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イベントは国王主催で

2 秘儀

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 ヴェンデリンが教会に来てから小一時間。その間に隠し撮りしてSNSにアップして半端ない閲覧数を獲得する。恐るべきバズりっぷりで。
「まあ、実際に告訴するかは相手の出方次第だけどな」
 と云うハリーの言葉に、ちょっとホッとするアーロン。隠し撮りは許せないが、裁判は面倒だ。義弟の後見人になって、やがてそのヴェンデリンは寄宿学校生活になる。当主のいない子爵家の管理もアーロンがしなければならないし、結婚式やらその他諸々もあるし、これ以上仕事を増やしたくない。
「あら、そろそろお時間ですわ」
 メイク担当が云った。時計を確認すると、もう大聖堂にいなければならない時間だった。
 不審にみんなで顔を見合わせていると、ニコルが入って来た。ハリーに耳打ちをして、すぐに出て行く。
「陛下がお出ましになるらしい」
 ハリーはアーロンに耳打ち。アーロンは理由こそ分からないながらも了解して、
「じゃあ、二時間くらい遅れるかな」
「だろうな」
 ふたりで待ちぼうけを覚悟した。
 ところが、三十分程で儀式の迎えが来た。
 云われるままに大聖堂に入ると、メインの壇上にはカミルがいた。司教は一段下に控えている。
 中央の通路にカーペットは敷かれているが、そこは通らず、司教に指示されるまま、壇上のカミルの前にふたりで揃って跪く。
 カミルは司教冠ミトラを被り、カズラを纏っている。
 形式として、燭台と脚付きの皿がふたりに授けられる。灯り(または火)と食べ物を意味し、それを絶やさない家庭(領地)にせよ、という意味も含まれる。また、国がそれを保証する、という意味もある。
 受け取ったふたりはそれぞれ両側のベンチの前に立つ家族の元に、受け取った物を渡す。
 アーロンが少しでも歩を進めると、裾がふわりと広がって目を引く。しかし、後ろに一歩下がる時など、裾を踏みそうになり、片手を添えるとちょっと女性らしくなる。衣装合わせでそれを散々味わい、思い切り後ろに振り払う事にした。
 アーロンとハリーはもう一度カミルの前に立ち、家族から受け取った剣と盾をそれぞれ納める。争いはしない、という意味と、戦争が始まったらすぐに招集に応じる、という意味がある。
 文献によると、階級や時期によって納める物が、土と農作物の場合もあり、納税や勤労を意味する。
 以上の動作は全て無言で行われる。声を発するのは指示をする司教のみ。何故なら『秘儀』だからだそうだ。
 そしてここからがその『秘儀』たる儀式。
 壇上のカミルの前に、杯が二つ置かれた。それぞれに白く濁った液体が入っている。それを、ふたりとも飲み干す。
 その間に、カミル以外の者は静かに退出。入れ代わりに、ふたりの元にベッドが運ばれた。カーテン代わりの大きな布を二人分掲げ、壇上とふたりの目を遮る。着替えだ。
 ふたりともコートを脱ぎ、一応ローブを羽織る。
 壇上の杯は片付けられ、大きなデキャンタにたっぷりの水、それを飲むためのコップが用意された。
 もう一つコップがあり、そこには紅い液体の入ったスポイトが突っ込まれていた。
 準備が整うと、カミルは壇上から降りて、隅に置かれたロココ調の椅子に座った。ふたりから視線を逸らす方を向いているが、目を向ければふたりの事はよく見える。
 カーテンとともに介添え役が退出し、アーロンとハリーはそれぞれローブを脱ぐ。ポールハンガーに掛けると、ベッドに座った。
 ハリーが囁くように話しかける。
「もう、喋ってもいいのか?」
「はい。しかし...集中できません」
 アーロンも囁いた。ヒソヒソは続く。
「新成人に見せる、て本当なのか?」
「文献にはそう書いてありました。たぶん、性教育の一環でしょう」
 ハリーは額に手を当てて、
「まさか、該当者がいるとは...。本当に致すのか?」
「薬が効けば、まあ...」
 アーロンもあさっての方を向いた。
 先程ふたりが飲み干したのは、文献に書かれていた通りに調合した媚薬。ふたりは知らないが、意図的にハリーの方を薄めにしてあった。
「同性婚なんだから、見せなくてもいいだろ?」
「ええ。なんなら本当に致さなくても、問題はないと思います」
「ちょっと待て!」
 そこでハリーは気付いてしまったようだ。顔色が変わっている。
「気付いちゃいました?」
「あれ、カメラだろっ。お前、分かってたのか!?」
 むしろ分かってなかったの、殿下?
