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第2章

台湾侵攻と新移動通信規格をめぐる戦い

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 支那の台湾への侵略は大東亜戦争終結直後、すでに始まっていた。

 サンフランシスコ平和条約の締結で台湾の主権を放棄した日本だったが、蒋介石率いる国民党が台湾に侵攻し、知識人3万人を虐殺したところから支那の台湾侵略は始まると言ってよい。


 ちなみにその時虐殺された医者や弁護士など知識階層の台湾人は「法律的には日本人」であったわけなので、日本が本来は台湾に違法侵略した国民党に対して抗議するべきだったのだ。

 もっとも、その国民党も後に李登輝総統など優秀な指導者を輩出し、台湾を民主化に導き、「防共の砦」として活躍することになるので全てを非難するというわけではないのだが。


 そのような台湾であったが、中国共産党政権の頃から支那は台湾に対して浸透工作を徹底して行っていた。

 2016年の総統選挙で、反龍的な民進党政権が政権を奪取し、一時的に龍国の侵略は退けたように見えていたのだが、軍部は元々が親龍派(パンダハガー)が多い国民党寄りの将官が多いことなどから少しずつ親龍派への傾倒が進み、

 経済界なども龍国とのビジネスを重視するパンダハガーの強い影響や、台湾内部で違法なテロ活動をする統一戦線工作部のテロ活動が度々起こるようになり、2020年の総統選挙で民進党から国民党へと政権が移った。

 統一戦線工作部による他国での工作活動による被害は日本でもかなり大きかったのだが、台湾は龍国による攻略ターゲットのナンバー1に指定されていたということもあり、徹底的に行われたのだった。


 まず、ネットなどでの書き込みを行った者に対しての弾圧は徹底され、SNSのアカウント停止だけでなく身元特定の末に暴行を加えられたり、死亡する者も現れ始めた。

 これらを非難する動きを行った者や企業に対しての弾圧も徹底していて、2020年末には無期限の戒厳令が敷かれた。

 また、龍国を除く海外とのインターネット回線も元から絶たれ、外部への情報の流出は基本的に困難なものとなった。


 軍の内部でも独立派の将官や兵士は徹底的に弾圧、粛清され数百名が殺されるという事件も起こったがこれも一切外には報道されなかった。

 台北市や高雄市などでも大規模な反政府デモが起こったがこれも軍の投入で即座に鎮圧された。

 街中には無数の監視カメラが並び、顔認証と住民全ての情報をAIによって管理する監視システムが龍国本土より輸入され台湾という国は実質的に龍国によって占領統治される状態に陥ってしまったのだった。


 反抗的な住民は龍国に連れ去られるか、台湾内に新たに建てられた「職業訓練施設」に押し込められ、徹底した洗脳教育と虐待、拷問などが日々行われ、数千人とも数万人とも言われる犠牲者を出したのだった。

 このような状況の中、海外に脱出する人が多数発生し、南海新都市も特別区を設けて彼らを積極的に受け入れることにした。

  ただ、彼らの中には臨時台湾政府(龍国の行政区扱い)に身内を人質にとられている場合も多く、いつスパイになるかもしれない恐れがあるので、彼らの同意を得て、メガフロートは本島部分とは切り離され、日本人とは切り離されて生活をするようになった。

 彼らにも当然、多くの仕事が南海企業連合から回され、(なんせとてつもない人手不足だったし)特に彼らに中心となって行なってもらったのが、「5Gに変わる6G、7Gなど新たな移動通信規格の開発」であった。

 彼ら台湾系難民の中には元々 通信系先端企業に属していた者も多く、そのような開発業務や製造工程で働いていた経験のあるものも多くいたので、台湾特別区に大規模な開発部門と製造工場が建てられた。

 この頃になると、南海新都市に多数進出していた日本の企業や、アメリカの最先端技術を持つ企業などもいたので、自然と共同での技術開発も行われたのであったが、案の定というかやっぱりというべきか、龍国政府のスパイとなって情報を抜き出そうとする者も出てきた。

 だが、これらのスパイ行為はほとんど全てが漏洩前に止められた。

 仮にデータを抜き出したとしてもそのデータを南海の離れ小島という外界から隔絶した処から外に持ち出すのであれば、外部との交易で使っているルートに紛れ込むか、衛星などを使って情報を飛ばすか、なんらかの方法を取らないといけないわけだが、情報セキュリティは非常に厳しく行われているので、情報持ち出しはほとんど失敗に終わっていた。


 現在、龍国は5Gという移動通信規格の主導権を奪っていてアメリカの同盟国などを除き世界でのシェアを獲ってしまっていた。

 格安携帯を大量販売で世界各国に販売し、基地局も同じく龍国のメーカーで普及させてしまったことで、龍国はそれぞれの機器を使いユーザー情報を盗み、そのビッグデータを元にして人々を「数値化」し、「管理」し、「監視」し、場合によっては「弾圧」したり「抹殺」していた。

