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第2章

省力化の取り組みと技術発展

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 戦後まもなくして日本は高度経済成長期に突入した。

 その頃は異常なほどの人手不足な状態が続いていて、中卒程度の人材も「金の卵」としてもてはやされ、その結果、日本の企業はより少ない人数で多くの仕事をこなせる対策がなされるようになった。

 工場の自動化、パソコンの普及による文章管理の効率化などはその際たる例で、今まで何人も必要だった仕事を一人で出来るような技術革新が進んだのだった。

 しかし、90年代のバブル崩壊と共に訪れた「失われた50年」で、日本経済は未曾有の停滞期を迎えた。

 2012年の第二次岸内閣誕生に伴い行われた、大規模な金融緩和政策「キシノミクス」の期待感から低迷していた株価は一気に7000円台から20000円台にまで回復、

 一時的に好景気が訪れ失業率も戦後最低になったのだが、ここで岸内閣は一つの大きな失政をしてしまう。

 業界団体の要望を過剰に聞き入れた結果、近隣諸国、それも龍国など敵性国家から多数の労働者を受け入れてしまったのだ。

 更に追い討ちをかけたのが民共党政権の末期に決められた消費増税の導入だった。

 これらの悪政により労働者の賃金は停滞、国内は龍国からの質の悪い労働者によって多数の技術流出、企業そのものの乗っ取りなどが横行するようになる。

 まあ、中国の内戦により朝鮮半島などからの多数の難民が日本に押し寄せ、人道的な観点から日本政府もそれら難民をいつまでもメガフロートに増設した施設に押し込めておくことが難しかったということもあるのだが、それにしても数百万単位での受け入れは行き過ぎであった。

 日本政府は、キシノミクスでの好景気で一時的に発生した失業率の低下した時期に徹底して技術開発に対する投資を推し進め、安易に外国人の受け入れをすることを防ぐべきだったのだ。

 これらの悪政に危機感を覚えた川北を始めとする多くの日本企業は南海に脱出し、国内に取り残され龍国との共存を望んだ勢力は次々と力を削がれていくのであった。

 日本本土から南海新都市に逃げてきた多くの企業には当然、多くの親戚家族などがついてきたわけだが、それでも大規模な建設ラッシュや新規事業の立ち上げによる異常なほどの『人手不足』になったのだが、彼らは日本本土に残った面々ほどバカではなく、より少ない人数で仕事を賄うことが可能になるよう、徹底して知恵と金を使った。

 その中でも「金」を潤沢に使えたという事実はやはり大きかった。

 川北がバイオマス燃料の量産化、メガフロートで大量に使用する難燃化発泡材の開発成功による巨大な黒字がやはり大きかった。

 ここでも活躍したのが新開発された開発支援AIである魔理沙たち。

 彼らがまず最優先で取り組んだのは作業支援用パワードスーツの開発だった。

 川北電気とPソニック、アメリカでの兵士用のパワードスーツを開発した会社などが共同で研究を行なっていた、重量物の運搬などで効果を発揮する簡易型のパワードスーツを実用化にこぎつけた。

 これは体の動きをセンサーで検出し、電動モーターにより動きのアシストを行うというものであったのだが、これにより長時間の歩行、重量物の運搬、重い荷物の積み下ろしなど一般的な肉体労働がかなり軽減された。

 これまで重量物の上げ下げなどは筋力の弱い女性や高齢者は不可能であったがパワードスーツの普及で作業効率のアップと疲労の軽減が実現した。

 このスーツの制御はスマホのアプリが使われていて、Bluetoothによりパワードスーツの動きを制御、個人個人にあった制御を自動的に覚える仕様となっているので、スーツを変更しても違和感なく使えるよう工夫されている。

 このスーツの普及により、建設業、運送業など重量物を運ぶ機会の多い作業だけでなく、店舗内の商品管理や介護業務などの軽度の肉体的な負荷を伴う仕事に対しても非常に大きな効果をもたらした。

 また、南海新都市は日本本土に比べ高温多湿なことが多いので、このパワードスーツに付属可能な冷却装置が非常に重宝された。

 バッテリーは日本で発明と実用化がなされたナトリウムイオンバッテリーが使われていて、それらの機能を2時間程度使えるバッテリーをその都度交換しながら作業を続けることが可能。

 この冷却装置は小型軽量だがコンプレッサーが付いているので最強に調節すると氷が出来るほど冷やすことも可能なものであった。

 また、このパワードスーツは関節の動きを補助する程度のもので服の下に着てもそれほど目立たない程度の物であったので、普及した後は街の中でもこれらを付けて動き回っている者が出ていた。


 川北など南海企業連合はそれぞれ資金を出し合い、これらのパワードスーツとバッテリーと充電器をそれぞれの従業員や関係者に無料で配布、それにより作業の効率化や女性や高齢者の社会進出、仕事に対する不満などが解消された。


 また、南海新都市は建設当初から無人制御のトラックによるロジスティックが計画されていて、運送業におけるトラックのドライバーの需要は大幅に減った。

 当然、本来はドライバーとして活躍していた肉体的にも健康な人達は他の業種に進出することなるので、全体的にはより少ない人数で多くの仕事をこなすことが可能となった。

 2020年の段階では、南海新都市が日本でほぼ唯一、無人制御のトラックの実用化が実現している区域となっていたのだった。


 この「人手不足」を最大限活用する考え方は軍の方にも活かされていくことになる。

 先程から話が出ていた新型のゼロ戦にしても、旧型の物と比べると圧倒的に防弾性や生存性は高められ、操縦系統の複数化、緊急脱出可能なゼロ・ゼロでの射出可能な座席の採用などパイロットの命をいかに守るか?ということに最大限の知恵と技術が注ぎ込まれていく。

