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第1章

龍国漁民虐殺事件と龍国不法侵略との情報戦

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  川北重工のこのインターネットでの宣言は世界にとてつもない影響を及ぼした。

  アメリカやイギリスなど欧米のメディアは比較的冷静に報道していたが、龍国内のマスコミは川北会長の演説やゼロ戦の活躍などはカットして報道していた。

  当事国の日本国のマスコミは一斉に「川北による反撃は過剰防衛」「川北はやってはいけない暴挙をやってしまった」「龍国に対してどうやって許して貰えばいいのか?」などと報じた。

  特に龍国政府の怒りは凄まじく、在龍日本大使を呼び出し、猛烈に「叱りつける」様子をなんと報道陣を介して世界に拡散してしまった。

  龍国政府はまず自国や他国の政府に浸透している工作員をフル動員してメディアを一斉に使い、川北重工とそれを公式に罰しようとしない日本国政府とアメリカ政府を非難し始めた。

  『国家が行った虐殺は数多くある。

  日本が第二次世界大戦で行った南京大虐殺や731部隊を使った人体実験などはその最たる例だ。

  だが、一企業がここまでの一方的、かつ卑怯な攻撃による虐殺は有史以来、前例がない。

  国際社会は川北重工と日本国政府に対して一致して徹底した制裁を加えるべきだ』

  このような主張を国際社会に対して徹底して拡散していった。

  「先制攻撃を行ったのはあくまでも川北側だ。

  またその暴挙を傍観していた日本国政府にも多大な責任があると考える。

  この重大な虐殺事件に対しては龍国政府は一切の責任がない。」

  今回も動員するのはマスコミだけでなく、各国に散らばっているスリーパーセル(潜入工作員)やスパイなど、動員できるだけ動員して日本や川北重工を陥れる活動を開始した。

  次に日本国政府に対し、川北重工の武装解除と川北重工の責任者を戦犯として龍国に引き渡す様、露骨な圧力をかけてきた。

  これに対し、日本で政権を摂っていた自由済民党率いる日本国政府は中村首相自らインタビューを受け「彼らは核を持っていると宣言しているので無理」と暗にほのめかす声明を行った。

  この一見すると煮え切らない日本国政府の対応に対して、野党は一斉に内閣の不信任案を提出、国会や官邸前では数万人規模のデモがおこされた。

  それに対して日本の若者を中心としたカウンターデモが起こる。

  このデモの特徴は、反政府デモは50代以上の高齢者が多く、反デモ隊デモは20代を中心とした若者の世代が多いという特徴があった。

  だが、高齢者を中心とした反政府デモは暴力性が非常に高く、大暴れする高齢者集団を盾等で防御する若者という非常に奇妙な光景が繰り広げられた。

  また、龍国政府の指示の元、日本国内で展開している統一戦線工作部の実働部隊や召集された龍国人留学生などが各地でこのような反政府デモに加担し、大規模な暴動を伴うデモを行った。


  当初、若者たちはLIMEなどのSNSを使い相互の情報交換をして反デモ隊の活動を行なっていたが、LIMEで若者たちのアカウントが次々と閉鎖されたので、日本の企業が開発した「WE SHACKLE(ウィーシャックル)」というSNSを使って相互情報交換をするようになった。

  この通称“ウィーシャ”のアカウントを持っていることが若者達にとっては「愛国的中道派」の証しのようになっていった。

  日本の同盟国であるアメリカでも、龍国の主張を全面支持するマスコミやデモ隊の活動が活発化した。

  だが、米国内にも日本の安保の明白な危機に対して、明らかに防衛協力をしなかった米国政府に対しての批判勢力も相当数が存在していたのだが、そのような動きはアメリカでも一部のものに過ぎなかった。


  川北重工やその関連グループとの経済的な結びつきの大きい企業に多額の政治献金を受けている保守系の議員、ロビースト達は特に日本のマスコミを始め、世界中のマスコミや政府などからも大バッシングを受けた。


  同じような動きはイギリス、オーストラリアなどアメリカの同盟国にも起こっていた。

  欧州は特に西欧諸国は龍国との経済的な結びつきが強く、『日本政府や川北重工が悪い』という論調が大勢を占めた。


  だが、東欧諸国は元々ロシアなどの共産勢力に対しての悪感情が強いこともあり、龍国の浸透工作があまり及んでいなかった。

  龍国は2012年に共産党政権を打倒した、表向きは民主化された政権ではあるのだが、実際のところは旧共産党系の極左が政権上層部や政党の全てを占め、また3億人ほどの選挙民も左派に支配された勢力に限られているので、左派に侵されていない国では龍国というものは未だに共産党系の国だと思われていたのだった。

  川北重工の関連企業は主に反日感情の強くないバルト三国、ポーランド、スロバキア、ハンガリーなどに進出していて、これはアメリカなどでもそうなのだが、川北が開発した木材や可燃ゴミなどを主原料とした建材・構造材の生産工場とサプライチェーンが国を又越して構築されていた。

  (この木材などを使った新開発の建材は後々重要な要素を果たすので、これに関しては後々説明する)

  これらは新時代の建材として非常に期待されている新技術で、また原材料が木材であったり、都市から生み出される可燃物や石油加工品などの廃棄物から作られるので、各国がもつ森林資産の有効活用という点で非常に有望視されている。

  また、この事業は多くの労働者を要するので雇用対策としても非常に有望。

  炭素を固定させてしまうので、地球の温暖化の防止効果まで見込める点などが評価されてる。

  (筆者としては二酸化炭素の増加による温暖化については非常に疑問視している。逆に二酸化炭素の濃度を落としてしまうと植物の成長が妨げられ、60億もの人類の食料を賄うことが不可能になるのではないか?と思っている)


  川北重工やそのグループ企業は何十年にも亘り、このような事業を日本だけでなく日本に対して比較的良好な関係を持っている国に進出していた。

  それらの国は自然と龍国の内部浸透工作がし難かったということもあり、今回の事件が起こった後でも表立って日本や川北を非難するようなことはなかった。

  それはもちろんアメリカやイギリスなど当時、日本と同盟関係のあった国々でも同じだった。

  川北グループの関連会社である川北エナジーはそれら友好的な国々に新開発した核融合炉発電所も建設していたのだが、それらは工業や民間で使用される電力を賄う以外にも、天然ガスを原料にした大規模な肥料工場を作っていた。

  これはいわゆるハーバー・ボッシュ法といわれる、鉄などを主体にした触媒で水素と空気中の窒素を直接反応させ、アンモニアを生産する方法だ。

  このハーバー・ボッシュ法は一時、「空気からパンを作る」方法として、人口爆発に対する答えと言われていたのだが、2040年当時、世界中の食糧問題は非常に深刻化していて、地球温暖化以上に食料問題が問題とされていたのだった。

  そこで、それらの国の工場で生産されるアンモニアを原料とした肥料は非常に高い価値を持つようになっていて、自国以外にも近隣諸国にも輸出されるようになっていて、安定した食料の生産に欠かせないものとなっていた。

  また、それらの国は電気代なども非常に安くなっていることもあって、周辺諸国からの企業移転なども多数あり、経済成長は年5~10%以上と非常に好調を維持していたのだった。

  このことを快く思わない、周辺の親龍国と親日国との間には政治的に小さな対立が起こっていたのだった。

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