ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

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第2章

開戦前夜(坂本ルート)

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 坂本大佐率いる技術開発部は慌てていた。

 坂本は南海新都市にあって最も初期から龍国による侵略の脅威を正しく認識していて、最も早くから対策に動いていた男であったが、そんな彼でも今回の龍国の侵略は想定より早いと感じていた。

 ただ、少しホッとしている自分もいた。

 反龍派が多い日海軍や南海新都市の中にあっても彼ほど強硬に龍国に対して積極的に戦う準備をすべしと主張するものは坂本の他にはほとんど居なかったからだ。

 川北重工のトップの川北耕三の子供(認知されているとは言ってない)というコネが無ければ開発室に入る事も無かった坂本であったし、またその強力なコネと彼自身の抜群の能力が無ければここまで強力な航空隊や潜水艦隊などを独自に立ち上げることは不可能であっただろうと思うが、いくら天才であっても使える資金や人材、時間には限りがあるのだ。

 現にゼロ戦で戦闘可能な機体はよく見積もっても20機弱、武装まで全て整っている物で15機、新開発のイ400KAI潜水艦に至っては辛うじて二隻が就航を終え、実戦訓練をしている真っ只中であった。

 これまで語られることの少なかったイ400KAIだが、2038年に先行量産型の一号機が実戦配備されたばかりであった。

 そもそも「イ400KAI」という名前にして、開発名そのままなわけで、実戦が迫っていることを想定してかなりのやっつけ仕事でここまでなんとかこぎ着けた感じであった。

 イ400KAIは核融合炉であるパワーセルユニットを動力源としているのが珍しい程度で、潜航可能深度は蒼龍型の1000m に遥かに及ばない300m程度しかない。

 では、潜水艦として蒼龍型や他国の潜水艦に対して劣っているのかといえばそうではなく、単に運用思想が今までの潜水艦のソレと違うだけに過ぎない。

 通常動力(ディーゼル機関+リチウムイオン電池)の蒼龍型はその優秀な静音性と潜航能力を活かし、深海に潜り敵船舶を待ち伏せすることを得意としているが、パワーセルユニットのイ400KAIは、圧倒的な速度と機動性と航続距離と比較的小型の船体を活かす「高機動運用」を得意としている。

 イ400KAIは浮上しての航行と対空戦、対艦戦なども考慮された艦船なので、蒼龍型のような海中での航行のみを考慮した葉巻型の船体構造をしておらず、形状は旧軍の潜水艦をほぼ模したような構造をしていた。

 だから潜水艦というよりは「半潜水艇」と呼ぶのが本来は正しい括りなのだろうと思う。

 普段は海上艇の様に浮上したまま航行し、場合によっては甲板上に出したCIWS等の対空砲や重砲などを使用して戦闘を行なったり救助活動を行う。

 そして敵からの反撃がありそうな場合や、敵の監視を避けたい場合などは甲板上の対空砲などを格納し水面下200m~300m辺りに逃げ込み魚雷並みの高速航行で一気に逃げ切る様な使い方を想定している。

 また運用人員も10名程度と極めて少ないこともあり、数を揃えて敵の侵攻を防ぐ役目や、高機動を活かして敵の勢力圏内深くに極めて短期間で浸透し、味方の捕虜や脱出したパイロットや墜落した機体を回収するなどの役目なども期待されていた。

 本来、潜水艦は艦内に収納可能な人員や物資の量は限られているが、イ400KAIの場合、最悪、海上に不時着したゼロ戦などを浮上したまま曳航できるし、艦内に入りきれない人員を緊急時には甲板上に乗せたまま移動させる事も可能だ。

 つまり、蒼龍型と日海軍の新型潜水艦はお互いの欠点を補い合う互助関係にあるわけだ。

 日海軍の航空隊と潜水艦隊はまだ規模が小さいという事もあるが、旧日本帝国の陸海軍の様に相互に反目し合う様な関係ではなかった。

 日海軍の想定する戦闘では、貴重なパイロットと機密たっぷりの機体を護るために想定される空戦空域の下には必ずイ400も先に進出しておいて、制海権を確保しておいてから更に制空権も確保する戦闘スタイルを想定していた。

 つまりだ、いくら対空ミサイルなどに強いと思われる新型のゼロ戦なども対空砲などがハリネズミの様に装備された艦船がひしめく海域での戦闘では撃墜される可能性が高くなる。

 そのため、まずイ400を先に戦闘海域付近まで進出させておいてから戦闘開始と同時に先制攻撃を潜水艦から仕掛けさせておいて、大混乱に陥った状態の敵艦隊をゼロ戦や月光など日海軍の航空隊などで対艦攻撃を仕掛けて撃滅させる戦法を考えていたわけだ。

 これは開発に当初から携わっていた坂本大佐がゼロ戦開発以前から想定した戦法であった。

 彼は今日というの日のため、持てる力とコネなど全てを注ぎ込みこれまで準備に奔走してきたわけだが、それでもアレコレ準備が整っていなかった。

 実際、今回の作戦ではゼロ戦15機、予備で5機、月光1機、イ400KAI 2隻という極めて少数の部隊で数千隻はいる艦船と数百機はいるであろう敵を撃滅されなければならなくなった訳だが、龍国、いや支那という国のこれまでの行いを見れば一度でも占領したことがある土地や地域は後になって必ず「あそこは我が国の固有の領土である」と言い張るに違いないので我々としては一歩も引くわけにはいかないのだ。

