上 下
14 / 40

助っ人と交代(14話)

しおりを挟む
 泣きそうになるのをこらえた。意識しても簡単に気持ちの切り替えはできないものだ。私自身の不甲変なさと先程の言葉で頭がいっぱいで。失敗を恐れるあまり失敗を重ねる悪循環に陥るようなことにはなりたくない。

「お客様、少々失礼いたします。――おい、お前バックヤードに行って陸斗の手伝い。そんなブサイク顔で人前に出られても迷惑」

 やっぱり変な笑顔でもしていたのだろうか。そうだとしても言い方はあると思う。私の背後からやってきたのは、ハニーブラウンの短い髪にシャープな印象のはちみつ色の目をしている人。服装はカフェのもので、黒いシャツに黒いズボンだ。襟元には赤いひもが蝶々結びされていた。

「私は――(ちゃんとできるよ)
「自分の状態を理解しているくせに何言おうとしてるんだ? 今のお前ができるのは引っ込むこと。素直に退けよ。後は俺が対応するから」

 レジから追い出された。暗い気持ちを処理できていないのと精神的にしんどかったのもあり、代わってくれるのはとてもありがたいことだった。私が引き続き対応することなのにね。

「おい、さっさと行け。邪魔だ。――大変お待たせして申し訳ございません。店内をご利用ですか? それともお持ち帰りでしょうか? 現在システムのトラブルが確認されています。そのため、口頭でのご注文をお願いします」

 一般的に精神面を理由に代わってもらえることなんてなかなかないことだと思う。今回は甘えさせてもらう。経験を積んで今度は対処できるようにしよう。それにしても、アイツの切り替えが早い。客商売でモタモタしているわけにもいかないけれど。私は言われた通り、裏へ行くことにする。

「あ、かえでちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様です」

 裏へ人ると、そこで作業をしている奥村先輩がいた。他には、洗い物をする自動機械人形オートマタがいた。それには食器類の回収や机拭きなどをするのもいる。

「休憩はあげられないけど、人前に出てるよりは疲労も軽減されるでしょ。僕、温かい飲み物を用意したり、食品を作ったりで手が寒がってるから、かえでちゃんは冷たい飲み物作ってくれるかな?」
「はい、お気道いありがとうございます。ただ、抽出の時間を待っている間はケーキなどの用意はできますから何かあれば指示をお願いします」
「丁解」

 このカフェのメニューは少なめではある。飲み物の種類が八種類にケーキが四~五種類、アイスクリームが二種類だ。他に、ドーナツ六種類もある。
期間限定品がある時にメニューは増えるが、普段は決まっているものだ。
 ジュース系の飲み物はあらかじめ作られているもので準備に時間がかかることはほとんどないが、紅茶系のものだと抽出する必要があり、用意する時間がいる。そのため、提供するのに準備している分を冷蔵庫に入れておき、それがなくなってきたら改めて作るのだ。これは冷たい飲み物紅茶の話。

 今回は多めにストックが作られていたようで助かっていたと思う。トラブルがあって、山城先輩が椿先生のところに出張しているのもあり、新しいものを準備するのも難しかっただろうから。案外、奥村先輩なら簡単に準備してしまうかもしれないけど。

「何か嫌なこと言われなかった? ホールの仕事代わったやつ、風間多羽かざまゆはっていうんだ。いいやつではあるんだけど口悪いからさ」

 話している間にも作業をしている先輩。私だったら話すか、手を動かすかのどちらかに夢中になってしまうので、見習いたいところだ。

「奥村先輩が心配することはありません。知っているので、大丈夫です」
「え? もしかして、夕羽と知り合い?」

 話すべきか話さないべきか。迷いながらも口を開く。

「……幼馴染です」
「えっ!? そうなんだ! ――かえでちゃん、シュガードーナツ取って」
「はい。持ち帰りですか?」
「ううん、店内」
「じゃあ、お皿に載せますね」
「よろしく」

 それから、紅茶系の飲み物を作るのにセットしておいたタイマーが鳴り響き、各自の仕事に集中していた。それであの話はうやむやになったのだった。新たな助っ人には本当に感謝しかないけど、素直に喜べないのもまた事実。助けてもらったのに、ね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...