愛される王女の物語

ててて

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第1章 家族

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お庭に来た私たちは、設置されているガーデンテーブルにお菓子を広げお茶の準備を始めた。

ティーポットにあらかじめ用意された分量のお茶の葉を入れ、そこに私が飲むにはちょうどいい温度のお湯を入れる。

しばらくたち、カップに注いでソーサーで蒸らす。そしていい色になった紅茶をレオン様に差し出した。

「ありがとう、頂くね。」

マーサ達に習ったが、初めて私以外のために紅茶を入れた。お口に合うだろうか…
やっぱり、ぬるいかな。

不安な気持ちでドキドキとレオン様を見つめる。

レオン様はカップに口をつけ、それはそれは絵になるように上品に嚥下した。

「うん…とても美味しい。今まで飲んだ紅茶で1番美味しい。」

「ありがとうございます。」

それは些か大袈裟なように感じたが、美味しいと言って頂けて素直に嬉しかった。

私も紅茶に口をつけクッキーを頂いた。
そうして先程ニクロスに選んでもらった本を見る。

3冊は童話。1冊は文集。もう1冊は教本みたいだった。

どれも面白そう…!

あ、でもせっかくのお茶会だからレオン様とお話しないと。本はまた今度でもいよね。

本を机の上に置き、レオン様を見るとレオン様は近くを通り掛かった使用人に何かをお願いしていた。

「私も読書をしようと思ってね。今日は天気もいいし、のんびりしようかと…。シルフィオーネも新しい本を読まないかい?」

「はい!」

嬉しい……いや、別にレオン様とお話するのが嫌だとかそういう訳では無いけれど。ただ、やっと文字が読めるようになったから物語を読めることか嬉しいし楽しくて…。

「何から読むの?」

「…何から読みましょう、どれも面白そうで目移りしてしまいます。」

「ふふ、そっか。シルフィオーネの好きな色の本から呼んでもいんじゃないかな。でも、教本はまた今度にしよう。今日は、お勉強もレッスンもお休みだからね。」

まるで少年のように柔らかく笑う姿は綺麗で優しくかった。

「はい、そうしてみます。」

私は童話から読もうと、赤色の本を読み始めた。背表紙が可愛くて目を惹いたのだ。

主人公は元気な貴族の女の子。
明るい性格からいろんな人に話しかけ友達になり、人のために努力する姿が書かれていた。
それは、親友だったり、兄だったり、両親だったり……人の役に立つ姿に眩しさを感じた。

次は緑色の本。
主人公は穏やかな平民の女の子。
しっかり者の彼女は穏やかな性格に反して物事を素直に言う子だった。
街で父親と一緒に2人で暮らし、危険な目にも合うがお互いに支え合い逞しく生きていく話だった。

次は青色の本。
主人公はクールな貴族の女の子。
周りに勘違いされやすいみたいだが、本心は優しく女の子。そんな彼女を支え、大切にしていたのは家族だった。
貴族としての振る舞いを忘れず気高くだが美しく生きる彼女の強さが心に残った。


3冊を一気に読んでしまい、ふぅとため息をつく。本は分厚い訳ではなく丁度いい長さなのだが、やはり3冊を一気に読むのは疲れてしまった。

甘いもの…とクッキーに手を伸ばし頂く。ふと、対面に座るレオン様を見た。
レオン様は真剣な顔つきで本を読んでいらっしゃった。本を見つめる瞳は私と同じ色の青。

母親はちがうが確かに私達は兄妹なのか。

じっ……とレオン様を見つめてみる。

(お………お、おにいさま)

慣れない言葉でどこかむず痒く恥ずかしい。

もう一度、赤い本を開くと主人公の女の子が自分の兄に対し『お兄様!』と元気よく書かれていた。

(おにいさま……おにいさま……)

文字を見つめ練習してみる。

あれ?でもレオン様がもし、私に『お兄様』と呼ばれるのが嫌だったらどうしよう……。そ、そうよね、私のことを妹だと思ってないかもしれないし…ましてや家族とも思ってないかも。

…私、馬鹿だ。実際に何かを言われた訳では無いのに、勝手に考えて勝手に傷ついて。

緑色の本を開く。主人公が分からないことは聞き、間違いは間違いだとはっきり正す所があった。

そうよね、ちゃんと聞かないと。分からないんだよね。

「…シルフィオーネ、本面白かったかい?」

本の区切りが着いたらしい。栞を挟み本を閉じたレオン様は私に話しかけてくださった。

「 …は、はい!」

聞かなきゃ、もし良ければ『お兄様』と呼んでもいいですかって。聞かなきゃ…!

「そっか…それは良かった。今日は天気もよかったし、誘って正解だったね。紅茶もとても美味しかったし。またいれてくれる?」

「……えっと…」

聞かなきゃ!!でも、もしダメって言われたら

「…無理にとは言わないよ。困らせてごめんね。……そろそろ帰ろうか。」

えっ、違う。嫌とかじゃなくて、そうじゃなくてっ!

あぁ、自分の弱さに涙が滲んでくる。
レオン様は本をまとめ、テーブルを片付けると立ち上がった。

「部屋まで送るよ。一緒に行こうか。」

レオン様は私と目を合わせてくれない。そのまま、ゆっくりではあるが歩き始めてしまう。

待って…!違う!

私はおもむろに立ち上がりレオン様の手を掴んだ。

レオン様は目を見開き私を見つめる。

「違うのです…嫌ではございません!
違います!!」

そう言い、半泣き状態でレオン様の腕を引っ張る。レオン様はとても混乱しているようだったが、直ぐにしゃがみこみ私の涙を拭いてくれた。

「どうしたの、シルフィオーネ。何が違うの?なんで泣いて…あぁ、もう。こんな愚かなで申し訳ない。また泣かせてしまった…」

そう言い私の涙を拭きながら、優しく頭を撫でてくれた。

私は落ち着こうと、深呼吸をして、涙を止めようと必死になる。


そして、ふと思った。


今、『兄』って言った?





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