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王都学院 編

猫剣士のローズ

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 平日の午後いつものようにギルドで依頼を受けてこなしていたら見慣れない光景があった。   

 冒険者らしき人物が倒れている。大丈夫か?近づくとさらに見慣れないものがあった。冒険者の頭部に猫の耳だ。猫耳だ、獣人だ。

「あの~、大丈夫ですか?」
「すまない。ポーションとか持ってないか?」

 話が出来る、通じる。ケガをしている様だ。とりあえずミドルポーションを渡す。

「恩にきる」
 一気に飲んで回復した様だ。目を見開いている。

「ポーションはいつも酷い味なのにコレは飲みやすいな。キミが作ったのか?」
「あ、はい。そうです」

「動けるようになればと思ったのに完全に治ってしまった。やたらと効果があるな。キミは優秀な錬金術師なのだな?」
「さっき渡したのはミドルポーションです。それと」

「何!? ポーションと言ったではないか? 払えないかもしれない。はっ、もしかして最初からそれを見据えて‥‥‥。くっ、殺せ!」

 予想外のクッコロ頂きましたー! 残念ながら女騎士じゃないけど。

「いや、お代とか要らないです。いくらでも作れますし。あと通り掛かっただけなので。じゃあ、これで」
「待ってくれ。これでは貰ってばかりで恩が返せない」

「要らないですって」
「いや、そうはいかない。とりあえずキミについて行かせてもらう」

「はあ、そうですか。俺はネロです」
「ウチはローズだ。女剣士ローズと王都では少し名が知れているんだぞ?」
 自慢げに鼻を高くして言うローズ。だが
「すいません、知りません」
「そ、そうか。すまない」

 目に見えてガッカリしている。わかりやすくて面白いな、この人。

「あれ、でもそう言えば聞いたことあったかな?」
 顔を上げて目をキラキラさせるローズさん。
「あ、やっぱり知らないや」
 また肩を落とすローズさん。面白い。

「ローズさんは冒険者歴は長いんですか?」
「その口調はやめてくれ。名前もローズでいい。ウチもネロと呼ぼう。ワタシは10の頃から冒険者なので5年になるのか?」

「ローズは15歳か、年上だね。」
「いや、ワタシは14歳だ」

「? あれ?でも」
「‥‥‥。すまん、計算は苦手なのだ」

 獣人は計算や読み書きが苦手だと聞いた事がある。その代わりにあまりある運動神経で活躍している冒険者も多いらしい。
 
「むっ、ゴブリンだ。ネロは下がっててくれ」

 ゴブリンが五匹、すぐに二匹斬り伏せる。残り三匹。睨み合いの状態で互いに手を出せないでいる。オプションを出してゴブリンの後ろに回り込ませ、ローズに断りを入れる。

「俺がやる」バババッ

 ほぼ同時に三匹にウォーターバレットを撃ち込む。一匹だけ当たりが浅かったが、後ろから撃たれて前に不用意に出てローズに斬られる。討伐終了だ。警戒するも何もいない。

「ネロ、キミは錬金術師ではないのか?あの攻撃はどこから? どうやって倒したんだ?」

 ビックリした顔でローズが聞いてくる。

「質問が多いな。まず俺は水魔術師だ。倒したのは水魔法。攻撃はコレがした」

 オプションを見せる、自由自在に動くがもっと機敏に動かすには練習が必要だ。なので普段からなるべく使うようにしている。

「何と面妖な‥‥‥」
「そうか?」

「強すぎるニャ」
「⁉︎」

 今度は俺が不意打ちを受けた。猫耳で語尾にニャとつけられたらラノベ好きは心に来るだろう。ローズはローズで恥ずかしそうに真っ赤になっている。

「さっきのは聞かなかったことにしてニャ。思わず出ちゃうのが恥ずかしいニャ」

 無理に大人っぽい口調で喋っていたようだ。

「可愛いからそのままで良いのに」
「ニャー‼︎」
 さらに赤くなり俺の肩をポカポカと叩く。もう大人の女性の印象は消えた。

 ローズとギルドまで戻ってきた。ギルドでは注目を浴びていた。有名というのは本当だろう。それぞれ別のカウンターで依頼報告をする。最後に金を貰えたら終了だ。

「晩飯でも奢らせてくれないか?」
「いや、寮に夕飯があるので帰らないと」
「なんと、ネロは学生なのか?」

 ここで俺に嗜虐心が芽生える。小声でこっそりと
「そうだニャ」
「‼︎  ニャ!やめるニャ!」
 またポカポカ肩を叩かれる。痛いって。声デカイぞ。バレるぞ。

「コホン、では今度改めて礼をさせてくれ」
「ああ、わかった」

「明日も来るか?」
「明日は授業があるからもし来られたら午後だ」

「わかった」
 ローズと別れ、寮に戻った。

 次の日マチルダ先生から呼び出しがあり行けなかった。翌々日にローズにめちゃ怒られた。もし来られたら‥と言ったハズだが。

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