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第2章

第一回防衛会議(仮名)

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 「核融合による豊富な発電量」はモーターを回す推進力だけでなく、小型の高速誘導弾を発射するレールガンの電力にも活用されるということは前回のお話でお伝えした。

 これまでの兵器開発に詳しい軍関係の面々はこれだけでも目を丸くしていたのだが、坂本主任の「チャフやフレアがほぼ効果がない」という言葉にも食いついた。

 「これは弾頭にレンズとカメラが付いており視覚誘導で目標物を自動的に追尾し、破壊するのです。つまり、レーダー追尾や赤外線誘導は現時点では考えておりません。もしそれらを搭載するとするなら より大型のシーカーを開発せねばなりませんし、現在のテスト結果ではこの方式だけでもかなりの好成績を挙げています」


 確かに今現在の最新のミサイルの誘導方式は、目標物にレーザーを照射してそこを目指して飛ぶものや、レーダー追尾、赤外線追尾、カメラを使った手動での誘導、妨害電波を出した相手に自動的に向かっていく方式など、数多く存在するのだが、ステルス化と赤外線を放出することを防ぐ仕組みなども研究開発が進んできているので、完璧な誘導方法というのは存在しない。

 これらは「盾と矛」の関係で双方が年々進化を続けているものなのだが、今回の高速誘導弾はそれらの方式とは全く違うものだ、「敵の姿」をカメラが視認すれば自動的に追尾するので従来の防御法では防ぎようがないわけだ。

 軍関係者からさらなる質問が飛ぶ。

 「それにしてもそのサイズにそれだけの機能を詰め込むのは凄まじい技術が必要だと思われるが、何か特別な仕組みでもあるのだろうか?」

坂本「あぁ、これは言ってもいいですよね、このミサイルの弾頭には“スマホ”が使われています」


・・・

 は?スマホ?スマホだと??皆が持っているスマホでその弾頭を制御しているだと???

 なに食わぬ顔で坂本は続ける。

 「後々、詳しく説明しますが、新型戦闘機にも多数の“スマホ”が使われています。各部の制御やアビオニクスの一部として活用していますが、それらの電子機器を一から設計するより、既に存在しているスマホやタブレットを使い、アプリのみを新規に開発することで小型化、高速化は格段に進み、更にコストダウン、開発の効率化が大いに見込まれると考えています。
それらは既に航空自衛隊のF-4EJの改修でも行われており、アビオニクスの大半をスマホやタブレットで置き換えた結果は非常に良好だと聞いています」

 既に導入実績もあることに驚きの色を抑えれない面々。

 航空自衛隊の幹部たちは先日、川北重工がF-4EJの改修を行っていて、その後のテストを非常に熱心にしているとは聞いていたが、よもやそんなことになっているとは予想だにしていなかった。


 坂本は更に続けた。

 「市販されているスマホを使うことに不安を覚える方も当然おられると思いますが、プログラムの内容の解析は済んだものを使っているので、アップデートで内容が書き換えられたりデータが抜かれたり外部からコントロールされる心配はありません。

 先日、我々第四開発室が開発した設計開発支援AI「魔理沙」にスマホの内部解析能力を追加しましたので、彼女達に解析してもらえればあっという間に解析が終わります。

 また、WiFiも含めて無線によるデータ通信機能は最初から撤去しておくので、データ更新やメンテナンスは有線接続で行うことになります」


 会議に参加している企業のトップから、その「魔理沙」とは何か?という質問が飛ぶ。

坂本「魔理沙は設計開発支援AIで、当初は製品の小型化に特化したツールとして開発しました。
新たな案を出す魔理沙と、その案の穴を指摘する霊夢という二つの思考パターンが全く異なる二つのAIの意見を常時戦わせることで、設計の精度を加速度的に上げていくというものです。
それぞれのAIは膨大な人間の思考パターンをインプットしており、データのやりとりは『会話』を使って行います。
我々が寝ている間も魔理沙と霊夢は常に『会話』しながらブラッシュアップを続けます。
双方の話し合い、外からの情報を更新し続けることで双方のAIの判断力は加速度的にアップし続けます。
もっとも、万能には程遠いので、まだまだ人の手による適切なメンテナンスは必要ですけどね。
すぐ脱線してしますので。
実は、この魔理沙と霊夢のシステムは先日の水素核融合炉の小型化と実用化で既に使われており、人間だけだと20年は掛ったであろう設計を3年ほどで完了させ、実用化にまで持ち込むことが出来ました。
公表はされていませんが、水素核融合炉、つまりパワーセルユニットの実用化の最大の功労者は魔理沙と霊夢なんですよ。
また、先日よりあらゆるビジネスアイデアや新製品のアイデア募集などを一般向けにも公開していますが、それらのアイデアの基本的な審査や実用化に向けて作業工程図や設計図などを作るのは『魔理沙』達なんですよ。
色んな案が実用化に向けて動き出していますが、我々  川北グループだけで賄えそうにないビジネスモデルやアイデアについては他社の方や一般のベンチャーに実用化と収益化をお願いすることになると思います。
おかげさまで手持ちのスーパーコンピューターでは情報処理速度は全く不足していて、最新最速のスーパーコンピューターを搭載した情報処理センターを十施設ほど増設中ですが、それでもまだ足りない可能性が高いですね」


 もう驚くことにも疲れたという印象の参加メンバーたちであったが、先程質問した企業のトップが質問した。

 「あらゆる工業品の開発、設計、さらには生産ラインの構成や作業工程図まで自動的に作るということか。
しかも専門知識を持った人間を全く使わずに。
人間は『こんなものを作りたい』と入力してやるだけで、その製品の具体的な形状や性能、使用する材質、設計図から生産に必要な生産設備や治具や工具、作業工程図まで用意してくれるわけか。
恐ろしい世の中になったもんだな」


