上 下
7 / 55
第1章

開発メーカーの驚き

しおりを挟む
  龍国政府は国内の飛行機製造メーカー三社に対して新型のマルチロール機の開発を命じたわけだが、その要求内容を知り、それぞれの開発担当部は目を疑った。

  「なんだこの要求内容は、まるで100年前の攻撃機ではないか?」

  「政府は何を考えているのだ?」

  「今更こんな戦闘機を作らせて、何がしたいのだ??」

  彼らは先日、日本と東洋艦隊が沖縄近海で衝突し、東洋艦隊側に大きな損害が出ている程度の噂は聞いていたのだが、まさかボコボコにやられてしまっているとは知らされていなかった。

  更にだ、よりによってゼロ戦の形をしている旧型機がレーダーに全く映らず、不思議な機動でヒラリヒラリと敵の攻撃をかわし、追尾してくる高速弾で最新の戦闘機をバタバタ堕としたということまでは知らされていなかったので、政府がなぜこのような要求を出してくるのか全く理解できなかったのだ。

  政府側の開発担当官とメーカーの代表との打ち合わせの会議は、新開発される戦闘機の使用目的やコンセプトを開発担当側にメーカーがしつこく聞くところから始まった。

  ま、それはそうだろう。

  メーカー側にしてみると、コンペに勝ち残れば大型受注が見込めるので勝ちたい案件ではあるのだが、なんせ前代未聞な条件提示なので政府側の要望の裏の意味を正しく汲み取りたいと思うのが当然の心理だ。


  政府側代表はこのように説明した。

  「前代未聞の要求だということは理解している。

  今更、100年前の戦闘機や攻撃機を作って何になるんだ?と思うかもしれないが、コンセプトがこれまでの戦闘機に要求されてきたものとは大きく違う。

  戦う相手がこれまでの相手とは全く違うからだ!

  諸君らにはまずこれを見てほしい。

  なお、この動画は極秘扱いなのでくれぐれも扱いには注意して欲しい。」

  先日の沖縄沖衝突での動画は一般には公開されていなかったのだが、会議室に用意されていた大型モニターには想像を絶する光景が映し出されていた。


  まず映ったのは「ゼロ戦」に瓜二つな戦闘機の数々。

  メーカー側の担当者がまず驚いたのは、その「高機動性能」だった。

  本家のゼロ戦には無かったエアブレーキ?空戦フラップ?と思われるものを展開しての急減速からの急旋回、またそこからの急加速。



  確かに「ゼロ戦」は当時も格闘戦が得意で旋回性能、運動性能は抜群に優れていたのだが、「コレ」は明らかにそれらを軽く上回る機動性を持っている。

  「どうなってるんだ!こんな動きをプロペラ機が出来るなんて信じられない!」

  「普通、低速での機動性が良いと高速での機動性が悪かったりする欠点があるものだが、これは双方とも極めて良いと思われる。特にあの低速での不思議極まりないゆらゆらとした機動性は理解の範疇を超えている!」

  「旋回性とか上昇力でいうとエアレーサーがコレに比較的近いものがあるが、あの急減速からの常識外れの旋回性と加速力は考えられない!」

  感覚的なものになるが、この「ゼロ戦」は弧を描いて旋回するのではなく、「カクッ!」とその場で旋回して向きを変えているように見える。

  とてもじゃないが従来のホーミングミサイル程度の追尾能力で追いきれるものではない。

  また機銃などで撃墜しようとしても、おそらくここまで機動性に差があったら、アッと言う間に射線から外れ、逆に後ろを取られて撃墜されてしまうことだろう。


  ここだけで会議室の温度が5度ほど上がるほどボルテージは上がっていた。


  次に彼らが驚いたのは、その「ゼロ戦」が発射する高速弾についてだった。

  「カン!」という独特の甲高い発射音を伴い発射される飛翔体は、体感的にいうと彼らが持つ30mm機関砲の砲弾程度の速度で飛翔するのだが、特筆すべきはその「軌道」で、目標物にヒットする直前に「カクッ」と軌道を変えているのだ。

