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第1章
空の襲撃機
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最後の一社である四川飛機公司はこれまでの二社とは違うコンセプトにたどり着こうとしていた。
これまでの二社のコンセプトは「多少鈍足でもいいから重武装、重装甲で周囲警戒と防御力向上のために後部に銃座を付けてタンデム機として運用する」という共通点があったのだが、この会社は多少違っていた。
重武装、重装甲は同じだが、「機動性」を高めることで日本のゼロ戦に対抗しようとしたのだった。
四川飛機公司の開発チームは元々がアメリカで学んだ留学生が多く存在していたということもあり、当初はA2Dスカイシャークというジェット戦闘機が本格的に投入される直前に存在していたアメリカのターボプロップ攻撃機を参考にすべきという意見があったのだが、
「スカイシャークを真似するくらいなら、その後のA-4スカイホークの方がいいんじゃね?」
という意見が出て、参考にする機体の選定で大きく意見が分かれることになった。
ちなみに筆者個人の感想だと、A-4スカイホークはマジで傑作機だと思う。
ただ、ここで問題になったのも「調達価格」で高価なターボジェットエンジンを搭載するとどうしても調達価格が100万ドル(ざっと10億円)を超えるので出来れば自国で安く作れるターボプロップ機にしたい。
ただ、国産のターボプロップ機といえば機動性の悪い練習機程度しか無いので中型旅客機で採用されている出力が4000馬力程度絞り出せる、やや大型のターボプロップエンジンを付けたい、という所から設計が始まった。
直径の大きいターボプロップエンジンを載せるということで自然と機体は大きくなるので、そのサイズのエンジンを載せることが可能なアメリカの戦闘機や攻撃機を見渡してみると・・・
候補に上がったのは朝鮮戦争からベトナム戦争にかけて活躍した汎用攻撃機Douglas A-1 Skyraider (スカイレイダー:空の襲撃機)だった。
これまた余談だが、ガキの頃「スカイレイダー」という言葉を聞いて「空のレーダー(アンテナ)?」と勘違いしていたことがある。
「Lader」ではなく「Raider」なのだが、こちらは「襲撃者」だとか「盗掘者」などという意味がある。
開発メンバーの一人もこのスカイレイダー(以下スカイレ)に強烈に思い入れのある奴がいて、この導入案を強烈に主張したのだった。
今回、政府関係者から見せられた「ゼロ戦」の戦闘シーンを見せられて、開発スタッフの多くは腰を抜かすほど驚かされた。
ここのスタッフの多くは「アメリカ帰り」ということもあるが先出の彼のように「オタク」気質のある人間がズラリと揃っていたので戦闘シミュレーション系の某ゲームをやり込んでいたメンバーも多く(というかほとんど経験済み)、いかにこの「ゼロ戦」が画期的な戦術を使っていて、開発コンセプトがズバ抜けて優れているかを正しく評価していた。
そこでいろんな意見をぶつけ合わせた結果、「このゼロに勝とうとするなら、少なくとも同じレベルの機動性を持つ必要がある」という結論に達したというわけだ。
そこでまず急減速が可能なダイブブレーキの採用と空戦フラップ(戦闘フラップ)の採用が決定。
一撃離脱戦法では、一撃を加えた後、オーバーシュートして(追い抜いて)離脱を図る際、ゼロ戦が後方から高速誘導弾を撃ってきて撃墜されてしまうので、そもそも一撃離脱戦法は使えないとされた。
政府から要求された能力も「低空でゼロ戦を引きつけるオトリとしての役目」を強調されたので、「格闘戦で互角に渡り合う」という能力を追求することが決まった。
引き込み脚を出してブレーキをかければ良いという案もあったが、それでは動きが数テンポ遅れてしまうので、機体両側面と胴体下部にダイブブレーキを装備して急激な減速を可能にし、
