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第1章

日本人の本質を理解していなかった龍国人

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  龍国はインドとの紛争に勝利し、また台湾の事実上の併合、東南アジアへの経済進出からの軍隊の派遣、軍港の長期間の租借などを成功させ、この世の春を謳歌していた。

  龍国は自国だけでなく、経済的にほぼ乗っ取りが完了していた東南アジア諸国に対してもマスコミなどをほぼ掌握し、さらに自国内で展開しているインターネットの監視網「金盾(グレートファイヤウォール)」をそれらの国々に対しても広げつつあった。

  金盾の内部では外部からの情報は遮断されていて、龍国政府に許されたごく一部の業者や政府機関にのみ外部の情報とのアクセスが許可されていた。

  膨大な権力と3億人と言われる龍国の都市戸籍を持った「上級国民」たちは世界の中央を握り、自分たちこそが世界の支配が出来るものと心の底から信じるようになっていた。

  その為、悪く言えば「強烈な奢り」を生みつつあった。

  そういうこともあり、先日の沖縄に対する懲罰遠征が実質的に失敗に終わったということはそれら龍国の金盾の内部の国々に対しては秘密とされていた。

  だが、インターネットは遮断されていても国交がある限りは「情報」というものは外部からどうしても伝わってしまうものだ。

  川北の会長の演説や沖縄沖での龍国の漁船団と龍国海軍の壊滅の映像や龍国の内部を瞬時に駆け巡った。

  政府は公式にその敗戦を否定していたし、政府子飼いの治安維持部隊や財務省を使った圧力などを駆使して国内の情報統制を徹底したので龍国内のイントラネットでそれらの情報が公に流されることはなかったが、そこは「上に政策あれば下に対策有り」の国民性を発揮し、秘密裏に開発した暗号通信によるデータのやり取りや、古典的な「紙媒体による情報伝達」により龍国国内に敗戦の詳細は知れ渡ることになった。

  龍国の上級国民たちはこの初の大規模な敗戦に激怒し、国論は「日本と川北という戝を誅滅すべし!」というものに塗り替えられていった。

  龍国は3億人の支配層と10億人余りの非支配層(選挙権無し)と周辺諸国の奴隷階層に分かれているのだが、政治体制はアメリカの大統領制に近いものが導入されていて、龍国のトップは大統領という呼称ではなく「国家主席」と呼ばれている。

  国家主席の任期は10年と比較的長いため、選挙を気にして世論に阿った(おもねった)政策に終始する必要はないのだが、国家主席の権力以上に「上院」「下院」「軍事院」の三つの議院が構成する議会(立法府)の権力が強く、どちらかというと日本の内閣総理大臣と議会との関係性に近いものがあった。

  龍国の民主制の変わった点では、「軍事院」の存在がある。

  この軍事院は基本的に軍関係者のみが立候補して選出されるのだが、国内にある5大軍区(中央・東部・北部・西部・南部)の議長を北部軍区から送り込まれた代表が代々選出されるようになっていた。

  これは龍国の建国に対して非常に大きな功績のあった旧瀋陽軍区が北部軍区の前身になったということもある。

  この軍事院は他の議院以上に内部抗争が激しく、軍区同士の抗争こそ禁止とされたが、院内抗争では実際に血が流されることも珍しくなかった。

  そのようなこともあり、今回の沖縄沖での敗戦はその強烈なプライドを毀損されたことによる怒りもあるのだが、議院内の内部闘争も相まって、日本と川北を殲滅せよという意見は軍事院の上層部でも共通のものとなりつつあった。

  実際に、川北の派遣したゼロ戦隊や月光隊と戦った東部軍区の上層部としては川北の能力が常識で考えられないほどのものだったので慎重論が占めていたのだが、さらに上部組織の軍事院による報復の指示は覆しようがないものだった。

  龍国内部では政府直属のシンクタンクも数多くあったのだが、特に軍事に特化していたシンクタンクも一ヶ月ほど経った辺りから少しずつ川北の軍事的な評価や日本に対する侵攻戦略などを出し始めていた。

  これらのシンクタンクにほぼ共通していたのは「日本という国は基本的に長い物に巻かれるヘタレた国民性を持っているので軍事力の違いや経済的な圧力、内部からの切り崩し工作で攻略は可能だ」という見方だった。

  実際、日本の企業の多くは龍国内での事業の許可を得ることで多くの利益を得ている者も多かったし、政府内部、教育界、司法界、マスコミなどにも龍国の工作員になる者たちを大量に「飼って」いたので、日本は与し易いという意見が出ることは仕方のないことと言えた。

