と、頭をセットの岩にぶつけたまま仰向けでひっくり返っている土星戦士サターンマン。
 これだけでも周囲に衝撃を与えるには充分過ぎるのだが、人々の注目を集めているのはそれだけではなかった。
「むむっ。貴様、どこの星からやってきたのだ。私と同じ異星人のくせに、ヒーローの肩を持つとは」
「ダッスー!」
 額に角を生やした大柄な男が、やかましい裏声で「ダッスー」とだけ話す、目出し帽をつけた全身タイツの人物と熱いバトルを繰り広げていた。
 角をつけた容姿から、大柄な男が例の怪人であることは間違いなさそうなのだが、そいつと攻防戦をしている変てこりんな奴は何なのだ。
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか」
「はい?」
 美江は少しでも状況を把握しようと、どう見ても純粋に子供とヒーローショーを見に来ただけという感じの女性に声をかけた。
「あの、ショーの出演者の方ですか?」
 やっぱりそう思いますか。
 ぎょっとする女性に対し「そこについてはできれば触れないで下さい」とだけ答えてから、美江は本題を切り出した。
「このステージで、何があったんですか。途中から来たので、何が何だかさっぱりわからないんですけど」
「はあ」
 珍妙な姿をしてる美江のことを、女性は不思議そうに見る。
 それでも彼女は、自身が知っている限りのことを話してくれた。
「最初はサターンマンがいつものショーみたいに『スターダスターズ』っていう悪役戦闘員をやっつけてたんですけど、突然あの角みたいな飾りををつけた男の人がステージに上がってきて、サターンマンを飛び蹴り一発で倒してしまったんです。そして、彼がサターンマンのマスクをはごうとした時に倒れていたスターダスターズの一人が起き上がって彼に空手チョップをして、それからずっと戦ってるんですよ。子供達は、あの男の人を新しいドラマの登場キャラクターと思い込んでるみたいですけど」
 確かに怪人らしき男は体格もよく、顔立ちも悪い方ではないため、ヒーロー的な立場の登場人物に見えなくもない。だが、主人公であるサターンマンを飛び蹴りで吹っ飛ばしてしまうような男を子供達が物語の主要人物と勘違いしてしまうとは。
 それほどまでに、現代の特撮作品というものは奇や意外性を狙ったストーリーのものが多いのだろうか。
「うぬう、ここまで私を手こずらせるとは。こうなれば、そろそろ本気を出さねばなるまいか」
 本来はやられ役であるはずの戦闘員に対し、怪人が焦りの表情を見せる。
 ひょっとして、過去に出現したトカゲ怪人のように変身でもする気なのだろうか。
「ダッスー!」
 そう思ったのも束の間、相も変わらず「ダッスー」としか発さない全身黒タイツは怪人の動きが鈍ったのを見計らって回し蹴りを放った。
「ぐうっ」
 それは見事に怪人の脇腹に命中し、ステージ上に尻もちをつかせる。
 怪人は苦痛の色をにじませながら、蹴りが入った箇所を手で押さえた。
「あれ?」
 この時、美江の中で既知感と表現すべきものが微かに脳裏をよぎった。
 今の回し蹴り、どこかの誰かが得意とするものによく似ていたような。いや、でもまさか。
 謎の戦闘員の正体に薄々勘づき始めたのと同時に、事態は大きく動いた。
「ナーゾノ星の猛者と呼ばれた私に攻撃を当てるとは。貴様、ただ者ではあるまい」
 怪人は一喝するように叫ぶと、膝のばねを利用して機敏な動きで立ち上がった。
 そして、戦闘員に目にも止まらぬ速さで接近したかと思うと、その目出し帽に手をかけた。
「その素顔、我に見せてみよ!」
「ダスっ!」
 顔を覆っていた目出し帽が宙に舞い、中の人が大衆の前にさらされる。
 隠されたベールの中身が明らかになると、周囲の見物客が一斉にどよめき始めた。
「何すんだてめえ。人が恥を忍んでこんなコスプレまがいのことをしてたってのに、目出し帽取りやがったな」
 やっぱり、正体はこいつだったか。
 汚らしい言葉づかいが耳に飛び込んでくるなり、美江は深い溜め息をついた。
 全身タイツの戦闘員は、案の定というべきか、永山が演じていたものだった。
 本職は地域を守るヒーローであるというのに、何故悪役である雑魚怪人などに化けてなんていたのだ。
 あと、そもそもどうしてこいつがここにいるのか。それに……。
 考えれば考えるほど謎のサイクルが続きそうなので、とりあえずこの辺りで切り上げておくことにした。
「ねえあの人、結構男前なんじゃない?」
「あっちも新しい登場人物なのかしらね」
 若い奥様方はというと、普通の特撮作品では絶対にありえない展開を目の当たりにしながらも、覆面の下から現れた戦闘員の素顔がお気に召したらしい。びっくりするくらい、物事を肯定的にとらえていた。
