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駆け込んだウチと椿先生(16話)
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慌ただしくスタッフルームに駆け込んだ。ノートパソコンをどかし、机の上に突っ伏して寝ている先生。いつもなら監視カメラで店内をニヤニヤして覗いているのに珍しい姿だ。これからウチは先生を救うことになるのだが――。
「先生、起きてください! 先生! 先生!!」
大きな声を出し、先生を揺り動かすと時間差でもぞもぞと動き出した。
「うるさい。頭に響くから静かにして」
これは時間がかかると思い、風間くんに連絡を入れた。来れるそうなので、このカフェに来てくれるらしい。それだったら、スタッフなのだから、準備段階からいて欲しいと思う。ふらっと現れて仕事するのが彼。丁寧ながらも素早く仕事ができる優秀な人材だから休みを除いていつもいてくれたらこっちとしては助かるのに。気分屋なんだから。仕事ができるから許すけど。ただ、いつもならごねてこんなすんなり了願してくれないんだけど、何かあったのだろうか。考えても答えは出ないし、そんなことより、今は先生だ。
「先生先生先生先生先生っ! いい加減起きてください!!」
「あーもう! 寝かせてよ。あとでにして」
眠たげでいかにも不機嫌という表情が視界に映った。鋭くギロリッと睨みつけられる。その視線で引き下がるようなことはない。あんまり怖くないから平気だ。たぶん。
「先生。アナウンスお願いします。トラブルがあったので」
「そんなの山城がどうにか対処すればいいでしょ。山城様、ばんざーい!!」
「先生ふざけてる場合じゃないですよ。ウチはウチでやることがあるので、どうかお願いします」
「嫌」
「嫌じゃないです!!」
頼み込んでは拒否されるということを繰り返した。説得に言葉を重ねても先生はイライラするばかりで聞く耳を持たず。
「よーくわかりました。薬が切れそうになって医務室によったんでしょう? 二日酔いで潰れている先生が仕事をサボっていることをウチは伝えてもいいんですよ? 全ては先生次第です」
「うん? 山城さん。待とうか? 誰に伝えるつもりかな?」
「急に態度が変わりましたね。どうかなさったんですか? 他の方々のご厚意で今ココにいられるんでしょう? ウチは無様に爆睡してることを多くの教師に伝えるだけです」
このカフェに先生がいられなくなるのは困るので、話すとしても彼害は最小限になるようにする。ただ、先生自身プライドが傷つけられるようなことはされたくないはずだ。ウチの話を受け入れてくれると信じている。
「え? やめよう? あたしがいなくなれば、ここも続けられなくなるかもしれないよ?」
先生に焦りが見られた。畳み掛けるならここだ。
「そこは上手く話すので大丈夫です。さりげなく他の教師に仕事を押し付けている先生の話はどうでしょうか? 手が空いてないわけじゃないのに、――」
「あはははははははは、なんで知ってんの!? てか、鬼じゃん!」
「何か?」
「いえ、なんでもありません」
とっておきではないが、まずい内容であると察したのだろう。話す前に先生の笑い声で遮られてしまった。続く悪口と取れる発言にウチは満面の笑みを浮かべる。もちろん、目は笑っていないと思われる。心穏やかでもないし。
「では、アナウンスをお願いします。先生」
「あんね、脅しは良くないよ。脅しは一あーもう! わかったからその人を凍らせることができそうな視線はやめなさい。録音して流せばいいんだからやるわよ」
「できるなら、はじめから了承してくださいよ」
投げやりに引き受けた椿先生に思わず小言が漏れてしまった。
「先生、起きてください! 先生! 先生!!」
大きな声を出し、先生を揺り動かすと時間差でもぞもぞと動き出した。
「うるさい。頭に響くから静かにして」
これは時間がかかると思い、風間くんに連絡を入れた。来れるそうなので、このカフェに来てくれるらしい。それだったら、スタッフなのだから、準備段階からいて欲しいと思う。ふらっと現れて仕事するのが彼。丁寧ながらも素早く仕事ができる優秀な人材だから休みを除いていつもいてくれたらこっちとしては助かるのに。気分屋なんだから。仕事ができるから許すけど。ただ、いつもならごねてこんなすんなり了願してくれないんだけど、何かあったのだろうか。考えても答えは出ないし、そんなことより、今は先生だ。
「先生先生先生先生先生っ! いい加減起きてください!!」
「あーもう! 寝かせてよ。あとでにして」
眠たげでいかにも不機嫌という表情が視界に映った。鋭くギロリッと睨みつけられる。その視線で引き下がるようなことはない。あんまり怖くないから平気だ。たぶん。
「先生。アナウンスお願いします。トラブルがあったので」
「そんなの山城がどうにか対処すればいいでしょ。山城様、ばんざーい!!」
「先生ふざけてる場合じゃないですよ。ウチはウチでやることがあるので、どうかお願いします」
「嫌」
「嫌じゃないです!!」
頼み込んでは拒否されるということを繰り返した。説得に言葉を重ねても先生はイライラするばかりで聞く耳を持たず。
「よーくわかりました。薬が切れそうになって医務室によったんでしょう? 二日酔いで潰れている先生が仕事をサボっていることをウチは伝えてもいいんですよ? 全ては先生次第です」
「うん? 山城さん。待とうか? 誰に伝えるつもりかな?」
「急に態度が変わりましたね。どうかなさったんですか? 他の方々のご厚意で今ココにいられるんでしょう? ウチは無様に爆睡してることを多くの教師に伝えるだけです」
このカフェに先生がいられなくなるのは困るので、話すとしても彼害は最小限になるようにする。ただ、先生自身プライドが傷つけられるようなことはされたくないはずだ。ウチの話を受け入れてくれると信じている。
「え? やめよう? あたしがいなくなれば、ここも続けられなくなるかもしれないよ?」
先生に焦りが見られた。畳み掛けるならここだ。
「そこは上手く話すので大丈夫です。さりげなく他の教師に仕事を押し付けている先生の話はどうでしょうか? 手が空いてないわけじゃないのに、――」
「あはははははははは、なんで知ってんの!? てか、鬼じゃん!」
「何か?」
「いえ、なんでもありません」
とっておきではないが、まずい内容であると察したのだろう。話す前に先生の笑い声で遮られてしまった。続く悪口と取れる発言にウチは満面の笑みを浮かべる。もちろん、目は笑っていないと思われる。心穏やかでもないし。
「では、アナウンスをお願いします。先生」
「あんね、脅しは良くないよ。脅しは一あーもう! わかったからその人を凍らせることができそうな視線はやめなさい。録音して流せばいいんだからやるわよ」
「できるなら、はじめから了承してくださいよ」
投げやりに引き受けた椿先生に思わず小言が漏れてしまった。
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