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25話
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恵みの雨など知ったことか。今までも雨を降らせたことなどない。そして、これからもそれをすることはない。人間どもが投げたものは、穢れの塊だ。誰があのようなものを作り出したのかは知らない。あれは、怨念の塊という恐ろしきものなのだ。
長年蓄積されてきたものより恐ろしく暗いもの。湖の水が簡単に黒ずんでいった。済んでいる場所は穢れやすいといわれるが、徐々に侵略されていくものだ。私の領域が真っ黒に染められていく。穢すのは一瞬であり、綺麗に戻すのは長年の時間が必要だ。私の願い、一人の女に願ったことは人間どもに守られることはなかった。
「この湖を綺麗に保って欲しい。それが、そなたのために、私のためにつながるのだから」
せっかく神具で浄化された場も水も怨念の塊により、逆戻りだ。水は私の源であり、神域は私の大切な棲家。自分の力を最大限に発揮できるところ。神域が穢されていくことで、私の力も衰えていく。
衰弱した私は徐々に力を失い、死んでいくだろう。
「私は、死ぬのか」
誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。一度は助かった命もここで終わりだと思うと、虚しくなる。
諦めるのか。そんなことができるのか。いや、できない。諦められない。自分の命を人間の悪意のために、捨ててたまるか。こんなことでくたばってたまるか。
「おい、小僧」
私が指差した奴はあの人間。パッツンで水色髪をした少年だ。私は苦しみに胸を抑えていた。人間たちが入ってくるのがわかり、湖の様子を見て、侵入した人間たちを止めようとした。私はククリや小僧に気付かれないように力を使ったが、まだ本調子ではなかったようだ。上手く力が働かなかった。簡単に穢れをばら撒かれることを許してしまった。私自信が力を回復しないといけない。きっと小僧は私の力の使用に気づいているだろう。にやにやとした笑みを向けてくるのだ。腹立たしきことよ。
「水神様って面白いよね。神様なのに、人間にな~んにもできない。普通人間が神を前にして非力な存在であるって言われてるのに、神である水神様が人間を前にして何もできなかったなんてさ。滑稽だね!!」
「小僧、殺すぞ!!」
「無理無理、今の水神様じゃ無理だって。無理だよ、無理!!」
何度も言われずともわかっている。首から上を切り離してやりたいくらいイラッとしたが、私には小僧が必要だ。最悪なことにな。
「おい、小僧。名前は?」
「え、さっき言ったよね!? シズクだよ! シズク。忘れないでよね~~!!」
「では、シズク。私にその力を渡してもらおう」
「……さっき話した時は僕なんていらないって言ったのに。水神様は僕の心を弄んでいるんだ。ひどいひど~い!!」
こいつ殺すか? いや、ダメだ。抑えるんだ。怒鳴ってやりたいが我慢だ我慢。おい、小娘、引いてないで小僧をなんとかしろ。何も知らない小娘でも小僧の口を押さえることはできるはずだ。
「まあまあ、そんなに座った目で僕を見ないでよ~。揶揄っただけじゃん! 怖いからね?」
「……」
「わかったよ。いいよ。状況が状況だし、いざというときに使えない水神様は困るもん」
「小僧、いい加減その口を閉じろ!」
「はいはい、そんな怒んないでよ。あっ! 水神様、これからは僕の霊力で生活だ。僕がいないと生きていられない神様になっちゃったね!」
ニコニコと笑っていう小僧にイラッとくる。また、小僧の言葉に鳥肌が立った。誰がお前がいないと生きていけないだ。今はその通りだから言われても仕方ないとはいえ、虫唾が走る。
「はぁ、小僧。神域の穢れを祓うまでは、私の神子でいてもらおう。そうでないと私が死ぬ。正式な契約はできんが簡易契約で名乗りでもしておくか? まあ、正式な契約の準備もしておいてもらうがな」
「あーあ、もう少し怒ってた水神様見てたかったのにな~。素っ気ない、ノリ悪~い! それにさ、神子はいらないって言ってたのに、その言葉を反故することになったからかな?」
