上 下
13 / 40

時に言葉は鋭い刃物(13話)

しおりを挟む
 山城先輩がスタッフルームから帰ってくるのはいつになるのだろうか。アプリが使用できない現状、いつもと勝手が異なって一人を対応するのに時間かかる。作業量も増えており、人手が欲しい。私の手際が悪いだけなのだろうが、アプリが落ちているのは致命的だと思う。

「いらっしゃっいませ。現在、システム停止などの問題がございます。アプリで発行されたコードを保存していない場合は口頭でのご注文をお願いしております。ご了承くださいませ」

 接客と接客の合間で度々大きな声で知らせていた。次に控えている方を驚かせてしまうので、申し訳なく思う。その知らせを聞き、注文せずに帰る人もいれば、提供まで待つ人もいるし、手元に届くまでにどれくらい時間がかかるのか聞く人もいた。中には、怒る人もいたけれど、私は事情を話すことしかできない。

「アプリで先に注文してたのに、内容を伝えないといけないの? エラーで使えないのはそっちの責任でしょ? ちゃんと使えるようにしておきなさいよね。最悪だわ」
「この度はお手数おかけして申し訳ございません。差し支えなければ、ご注文をお願いいたします」
「はぁ、持ち帰りでチーズケーキとExtra エクストラのコーヒー」
「かしこまりました。冷たいものと温かいもの、どちらにいたしますか?」
「冷たいの」
「かしこまりました。ご注文いただいた品々でお値段は千ポイントです。こちらで精算をお願いいたします」

 電子決済する機器に誘導するが、キッと睨みつけられた。

「先にアプリで払ってるわよ!!」
「大変申し訳ございませんが、今回は全てこちらで精算をしていただくようお願い申し上げます。お客様においてはアプリ内で精算を済ませているとのことで、この場合は調査後に返金の対応をする手筈です。こちらのお知らせは後程、当店には貼り紙で、アプリは復旧次第通知をする予定です」

 これで納得してくれたらいいのだけど。険しい表情を見る限り、そう簡単にはいかなさそうだ。

「事前に払ってるんだから二重に払う必要はないでしょ? 返金対応するからいいってものじゃない。いつ返金されるかもわからないのに」
「いつ対応がされるのか心配がございますよね。大変心苦しいのですが、後程調査後に返金という形でして日程の目処は立っておりません」
「そもそも私は払っているのだからここで払う必要がないって言ってるの! わかる?」
「すでにアプリでお支払いいただいていることは承知いたしました。今回はアプリがエラーとなっていることもあり、当店で精算いただけるようご協力をお願いしております」

 お客様が苛立っているのは明らかだ。語尾が強くなり、口調も荒々しいものになっている。丁寧に対応しているつもりだけれど、なかなかに難しい。お客様の要望を通すことはできないのだから。

「あのさ、払え払えってうるさいのよ!! 私はすでに支払っているから払う必要はないって何度言えばわかるの? そういうことなんだよ。だから、早くしてくれない?」
「そうはおっしゃられましても――」
「ホントとろいわ。あんたさ、やめれば? もういいわ。全部キャンセル。融通の利かない残念なところね。所詮、あんたは陸斗目当てで妖精の隠れ家に面接を受けて幸運にもスタッフになれただけの能力なし。迷惑だからさ、仕事できないならやめなよ?」

 おどろおどろしい笑みを浮かべているお客様。慣れてきたとはいえ、こういうトラブルに対処する経験はほとんどなく、未熟なものだ。このカフェに入ろうと思ったのも不当な運由で聞違っていることは何にもない。それなので、お客様の言葉は胸に刺さった。今回は私の対応が良くなかったから、納得しきれずに不満ををかせてしまったのだろう。私の力不足が招いたことだ。

「浮ついた気持ちでそこに立ってるあんたのせいで人が来なくなるかもね」

 この言葉を最後に、去っていった。私のせいで人が来なくなるのは嫌だな。次のお客様もいるため、気持ちを切り替えようとするが、言われた言葉が頭にこびりついて離れない。笑顔を浮かべるも心は曇ったままで。これ以上失敗はできないのだから、今はお客様に集中しないと。

「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません。お待たせいたしました」

 どんな表情をしているのだろか。私自身のことに精一杯で、お客様の顔が見えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

僕っ娘、転生幼女は今日も元気に生きています!

ももがぶ
ファンタジー
十歳の誕生日を病室で迎えた男の子? が次に目を覚ますとそこは見たこともない世界だった。 「あれ? 僕は確か病室にいたはずなのに?」 気付けば異世界で優しい両親の元で元気いっぱいに掛け回る僕っ娘。 「僕は男の子だから。いつか、生えてくるって信じてるから!」 そんな僕っ娘を生温かく見守るお話です。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

天女姫のお婿君

七星北斗
ファンタジー
 年端もいかぬ童が暗い森で迷い、微かに差し込む太陽の光を頼りに歩くと、神々しいまでに清い湖に辿り着いた。  湖に近づく童に、バシャバシャと水が跳ねる音が聞こえる。 「何だろ?」  近づく度に童に聞こえたのは、妖精のような透き通る笑い声。  そして目にしたのは、二人の少女の一糸纏わぬ姿。

『思春期のかがりちゃん』season2

うどん
恋愛
姉妹のキスをみてしまったあの日から 心に傷を負った委員長かがり。 そんな中、停学処分中だった不良少女が うどん学園に戻ってきた。 しかし、戻ってきた不良少女は 停学前と全く変わっていた。 いったい彼女に何があったのか!? そして、かがりの『恋』のゆくえは!? 『思春期のかがりちゃん』の続編です。 まだお読みでない方は是非読んでいただけると幸いです。 うどん劇場◥█̆̈◤࿉∥作品 『近所でちょっぴりウワサの姉妹』 『幼なじみといっしょに』 とリンクしています。 そちらもお楽しみいただけますと幸いです。 ※表紙・挿絵はAI生成です。 ※他所で投稿していた小説を再度手を加えて投稿しています。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

恋の期限は3年。

心一
恋愛
小学校を卒業し 中学へ。 僕の中学校は2校の小学校が集まって出来た大きな中学校。 部活はバスケ部。 そこで出会った 1人の女の子に恋をしてしまった。 しかし、僕は僕は、、、 恋の期限は3年。 恋愛とは、人とは、性とは、真実とは。 色んな角度から読んでください。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

処理中です...