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第2章

核融合潜水艦と核抑止力

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 次世代の戦闘はドローンを中心とした無人機による戦いが中心になる、というのが一般の認識だが、実際はAIで全てを判断するのはまず無理なので、AIを使うと言っても人間の支援をするというのが実際のところだった。

 例えば衛星通信で誘導する無人機だが、衛星を破壊されてしまったら無力化してしまう。

 ならば電波によって誘導しようとすると、ジャミングなどで妨害されてコントロール不能に陥る可能性もある。

 だからある程度、人間が近くまで行き、状況に応じてドローンを使いこなすというのが現実の戦闘法の大半を占めることになるのだ。

 例えば、川北重工が開発中の視覚誘導型高速誘導弾だが、これなどは弾頭にカメラとAIが組み込まれていて、目標を視認し、その目標の移動方向や移動量を瞬時に計算し、軌道修正を行い敵機に命中させ易くするというものだ。

 つまり「ドローンを超高速で飛ばしている」とも言える。


 ただこれも万能かといえば全くそんなことはなく、敵機の進行方向が手前に向けて飛んでいるのか、横切って飛んでるのか、後を追いかけているのかはパイロットが発射する前に決めてやる必要がある。

 この選択を誤るとまず命中しない。

 もしかすると将来的にCPUの処理速度が格段に速くなり、目標物の飛行方向を指定しなくても勝手に弾頭のAIが判断し修正するようになるかもしれないが今の技術では不可能だ。

 そこである程度は敵の戦闘機などにパイロットが接近する必要が出てくるわけだが、そうなるとどうしても撃墜される可能性が出てくるわけだ。

 新型ゼロ戦には脱出装置が完備されるのと、防弾装備や耐弾性の向上などが施されているので、昔のゼロ戦よりかは飛躍的に生存性が高まっているのだがそれで完璧と言うわけではない。

 日本の防御戦は大半が海の上が戦場になると思われるが、そうなると脱出したパイロットは海に着水することになる。

 ここで安全にパイロットを救出するには、まず制海権を確保しなければならない。

 海上戦力を増やすことも考えられたが、現時点で日海軍は「まだ存在していないことになっている」のでイージス艦など駆逐艦を大量生産して目立つ訳にはいかない。

 日海軍の幹部士官たちと南海企業連合の開発者たちがアイデアを出し合い、最も現実的かつ有効だと考えられたのが、「従来にない高速機動可能な潜水艦を作る」という案だった。

 南海企業連合の中には蒼龍型というディーゼル潜水艦としては世界最強の戦闘力を誇る船を作る技術のある企業も参加していたのだが、こちらは自衛隊に納入する船体の製造に忙しいので、深深度まで潜航可能な船を新たに量産することは難しいと考えられた。

 そこで他の造船会社でも製造可能でかつ、高い戦闘力を保有し、かつ少数のクルーで運用でき、かつ脱出して着水したパイロットを確保する任務に耐えれる船を開発することに決定した。

