水神の棲む村

月詠世理

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3話

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 大叔母様に支えられ、歩く。木の家が密集していたところから、徐々に家がなくなっていく様子。私の住む場所は、周りに人がいないところだ。ボコボコにされたので、長い道がさらに長く感じられた。そうして、辿り着いたのは、ボロボロになっている私の家。

「ここで、良いか?」
「ハイ。だい……じょ……ぶ」
「そうか。お前がいなくなっては、私も困ってしまうからねぇ。せいぜい、しぶとく生き残ってちょうだい」
「えっ……」

 大叔母様は私を見て嗤った。怖いくらいの不気味な笑みだった。その様子に辺りの温度が下がったような気がした。彼女は、来た道を戻っていく。その後ろ姿からは何も感じない。だが、さっきの大叔母様のおかしさを忘れてはならないような気がする。

 私を助けてくれた彼女は、味方ではないのかもしれない。不穏な言葉。ほんの一瞬見せた鋭い目。私は、彼女の暗闇を垣間見た。震える手を抑え込みながら、家に入る。彼女は、恐ろしいほど、暗い感情を私に向けた。なぜ彼女が私を助けたのか。しばらく体の震えは止まらなかった。

 不思議な家。私が家に入ると、傷はみるみる治っていく。これがなかったら、私は今頃生きてはいなかった。私は、このボロ家に救われている。

 外装はボロボロな家で今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、屋内は整っていて綺麗だ。雨漏りしても可笑しくない家だが、室内で水滴が落ちてきたことは一度もない。この家は不思議に包まれている家だ。私は、いつまでここにいれるのだろうか。

 母は村人たちに殺された。水神の生贄として……。名誉あることだという人間たち。死ぬのが名誉なことだろうか。私はそうは思わない。村人たちが崇め奉る神に、私の幸せを、母の幸せを壊されたものだから。

 水神様が生贄を望んでいると言って彼らは、あの日母を連れて行った。抵抗せずに、村人の一人についていく母。それを黙って見送る事しかできなかった私。

 この村に平穏なんてものはない。水神という神の狂信者たちがいる場所に未来はない。この村の人間たちも生贄を求める水神もイカレテいる。村人が尊い存在としている水神は私にとったら、害悪でしかない。

「水神を殺せば、この村の連中はどうなってしまうのか」

 私も人のことは言えない。このような事を考える私もそうとう歪んでいる。
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