ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

PZJ

文字の大きさ
上 下
8 / 55
第1章

空飛ぶコンクリートトーチカ

しおりを挟む
  龍国政府から新規のマルチロール戦闘機の開発を命じられた3社のうち1つの上海飛機製造は頭を抱えていた。

  政府関係者との会合で開発目的などは聞かされていたが、要求される性能を1億円以下という政府の要求する調達価格でどうやって実現させるのか、で社内の意見は大きく分かれた。

  「こんなのどうやったって無理だ!辞退する方がいい!」

  「何を言ってるか、お前!やる前から諦めているようなら開発室にいる必要ない!帰れ!」

  「バカなことを言ってないでそれぞれ持ち寄ったアイデアを出せ!まずはお前からだ!」

  「今の練習機に装甲を付けて、ハードポイントを増やしてやればいいだけじゃないか?」

  「それは俺も考えたが、一機あたりの調達価格が2億程度になってしまう、なんらかの工夫が必要だ」

  …3日ほど会議は空転したが、ある研究者がこう発言した。

  「良い案がある。政府が出してきた要求を過去に満たしていたであろう機体は何だ?過去に既に実例があればそれを複製すればいいだろう?」

  「過去に開発された戦闘機や攻撃機でそれらの条件を満たしたものはあるにはあるが、はっきり言ってそれらの生産ラインは残っているわけないし、製造が極めて困難な部品があると思われる」

  「なんだその製造が極めて困難な部品とは?」

  「エンジンです。よく似た性能を持つ戦闘機は主に第二次世界大戦中、生産されたものが多いため、大出力のレシプロエンジンを作る製造技術が我が国や我が社には圧倒的に足りません!」

  「確かに未だ自動車のエンジンもレシプロエンジンは我が国はまともなものが作れてないな。トラック用のゴツいディーゼルエンジンとT社の評判の悪いガソリンエンジンがかろうじて自国内生産されているが、そもそもライセンス生産だし、設計開発は未だに他の国のものがほとんどだな」

  「エンジンは我が国が既に作っているものを流用してみればどうですか?」

  「航空機用のレシプロエンジンで純国産の物など聞いたことないぞ。ターボジェットエンジンなら我が社でも小型化したものを生産してますが?」

  「ジェットエンジンを第二次大戦中のレシプロ機に載せるのか?メッサーシュミットMe262みたいに主翼の下にジェットエンジンを二機吊るすのか?」

  「いや、ジェットエンジンといってもターボジェットではなく、プロペラを回すターボプロップにすればいいのではないか?ターボプロップなら我が国でも民生用も軍用も双方とも作っているので開発は可能だしパワーもそこそこ出て、既に存在しているモデルを貰ってくれば早期に開発が出来るだろう」

  「なるほど、それならレシプロエンジンより遥かに小型に作ることが出来るし、より大きな出力を得ることも可能だな」

  「機体の構造はほぼそのままでエンジンだけレシプロからターボプロップに載せ替えるということですね」

  「では肝心の『どの戦闘機』を模するのか?」

  「私はソ連のイリューシン社が開発したIL-2 Sturmovik(シュトゥルモビク:襲撃機の意味)を使えばいいのではないかと思います!」

  「そのIL-2とやらの特徴はどういうものだ?」

  「はい、IL-2は通称“空飛ぶコンクリートトーチカ”と呼ばれていて、第二次世界大戦中のソ連では最良の攻撃機と呼ばれていました。特徴はとりあえず頑丈なことで、シリーズ通算36000機も生産されています」

  「あぁ、なんだ。世界最多の生産数を誇る軍用機じゃないか。我らの業界にいて知らない奴は流石にいないな」

(一同、笑い)



  「ソ連、つまりロシアの攻撃機ということは設計図や詳細な資料がすぐ手に入るかもな、私の方から政府経由で提供してもらうよう交渉してみよう」

  「我が国内で運用したこともあるので現物もあるかもです。至急 調査してみます」

  「構造が分かるなら開発の手間は大幅に減らすことが出来るな。場合によっては博物館に入ってる奴をバラバラにしてリバースエンジニアリングしてやればいいしな」

  誰も突っ込みを入れないが、リバースエンジニアリングこそ、龍国の世界最高の技術であった。


  …(総員  IL-2の資料を眺めながら)

  「元々は1700馬力程度のエンジンだが、ターボプロップにすれば3000馬力程は出そうですな」

  「強力なエンジンを載れてやれば、運動性も向上するし、その分を装甲や武装の強化、近代化などに使うことが出来るな」

  「練習機やCOIN機で採用している簡易型のパイロットの射出機を付けますか?」

  「あぁ、パイロットの生存性向上には不可欠だからな」

  「それにしても見れば見るほど面白い機体だな。車輪は格納されているが半分タイヤが飛び出していることで車輪が出なくなっての胴体着陸時でもダメージを減らす構造になっているのか」

  「アメリカのA-10サンダーボルト2も同様の構造だが、これはIL-2を真似したのか?」

  「詳しく知りませんが、A-10の設計には当時、ソ連の敵だったドイツ空軍のエース、ルーデル閣下が参画していたといいます。敵方の飛行機だが優位性を認めていたということでしょうか?」

  「いっそのことA-10の構造をそのまま真似してはどうか?」

  「政府の要求は一機当たり1億円程度ですが、A-10のような双発機だとそれだけで調達価格が倍近くに跳ね上がってしまいます」

  「ルーデル閣下?あの鬼の様にソ連の戦車を破壊しまくったという魔王だとかソ連最大の敵と言われた男のことか。ルーデルというならいっそのこと、彼の愛機だったスツーカを真似してはどうか?」

  「流石にスツーカはないでしょう。面白いかもしれませんが固定脚だと空気抵抗が大き過ぎますよ?」

  「たしかにその通りだな、はっはっは…」


  張り詰めていた会議室の中は一瞬だが穏やかな空気が流れたのだった。

  だが、他の会社の開発部では正にその「スツーカ」を真似しようと言う案が採用されようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

処理中です...