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異能力者の意義。

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 日常の中、いつも通りの授業でも俺は何処か違う空間にいる気がする。それは平素から俺が頭の中の世界で何者かと戦っているからだろうか?  
 有体に言えばそれは妄想という類のものだろう。そんな言い方をしてしまったら身も蓋もない。だから俺はこの時間をこう呼ぶ、近いうちに世界を救うためのイメージトレーニングだと。自分で言っておきながら自分の言葉に白々しさと憐憫を感じるの何故でしょう……。分かってる、分かってるんだ俺だって。この世界が平和で戦いなんて勃発せず、日常が半永久的に続くことなんて。 
だからこれは自分の尊厳を保つための強がり。 
 俺が世界を救う、そんな事を考えながら人生を謳歌していないとこの世界はモノクロ過ぎて生きていけないのだ。小さな生きがいを、小さな芽でさえも摘み取られてしまいそうで怖くなる。 
 柄にも無くこんな弱気で女々しい事を授業中に考えているのは勿論水戸部のせいだ。やっぱりアイツは許さない、たとえ女であっても。いや、それ以前に水戸部彩夏は恐らく女ではない。だって気性は荒いし口さがないし、じゃじゃ馬だし……。とにかくアイツが女性だなんて絶対に俺は認めたくない。 
女らしさがあるとしたらあの柔らかそうなオッパイとお尻ぐらいじゃないだろうか。あれは見てるだけでも中々そそるものがある。 
はい、僕みたいな変態は幼馴染にでも欲情出来ます。 
閑話休題。 
今日の水戸部の言葉はそれほど決定的だった。『お前は何と戦っている?』という一言。 
さしもの僕ちゃんでもちょっとカチンときちゃったゾ。 
でも確かに反論のしようがなかった。果たして俺は何と戦っている? そんなことを考え始めたのが今日の命題が生まれた原因。そもそも何故俺は戦いを好むソルジャーになってしまったのだろうか(笑)。 
おいそこ、笑うんじゃない。俺だってこれでも半分は真剣なのだ。半分なのかよ! というツッコミも今日は意気消沈気味なので止して頂きたい。 
他人の心を推し量り配慮してあげることも生きていくなか大切な処世術ですよ? などと常日頃バカな事ばかり夢想している俺の説法を真に受ける人間なんてこの世界に一人もいないはずだ。 
やだ、今日の僕ちゃんちっとばかり自虐的。こうみえても俺ってばメンタルが弱いのだ、メンタルがスライム級なのだ。吾輩はスライムである。夏場とか溶けて始末が悪そう……。 
また話が逸れたな。そう言えば何の話をしていたっけか? そうそうスライムの話ね。 
その昔、俺は長期休みの理科研究でスライムを自家製で作る実験をしたのだ。スライムを作ったつもりがなんと完成したのはスライムではなく禍々しいカエルの形をした、って違うわ、スライムの話じゃなかっただろう。俺が思索していたのはソルジャーこそが崇高だという命題だったはず。何故ソルジャーは崇め奉られるのだろうか? 答えは至って簡単、ソルジャーこそが平和を守り救いの手を差し伸べ世界を救う存在だからだ。 
故に俺こそが世界を救うために許されたたった一人のソルジャーオブソルジャ―である。と、それで思い出したけど元の話は俺が世界を救うと豪語してそれで俺は何と戦っているのかという事だったね。 
表面上では戦闘をしていないかもしれないよ。さりとて明日この教室が戦渦に巻き込まれるかどうかなんて誰にも分からないし、俺の能力をいつ世界が必要とするかなんて分からないじゃないか。マジで未来はブラックボックス。 
例えばだ。『私、××君が好きなの。だから××君の私に対する好感度を知りたいな、キャピ』と言い出す女子高生が現れたとしよう。そこで俺が登場してこう言う『そうか、では彼の名前を教えてくれないか? そうすれば僕に満ち溢れる愛のパワーで彼の君に対する好感度を見てあげよう』『キャー素敵、本当にそんな事が出来るんですか?』そこで俺は『勿論さ』と言ってしたり顔で能力を使う。そして数日後。『あなたの言ってる事本当でした! 彼も本当に私の事が好きだったみたいでおかげ様で付き合う事になりました。本当に有難うございます』 
というわけで世界は平和に丸く収まった。……なにそれ、俗すぎる。話が凡俗過ぎるよ。ていうか俺の能力そんなしょうもない事に使われちゃうのかよ。 
 しょうもなくない、しょうもなくない。そんなふうに自分に言い聞かせないと勢いで窓から飛び降りちゃうところだった。 
そう、今説明したようにこの能力だってどこかで必ず使い道があるはずなのだ。必ず!  
むしろ無かったらどうしよう、自殺しちゃおうかってくらい切実な思いです! 
 ふと、耳をそばだてれば教室はガヤガヤと喧騒に包まれ、もう既に放課後に突入している事を俺に伝えてきた。 
 勿論放課後になれば友達と遊ぶことになり商店街に繰り出すことになるだろう。そう、だから今の俺は浮足立っているのだ。そして勢いよく席から立ち上がる。 
 教室をよく見渡してみろ。中には友達が一人もおらず悲哀を感じさせるような面持ちでとぼとぼと教室から一人で出ていく人もいるじゃないか。そう、人間関係も人それぞれ。だから一人で帰っていく友達もいないボッチの事を努々鼻で笑ってたりなんてしてはいけない。友達が一人も存在しない奴だって世の中にはザラにいるのだ。例えば俺とかな! え、いや、水戸部は友達じゃないよ。あれは、あれだ、怪獣。仮に友達だとしても霊長類ではないのでノーカウント。 
「はあ」 
 教室でひっそりと人知れず俺は溜め息をついて席に座りなおした。 
 友達がいなくたって怖くはない、寂しくはない。むしろ友達がいることで損する可能性がある。とにかく友達というものは恐ろしいのだ。とりわけ俺のような世界を救っちゃう系男子は毎日のイメージトレーニングが欠かせないので奴らと戯れている暇などない。 
 はい、ここで矛盾が生じました。世界を救うと嘯いておきながら人々を敵対視するというのもどうなんだろうね。 
 支離滅裂、荒唐無稽、矛盾。そんなことも俺の中では日常茶飯事。むしろ真面な考えをもっている人のほうが色々と損をするのが世の常だ。だから俺は斜に構える。そして鉛筆も斜めに構えてペン回し。授業中教師に注意されたら素直にゴメンナサイ。 
 別に教師が怖いわけじゃないよ。本当の本当に。これが教師共に逆らうと後が面倒くさいんだ。いや本当に、怒られるのが怖くて素直に御免なさいするわけじゃないんだってば。信じてくれよ! という俺こそ本当はチキン・オブザ・チキンであった。強面教師が近づいてきただけで『ひぃ、ゴメンナサイ、何も悪い事なんてしてないです』とか言って土下座しちゃうレベル。奴らは怖いでぇ。家庭の電話番号を知ってるのをいいことに生徒が悪い事をすれば即座にママ―とパパ―という鬼を生贄なしで召喚してくるからな。くれぐれも気を付けなければならない。 
 まあ、俺は最強なのでその心配もないだろう。友達がいなければ悪ノリする相手もいない(笑)。だから友達なんていても損するだけだと、さっきから懇々と言っているんだ。 
 そして俺はさも達観したような雰囲気を醸し出し(と思っているのは自分だけで余人からみたらただのボッチ)悠々とした足取りで教室を出ようとした。
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