 本当にこの地域は平和というか、何というかといった感じである。
「き、貴様は……私が探し求めていた男、ヒーローではないか!」
 のんきなリアクションばかりが飛び交う中で、怪人は目玉をひんむきながら驚愕の表情をのぞかせていた。
 やはり、こちらの読みは当たっていたらしい。奴が探していたのは永山だったようだ。
「あ? 確かに俺がヒーローだが、それがどうしたっていうんだよ。俺には、てめえみたいな筋肉野郎にケツを追われるいわれなんてねえんだけど。しかも、俺一人を狙うのにヒーローショーを襲撃しまくるとか、マジで考えられねえわ。その頭に詰まってる脳みそも、筋肉でできてるんじゃねえのか」
 素顔を強制的に暴かれた苛立ちも混じってか、永山は怪人から距離をとりながらなかなかの猛毒を吐き捨てた。
 こんなことを面と向かって言われれば激昂してもおかしくないはずなのだが、今回の相手は一味違った。
「ん? 脳みそまで筋肉だと。それはつまり、私の武勇のあまり、脳の髄まで鋼の肉体と化していると言いたいわけだな。ふははは! ほんの数分拳を交えただけで怖気づいたか!」
「は?」
 とても凡人では想定できないトンチンカンな返しに、永山は顔面を凝固させた。
 そして少しばかり頭の整理がついてから、確認するように言葉を継いだ。
「お、おい。それ、正気のさたで言ってるのか」
「ああ、そうとも。この広い宇宙の中で、己の肉体を褒められて喜ばない者などいるものか」
「褒められたって……こんなおつむの弱い筋肉馬鹿がこの広い宇宙に存在してるとは、すっげえびっくりだな」
「む、我が筋肉を馬鹿呼ばわりするとは無礼な。私の筋肉はどんな攻撃にも反応し、瞬時に身をかわすという大変賢い筋肉なのだぞ! ……しかし、おつむというものは一体何なのだ。故郷の星では一度も聞いたことがない言葉だ。とりあえず、それは食えるものなのか?」
「……ここまでアレだと救いようがねえな」
 流石は、一人のヒーローを探し当てるために片っ端からイベント会場を襲いまくるという見当違いも甚だしい手法を用いた怪人である。とでも言うべきなのだろうか。
 ステージ周辺には永山の覆面がはがれされた時のものとは違う質のどよめきが起こり始めると、怪人はそんなことなど気にも止めずに体勢を整え直した。
 実に好戦的な笑みを作りながら、永山に向かって拳を向ける。
「私の目的は、同胞に仇をなす貴様を討つことにある。貴様のような奴と和やかに対談をするために、ここまではるばるやってきたわけではないのだ。ヒーローといったな? 我が鉄拳の前に散り果てるがいい!」
「俺の名前はヒーローじゃなくて永山だ。そこをちゃんと理解してるんだろうな」
「なぬ、ヒーローというのは名のことではなかったのか。うむ、地球人の名はわかりづらい」
「あーもうやめろ。てめえとこれ以上しゃべったら馬鹿が移りそうだ。戦うんだったらほら、さっさとかかって来いよ」
「む、馬鹿というものは移るものだったのか。空気感染するものならば、今度からマスクをして外に出歩かなければ」
「もういいって言ってんだろうが。来ないんだったら、こっちから行かせてもらうぞ」
 いつもは暴言による精神的ダメージを与えるのを得意とする永山なのだが、相手の凄まじいキャラクターにすっかり毒されて、逆にダメージを受けてしまったらしい。
 積もり積もったストレスもあってか、顔に青筋まで浮き始めている。
「ふん。地球人の攻撃など全てかわしてくれるわ」
「やれるもんならやってみろよ」
 気を取り直した永山は、挑発的に言ってから勢いをつけて怪人に正面から飛びかかった。
「おっ。すげえ」
「どっちも強い!」
 ヒーローVS怪人の戦いを生で見ることになった子供達は、興奮しながら観戦を始めた。
 その横では奥様方のほとんどが携帯電話を取り出して写真を撮りまくっているが、それが子供のためではないというのは一目瞭然である。
「くそっ。しぶとい怪人だな。こっちの攻撃全部かわしやがって」
 永山の強さを考えれば蹴りの一発くらい命中してもおかしくないのだが、なかなかそうはいかない。怪人は先程の宣言通り本気を出しているのか、余裕の笑みをたたえながら次々に高速で繰り出されるパンチを見切ってかわす。
 残念な頭の出来はともかくとして、自身の武勇について自慢げに語っていたのは伊達ではなかったようだ。
「貴様の強さはその程度のものか。期待して損をしたではないか。こんなひ弱な攻撃など、私の前では通用しない」
「ぐっ……!」
 怪人の岩のような拳が、鈍い音を立てながら永山の腹にめり込む。