4000馬力を越す優秀なターボプロップエンジンによりゼロ戦に匹敵する急加速と上昇性能を獲得させる。
また空戦フラップの採用により、旋回性能を極限まで高め、上下方向の旋回、水平方向の旋回戦にもある程度対応出来るようにした。
機銃は左右の翼内に自国産の20mm機関砲を計4門、機体下部にハードポイントを15箇所設置してミサイルやドローン、増槽や魚雷、誘導爆弾、簡易レーダーやミサイル警報機、30mmガンポットなどを計4tも搭載を可能とする。
それらを全て外せば戦闘機としてもある程度はゼロ戦に対抗出来、選択肢が豊富な兵装は数多くの任務に対応が出来ると考えられた。
また、元々艦載機として設計されたものなので翼を容易に折りたたむことが可能で、空母での運用も容易だった。
・・・ただ、これは他の三社、皆に共通していたことなのだが、開発目標の「調達価格:100万ドル以下」というものは全く守れそうになかった。
前出のスツーカ、シュツルモビクのあたりでざっと400万ドル~700万ドル、このスカイレイダーはなんと800万ドル超との見積もりが出ていた(笑)
「開発目標というのを何と考えているんだ?」と小一時間説経してやりたいところなのだが、まぁ提案するのは自由だし、採用されたらさらにラッキーというところなのだろう。
ここで後々のネタバラシをしてしまうと、結局、この三社の「開発案」はあっさりと承認され、それぞれ試作機を一年以内に完成させよ、という命令が出ることになる。
このようにして、2040年ごろにはなんと、「第二次世界大戦の頃からベトナム戦争にかけて活躍していたプロペラ機」が戦場の主力として戦うことになるのだった。
さらにさらにネタばらしをすると、川北は「ゼロ戦」や「月光」以外にも主に旧日本軍機を模した機体を次々と実践投入し、龍国側も国籍バラバラのプロペラ機を大量に投入することになっていく。
ジェット戦闘機も数々開発されたり「復活」を果たしていくのだが・・・
それはまた別の機会に語りたいと思う。
これまでの二社のコンセプトは「多少鈍足でもいいから重武装、重装甲で周囲警戒と防御力向上のために後部に銃座を付けてタンデム機として運用する」という共通点があったのだが、この会社は多少違っていた。
重武装、重装甲は同じだが、「機動性」を高めることで日本のゼロ戦に対抗しようとしたのだった。
四川飛機公司の開発チームは元々がアメリカで学んだ留学生が多く存在していたということもあり、当初はA2Dスカイシャークというジェット戦闘機が本格的に投入される直前に存在していたアメリカのターボプロップ攻撃機を参考にすべきという意見があったのだが、
「スカイシャークを真似するくらいなら、その後のA-4スカイホークの方がいいんじゃね?」
という意見が出て、参考にする機体の選定で大きく意見が分かれることになった。
ちなみに筆者個人の感想だと、A-4スカイホークはマジで傑作機だと思う。
ただ、ここで問題になったのも「調達価格」で高価なターボジェットエンジンを搭載するとどうしても調達価格が100万ドル(ざっと10億円)を超えるので出来れば自国で安く作れるターボプロップ機にしたい。
ただ、国産のターボプロップ機といえば機動性の悪い練習機程度しか無いので中型旅客機で採用されている出力が4000馬力程度絞り出せる、やや大型のターボプロップエンジンを付けたい、という所から設計が始まった。
直径の大きいターボプロップエンジンを載せるということで自然と機体は大きくなるので、そのサイズのエンジンを載せることが可能なアメリカの戦闘機や攻撃機を見渡してみると・・・
候補に上がったのは朝鮮戦争からベトナム戦争にかけて活躍した汎用攻撃機Douglas A-1 Skyraider (スカイレイダー:空の襲撃機)だった。