 現実に今では尖閣諸島は龍国の占領下に置かれてしまっていて、彼らとしては戦争で負けない限り手放すことは絶対に有り得ないことだった。

 これ以上、龍国の侵略を許さない為にも弱腰な対応は一切せず、強硬とも言える断固とした態度と行動をとる必要があると日海軍の幹部連中は思っていたのだ。

 その想いは航空隊や潜水艦隊のメンバーなど全てに共通していた。

 今日という日のために住み慣れた日本本土から南海新都市に移り住み、更に戦闘の最前線に身を投じようとしているのだから当たり前の感覚だといえた。

 赤城、また南海新都市は臨戦体制に入り、街中なども一気に騒然とした雰囲気となった。

 戦場から遠く離れた南海新都市でも実際に住民に対して銃器が支給され、実戦さながらの訓練が住民全てに対して行われた。

 これは赤城の住民についても同様の訓練が行われたのだが、その訓練の内容は、龍国の兵士が上陸してくることを想定したものだった。

 今回の演習は港湾施設に敵艦が接舷し、そこから上陸してきたと想定したものだったが、年配者や子供などは地域の女性たちが先導して住居区内のシェルターに避難させる。

 この際にも敵兵と遭遇することを想定し、手持ちの武器で反撃しながら避難していく。

 また南海新都市や赤城には多数の民間用のランクルや軽トラなどがあるので、緊急時にはその荷台に銃座を置き、M2ブローニングやカールグスタフなど重火器を載せて敵に反撃を行う。

 平時からそれら銃器や重火器、さらには装甲板などの管理場所が町内単位で決められていて、町長が主体となって避難計画や訓練計画などを行う体制にしていたのだ。

 これは根本中将が主体となって組織作りや運用計画などをまとめさせていたのだ、今回はそれが遂に役立ったというわけだ。

 赤城、さらには南海新都市も一丸となって「戦時下」の様相を呈するようになる。

 そんな中でも企業活動は相変わらず行われていたし、「夜のビジネス」などは逆に普段より活況を呈するくらい毎晩賑やかだった。

 開発部の坂本大佐は赤城に乗り込んでいて、ゼロ戦や月光に残る不具合点の是正を開発面からサポートしていた。

    今回特に問題となっていたのが、パイロットサポートAIの導入で、ゼロ戦や月光の戦闘機に搭載している周囲監視装置にAIを組み込み、ある程度自律的にAIが自動的に周囲監視(特にパイロットの死角となる方面)をする仕組みを導入しようとしていて数々の問題に直面していた。
  
 具体的にどういうものかと言うと、パイロットが音声でAIとコミュニケーションし、AIが周囲の監視を自動的に行なったり、パイロットにアドバイスを行なったり、緊急時にはパイロットに代わり操縦を替わるなどの機能を持つものだ。

 坂本大佐が率いる開発部の最も画期的と言われる発明に「魔理沙」と呼ばれている開発支援AIがあるのだが、その言語機能や思考パターンを抜き出し、タブレットなどで動作する簡易バージョンがパイロット支援AIなのだが、これは開発当初から不具合が多発していて、山県中尉なども手を焼いていた代物であった。

    周辺監視装置の監視対象物は、龍国の航空機やミサイルなどを予め画像データとして登録しているのだが、兎にも角にも誤認識が多いからだ。

 このパイロット支援AI、開発中のゼロ戦に載せて飛行させていたら突然警報を出してきたり、太陽を敵と見做して攻撃準備を勧めてきたりとか、とにかく役に立たなかった。

 不具合が出る度に開発室にデータを持ち込んで解析作業とバグ潰しの手伝いをさせられるので山県などは後輩にその作業を回して自分は他のことをしていたくらいだった。

 これらの作業は開発室だけでなく、戦闘機パイロットの大半も関わるほど開発が急がれていたのだ。

 この様に、開発支援AIだった頃の「魔理沙」はどちらかと言うと理系のオタク気質の人達の話し言葉やネットスラングを使うAIだったのだが、パイロット支援者として開発されたAIはパイロット達の言葉遣いも影響して、かなり男っぽいというか、少々荒っぽい言葉を話すようになっていた。

 そこでこれらパイロット支援AIは魔理沙とは違う名称で呼ばれることになったのだが、その名前は当然のことながら「霊夢(れいむ)」と呼ばれるようななった。

 開発開始から一年ほどが経ったころ、「霊夢」は一応の完成をみた。

 仮想敵機(アグレッサー)を退役を遅らせた空自のF-4JファントムやF-2戦闘機、更にそれらが搭載している対空ミサイルなどを実際にゼロ戦に向けて発射したテストでは比較的良好な結果になった。

 当然、龍国の戦闘機やミサイルなどはこれら日本の空自機と物とは全く違うし、情報部がかき集めてきた龍国の軍機やミサイルなどの画像データはある事はあるのだが、実戦証明(バトルプルーフ)は全くないので不安は尽きないところなのだ。

 

 


 
 

    

 
 
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みんなの感想(1件)

丸井団子之介

メディアSMSの記述、大変ためになりました。活用させていただきます。ありがとうございます。

解除

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