水神の棲む村

月詠世理

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42話

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 ククリとシズクの二人が去った後。

「どうして……カイトがここにいるのかしら? 私が責任を持ってお連れすると言いましたのに」
「そうだね。早く会いたくてなってここに来てしまった。でも、来て良かったよ。これはどういうことだい? レイラを傷つけるのは君がやることじゃない」
「カイトだけがレイラあの女を傷つけてもいいということでしょう?」
「わかっているならなぜレイラを傷つけようとした?」
「ああ、困った人。私も困った人ではあるけれど、カイトは私の気持ち、気づいてくれなかったわね。これまでずっぅぅぅぅぅとっっ!! 私悲しいわ。だから、もういいかしら? 伝わらない想いを抱えておくのも、他の人を想っているのも耐えられないもの。初めからこうしておけば良かったのかもしれないわね」

 悲しげな表情をする女。カイトと呼ばれた男は怪訝な表情をしている。女はゆっくりゆっくりとカイトへ歩み寄った。彼に近づくと懐から何かを取り出した。それは鋭い刃であった。

「このナイフで痛めつけてやろうと思っていました。そこにカイトがやってくるなんて思わなかった。本当にこんなこと使う予定ではなかったのに……。でも、これで最期にしましょうか。私は……」

 女の次の行動を読めたであろう男はそれを避けようとするが、それよりもナイフが彼の体に刺さる方が早かった。鈍い音がした。男はナイフを見る。女はその様子に小さく笑みを浮かべた。

「私がこんなことをするとは思っていなかったでしょうね。あなたは。私もカイトを指すことになるとは思っていませんでしたよ?」

 男はゆるりと顔を上げた。女は笑みを絶やさずに、ズルッとナイフをお腹から取り出した。こぷりっと刺されたところから血が滴り落ちる。

「心の臓を刺せば一瞬でした。でも、私はあなたにも苦しんで欲しいと思ってしまいました。呪いが籠った刃です。徐々に力尽きていくでしょう。そして、あなたは死にます。私の呪に苦しみ、激痛に悶えて、命が流れる音を聴きながら。カイトは死ぬ。でも、これでいい。私、初めからこうしておけば良かったと今後悔しております。だって!! これでカイトはやっと私のものになってくれるのだもの」

 女の目からほろりと涙がこぼれ落ちたが、次の瞬間にはニンマリと不気味な笑みを浮かべていた。倒れたカイトに向かって女は言葉を投げかける。

「あははははははははは!! ねぇ、待っててちょうだい。あの女を殺すまで生きてちょうだい。いえ、あの女を連れてきてここで息の根を止めればいいかしら? それまでカイトが生きていられるかはわからないけれど、カイトの想い人がいなくなれば私を見てくれるでしょう? ええ、ええ、そうしましょう。この世では私を見てくれなかったけれど、きっと未練は断ち切れるわ。あなたが死んでしまった後でもあなたに私の望む結果が訪れれば、きっとレイラへの想いはなくなるわ。早く、早く捕まえないと……」

 女はナイフを落とした。カランっとした音が響く。倒れている男から目を離すとククリとシズクの二人を追うために歩き出した。男がそのナイフを手に取っているのに気づかずに……。男はグッと手に力を込めて、ゆっくり起き上がった。はぁはぁ、と息も切れ切れだった。それでも、男は女に向かって走った。握っている刃は女に届いた。女は男が起き上がる力があるとは思っていなかったのだろうか。それともククリとシズクを追うことに夢中になっていたのだろうか。男の様子に気付くことなく、女は背後かからナイフを突き刺された。そして、女の耳元で囁く。

「……コト、ハ……すまな、い」

 ただ一言だけ。他に伝える気力はもうなかったのだろう。その言葉を残して、灰になって消えた。刺された女は「全部全部壊すまでは終われない」とゆっくりと歩いていく。
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