  ・・ただ、彼らは大きな勘違いをしていた。

  日本は今から100年以上前には清国(中国)、ロシア、アメリカ・イギリスという当時の最強国達と戦っていたということを。

  清国とロシアには勝利し、最後のアメリカ相手には敗れたが、最後の最後まで抵抗し、300万人もの犠牲者を出しての敗戦だったわけで、「相手が強かったらヘタレて戦わない」という民族ではない。

  大東亜戦争での敗戦以降は、占領政策(WG I:ウォーギルドインフォメーション)などにより日本人は徹底的に骨抜きにされる教育や報道がなされていたのだが、それらに大きな危機感を持ち、それら外国からの侵略に対抗しようとする勢力が日本の企業内には存在していたし、それらの勢力は今、日本の南洋に浮かぶメガフロートの都市群に集結していた。

  彼ら龍国の政府の上層部やシンクタンクの連中は、それらの現実を全く見ていなかった。

  いや、目に入っていたかもしれないがそれまでの東南アジアに対する実効支配の確立や、インドとの紛争の勝利などに浮かれて、日本と日本人の本性を見誤っていたのだ。

  また、先程の軍事院の存在も日本や川北への過小評価へ拍車をかけた。

  軍事院の議院の選出は当然ながら民意が反映されるが、残念ながら「民意」というものはいつの世も必ずしも正しいものとは限らない。

  その事例は枚挙にいとまがないが、近年もその誤った民主制で滅んだ国が身近に存在していた。

  あえて名前は出さないでおくが、その国は建国当時から国の歴史を自分たちの都合の良いように歪め、その教育を国民に対して徹底的に行なっていた。

  また、その国のマスコミも龍国の支配下に完全に置かれ、龍国に対して都合の悪い情報は一切流されなかった。

  さらに建国以前から経済的・軍事的に援助してくれていた隣国に対して徹底的な敵視政策を行った。

  その結果、経済的にも凋落し、龍国の市場や投資などに依存する体制が益々強くなった。

  その国の中にもいくらかの良識派がいたのだが、彼らの発言は徹底的に弾圧され活動の場所を失っていった。

  このようにして「国民総白痴化」「国民総愚民化」が進み、ある日、突如始まった火山活動による復旧支援の名目で入ってきた龍国軍により占領、親龍派として国内で活動していた工作員たちは、真っ先に粛清され処刑されたのだった。

  このことにより朝鮮半島は龍国の地方行政区のひとつと成り下がってしまい、今では元々の国名を名乗ることも禁忌とされてしまっているのだが、このように「民主政治」というものは「国民の民度の高さ」「国民の情報リテラシーの高さ」「正しい情報」の3つが揃わないと、いとも簡単に腐敗し、場合によっては崩壊してしまうのだ。

  龍国が他国を侵略する際に、「教育界」「マスコミ」の2つをまず支配するのはこれら3つを失わせるためだったのだ。


  龍国は建国当時は内戦を勝ち抜いたということもあり、国民は一致団結していた。

  近隣諸国への実質的な侵略、アフリカや中東、西欧諸国、アメリカや日本などへの内部浸透工作なども非常に順調に進んでいたこともあって、国民の多くはある意味で自分たちを必要以上に過大評価するようになっていた。

  支那(チャイナ)というものは古代から「中華思想」という厄介な思想を持っていて、中国が世界の中心にあって文化や科学などが最も進んでいる。

  当然そこに住む「漢民族」は非常に優秀であり、そこから離れた周辺諸国は「仮外の地(けがいのち)」として野蛮で文化的に人種的にも劣った人が住んでいる場所とされていた。

  日本も当然、「仮外の地」扱いされ、日本より遥かに遠い欧州やアメリカなどは視界の外(アウトオブガンチュー)であった。

  龍国が成立する前、共産党が政権を握っていた頃はまだアメリカと中国というのは二大大国という感じで競い合う関係にいたのでまだこのような中華思想は台頭してこなかったのだが(支那人はある意味非常に現実主義者でもあるので)、自らが非常に大きな力を持つようになると、自然と中華思想を国民全てが共有することになった。

  特に2020年頃にGDPで世界一だったアメリカを抜き、世界一の国家に躍り出てからはその傾向が特に強くなった。

  国もまた、国内に10億人ほど抱える実質的に奴隷階級の人々の不満を抑え込む手段として、中華思想と反日思想を推し進めていたのだ。

  反米的な考えはもちろんあるのだが、特に日本は100年以上前の日清戦争で敗北していることや、その後の日中戦争でも実質負け続けていたので、日本に対しては大きな恨みを持ち続けている国民が多かった。

  また、政府も嘘の歴史を国民に対して教え込むと共に反日教育を徹底して行ったので、日本を占領し、支配し、民族を絶滅させることが国是のようになってしまっていたのだ。

  そういうことなどが重なり、「日本」という国や国民に対して冷静な判断力を持てなかってのは仕方のないことだったのかもしれない。
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