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第2章

アメリカ内での左派勢力の暗躍

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 2010年台のアメリカでは、龍国はアメリカの経済界と財界で大きな力を持つ左派勢力と結託していた。

 その協力体制はかれこれ戦前から続いていて、アメリカの左派(売国)勢力は龍国での経済的な利権を得るためにアメリカという国家にとって国益を害する行為を影で延々と続けていた。

 アメリカの保守層にはこのような左派リベラルの反国家的な動きを警戒し、ロビー活動や政治活動を行う者も現れたが、マスコミや大学、映画業界なども龍国からの資金が大量に流れ込んでいたために、龍国にとって不利益になる保守派の支持が得られにくい状況が続いた。

 また、1990年代、保守勢力が中東やアフガニスタンで戦火を拡大してしまったことが裏目に出て、マスコミからは長年にわたって徹底的にたたかれ、政権を失ってしまったことがアメリカの覇権を失墜させる大きな要因になっていたのも事実だ。

 共和党から政権を奪取した民主党の左派リベラル勢力がまず行なったのは「軍隊の弱体化」であった。

 共和党政権が負った巨額の政府負債を解消するためという美名の元  行われたが、米ドルという最強のハードカレンシー(国際決済通貨)を持っているアメリカはその気になれば自国の通貨の発行量を増やすことで実質的に負債額を減らすことも可能だし、その負債も必ずしも返済しなければならないものではないので、それほど気にする必要はなかった。

 返済するにしても「一万年後に返済します」でよかったからだ。

 アメリカにとって、世界各国への軍事プレゼンス(影響力)が落ちることは実はかなり致命傷で、自国の通貨をハードカレンシーにして、世界中で自由に使えるようにさせることに躍起になっている龍国にとっては、アメリカの軍事プレゼンスの低下は非常に望ましいものであった。

 民主党政権は軍の弱体化のため、まず行なったのが軍事費の削減だった。

 毎年、軍事費の総額の1%ずつ段階的に減らされる法案が通り、最初の頃は影響が少ないように思えたのだが、10年以上経つ頃には軍は完全に骨抜きにされた。

 特に影響を被ったのが、海外に展開している軍隊で、特に多くの艦艇や兵員を展開している日本に対しては駐留経費の増加などが積極的に交渉されたが、物語が始まった2040年ごろには日本に駐留している米軍は佐世保と横須賀のみで、それらの大半はハワイやグアムに戻っていたのだった。


 これらを裏で仕組んだのは当然龍国や元々存在していた共産党政権だったわけだが、米国の影響力低下を受けて龍国は特に周辺各国に対して軍事的、経済的な侵略を加速させるようになる。

 龍国は自国で使っている決済システムや電子通貨を特に中東、東南アジア、中央アジア、環太平洋島嶼国などに普及させることに成功し、それら各国で龍国の通貨が自由に使えるようにした。

 従わない国に対しては経済的、軍事的な圧力をかけるというかなり強引な手に出たことで、龍国はそれらの半属国、半植民地に対して経済的な支配を強めていくことになった。

 当然、それら龍国の支配下や影響下に置かれた国では混乱が続いたのだが、龍国に利権や権力、女などで弱みを握られているそれぞれの国の指導者達は従わざるを得ない状況に置かれた。


 アメリカに話を戻すと、民主党政権になって次に行われたのが「政府負債を減らすための増税」であった。

 アメリカは消費税にあたる税を税率2%アップした。

 政府やマスコミなどはこれらの増税では「影響はきわめて限定的」と言われていたが、実際のところGDPを1%も押し下げる結果になり、アメリカ経済は減速した。

 アメリカのGDPは2016年で18兆6千億ドル、その1%ということはざっと1860億ドル、日本円に換算して約20兆円もの金額が一年で失われることになった。

 この20兆円というのは本来、国民が手にするはずだったお金なわけで、その金額がいかに大きいかお分りいただけると思う。

 経済の収縮で影響が出たのは「雇用」だった。

 悪化した雇用環境を守るため画期的な政策を望まれた政府が行なったのは、リベラルお得意の環境公共事業・グリーンニューディール政策、通称「グリーンセクシー」であった。



 この“グリーンセクシー”は当初、雇用対策と環境保護の両立という点でマスコミなどから大絶賛を受けた。

 民主党政権は龍国で大量生産されている太陽電池や風力発電機などを大量購入し、多くの人を政府が雇って米国内に設置させる事業を行なったのだが、結果的にいうと品質面が良くなかったということもあるが太陽電池にしても風力発電にしても気候によって大きな影響を受けるため、ベース電源とはなり得ず、財政を圧迫することに拍車をかけただけだった。

 その結果、後に残されたのは多くの失業者と砂漠に大量に投棄された太陽電池の山だった。



 使用されていない土地も多く雨も降らない砂漠に投棄出来るアメリカなどはまだ恵まれている方で、日本を始めとした他の諸国ではきわめて毒性の強い太陽電池の処理に何十年にもわたり頭を悩ませることになるのだった。

 土を掘って埋めたら埋めたで毒素が地下水などに漏れ出し深刻な環境破壊を招くし、完全密閉しての海洋投棄などもコスト高などから現実的ではないとされた。

 結局のところ引き取り手のない多くの産業廃棄物を生み出し、不法投棄や環境汚染という深刻な問題を残すことになった。


 また、アメリカ政府は財政支出を抑えるため、日本との共同開発を進めていたアメリカ南部横断高速鉄道事業や、高速道路整備計画、メキシコから流入してくる不法移民を防ぐ壁の建設も資金の打ち切りにより次々と白紙撤回。

 さらに軍事費の削減に伴い、軍需品の生産工場の生産量が軒並み落ちたせいで各所で雇用調整が入り、ここでも多くの労働者が職を失うことになった。

 軍需品の中には継続して生産していないと技術継承が難しいものも少なくなく、これまでアメリカ国内で作っていた軍需品まで龍国から輸入するものが増えてしまうという非常に危険な状況に陥った。

 さらに左派政権の失策は続く。

 上記のような財政政策の失策に続き、金融政策でも大きな失敗を犯してしまう。

 FRB連邦準備制度の議長を解任し、いわゆる「緊縮派」を登用。

 この緊縮派議長は減速気味のアメリカ経済にとどめの一撃を与えてしまう。

  「通貨発行量の減少」だ。

 これを当初マスコミは「これでアメリカ政府の財政は今後100年は安泰だ!」「全ての財政問題は解決に向かっている」と大絶賛したのだが、実際はとんでもない結果を招く。

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