  この正体不明の小型砲はアメリカのA-10サンダーボルト2に搭載されている30mmアベンジャーガトリング砲のような猛烈な発射速度を持つわけではなく、単発程度なので威力は大したものには思えないのだが、いくらかの証拠映像を見るとどう見ても対象物の直前で軌道を修正して「当たりに行っている」のだ。

  この正体不明の高速弾は目標物の直前でターンをして回避しようとしている我が方の戦闘機もコレに追尾され撃墜されている。



  外れ弾もあるので従来の対空ミサイルほどの追跡能力は無さそうなのだが、対空ミサイルとは比べものにならないほど「高速」で極めて小型の飛翔体であることが大きな脅威とみなされた。

  また、この「ミサイル」は発射時は通常のミサイルのようにロケットブースターで加速しているのではなく、機体から何らかの形で射出されているということも分かった。

  つまり、推進力の大半は射出時に飛行機側から加えられているので、その高速弾の方は余分な推進剤などは積んでいないので弾頭の大きさはきわめて小さい。


  従来の空対空ミサイルは、そのサイズもあって一機で積める量は多くて10本程度。

  殲-31などが機内に収めることが出来るのは4本、機外に4本の計8本。

  それが、この現代の戦闘機としては極めて小型な部類にはいる「ゼロ戦」は少なくとも10発以上は発射している。

  また当たれば飛行不能になる程度の破壊力も持ち合わせているので、この新型の高速追尾弾の存在だけで十分すぎるほどの脅威と言えた。

  通常、ミサイルが接近すると警報が鳴り、手動や自動でチャフやフレアが発射されてミサイル防御するのだが、この高速追尾弾は遥かに高速で接近するので警報が鳴ったときには当たっている。

  だから、敵がこの弾を撃つ前に予防的にチャフやフレアを蒔かなければいけないのだが、そもそもコレはどうやって誘導しているか分からないのでチャフやフレアが効くのかすら分からない。


  先程まで論争で加熱していた会議室は一気に静かになった。

  「・・・これは想像以上にとんでもない化け物だな・・・」

  ここで政府側の代表は苦々しい表情を浮かべながら絞り出すように次の発言をした。

  「まだこれだけではないのだ。 

  この戦闘機は我々のレーダーに全く映っていなかったのだ。」


  それまであまりのショックで黙りこくっていたメーカー側の参加者の面々は椅子を蹴って立ち上がり、「なんだと!こんな化け物、どうしようというんだ!」というようなことを口々に叫び始めた。

  「信じられない、これは『ゼロ戦』という皮を被っているが、実際は現代最強の戦闘機ではないか!」

  「こんなものをあの猿どもが作ったというのか!我々の技術が漏洩したのではないのか!」

  「我々のうち誰があのような技術を持っているというのか!お前、頭を冷やして出直してこい!」

  「お前、頭悪いのか!あんなものアメリカが後ろにいて日本人に戦わせているだけだとなぜ気が付かない!」

  「アメリカならあの技術を持ってるというのか?そんな噂を見たことも聞いたこともないぞ!」

  「お前ら、冷静になれ!レーダーに映ってないというのはどういうことか?どう見てもステルス機には見えないのに、それでもレーダーに映らないというのか?」

  「そうだ、我々が持つステルス性能は機体形状と電波吸収塗装の2つでレーダー波を反射させたり吸収することでレーダーに映らないようにしているのだが、この『ゼロ戦』はそれまでと全く違うステルス技術を持っていると言わざるを得ない」


  ここでメーカーの代表の一人がため息をつきながらこんな言葉を漏らした。

  「常識ではありえない機動性を持ち、逃げても追いかけてくる正体不明の高速追尾弾を多数搭載し、極めて高性能なステルス性を持つ100年前の戦闘機の形をした『化け物』に勝つ戦闘機を我々は要求されているの?」