「伯爵が...」
 アーロンは前日までに、文献を確認していた。興味もあったし、ヴァルターの奨めもあったからだ。
「まさか、全部、全て、まるっと撮影するんですか、伯爵?」
「ええ。資料として残す為です」
 ヴァルターはいつもの通り、余裕の笑みなんか湛えながら、しれ、と答える。
「ハリー殿下は絶対にヤーうんと云いませんよっ」
「どうせ媚薬を召し上がりますし、あなたがリードして下さいね、先生?」
 と云っていた。───と、アーロンは云いたかった。



「ベルトホールド伯爵が何だって?」
 云いかけたアーロンは、かなり辛そうに俯き、額に手を当てている。
 「大丈夫か?」と云おうとしたハリーも、急な目眩がしてアーロンに縋る。
───媚薬が効いてきた?
「ハリー...」
 見上げるとヘーゼルの瞳が光を帯びていて、ハリーは全身の筋力を失ったように、アーロンに凭れた。
───アーロンの息に当てられた...?
 花のような、濃く甘い香りが降ってきた気がした。そして徐々に、身体が熱くなってくる。
「あっ...」
 ハリーの肩を支えるアーロンの手に力がこもると、ジンと痺れたように体の芯を刺激される。無意識に艶めく声が漏れた。
「アーロン...」
 声に出たが、呂律が回ってない。金色の瞳に射竦められ、ハリーの理性が吹っ飛ぶ。
───ああ、メチャクチャにして、アーロン!
 体がフワリと浮いて、ボワンとスプリングに跳ねて、甘い香りに包まれる。アーロンがハリーを抱き上げて、叩きつけるようにベッドに横たえたようだ。
 金色の瞳は見下ろしながらハリーの襟元を寛げ、一気に肩をはだけさせた。
 アーロンは暫くハリーを見下ろし、ゆっくり顔を近付けると、まるで悪魔が美女を嬲るように、鼻や唇でハリーの顔や体をなぞる。甘い香りを撒き散らしながら、ハリーは焦らされる。
「ぁ、んっ」
 首筋を強く吸われた。チリチリとした甘い傷みがじわりと体に広がり、ハリーの中心を熱くする。
 アーロンの頭部がハリーの胸に下がると、服を力ずくで開かれた。ボタンが弾け飛ぶ。肩と腕、胸が開放され、
「ひぁっ、ぁあっ...」
 いきなり胸の粒を噛まれた。突然の刺激にハリーは大きく背を反らす。
 時々、アーロンの動きが止まる。
 その度にハリーもふと正気に戻り、アーロンの様子を見ようとするとまた、彼は動き出す。
 ボトムに手を掛け、アーロンは強引に下ろそうとした。無理だと判るとベルトに手を掛けるが、上手く外せない。
「待って...」
 ハリーは苛つくアーロンの手に自分の手を置いて落ち着かせると、
「服、脱いで」
 と云って、自分でベルトを外した。その間にアーロンは自分の着ている服を力任せに脱ぎ捨てる。
───アーロン、ヤバい。
 ハリーはそう思うが、意識がふわふわしていて、次に何をどうすればいいのか、何も思いつかない。
「ぃあああっ...!」
 ハリーが自分に戸惑っている隙に、アーロンに中心を掴まれた。性急に扱かれ、溢れる先走りを後ろに撫で付けられる。
───意識あるのか、アーロン?
 快感に震えながらも、ハリーはアーロンの動きを追っている。
 服を脱ぐ様子から、もしかしたら強引に後ろを開かれるかと恐れていたハリーだったが、かなり掻い摘みながらも、アーロンはいつもの手順を踏んでいる。
 ───と、思ったのも束の間...。
「アーロン、アーロン、あ、んあぁっ!」
 やっぱり、いきなり後ろを開かれた。
「あ...ろ、ま、て...」
 痛くて苦しくて辛くて、切ない。
───違う。こんなの...アーロンじゃ、ない。
 生理現象とは違う涙が熱く、ハリーの目を濡らす。
「...ハリー...?」
 掠れた声で、アーロンが覗き込んだ。ハリーの目尻に、指で恐る恐る触れる。心配そうな顔は今にも泣きそうだ。
「痛い...?」
 ハリーが手を伸ばすと、上体を近付けてくれた。その首にハリーは腕を絡めてしがみつく。肌の温もりが愛しい。
「アーロン、アーロン」
 ハリーは名前を呼ぶ事しかできないが、アーロンはきつく抱きしめてくれた。
「ハリー...」
 アーロンのモノは既に、ハリーの中に入っている。それがドクドクと脈打っている。
「ああ...」
 まだ奥まで入っていないのに、体が疼き、まるで促されるように腰が動いてしまう。
「は...り...」
 アーロンの掠れ声は、呼んでいるみたいだ。目を見ると、懸命にハリーの目を見ようとしている。ハリーは目を伏せ、顎を上げた。熱く、甘い吐息が近付き、唇が触れ合う。
「ふ...ん、む...ぅん」
 入ってくる舌は生き物のように、ハリーの口内でうごめく。上顎を探り、味蕾を擦り、喉の奥まで入ってくる。
「んん、ふぁ...あっ!」
 アーロンの腰の動きが激しくなり、解されていなかったのに、ハリーの奥へ奥へとどこまでも入っていくようだ。
「んあぁ、ひぁ、あんっ」
 アーロンが抽挿を繰り返す度にハリーは快感に震える。もっと欲しくてアーロンの名前を何度も呼ぶ。
「アーロン、アーロン、あっ、あっ、ああっ...!」
 手を伸ばすと、アーロンはハリーの手を掴み、指を絡める。ハリーを包み込むように抱き、熱い吐息がハリーの耳元をくすぐる。
「ハリー...ハリー...っ!」
 名前を何度も呼ばれ、それでも足りない想いが声となって溢れた。
「んあぁっ、やぁ、あああっ」
 登りつめる快感に、ハリーは大きく腰を反らす。アーロン自身が脈打ち、ふたりで腰を震わせ、達した。



 ベッドの周りを誰かがウロウロしている。
───静かにして欲しいな。もう、朝なのか?