 まず動力だが、先ほど開発されたパワーセルユニットを動力源とした電動モーターとした。

 次に少数のクルーで運用可能とする為、各部の制御は自動化とAI化が進められる。

 主力の攻撃兵器は魚雷だが艦の大きさを極力小型化するため、魚雷自体の大きさも小型化する。

 推進剤を減らす代りに魚雷射出時はレールガンの技術を応用した電磁カタパルトを使い魚雷を加速し射出する。

 誘導は有線ワイヤーを使う。

 その為、有効射程は短くなるが、その分は機動性の高さで補う。

 また、潜水艦自体をコンパクト化し機動性を高くすることで、通常の魚雷で狙うことは難しくさせる。

 つまり、通常魚雷程度の速力と、それ以上の旋回性を持たせた設計にするということだ。

 安全潜水可能深度は300m程度だが、この潜水艦は浮上しての攻撃力もある程度備えてる。



 具体的にいうと、新型ゼロ戦にも搭載されるレールガンの高速誘導弾(もしくは30mmチェーンガン)と12.7mmガトリング砲3門による対空防御の二種類を用意する。

 これらは浮上後、甲板上のハッチが開き、下からガトリング砲やレールガンが持ち上がってきて使用する。

 これらは遠隔誘導で船外に出ることなく行う。

 通常の移動時は浮上して行うため、浮上航行に適した船体形状をさせることになった。

 その結果、船体のデザインは旧日本海軍の潜水艦によく似た型となった。

 乗組員は5名、さらに10名程度を載せて隠密活動を行うことが可能。

 船の全長は54mほど。

 最大速力は56ノット(時速104キロ)を目指している。

 最高速を出すときや敵から身を隠す場合はスーパーキャビテーション(無数の泡)で船体を包む。

 スーパーキャビテーションの技術はすでに日本の潜水艦にも備わっているので流用するだけだ。


 敵潜水艦への攻撃は自らのセンサーやソナー、対潜哨戒機、SOSUS(音響監視システム)などの情報を元に敵潜水艦の位置を把握、高速移動により敵潜水艦からの魚雷攻撃を避け、誘導式短魚雷にて攻撃、撃沈する。

 水上艦への攻撃は敵が大型艦の場合は高速移動で接近した後、短魚雷で攻撃、撃沈する。

 小型船などの場合は浮上したのち、高速誘導弾や12.7mmガトリング砲などで攻撃。

 対空戦も同様だ。


 浮上時、甲板にある二つの防水ハッチが開き、下からせり上がってくるCIWS3基とレールガン 1基が完全に持ち上がった状態で発射可能になる。

 その時間はおよそ1分。

 収納も同様に1分程度で行うことが出来る。


 動力源はパワーセルユニットにより得られる電力で、通常時は電力を豊富に使うことが出来るため、艦内の空気を正常に保つエアコンユニット空気清浄機や酸素生産ユニット、純水生産ユニットも備える。

 艦内の制御も一箇所に集められており、緊急脱出時は乗員は艦橋直後に設置された脱出ポットにて高圧ガスの圧力で上部に射出される。

 
 現在の潜水艦は葉巻型が主流だが、今回開発が進んでいるイ400KAI(仮)は従来のスタイルの水上船型をほぼ踏襲する。

 艦首の形状は元と同じくカッターバウを採用、これにより水上航行中に甲板上にあるCIWSやレールガンなどに海水がかかりにくくしている。

 潜水したままや半潜水状態で目標に高速で近づき、攻撃開始と共に浮上してCIWSや高速誘導弾で打撃を与えた後、時間的猶予があれば潜水し、なければ浮上したまま高速機動し離脱するというような戦闘スタイルを採用している。


 海上に出た状態でCIWSを甲板に出したままで高速移動した場合、仮に艦首形状が葉巻型だとすると甲板にモロに海水を被るので、ある程度は海中での機動力がスポイルされたとしても海水がCIWSにかからないバウ(艦首)が必要なわけだ。

 潜水艦にCIWSを搭載していているのは、防空戦に参加することを可能にしたり、ろくな武装や装甲を施していない船ならこの一隻で十分破壊が可能になるからだ。

(しかも魚雷などと比べるとコストは激安)

 龍国軍は人権をちゃんと守る民主主義国家の軍隊ではないので、「一般人を装った武装民兵」を前面に押したてて攻めてくることが容易に想像出来る。

 実際、元寇などでは人質を船の舳先に並べ攻めてきたという「実例」が歴史的を学べばちゃんと分かる。

 時代が変わったといっても基本的な人種は変わっていないので、そういうことをする相手と戦うのだということは最初からキチンと想定して対策を施しておかねばならないわけだ。


 計画立案から半年ほどで具体的なスペックが上がってきた。

<諸元>

・全長:57m

・全幅:6m

・排水量:基準2100t  常備:3300t   水中:4500t

・喫水:3m

・機関:一万馬力大出力ブラシレスDCモータ ×4

・発電機:静音型水素核融合炉(パワーユニット) ×4

・プロペラ:艦尾に左右並列で2つ配置

・乗員:10名

・最大先行深度:300m

・速力:水上 50kt  水中:60kt

・耐圧殻:複眼式

・兵装:20mmガトリング砲×2  レールガン×1  短魚雷発射管4門 (20発搭載)