  「その通りだ、政府の上層部や議会はまだこの事態の深刻さに気が付いてないが、軍事院の議員の一部や我々開発部、東部軍区の上はこの戦闘機に対抗する手段を考えた。

  その結果、辿り着いたのが『極めて防御力が高い、乗員の生存性が高いマルチロール機の開発』というわけだ。

  つまり、『ゼロ戦』の攻撃を凌いでいる間に、遥か上空に待機している殲-31などの最新ジェット戦闘機が高速でゼロ戦に接近してこれを撃墜させる、という戦法だ。

  『ゼロ戦』の高速弾に対抗する為、チャフ、フレア、ドローンなどを大量に搭載し、時間を稼いでいる間に本命の最新型ジェット戦闘機で『ゼロ戦』を仕留める、ということだ」

  一同はこの政府側代表の言葉に半ば唖然としながらお互いの顔を見合うのだった。


  会議はこのようにして終わり、それぞれ会社に帰り、コンセプトをまとめて一ヶ月後に提出しようということになったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。 恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。 で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。 「は?」 「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」 「はっ?」 「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」 「はあっ!?」 年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。 親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。 「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」 「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」 なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。 「心配する必要はない。乳母のスージーだ」 「よろしくお願い致します、ソニア様」 ピンと来たわ。 この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。 舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?

絶命必死なポリフェニズム ――Welcome to Xanaduca――

屑歯九十九
SF
Welcome to Xanaduca! 《ザナドゥカ合衆国》は世界最大の経済圏。二度にわたる世界終末戦争、南北戦争、そして企業戦争を乗り越えて。サイバネティクス、宇宙工学、重力技術、科学、化学、哲学、娯楽、殖産興業、あらゆる分野が目覚ましい発展を遂げた。中でも目立つのは、そこら中にあふれる有機化学の結晶《ソリドゥスマトン》通称Sm〈エスエム、ソードマトン〉。一流企業ならば必ず自社ブランドで売り出してる。形は人型から動物、植物、化け物、機械部品、武器。見た目も種類も役目も様々、いま世界中で普及してる新時代産業革命の象徴。この国の基幹産業。 〔中略〕  ザナドゥカンドリームを求めて正規非正規を問わず入国するものは後を絶たず。他国の侵略もたまにあるし、企業や地域間の戦争もしばしば起こる。暇を持て余すことはもちろん眠ってる余裕もない。もしザナドゥカに足を踏み入れたなら、郷に入っては郷に従え。南部風に言えば『銃を持つ相手には無条件で従え。それか札束を持ってこい』 〔中略〕 同じザナドゥカでも場所が違えばルールも価値観も違ってくる。ある場所では人権が保障されたけど、隣の州では、いきなり人命が靴裏のガムほどの価値もなくなって、ティッシュに包まれゴミ箱に突っ込まれるのを目の当たりにする、かもしれない。それでも誰もがひきつけられて、理由はどうあれ去ってはいかない。この国でできないことはないし、果たせぬ夢もない。宇宙飛行士から廃人まで君の可能性が無限に広がるフロンティア。 ――『ザナドゥカ観光局公式パンフレット』より一部抜粋

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

イマジナリーズ

マキシ
SF
『想像力は、全てを可能にする!』  この辺りの銀河は、かつて、ある特殊な能力を持った人々が支配していた。それら人々は、自身の想像力を現実にできる能力を持っていた。彼らは、イマジナリーズ(空想する者)と呼ばれた。

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

「ざまぁ」異世界侵略VR~『メンヘラ・ヤンデレヒロイン』と『最強魔王ロール主人公』の修羅場劇

メンヘラ教
SF
 ざまぁ! 爽快! 最強! もう遅い! 最速の異世界侵略VRが始まる!  ついでに「ガチメンヘラヤンデレヒロイン達」の攻略RTAもある!   (注)ヒロイン達は話が進むごとにメンヘラ、ヤンデレが進行していきます。    なろうにも掲載中  https://ncode.syosetu.com/n6124go/

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

病弱少女と青年ロボット

りょうか
SF
ひとりの少女と廃棄場に捨てられた一体のロボットが触れ合う不思議な物語。

処理中です...