 アーロンは隣にいないようだ。なら、ウロウロしているのはアーロンだろうか。
───オレが起きたのまだ気付いてないのか、アーロン? それなら、こっそり起き出して、後ろからアーロンを驚かせてやろうかな。
 微睡みのなかで、ハリーは思いつきに一瞬心を踊らせる。しかし、実行に移す気配はない。
 誰かが、床をペタペタ歩き回っている。
───アーロンなのか? 何をやってるんだ、あいつ?
 音の方を見ようとして、体が動かない。
───金縛り!?
 急速に、ハリーの意識が現実味を帯びる。
───どこだ、ここ?
 王宮のハリーの寝室ではない。ボヤケた視界には、ずっと高い天井にシャンデリアがズラリと並んでいる。ハリーはその真下に寝ていた。───教会の大聖堂だ。
 体が動かないのは、何か───シーツでグルグルにくるまれているから。
───なんで? アーロン! アーロンはどこ?
 声が出ない。感覚はまだ完全ではないのか。
 ペタペタの音はまだ聞こえる。
───ウロウロする奴、アーロンを呼んでくれないか。
 そう思って、目だけを横に向けると、剥き出しの背中がチラッと見えた。───アーロン!
「ぁ...」
 声が出ず、喉から空気が漏れただけだった。
───アーロンはまだ服も着ないでウロウロしているのか? 何故だ?
 考えを巡らせるうちに、ハリーの感覚がはっきりしてくる。大聖堂にいるのは、ハリーとアーロンだけではなさそうだ。
 婚約の儀式でふたりは、媚薬を飲んで交わった。ハリーはまだ声も出ない。なのに何故アーロンは、ハリーをシーツでくるんだのか?
───メイドか誰かが入って来たのか。
 それなら何故アーロンは未だ裸でウロウロ...。
───アーロンはまだ、戻ってない!?
 金色の瞳のままだったら、やっぱりアーロンはハリーの云う事しか聞かないのだろうか?
「あ...」
 名前を呼ぼうとしてハリーは咳き込んだ。アーロンが覗き込む。
───やっぱり!
 アーロンは金色の瞳で、入って来た人間からハリーを護ろうとしていた。裸のままで。裸足だから、ペタペタという足音だったんだ。
「殿下...!」
 声がした途端、アーロンは瞳を光らせ、無表情でベッドを離れてしまった。
───ああ、ダメだアーロン、行くな、落ち着け。
 ハリーは入らない力を振り絞って、肩を揺らし、シーツから抜け出そうとする。同時に、
「あ...ろ...アーロン!」
 声は届くだろうか? アーロンは気付くだろうか?
 媚薬のせいか体が怠くて、比較的シーツの拘束が緩い足も、重くて動かせない。どうにか首だけ向けて、アーロンを視覚に捉えた。
 様子を見ていると、アーロンはハリーのベッドから一定以上の距離は取らず、少し離れてもすぐに傍へ戻る。まるで動物園の猛獣みたいだ。
───ああ、そうか、アーロン...。
 彼は恐れている。近付く者は全て敵だ。
───怖いんだ。
 腕の立つアーロンは普段、武器は持たない。必要ないからだ。それが今は、ガラス片を握っている。血を滴らせて。
 きっと体調は万全じゃない。
 だから、何もかもが怖いんだ。
 たぶん意識は朦朧として、身体は上手いことコントロールできない。でも近付くのが何者か分からず、仕方なく威嚇として刃物を握った。
───クサントス...。
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