水神の棲む村

月詠世理

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41話

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「待ってって言ってるでしょ!!」

 素直じゃない水神様に頼まれた。それだけではないが、僕はククリを追って走る。やっとのことでククリの手首を掴んだ。勢いよく走ったため、息も荒々しい。

「どうして来たの?」

 不貞腐れたような声。じろりと睨みつけられる。

「どうしてって……」
「どうせあの蛇に言われて来たんでしょ?」
「へ、蛇って……(今はそれについては放っておこう)。たしかに言われたのもある」
「ほらっ!」

 やっぱり水神様に言われたからきたんだ、と言うように声をあげたククリ。僕の手を離そうとジタバタと暴れ始める。

「いや、待って。話は最後まで聞こうよ!! た、たしかにね……水神様に言われたのもあるけど、僕自身が追いかけないとって思ったのもあるから。言われたから、じゃあ追いかけようなんて僕思わないよ?」
「でも、水神様と契約したもの」
「あれは、僕の霊力を水神様に渡すもので僕の意思とは別のこと。断りたいと思ったら断れるし、人の行動を制限するものじゃないよ。だから、ほら、落ち着いて……」

 ククリは納得してなさそうなムッとした表情でありながらもちょっと大人しくなった。僕はそれにホッとする。一人で突撃して何かあったら大変だし、水神様にも頼まれてるし、考えなしで突っ込んで捕まっても困るし。

「シズクはどうしてここに来たの?」
「僕も手伝おうと思ってね。村長を捕まえるの。一人じゃ危ない」
「私一人じゃ何もできないと思ってるってこと??」
「心配なだけだよ」
「それは何もできないと言ってるのと同じよ。私は村長あの人を誘き出す。それくらいはできる。私もできることをやりたい」

 水神様の力になりたいってことでしょう。僕も同じだよ。僕には僕のやりたいことがあって、手伝っているだけ。でも、力を貸さないということにはならない。僕らは協力する関係にあるから。

「頼りにならないってことじゃない。目的のために一緒に行こうってことだ。もし道を阻まれても片方が残れば時間稼ぎできるし」
「足手まといになる確率は私の方が高そうよ。何にもできないもの」
「はぁ、僕たちがやることは村長を連れ出すこと。それだけでいいんだ。それさえできれば、あとは……」
「あとは、なんでしょうか?? ふふふふふふ」

 ククリの背後には邪悪な笑みを浮かべる妖艶な女がいた。僕はその女に攻撃された。勢いの良い風に吹っ飛ばされる。不意なことで対応が遅れたが、僕は体勢を立て直し、飛ばないようにしようとする。地面と足の擦れる音が聞こえているが、なんとか止まりそうだ。

「や~ぁっと捕まえましたわ。ふふふふふ、憎たらしい女レイラ。さあ、帰りましょう?あなたがいるべき場所は水神様が棲む村。あなたはいないといけないのよ。永遠に苦しむために」
「嫌よ!!」
「あら、逃げてはダメよ」
「は、離してっ!! 痛い……」
「もうわたくしから逃げるなるてやめてちょうだい。この細い手首を折りたくなるわ。でも、それもいいかもしれないわね。私はあなたにもっともーっと泣いて苦しんで心の底から生きたくないって思って欲しいの」
「……そ、そんなの私はいやよ」
「はぁ、私はあなたの意見なんてどうでもいいの。私はね、あなたを生かして生かしてボロボロになって私にすがって絶望して居なくなって欲しかったのよ。どうしてこうも上手くいかないのでしょうか? やっぱり首輪でもつけて管理しておくべきだったかしら?」

 遠くから聞こえる声は悪意に満ちたもの。意識はまだあるし、怪我もしていない。だが、僕とククリの距離は大きく開いてしまった。助けようにもククリを傷つけられると思うと軽率に動くことはできない。

「うふふふふふふ、そうねっ!! 今度は首輪をつけて飼ってあげるわ。私そういうの得意なのよ。でも、その前にレイラには罰を与えなくちゃ。あの人を取ろうとした罰は今後も続くけれど、逃げた罰も与えないといけないわ。だからね……」
「コトハっ!! これはどういうことだ? 今レイラに何をしようとした?」
「カイト……」

 僕は「今がチャンス」と思い、くくりに向かって言う。

「走れ!!」
「……っ!! 待ちなさいっっっ!!」
「追うなっ!!」

 怯えを含んでいたククリがいたが、突然の出来事に混乱しているみたいだ。何が起こっているのかわからないというような表情をしている。僕の呼びかけによって、ハッと目を見開き、掴まれていた手を強引に振り払って僕がいる方へと走り出す。その動きに反応したあの人はククリを追おうしていたが、村長の大きな声に咎められてピタッと不自然に体が止まった。きっとあの人にとって思ってもいないことだったのだろう。ここに村長が来るなんてさ。そのおかげで僕たちは無事だけれど。

「なぜ、これは一体……。傷つけるようなことをしろ、と言った覚えはないが?」

 妖艶な女も村長もどちらも動揺しているらしい。僕はククリに小さな声で話す。

「水神様のところへ行こう。もし二人がかりでこられてもまずい。今は逃げよう」

 ククリは僕の言葉に頷いた。僕たちは彼らから背を向けないように後退していき、元来た道へと戻る。目指す場所は水神様の棲む湖。
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