 無類の強さを誇っていたはずのヒーローは、その端麗な顔立ちを歪めながら崩れ落ちていった。
「な、永山!」
 ヒーローの最大のピンチを前にして、美江は思わず声を上げてしまった。
 圧倒的に不利な状況。このままだと、永山が本当にやられてしまう。しかし、この状況を打破する方法なんて……。
「あ」
 短い時間で脳をフル回転させた結果、一つだけ妙案を思いついた。
「でも……」
 これを提案するのは、気持ちがわかる身としては少々気が引ける。だが、背に腹は代えられない。
「永山、KTシーバーを使って変身して。今は、スーツがダサいとか言ってる場合じゃないでしょ。じゃないとあんた、本当に」
 このアニメヒロインみたいなスーツでこれほどまでの強度を誇っているのだから、ヒーローのためにあつらえたというスーツはさぞかし素晴らしい出来であるに違いない。きっと、永山を余裕で勝利に導いてしまうくらいに。例え、デザインに難があったとしてもだ。
「うっ。うう……」
 腹を押さえてうずくまったままだった永山は「変身」というワードに反応してかピクりと動いた。
 険しく鋭い三白眼が、ゆっくりと美江の方に向けられる。
「ほら、早く! 早くKTシーバーに番号を入力して。ねえってば!」
「……」
 永山は促しに対し、首を縦にも横にも振らないままフラフラと立ち上がった。
 そして怪人の方に向き直り、その顔を強くねめつけた。
「どうした、ヒーロー。私の武勇にとうとう言葉を失ったか」
「……」
 挑戦的な言葉をもろに浴びながらも、永山は表情を崩さないまま無言を貫く。
 怪人は一変した態度に混乱し、眉をひそめた。
「ど、どうした。さっきまではあれほど口を開きまくっていたというのに」
「……」
「聞いているのか、おい。返事をしろ!」
「……」
「何か言え!」
「あ、空の彼方にプロテインが飛んでる!」
 急に何を言い出すんだ、この男は。
 沈黙の後に放たれた想像を凌駕する発言に、この場にいた全員が脱力し、ずっこけそうになってしまった。
 いかにもシリアスな展開になりそうな雰囲気を醸し出しておいて、まさか子供騙しなお言葉が飛び出すとは。
 しかし、一同が脱力した原因はそれだけではなかった。
「なぬっプロテインだと! 私の筋力を増強する、至上抜群の秘薬が空にあるとな? どこだ、どこだ、どこだあ?」
 誰が聞いても嘘だとわかるような話を、怪人は何を思ったのか鵜呑みにしてきょろきょろと空を仰ぎだした。
 当然その行動は大きな隙を作ることにつながるものであり、ことあるたびに外道呼ばわりされる永山がこのチャンスを逃すわけがなかった。
「うりゃあ!」
「ぐぶっ」
 空にばかり注意が向いていた怪人に、明らかに力がこもりまくっている足払いが見事にヒットした。
 バランスが崩れたタイミングを見計らうと、永山はすかさず怪人との距離を詰めた。
「さっきの正拳突き、強烈だったな。これには、しっかりお返しをさせていただかないとなあ。よっと」
 相手の左足に自身の左足を引っかけ、永山は身体を右脇下にもぐり込ませた。両腕で怪人の頭をクラッチし、激しくひねりあげる。
「うぎゃああああー!」
 そう、これぞまさしくコブラツイスト。某有名レスラーも愛用したという、立派なプロレス技だ。
「ひぎい! こ、降参だ。素直に負けを認める。だ、だから、技を解いてくれえ!」
 怪人は高威力のコブラツイストに悶え、涙を目に溜めながら助けをこう。
 だが、永山がそんな話をあっさり受け入れるわけがない。
「ほーう、この程度で音を上げちまうとはな。さっきまでの威勢はどこに行っちまったんだかなあ。よし、いいぜ。お望み通り技は解いてやる。だけどな」
 パッと手を放されると、怪人はゼエゼエと息を切らしながらステージ上に転がり倒れる。
 その瞬間、永山の瞳の奥がギラッと光った。
「俺はな、すっげえ根に持つタイプなんだよ。目には目を、歯には歯を程度じゃ全然飽き足らねえ。最低でも、倍にして返さねえと気が済まねえんだよ!」
「がはあ!」
 怒りの炎を乗せたかかと落としが、怪人の脳天へ直撃する。
 ドスッという音と同時に、怪人は白目をむいて失神してしまった。
 ……ところで、今のクリーンヒットは倍返しで済んでいるのだろうか。かなり怪しいものである。
「どうだ、参ったか。ヒーローってのはな、やられっぱなしじゃ終わらねえもんなんだよ。はっははは!」
 騙し討ちから不意打ちという卑怯な手段を用いた挙句、とても正義の味方がするとは思えない高笑いをする永山の姿に、あれだけ沸いていた観客達もどん引きする始末であった。
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