 これらの動きに対し、当初から非常な危機感をもっていたのがアメリカで、早い段階からアメリカはイギリスと日本という重要な同盟国と、イギリスを宗主国とするカナダ、オーストラリア、ニュージーランドというファイブアイズと呼ばれるスパイ情報を共有するネットワークを持つ国々と協力してこれらの国々だけは龍国の5Gの機器を使わないよう対策を施していた。

 ただ、それらの国々と言えども国内には多数の龍国の移民が住み着いていたり、情報を抜き出そうとする産業スパイや影響力工作を行おうとする工作員などが多数存在していたので、特に日本は龍国の工作員によって多くの妨害工作がされていた。

 しかし物理的にも情報漏洩がし難い、南海新都市は情報の秘匿の重要な研究開発はやり易い環境だった。

 この様な条件が整った南海新都市は世界中の研究者たちにとって理想の環境とも言えた。

 なぜなら、母国で研究開発をしようとすると、必ず龍国から何らかの形で干渉され、場合によっては無断で情報をパクられたり、行方不明になる同僚が現れたりして、非常に不安な日々を過ごさねばならなかったからだ。

 また研究開発に関する費用も変な審査もなくかなり自由にさせてもらえたりするし、何かと自由を好む研究者にとっては都合がよい環境だった。

  「多くの才能が集まった環境」「潤沢な研究資金」「研究開発を支援するAIの存在」「明確な敵国の存在による高いモチベーション」これらが重なった事であらゆる技術革新が凄まじい勢いで進んでいくのだった。


 5Gの普及により大容量通信の実現やAIによる自動運転の普及などがある程度は進んだが、実はまだこの段階では軍事使用の面では満足のいく仕様ではなかった。

 5G程度の通信能力では非常に高度な暗号通信は不可能ではあったし、通信距離が6Gや7Gでは5Gまでの少なくとも1.5倍になるという試算が研究者から出ていたからだ。


 日本には元々、電電系の通信業者が多く存在していたし、6Gの基地局を作る技術を持っていた。

 また、ガラケーの時代は間違いなく日本が世界の携帯電話の技術では世界最先端を行っていた。

 その後、国家が携帯事業と一体となって突き進んできた国々に日本の企業は壊滅的な打撃を被り「携帯通信事業後進国」となってしまうのだが、この戦略眼の無さを当時の自由済民党や民共党の議員は本当に反省しなければいけないと思う。


 現在も日本国政府は相変わらずの無策無能ぶりをさらけ出しているのだが、川北を始めとした南海企業連合の潤沢な資金力をもって猛烈な後押しを日本の企業を始めとして、「反龍国」という目的で集まった企業や研究者全てに投じていったのだった。


 なぜここまで川北を始めとした南海企業連合が移動通信規格に拘ったのかというと、それを制することが世界を制すことに繋がるからだ。

 仮に龍国の5Gの基地局や携帯端末が世界中に普及してしまったら、龍国政府の意思で世界中のネットワークに繋がった機器を一斉にコントロールされたり、場合によっては国のライフラインを丸ごとを破壊することさえ可能となるのだ。

 つまり、移動通信規格というのは「軍事転用技術」以外の何者でもないわけだ。


 川北重工を始めとした旧軍の軍需兵器生産会社が躍起になって兵器開発を進めているのも、龍国による明確な侵略の危機に晒されているからで、言ってみれば「自衛」の為なのだ。

 現在の日本では「平和こそ全て」だとか「武器を持つから敵に狙われる」などという議論を政治家や大学のトップ、知識人と言われている人が平気で言ったりする良い世の中なのだが、

 実際にすぐ隣に人類史上、最も残虐な、しかも日本人に対して強い恨みを持つモンゴル帝国に匹敵する帝国主義的侵略国家が誕生したのだから甘ったるい事を言える余裕はどこにもないわけだ。

 後に川北耕三が「世の中には正義と悪があり、この戦いは間違いなく正義だ」と龍国に対しての宣戦布告で言うことになるのだが、

 自衛の為ならどのような悪名も被る覚悟は川北に限らず、南海新都市に逃げてきた人、全てが等しく共有する感覚であったのだ。

 当初、台湾から亡命して逃げてきた人々を南海新都市の面々はかなり警戒していたし、実際、幾人かはスパイ容疑で外に追い出す事例も発生してきたが、残った彼らは身内を既に殺されたり、自身も弾圧や拷問を受けた経験のあるものが多く、川北たち南海新都市に元々いたメンバーより遥かにシビアに状況を理解していた者が大半であったのだ。

 実際、のちの龍国との戦闘では彼らの一部は最も龍国兵たちにとって苛烈で勇敢で無慈悲な攻撃をする兵士としても活躍するようになる。

 また、後の台湾奪還戦などでも内通者とのパイプ役となったり、内部での破壊活動を行うなどの決定的な働きをするようになるのだった。
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