坂本「そういうことです、さすが社長、的確すぎるご指摘、ありがとうございました。
よくAIはいずれ人間を凌駕する、なんて言われてますが実際はそんなことありません。
人間とAI、それぞれ得意分野があってAIでは絶対出来ない仕事がありますからね。
人間は人間が出来る仕事をして、AIに積極的に補助してもらえばいいんです。
もっと言えば、高齢者の作業支援や、子育て支援で今後、AIが活躍してくることでしょうね。
今までなら引退していた世代の人々が仕事を続けれたら今の深刻な人手不足は少しは緩和するかもしれません。
我々は好むと好まざるとに関わらず、人口13億人、周辺の属国も合わせて20億人もの巨大な開発独裁国家と戦わなければならないでしょう、それも近い将来。
ここにお集まりの方々は当然、そのような危機感を等しく共用していると思います。
我々が彼らの侵略を防ぐには3つの方法しかありません、
ひとつは『海』という天然の防壁を最大限活用すること。
二つ目は『製品の性能差』を圧倒し続けるシステムを構築すること。
三つ目は『より少ない人をいかに大事に守り活用して能力を引き出すか』です。
より少ない人員で、巨大な敵と互角かそれ以上に渡り合うのであれば、圧倒的な技術差がどうしても必要なのです。

龍国は伝統的に『新しい物を開発する能力』は欠けています。
紙や火薬は確かに彼らの先祖が発明したかもしれませんが、近代は「優れたものがあれば盗めばいいだろう」という風潮があるらしく、目を見張るような発明はされていません。

ですが、情報を盗み出す能力、それを模倣する能力、リバースエンジニアに関しては肩を並べる者は居ないと言うほど優れています。

我々が開発する商品や武器などもいずれは彼らに盗まれるでしょう。
だが、我々はそれらが市場や戦場に出始めた頃には、更に進んだ物を世に送り出す。
その為に必要だったのが『魔理沙』や『霊夢』の開発支援AIだったわけです」


 軍関係の人から「新型戦闘機の特徴についてもっと説明してほしいのだが」という要望が出たので、坂本は続けた。


 「新ゼロ戦は、従来のレーダーでは全く映りません。最新鋭のAESAレーダーでも検知は不可能ですし、レーダー誘導のミサイルは完全に無効化されます」


 驚くのに疲れている軍関係者だったが、これは流石に驚きの声を挙げずにはいられなかった。

 「見た感じ、ステルス機のようには全く見えない、それがレーダーに全く検出されないというのか?!」

 これは国防を担っている者として捨ててはおけない重要な情報だった。

 つまり、だ。ここまでの情報を考えても、川北重工が新たに開発している「ゼロ戦」は、あろうことかレーダーに全く検出されることなく近寄ってきて、RPGー7相当の破壊力をもつ高速誘導弾を10km先から次々と打ち込む能力があり、核融合を動力とした無限にも近い航続距離がある、ということになるわけだ。

 その気になれば今でさえ、日本の国会議事堂や龍国の天安門や三峡ダム、ロシアのクレムリン、アメリカのホワイトハウスを襲撃出来るし、やろうと思えばその『核』の力で大量殺戮することも可能なわけだ。


 「従来のステルス技術というものは機体形状をレーダー波を反射しやすいもの、プロペラやエンジンダクト、垂直尾翼やボディの側面などを極力減らすものと、レーダー波を吸収する素材や塗装の2つでした。
ですが、この方式はいくつかの欠点があります。
まず、ボディ形状をステルス化させることによる設計の煩雑化、複雑化。それに伴う開発費の高騰。
さらに電波を吸収する塗料も効果が長らく持続しないので、度々塗装する必要があったりと維持費がとてつもなくかかるというものでした。

龍国のJ20やJ31などは一見するとステルス機の様に見えますが、実際のところのステルス性能は米国の最新ステルス機の半分以下だと言われています。
それくらいステルス化というのは難しいものなのですが、我々は根本からステルス化に対してのアプローチを変えました。
素材と表面加工、塗装だけでステルス化を実現させにようと考えたのです。

まず機体自体の素材ですが、主原料は“樹脂”なので金属ほどはレーダー波を反射しません。
約20%程度を素材自体が電波を吸収するというデータがあります。

次に『表面加工』によりレーダー波の反射を防いでいます。
こちらの画像は表面を100倍に拡大した画像ですが、このように表面全てを四角錐がビッシリと覆っています。
こちらによりレーダー波は分散されます。
ただ、これだけでは表面がザラザラになるので、表面を半透明のレーダー吸収塗料を塗ることで空気抵抗を減らすと同時に電波吸収を行います。

わが方が行ったテストではレーダーによる検出は95%程度まで抑え込むことに成功していて、このステルス加工した戦闘機を察知するのは今までのレーダー監視網では不可能で、何か新たな監視網が必要となるでしょう」


 ここですかさず軍関係者から質問が飛ぶ。

 「これは当然、我が自衛隊の戦闘機などにも付けることが出来る、のですよね?」

 おっと、現役自衛官が参加しているのが思いっきりバレてしまったが、本人は全く気にしない様子だ。


坂本「もちろんそうなりますが、金属板の上に貼り付ける方式だと少し効果が落ちると思われます。ですが、従来のステルス化より数倍は効果が高いと思いますよ」


 おおっ、という歓声というか  ため息がもれるのだが、坂本は更に畳み掛けるように続けるのだった。

(続く)
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