これまた余談だが、ガキの頃「スカイレイダー」という言葉を聞いて「空のレーダー(アンテナ)?」と勘違いしていたことがある。
「Lader」ではなく「Raider」なのだが、こちらは「襲撃者」だとか「盗掘者」などという意味がある。
開発メンバーの一人もこのスカイレイダー(以下スカイレ)に強烈に思い入れのある奴がいて、この導入案を強烈に主張したのだった。
今回、政府関係者から見せられた「ゼロ戦」の戦闘シーンを見せられて、開発スタッフの多くは腰を抜かすほど驚かされた。
ここのスタッフの多くは「アメリカ帰り」ということもあるが先出の彼のように「オタク」気質のある人間がズラリと揃っていたので戦闘シミュレーション系の某ゲームをやり込んでいたメンバーも多く(というかほとんど経験済み)、いかにこの「ゼロ戦」が画期的な戦術を使っていて、開発コンセプトがズバ抜けて優れているかを正しく評価していた。
そこでいろんな意見をぶつけ合わせた結果、「このゼロに勝とうとするなら、少なくとも同じレベルの機動性を持つ必要がある」という結論に達したというわけだ。
そこでまず急減速が可能なダイブブレーキの採用と空戦フラップ(戦闘フラップ)の採用が決定。
一撃離脱戦法では、一撃を加えた後、オーバーシュートして(追い抜いて)離脱を図る際、ゼロ戦が後方から高速誘導弾を撃ってきて撃墜されてしまうので、そもそも一撃離脱戦法は使えないとされた。
政府から要求された能力も「低空でゼロ戦を引きつけるオトリとしての役目」を強調されたので、「格闘戦で互角に渡り合う」という能力を追求することが決まった。
引き込み脚を出してブレーキをかければ良いという案もあったが、それでは動きが数テンポ遅れてしまうので、機体両側面と胴体下部にダイブブレーキを装備して急激な減速を可能にし、
4000馬力を越す優秀なターボプロップエンジンによりゼロ戦に匹敵する急加速と上昇性能を獲得させる。
また空戦フラップの採用により、旋回性能を極限まで高め、上下方向の旋回、水平方向の旋回戦にもある程度対応出来るようにした。
機銃は左右の翼内に自国産の20mm機関砲を計4門、機体下部にハードポイントを15箇所設置してミサイルやドローン、増槽や魚雷、誘導爆弾、簡易レーダーやミサイル警報機、30mmガンポットなどを計4tも搭載を可能とする。
それらを全て外せば戦闘機としてもある程度はゼロ戦に対抗出来、選択肢が豊富な兵装は数多くの任務に対応が出来ると考えられた。
また、元々艦載機として設計されたものなので翼を容易に折りたたむことが可能で、空母での運用も容易だった。
・・・ただ、これは他の三社、皆に共通していたことなのだが、開発目標の「調達価格:100万ドル以下」というものは全く守れそうになかった。
前出のスツーカ、シュツルモビクのあたりでざっと400万ドル~700万ドル、このスカイレイダーはなんと800万ドル超との見積もりが出ていた(笑)
「開発目標というのを何と考えているんだ?」と小一時間説経してやりたいところなのだが、まぁ提案するのは自由だし、採用されたらさらにラッキーというところなのだろう。
ここで後々のネタバラシをしてしまうと、結局、この三社の「開発案」はあっさりと承認され、それぞれ試作機を一年以内に完成させよ、という命令が出ることになる。
このようにして、2040年ごろにはなんと、「第二次世界大戦の頃からベトナム戦争にかけて活躍していたプロペラ機」が戦場の主力として戦うことになるのだった。
さらにさらにネタばらしをすると、川北は「ゼロ戦」や「月光」以外にも主に旧日本軍機を模した機体を次々と実践投入し、龍国側も国籍バラバラのプロペラ機を大量に投入することになっていく。
ジェット戦闘機も数々開発されたり「復活」を果たしていくのだが・・・
それはまた別の機会に語りたいと思う。
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