目を細めた小僧は「機嫌悪いね」と言い放った。一言も二言も余計だ。小僧が私を揶揄うことが不愉快だ。私は不機嫌な表情を前面に出していただろう。今までの苛立ちをぶつけるように小僧へ鋭い視線を送る。小僧は私のその様子に「なんでもないです」と言って、私から目を逸らした。
長年蓄積されてきたものより恐ろしく暗いもの。湖の水が簡単に黒ずんでいった。済んでいる場所は穢れやすいといわれるが、徐々に侵略されていくものだ。私の領域が真っ黒に染められていく。穢すのは一瞬であり、綺麗に戻すのは長年の時間が必要だ。私の願い、一人の女に願ったことは人間どもに守られることはなかった。
「この湖を綺麗に保って欲しい。それが、そなたのために、私のためにつながるのだから」
せっかく神具で浄化された場も水も怨念の塊により、逆戻りだ。水は私の源であり、神域は私の大切な棲家。自分の力を最大限に発揮できるところ。神域が穢されていくことで、私の力も衰えていく。
衰弱した私は徐々に力を失い、死んでいくだろう。
「私は、死ぬのか」
誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。一度は助かった命もここで終わりだと思うと、虚しくなる。
諦めるのか。そんなことができるのか。いや、できない。諦められない。自分の命を人間の悪意のために、捨ててたまるか。こんなことでくたばってたまるか。
「おい、小僧」
私が指差した奴はあの人間。パッツンで水色髪をした少年だ。私は苦しみに胸を抑えていた。人間たちが入ってくるのがわかり、湖の様子を見て、侵入した人間たちを止めようとした。私はククリや小僧に気付かれないように力を使ったが、まだ本調子ではなかったようだ。上手く力が働かなかった。簡単に穢れをばら撒かれることを許してしまった。私自信が力を回復しないといけない。きっと小僧は私の力の使用に気づいているだろう。にやにやとした笑みを向けてくるのだ。腹立たしきことよ。
「水神様って面白いよね。神様なのに、人間にな~んにもできない。普通人間が神を前にして非力な存在であるって言われてるのに、神である水神様が人間を前にして何もできなかったなんてさ。滑稽だね!!」
「小僧、殺すぞ!!」
「無理無理、今の水神様じゃ無理だって。無理だよ、無理!!」
何度も言われずともわかっている。首から上を切り離してやりたいくらいイラッとしたが、私には小僧が必要だ。最悪なことにな。
「おい、小僧。名前は?」
「え、さっき言ったよね!? シズクだよ! シズク。忘れないでよね~~!!」
「では、シズク。私にその力を渡してもらおう」
「……さっき話した時は僕なんていらないって言ったのに。水神様は僕の心を弄んでいるんだ。ひどいひど~い!!」
こいつ殺すか? いや、ダメだ。抑えるんだ。怒鳴ってやりたいが我慢だ我慢。おい、小娘、引いてないで小僧をなんとかしろ。何も知らない小娘でも小僧の口を押さえることはできるはずだ。
「まあまあ、そんなに座った目で僕を見ないでよ~。揶揄っただけじゃん! 怖いからね?」
「……」
「わかったよ。いいよ。状況が状況だし、いざというときに使えない水神様は困るもん」
「小僧、いい加減その口を閉じろ!」
「はいはい、そんな怒んないでよ。あっ! 水神様、これからは僕の霊力で生活だ。僕がいないと生きていられない神様になっちゃったね!」
ニコニコと笑っていう小僧にイラッとくる。また、小僧の言葉に鳥肌が立った。誰がお前がいないと生きていけないだ。今はその通りだから言われても仕方ないとはいえ、虫唾が走る。
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目を細めた小僧は「機嫌悪いね」と言い放った。一言も二言も余計だ。小僧が私を揶揄うことが不愉快だ。私は不機嫌な表情を前面に出していただろう。今までの苛立ちをぶつけるように小僧へ鋭い視線を送る。小僧は私のその様子に「なんでもないです」と言って、私から目を逸らした。
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