 例えば、防弾板は現在のMBT(主力戦車)の装甲の技術が活用されていた。

 川北重工は陸自へ納入しているMBTも製造しているのだが、その装甲板の開発には随分前から非常に多くの研究開発費が投じられていた。


 実際、今現在の日本の防衛産業を支えているのは川北を始めとした数々の会社の血のにじむような努力の賜物であり、かろうじて日本の防衛は成り立っているのだが、これなどもその一例で、膨大な開発費の大半は川北の企業努力によって賄われていたのだった。

 もちろん、報道は一切されないことなのでこのような事実を知っている国民はほとんどいない。


 この装甲は戦車の「軽量化」を実現させるため、日本では特に必要不可欠なものと考えられていた。

 現在の世界各国のMBTは重量が60tを越すものが大半、それだけ大きく重くなれば防御力が高くて「当たり前」なのだ。

  しかし日本はその国土的な問題から大きく重くする戦車というものは最初から考えられないものであった。

 移動には橋を渡る必要があり、道幅が狭い、山や谷が多い、平野は水田が多いことなどが挙げられるからだ。

 その結果、他国のMBTと同程度の防御力を50t以下で達成させるためには防弾技術を磨かねばならなかったというわけだが、この新型ゼロ戦に採用された防御板もこの先進技術が活用されていた。

 具体的にいうとチタンなどの金属板の層、超硬質セラミックを四角錐にした層、ケブラーなどの新開発の炭素繊維を編んだ層などを複数重ね合わせ、多少の被弾程度なら防ぐものだった。

 また、新型ゼロ戦はキャノピーも最近の戦闘機でよく見られるポリウレタン製の一体型のものではなく、昔ながらの格子状に防弾ガラスがはめ込まれたものであった。

 視界は多少悪くなるのだが、新型ゼロ戦にはAIによる周囲監視装置が載っているし、キャノピーを多くのパーツと頑丈な格子状のフレームにすることである程度の防弾性能を稼ぐようになっていた。

 また被弾した後も、防弾ガラスの交換は非常に容易で、被弾した箇所だけ交換可能だ。

 このようにしてコストの軽減も考えれていたのだった。


 人材の業種間の異動も積極的に行われるようになった。

 特に管理職になる者はひとつの業種ではなく、あらゆるタイプの職を経験させることで他の業種の良い所を持って来させる効果が発揮された。

 例えばだが、国内の業者間の競争しかしていない食品系の工場に、海外のメーカーとの熾烈な競争を繰り広げている製造業から異動してきた人間は国内の食品系の工場のあまりの効率の悪さに驚くことがある。

 ある食品系の工場では人手不足の解消を、中間管理職が現場のラインに入って一般職と同じ仕事をこなしながら管理もしていたのだが、そうなると当たり前のことながら管理という本来やるべき仕事が疎かになってしまい、工場全体の効率のアップや業務改善などが全く行われていなかった。

 海外の工場の管理職をしていた者をその工場に回したところ、「この工場の管理体制は50年は遅れている」と言わしめるほど、管理体制に不備があった。

 そこで業務改善を徹底して行わせたところ、一年後には作業効率が20%近くもアップ、人手不足は解消されると共に、工場内から常に改善案が提案される良い流れが出来た。

 また、交代制勤務の業務引き継ぎや、作業内容を具体的にまとめた作業指図書の作成などにもAIが積極的に活用された。

 基本的に中間管理職の仕事は「誰が代わりに入ってもすぐ対応出来る準備を整えておくこと」だ。

 これなども国内だけの競合しかない緩い業界だとまともな対応がされていない場合が数多くある。

 運送業などこの筆頭で、仕事の引き継ぎをするのにわざわざ横乗りさせたり、場合によっては数ヶ月も人がかかりっきりで業務を教えたりと、効率化などが極端に進んでいる業界からしてみると目眩がするほど古典的かつ非効率的な引き継ぎが日常的に行われている場合がある。

 そこで、これらの業務の効率化をAIを介して標準化、日常の業務の引き継ぎや作業内容をまとめた物も動画などを使って簡潔、かつ分かりやすく出来るよう工夫された。

 作業員個々の業務内容の評価もそれら動画などを審査したAIによってある程度は数値化して評価されるシステムを開発。

 その結果、個々の評価も効率化が進み、管理職の数自体も減らせるようになっていった。


 業種間の交流を積極的にさせることで、業界特有の「悪癖」を取り除き、多く発生する人事異動に対しては、業務の引き継ぎを効率よく行わせる仕組みを完備させ、あらゆる業種の作業内容を標準化させ、誰でも出来るよう工夫させる。

 AIで出来る作業は徹底的にAIにやらせ、人間は人間だけしか出来ない頭脳労働とアイデアを出させること、緻密な作業、業務改善の提案をさせることなどを徹底して行うことで、より少数の人数で効率のよい「戦うための組織」を作ることに全力を挙げていくのであった。
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