・防音装置:音波吸収タイルを船体全面に実装、Nプロペラ製静音8枚羽根プロペラ、スーパーキャビテーション等


 簡単にイ400KAI(仮)の性能を説明すると、

1)徹底した自動化によりわずか10名で運用可能

2)航続距離がほぼ無限大という利点を活かす戦術を選択する事がが可能

3)音波吸収タイルや特殊設計のプロペラの採用により隠密任務が可能

4)高い火力を持つCIWSやレールガンを装備することで防空任務や小型艇・地上目標などへの攻撃が可能に

5)高い機動性により水中では魚雷での攻撃がほぼ無効になる

 これらの大きなメリットを持つことに成功したのだ。


 ちなみにだが、安全潜行深度が300mとかなり控えめなのは建造費を抑えるためである。

 潜行深度を犠牲にする代わりに、船体を横に三分割し、メンテナンスや補給などを容易くする工夫がされている。

  具体的に言うと、艦首(バウ)と本体、艦尾(スターン)を三分割し、切り離しや接合は極めて簡単に出来るよう工夫されている。

 魚雷や弾薬、食料品や消耗品の補充や水素核融合炉のメンテ、モーターのメンテなどは切り離された後行うが、隔壁も簡単に取り外せるようになっているので物資の搬入やモーターの交換、パワーユニットの交換なども比較的短時間で行うことが出来る。

 この三箇所はそれぞれ独立しているので艦内の移動は基本的に不可能。

 なんらかの理由で移動する場合は浮上し、甲板上のハッチにて移動をする。

 このような構造にすることで、例え一箇所が漏水しても、他の二箇所には水が入らないよう工夫されている。


 なお、海上自衛隊で現行使われている蒼龍型だが、こちらは川北重工と南海企業連合に所属している神戸重工が製造している。

 こちらの生産拠点も神戸から南海新都市に移すことに決定した。

 実際に移転されたのは2030年からだったのだが、このタイミングで蒼龍型は(表向き全く公開されていないが)大規模な改良を施されることになった。

 まず、動力をそれまでのディーゼル+ナトリウムイオン電池から水素核融合炉(パワーセルユニット)による電動モーターへ。

 全長を5m伸ばし、2門の垂直発射型セルを備え、水中発射可能な22式艦対艦誘導弾を二発搭載。

 実質的にこの一手で日本国は「核の抑止力」を手にすることになる。

 なぜかというと、川北などが開発したパワーセルユニットには基本的に「核爆発させる機能」というものは付けていなかったのだが、そのような内部事情を他の国が知り得るわけがない。

 だから、川北が「うちが22式艦対艦誘導弾の後継で製造した32式艦対艦誘導弾は弾頭に核融合炉が載ってます」と発表しただけで、日本国は自動的に核保有国になってしまうという笑えるような事態になるからだ。

 この瞬間、龍国や他の核保有国は川北を始めとした南海新都市や日海軍、更には日本国に対して「核を使って脅す」というオプションが使えなくなる。

 相互確証破壊(Mutual Assured Destruction, MAD)というものはこれまでは「核分裂反応を使った核爆弾」によって成り立っていたわけだが、遂に「核融合反応を使った爆弾があると宣言する」ことで、「こちらにも核攻撃を受けた場合は反撃でお宅の国の全てとお宅の国の指導者全てを破滅に追い込むオプションがあるのだぞ」という核を使わせない抑止力をもつことに成功したわけだ。

 ある意味、「究極の意味での核の平和利用」と言えるかもしれない(笑

 なんせ、実際に核爆弾を持っていなくても、相手が勝手に「あいつら核ミサイルを持っているんじゃなかろうか?」と誤解してくれて、核による恫喝を使わないでくれるようになるわけだから笑いが止まらないわけだ。


 ただ、誤解の無いようにして欲しいのは、いくら「核による相互確証破壊(MAD)」が成立したとしても、通常兵器による局地戦は十分起こりうるし、実際、日海軍と龍国軍との間にも武力衝突は起こる。(近い未来の話だが)


  「核を持てば平和が訪れる」というのはあまりにお花畑に過ぎる議論だと言えるし、ましてや「日本は核を落とされた唯一の国だから日本が先頭に立って核放棄を世界に訴えねばならない」なんてのは寝言以外の何者でもないわけだ。

 まあ、僕などはそんなことを仮に言ったとしても、裏では核武装(フェイクも含む)の準備を進めるだろうけど。


 誰とは言わないが、今の日本でも表では「核による平和を!」「原発反対!」などと寝言みたいなたわごとを言いながら、裏では川北たち南海企業連合などのような核による抑止力の保持を狙っていた人(政治家を含む)がいるということは記憶に留めておいてもよいと思う。

 日本人はそこまで「バカ」ではないのだ。

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